――四日目:「行き倒れ」――


【09:05―クルルミク郊外】

声    :「やぁるかぁーーーーーーー!
      このボケがぁーーーーーーー!!!!!!」


 そんな叫び声が小高い丘に木霊した。












 ――その五分前――

セイル  :「やべ〜〜〜寝過ごしたわ〜〜〜」

 今、手紙で呼び出されて
 全力疾走している俺は
 皇国のエージェントとして動いている
 ごく一般的な男の子。


 強いて違うところを
 あげるとすれば
 黒い剣を持っているって
 トコかナ―――
 名前はセイル・ビッグブリッジ(偽名)


 そんなわけで
 クルルミクに続く街道の近くにある
 クルルミク郊外の小高い丘に
 やってきたのだ。


 ふと耳に笛の音が聞こえてくたので
 そちらの方を見ると
 大きな丸太に一人の若い男が
 上半身裸で座って笛を吹いていた。


セイル  :(ウホッ!いい男・・・)


 そう思っていると
 突然その男は笛を吹くのを止め
 俺の見ている目の前で
 ズボンの中に手を入れたのだ。


いい男  :「やらないか?」


 と笛をそこから取り出した。
 俺は持っていた得物をぎゅっと握り締めると、
 思いっきりその逞しい背中を引っぱたいてこう叫んだ。


セイル  :「やぁるかぁーーーーーーー!
      このボケがぁーーーーーーー!!!!!!」



 どつかれた男は裸な背中に真っ赤な跡をつけ
 地面に突っ伏した。

いい男  :「い、いきなり何をするんだ。君は」
セイル  :「んな汚いもん差し出すな!!!!!」
いい男  :「全く酷いじゃないか――」

 バホバホと身体の前面についた砂埃―汗でついているのもある―を叩くと、
 笛をズボンの中にしまう。

セイル  :「んなところにしまうなよ――」
いい男  :「ここが一番安全なんだよ。」
セイル  :「そうかよ・・・で、何の用だ?いきなり手紙で呼び出すとは。
       フィス卿。」

 セイルがフィス卿と呼んだ男―上半身裸で笛を吹いている―は
 何事も無かったかのように丸太に座る。

フィス卿(いい男):「そうだな。立ち話も何だしここに座るかい?」

 ポンとフィスが座っている丸太を叩く。

セイル  :「俺はノーマルだ。一緒にされたく無い。」
フィス卿  :「いや、俺もノーマルだが――」
セイル  :「つか、何で上半身裸なんだよ!」
フィス卿  :「天気がいいからだ。日光浴は気持ちいいぞ!」
セイル  :「はいはい。俺はやらんぞ。それで?」

 フィスは先ほどまで吹いていた笛を専用のケースにしまうと、
 立ち上がると木にかけていた上着を取る。

フィス卿 :「そんじゃ、行くか。ついて来い。」
セイル  :「お、おう」

 フィスの口調も変わると街道から離れるようにしてどんどんと叢を掻き分けて進んでいくフィス。
 セイルはその後を逸れないようについていく。

セイル  :「どこまで行くんだよ?」
フィス卿 :「黙ってついて来い。足場が悪いからな、舌噛むぞ。」
セイル  :「あ、っと」

 木の根っこに足をとられて転びそうになるセイル。

セイル  :(なるほど、酷い悪路だ)

 そうして十分ほど歩いていると、ちょっとだけ広けた場所に出るとフィスは足を止める。

セイル  :「ここに何かあるのか?」
フィス卿 :「ちょっと待て。」

 この森の中で一本だけ目立つ枯れ木に手を掛けるとフィスはぐいっと引っ張った。

セイル  :「え・・・」

 すると、その場所に掛けられた幻術イリュージョンが消え、門戸が現れた。

フィス卿 :「行くぞ。」
セイル  :「これは・・・結界か?」
フィス卿 :「そうだ。外から中が見えないようにしてある。」
セイル  :「一体ここに何が――」
フィス卿 :「簡単に言やぁ、戦争反対派の隠れ集落ってところだ。」
セイル  :「そんな物が・・・」
フィス卿 :「どこにでもあるのさ。そう言った物は。」
セイル  :「そうだろうけど、さ。」

 王―この国の場合は王子―は国民のために、守るための戦争をしている。
 それさえも許されないというのなら余りに報われないでは無いのか。
 とセイルは思ったものの、戦争によって大きく被害を被るのは国民、
 特に国民の大半を占める農民が一番である事も知っている。

セイル  :「皆仲良くっていうのが理想なんだろうけどな――」

 それは理想。
 分かっていてもそこまで到達は出来ない。だからこそそれは理想。
 こんな剣を持って闊歩している俺が言えた義理じゃないか、とセイルは自嘲気味に笑った。





【09:30―クルルミク郊外「隠れ集落」にて】

 隠れ集落に入ったセイルは、まだ朝食もまだだろうというフィスの配慮によって、
 適当にぶつ切りにされた野菜や肉が入った鍋―無論フィス作―を男二人で囲んでいた。

フィス卿 :「肉、いるか?」
セイル  :「貰えるんなら頂こう。」

 味は悪くない。
 シンプルだがしっかりと入っている野菜―芋や人参など―に汁がよく染みていて、
 実にセイル好みの味であった。
 フィスは肉をよそうと、セイルの持つ食器に入れる。

セイル  :「さんきゅ、な――」

 そこでフィスの姿を直視したセイルは思わず視線を反らす。
 それに気付いたフィスは不思議そうにセイルを見る。

フィス卿 :「どうかしたのか?」
セイル  :「あんたのその格好は何なんだよ・・・」

 自分でも語尾が震えているのが分かる。

フィス卿 :料理するんだからエプロンするのは当たり前だろうが?」
セイル  :「――だから、何で上半身裸の上にエプロンなんだよ!」

 思わず食器をテーブルに上にダンと置いて立ち上がっていた。

フィス卿 :「俺がどんな格好で料理しようが別にいいじゃないか?お前には関係無いことだ。
      俺は至って常識的な行為をしているだけだってのに――」
セイル  :視覚的に・・・いや、生理的に拒絶反応が出てしまうと言うか――」

 フィスは分けが分からないといった風に「やれやれ、若いな」と言うとエプロンを脱いだ。
 勿論、上半身裸で、だ。

セイル  :「――それで、何で俺を呼びだしたんだ?」
フィス卿 :「ふむ。本題に入る前に――」
セイル  :「なんだよ。」
フィス卿 :「お前の名前は何だ?」



・・

・・・

・・・・

セイル  :「何?」

 セイルがその言葉を搾り出すのに暫し時間を要した。

フィス卿 :「知らなかったら話しにくいだろう?」
セイル  :「知らないのかよ。」
フィス卿 :「どうせ偽名を使っているんだろう?」
セイル  :「そうだ。」
フィス卿 :「だったら知るわけ無いじゃないか。」

 セイルはわしゃわしゃと頭を掻く。

セイル  :「俺の名前はセイル・ビッグブリッジだ。」
フィス卿 :「ふむ。セイル・ビッグブリッジ(偽名)か。連れの方は?」

 何故か言い直すフィスに「お前もかよ」と思わず突っ込みたい衝動に駆られたが
 そこは我慢するセイル。

セイル  :アーリア・サンダースだ。」
フィス卿 :「誰なんだ?そいつは」
セイル  :「剣聖の直系のあいつ。」
フィス卿 :「あのお嬢ちゃんかい。
      ――あんな危険物よく輸送したもんだな。」
セイル  :「お褒めに頂いて光栄で御座います。」
フィス卿 :「褒めてねーって…まあ、いいか。」
セイル  :「俺は良くないぞ。」
フィス卿 :「ご愁傷様、仕事が終わるまで命があればいいがな。」

 フィスはアレの性癖はよく知っている。
 二年前に戦場であった時、剣匠ソードマスター数人係りでも抑えられないその姿は正に魔人。
 もっともアレアーリア自体も無傷とはいかなかったのか数ヶ月戦場には出ていなかったことを覚えている。
 最近はあれでも皇国の影響で丸くなったと風の噂で聞いてはいるが、セイルのこの様子では
 それほど大きな変化は無いと考えて良かった。

セイル  :「縁起でも無い事言うなよな――」

 黒衣の青年はぶるっと身震いをする。

フィス卿 :「では、セイル。君に聞くが。君は何のためにここに来たのだ?"ゲート"の魔法を使ってまでだ」
セイル  :「大体分かってるんじゃないのか?あんたなら。」
フィス卿 :「ふむ。本題はずばり、セレニアの奪還か?」
セイル  :「ずばりそれだ。」

 隠しもせずにきっぱりとセイルは答える。

フィス卿 :「それは魔道王の意思か?それとも――」
セイル  :「違う。魔道王は"彼女"が死んだことを信じている。
      これは皇国の姫の…ただのお節介だ。」
フィス卿 :「"彼女"の意志はどうするつもりだ。」
セイル  :「無論、"彼女"の意志は尊重する。"彼女"が戻りたくないと言うのならそれに従う。」
フィス卿 :「では答えは既に出ているのでは無いのかね?」
セイル  :「出ていない。あれはセレニアであってセレニアでは無いと俺らは判断している。」

 最初にあった時のアーリアの台詞をそのままフィスに伝える。
 それはセイルも同意見だったからだ。

フィス卿 :「ほう?」
セイル  :「彼女の記憶。どうなっているんだ?」
フィス卿 :「俺は医者じゃない。だから分からんよ。」

 鍛えられた筋肉を誇示するフィス卿を見て、深々とセイルは頷いて、

セイル  :「そりゃ、あんたにゃ分からんだろうよ。」
フィス卿 :「ん、何かいったか?」
セイル  :「独り言だ。」
フィス卿 :「そうかい?俺はまたバカにされてるかと思ったよ。」
セイル  :(分かってるんじゃん)
フィス卿 :「大体予想通りだったな。俺はシャインがいるからここから動けない。
      だから、手助けなんてのは無理だからな。」
セイル  :「俺はあんたがここにいる事すら知らなかったんだ。
      元々あんたの力を借りようとは思っていない。」
フィス卿 :「それもそうか。
      ――ここに来たついでにシャインの奴に会っていくかい?」
セイル  :「突然だな・・・あいつはこれが嫌いみたいだから遠慮するよ。」

 セイルはそう言って手に持つ剣を見せる。

フィス卿 :「そうかい。あいつも悪気は無いんだがね。」
セイル  :「知ってるよ。生理的に嫌いなものっていうのは誰にでもある物さ。」

 セイルは空になった食器をテーブルに置く。
 「おかわりはどうかね?」と言ったフィスの言葉に対して「ご馳走様」とセイルは告げる。









【10:00―クルルミク郊外「隠れ集落」にて】

セイル  :「ところであんたは色々と顔広いだろう?」
フィス卿 :「それなりに、な。それがどうした?」

 既に五百年以上生きていると言われる長命種の人間。
   そしてフィス卿という人物はそれであった。フィスの話を信じるのならば、
 他にもそういった人間―一万年以上生きているのもいる―も居るそうだが。
 「吸血鬼」と呼ばれている人間もまた、それだと言うがセイルには信じられなかった。
 だが、彼が五百年以上も生きているのは本当のようで、その知り合いの数は半端じゃなく多い。

セイル  :「クルルミクの関して調べたいんだが、何かいい方法無いか?」
フィス卿 :「ふむ。ちょっと待て――」

 そう言ってフィスは何処かへいってしまった。


 戻ってきたフィスの後ろには初老の男性が居た。
 人の良さそうな白髪混じりの茶色の髪。恐らくは若い頃はもてたであろうが、
 その顔に刻まれた皺は彼の苦悩の歴史そのものを顕しているのであろう。

フィス卿 :「紹介しよう。この隠れ集落の長でもあるエド・グレイ伯爵だ。」
セイル  :「エド・グレイ伯爵?」
フィス卿 :「戦争反対派。そしてハイウェイマンズギルド討伐推進派の代表でもある。」
セイル  :「ギルドの討伐推進派・・・それって」
グレイ伯爵:「君の察しておる通り、ギルドは我がクルルミクの中枢にも根を生やしておる。」
セイル  :「中枢に――だって?」

 ギルドの擁護派というものは存在はしていない。
 が、黙認派というものがあるようで議会に提出してもそれは議題にすらならないのが現実のところだった。
 ギルドの横暴を許す暗黙の了解。それがそこには確かに存在していた。

グレイ伯爵:「わたしも命を狙われ始めたため、このようなところに隠れ住んでおる。」
セイル  :「…」
フィス卿 :「グレイ伯爵の娘はその身体を――精神まで犯された。更に彼の妻はギルドの手によって殺害されている。」
セイル  :「マジかよ」
フィス卿 :「わたしがこのような時に冗談を言うとでも?」

 普段は冗談の塊のようなフィス卿だが、
 こういった事情になると途端にその根っからの正義主義みたいな物が働くのは知っている。

グレイ伯爵:「君はなんらかの意図を持ってクルルミクの中に入ろうとしているのだろう?」
セイル  :「そうですが――」
グレイ伯爵:「ギルドを止めてくれ。頼む。」
セイル  :「俺はそういう目的は――」

 故郷である皇国からはあまり干渉するな、と言い含められている。
 彼の申し出は思いっきり干渉に値する大変な大事では無いのか、とセイルは思考を巡らす。

グレイ伯爵:「君の連れは女性だと聞いた。ならば、彼女が連中に蹂躙されてもいいと言うのかね?」
セイル  :「それぐらいされても問題は無いかな、と。」

 それは本心だった。
 あのアーリアに「もしや」は無い。絶対的な壁。不可侵の領域。
 容赦を知らないそれが何者かに捕らえられるなど有り得ない。
 危惧するとしてもそれはあの一帯を更地になると言う事である。

グレイ伯爵:「では、善良な市民の中にも、彼らの手によってその人生を狂わされておる者もいる。
      それが許されるとでも言うのかね?」

 善良な、でセイルの心に引っ掛かりを覚える。

セイル  :「許されはしない。が、彼らは何もしようとはしないのではないか?」
グレイ伯爵:「彼らには力が無い。だが、君には力があると言うでは無いか」
セイル  :「なるほど、ね。あんた俺の力を――」
フィス卿 :「どんな力かは伝えては居ない、俺もよく分からんしな。アレは」
グレイ伯爵:「頼む。ギルドを滅ぼすために
      ――そのためならその代わりわたしはどんな事も・・・
      妻子の無念を晴らせるなら惜しまず援助、助力をする。」
セイル  :「どんな事でも、か」

 この男の本心はこれなのだろう。市民がどうのというよりも彼の妻子の無念。
 もしくは彼自身への不甲斐なさから来る無念。これを晴らして欲しいのだ。

グレイ伯爵:「頼む。」
セイル  :「俺は自らの仕事を果たすだけ。そのついででいいのなら――」
グレイ伯爵:「ありがとう。ありがとう。ありがとう・・・」

 泣きながらひたすら「ありがとう」を連呼するグレイ伯爵。

セイル  :「俺はクルルミクについてもっと知っておきたいんだが、どうすればいい?」
グレイ伯爵:「それならば、わたしの名前で書状を出そう。
      知り合いに貴族のフランツ侯、フランツ=L=ウィドウ様というのがおる。
      あの方は竜の研究や記録、管理などしておる。」
セイル  :「ふむ。それで?」
グレイ伯爵:「彼に頼めば王立図書館への扉も開かれよう。」
セイル  :「王立図書館?」

 ふとアーリアが言っていた事を思い出した。
 冒険者の中には王立図書館に入り浸る者もいるっていう話を。

グレイ伯爵:「そうじゃ。」
セイル  :「一般人とか冒険者は入れないのか?」
グレイ伯爵:「国民と認められている者の中で資格があると認められれば入れるがね。
      国民でもない君が入れるわけが無かろう。」
セイル  :「そりゃそうか。」

 至極当然の事だ。確か冒険者の中にはクルルミクに住んでいるものも多数居るという事だった。
 とそのことにセイルは理解は出来た。

グレイ伯爵:「じゃからあの方の言があれば入れるだろう。」
セイル  :「分かった、あんたの力貸して貰おう。」
グレイ伯爵:「その代わり、ギルドを――」
セイル  :「いいけど、俺達の目的を果たす事が先決になるからな。
      それに、どうなったって知らないぞ。あんたの言う通り、俺はこの国の国民じゃないからな。」

 その承諾とも取れるその言葉に伯爵は再び頭を下げ、泣きながら「ありがとう」と続けた。


イヤリング:声「まあ、成り行きの任せましょう。」

 賢者はいつもと変わらぬ調子でそう言ったような気がした。








【10:00―『龍神の迷宮』フォルテ・パーティ・遭遇スペラン○ー】

フォルテ達は『龍神の迷宮』地下1階を無難に進んでいる・・・

 コツ、コツ、コツ。
 ガシャ、ガシャ、ガシャ。

 一行は油断なく、そして比較的遅い足取りで迷宮内を探索していた。
 暫く進んでいると、壁に設置された装置にフォルテが気がついた。
 それが「アラーム」だと分かると、なるべく離れて忍び足でそこで抜ける事にした。
 そうしてそれを回避して十分離れてから、再びいつもの通りに歩いてゆく。

 暫く更に進んでいくと、前方から明かりが近づいてくるのが見える。

フォルテ :「何、かしら・・・」
セルビナ :(しっ・・・ギルドの連中かもしれない。明かりを消して)

 フォルテの口を塞ぐとセルビナは彼女が生み出している魔法の明かりを消すように促す。
 フォルテもそれに従い「光源」を消す。
 そして、息を潜めて足と止める。

 薄暗い回廊内にその明かりを持った人物の足音だけが木霊するようになる。

明かりを持った男:「おぅ・・・明かりが見えたと思ったら・・・気の所為かよ――
         出口は――」

 男はそこまで言って倒れてしまう。
 男の持っていたカンテラ―携帯用ランプ―が転がり、その倒れた男の横っ腹を煌々と照らす。

 暫くしてぴくりとも動かない事に疑問を思った一行は辺りを警戒しながら、
 起き上がる気配が無いその男に近づいていく。
 フォルテは男の手首の脈を計り、そしてその心臓の位置に耳を当てる。

セルビナ :「どうだい?」

 フォルテは首を横に振ると、「光源」の魔法でその男を煌々と照らし出した。
 既に彼は絶命していたのだ。

 照らし出されたその彼の身体は痩せ細ってはいるが、その服装からどうやら彼は「洞窟探検家」のようだった。
 とは言え、装備は必要最低限の代物で深く広い迷宮となっているこの「龍神の迷宮」を探索するには
 貧弱な装備であった。

フォルテ :「私たちの明かりを出口だと思ったのでしょうか?」
セレニウス:「そうかも…」
フォルテ :「だとしたら私達は悪い事を――」
セルビナ :「そうでも無いさ。こいつがギルドの下っ端である可能性もあった。
      だからあれで良かったのさ。」

 そう言って気落ちしているフォルテの頭をポンと叩くセルビナ。

コトネ  :「でも、パーラさんもこうなってたかもって事かな?」
セルビナ :「そうかもな。あいつは運がいいよ。ホント。」

 と妙に納得してしまう一行。
 彼女も出口を探して彷徨っていた。この洞窟探検家と同じ状況であったに違いない。






 しんみりとしてしまっている一行はとりあえず彼の冥福を祈った。
 そんな中、一行に近づいてくる足音が回廊に響き渡る。

セレニウス:「今度は間違いないようですね。」
セルビナ :「だな。」

 それぞれの武器を手に油断無く前後左右に気を配る。







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 そんな一行を暇そうに見ている影一つ。アーリアである。

アーリア :「行き倒れかぁ・・・」

 そう言って昼食もって出るの忘れている事に今更気がついたアーリア。
 セレニウス達と違って一日毎に迷宮←→城下町と行き来しているため、
 そういった忘れ物がたまにでてくる。今日の昼食がそれであった。

アーリア :「一旦戻るかなぁ・・・」

 面倒くさそうに言ったその頃、
 フォルテ達一行は"ならず者"達と交戦していた。







【12:00―『龍神の迷宮』フリーデリケ・パーティ】

フリーデリケ:「そろそろお昼にしまショウカ?」

 堅実に石橋を渡るように進んでいくフリーデリケ率いるパーティは
 1Fの半分はマッピングしたところでちょうどいい頃合だと判断した
 リーダーであるフリーデリケがそう提案をする。

キャティ  :「賛成!」
ラフィニア :「異議無〜〜し!」
セリカ   :「助かります。」

 いまだパワフルで元気なフリーデリケ以外はこの休憩の提案は実に嬉しい事であった。
 フリーデリケは水筒とお鍋を取り出すと、鍋に水筒の水をナミナミと注いで行く。
 それをラフィ二アに手渡すと、荷物の中から携帯用の燃料の入った小さな容器を取り出した。

フリーデリケ:「キャティさん、炎をお願いしまァス」
キャティ  :「あ、はい。」

 キャティは炎を起こす呪を唱えると、フリーデリケの用意した容器の中にある可燃物に火をつける。

フリーデリケ:「あとは〜〜コレダネ」

 フリーデリケはまたもや荷物の中をまさぐると中から小さな紙袋を出す。
 その袋には"紅茶その1"と汚い字で殴り書きがされていた。

キャティ  :「紅茶?(その1ってなんだろう?)」
フリーデリケ:「そうデェスよ。やっぱりコレに合うのは紅茶デショウ。」

 皿と余り大きいとは言えない密閉された袋を出すと、その皿にざーっと袋の中身を展開する。
 クッキーである。二度焼いたパンとも言われる所謂保存食。
 勿論、フリーデリケのお手製の物だ。

セリカ   :「皆さん、こちらで」

 フリーデリケ達が紅茶やらの準備をしていた時に、セリカは大きな布を迷宮の床に敷いていたのだ。

フリーデリケ:「ではそちらで頂きマスカ。」
キャティ  :「はいよ。」

 フリーデリケ達四人は回廊に敷いた布の上でクッキーと保存食料を加工―加熱処理―した簡易リゾット、
 そして自慢の紅茶を談話しながら食べ始めた。

フリーデリケ:「ん?何か来たデェスネ」

 フリーデリケは食器を置いて武器を取る。
 ラフィ二ア、キャティ、セリカもまた同じように食器を置いて警戒をする。
 先の回廊から来るのは四人の足音。
 キャティは「光源」を操作し、その足音の方に向ける。
 そうして見えたのはまずは大きな胸。
 そして「悪鬼の大鉈」と呼ばれる巨大な大剣を持った女性の姿が顕になる。

ヴァイオラ :「よっ。やっぱりあんた達か」

 迷宮内でピクニック気分で食事を取っているフリーデリケ達に、
 ヴァイオラは呆れもしたが、らしいな、と思い思わず微笑んでしまう。

キララ   :「いいにおいがぅ。」
フリーデリケ:「ヴァイオラさん達じゃないですか。どうしてこちらに?」
シズメ   :「キララさんがこっちからいい匂いがするって言うので――」
キララ   :「がぅ。」
アルマ   :「罠じゃなくて良かったですよ。」

フリーデリケ:「皆で食べたほうがおいしいデスから、一緒にしまセンカ?」
ヴァイオラ :「おう、いいぜ。」
キララ   :「うまそうがぅ。」
ヴァイオラ :「でも、あたしは酒と干し肉とかしか持ってきてないぜ。」
フリーデリケ:「かまわないですよ。十分な食料もってきてますから。
       旅は靴ずれ、世は満足っていうジャナイデスカ。」
ヴァイオラ :「それ、色々間違ってるぞ――」

 こうして一行は一緒に食事をとり始めた。

ヴァイオラ :「バアサン達はこれからこの奥に行くのかい?」
フリーデリケ:「あんまり進んでないからこれからデェス。」
ヴァイオラ :「あっちは行き止まりだったよ。あたし達の地図見るかい?」
キャティ  :「見たーい(これでやっと進めるかも。)」
フリーデリケ:「いいのデスカ?」
ヴァイオラ :旅は道連れ、世は情けって言うだろ?」
フリーデリケ:「ソレデス。さっきイイタカッタノハ」
ヴァイオラ :「しかしなぁ。てっきりバアサン達ならもっと進んでると思ってたんだが――」
フリーデリケ:「それがデェスね。あの下衆野郎どもが、かわぁいいおにゃのこ達を監禁していたのデス。
       だから正義が鉄槌を下して、街まで届けたんディス。」
ヴァイオラ :「はあ、それでかい。」
フリーデリケ:「まだまだありますから、ゆっくり食べるといいデェス。」

 とキララに向ってフリーデリケは微笑みかける。

キララ   :「が、がぅ。」

 と嬉しそうに答えるキララ。







 互いの地図を見せ合いながら情報を交換する二組のパーティ。
 出会ってから三十分は経ってようやく話がまとまった。

フリーデリケ:「今度あった時、是非揉ませてクダサイネ。」
ヴァイオラ :「違うだろ。まとまったのはそういう話しじゃないだろ!」
フリーデリケ:「違ワナイデェスヨ。」

 こうして二組のパーティはそれぞれの別方向に別れていった。








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 そんな一行を恨めしそうに見ているアーリア。

アーリア :「むぅ。いい匂いだわぁ〜〜。」

 フリーデリケ達の食べていた物がなんだか気にしつつも地図を片手に出口に向う。

アーリア :「はよ帰ろ・・・」

 その匂いが一層お腹を刺激し、お腹が鳴っているのが分かるほど大きな音がした。
 ふと、誰かに視線がアーリアの背中に刺さっていたように感じた。
 アーリアが振り返ってもそこには誰も居ない。

アーリア :「気のせいかな?」

 アーリアは特にそれを気にする様子も無く迷宮の出口に向った。




【13:00―『1F監禁玄室』リムカ・パーティ】


小さな賢者 :「こっちの方から声が聞こえてくるよ。」
小柄な格闘娘:「急ごう。なんか嫌な予感がするよ。」
女魔術師  :「嫌な予感がします。」

 そこは行き止まりになっていて、そこには扉がある。
 その扉の先に大きな玄室があると思われた。

ロウ傭兵  :「オレの後ろに・・・
       前に出ると危険だから――」

 ロウ傭兵は格闘娘(ウィノア)と目配せをすると、1、2、3を合図にロウ傭兵は扉を足蹴にする。
 それは大きな音を立てて倒れる。
 一行がそうやって乱暴に部屋の扉を開けると、その中ではむせ返る臭いと共に31人の"ならず者"が 
 一人の女冒険者を裸にして今正に凌辱せんとしていた。

 "ならず者"達は血走った目で一行に襲い掛かってきた。

ロウ傭兵   :(うぉ、カッチョイーッ!
        オレにもこんなヒーローみたいな瞬間がッ!!)
ウィノナ   :「待ってて、今助けてあげるから……!」
リムカ(賢者) :「大丈夫ですか?今、助けますね。」
セララ(魔術師):「ひどい・・待ってて、すぐ助けてあげる。」

 ロウ傭兵は「カイトシールド」を手に"ならず者"達にラッシュ―突撃―を仕掛けた。
 剣で斬って来るものだとばかり思っていた"ならず者"達は対応に遅れ、
 その特攻をまともに受けて十人ばかり巻き込んで吹っ飛ばされる。

 それが戦闘開始の合図となった。
 セララとリムカは魔法を詠唱し始める。



 ――戦闘開始してから十分経過――





 事のほかロウ傭兵が頑張った事もあるのだが、
 強力な呪文を唱えていたのかセララの魔法が呪効を発揮する前に
 残った四人もリムカの放った「ソニックスラッシュ」によって切り刻まれて
 "ならず者"達全員掃討されてしまった。

 ロウ傭兵は"ならず者"達の死体を注意深く観察しながら、使える物は無いかと物色をしていく。
 ウィノアもそれを手伝っている。

 リムカは身包みを剥がされ革紐で両腕を後ろ手に拘束された状態で
 呆けた表情のままのその女性に声をかける。

リムカ  :「あの、大丈夫ですか?」

小柄な女性:「あ……す、すまない……恩に着る」

 声をかけられ正気に戻る女性。
 リムカはナイフを使ってその女性の拘束を解く。

シャーリー:「私はシャーリー・ヘッド。改めて礼を言わせて貰おう。」

 ロウ傭兵が物色を終えたのかリムカとシャーリーの元へやってきた。
 シャーリーは胸と大事なところを隠すようにしてその場に伏せる。
 シャーリーの裸体を極力見ないようにしてロウ傭兵は何かの残骸を彼女の前に置いた。

ロウ傭兵 :「あんたの装備・・・これかい?」
シャーリー:「・・・」

 渡されたそれは使える板金部分が剥がされていてまともな部分は一切残っていなかった。
 シャーリーは自分の装備を"ならず者"達に剥がされる際、
 滅茶苦茶に切り込みを入れられたり引っ張られたりしていたのを思い出した。
 それが自分の物だったようにも見えるしそうでも無いようにも見える。

セララ  :「これをどうぞ。」

 と差し出したのはところどころ黄ばんではいるものの、
 比較的厚手な生地で出来た大きな布であった。

リムカ  :「これは…テーブルクロス?」
セララ  :「はい。それしかその…隠すのに使えそうな物はありませんでした。」
ウィノア :「シャーリーさんの服。これだよね?」

 びりびりに裂かれた布切れをウィノアは持ってきた。

シャーリー:「多分な――」

 その生地の色に見覚えのあるシャーリーは曖昧にそう答えた。

 結局シャーリーはセララの持ってきた大きな布―テーブルクロス―を身に纏って
 冷たい回廊にふらつく足取りで裸足で歩く事となった。
 その状態を見て一人では到底帰ることすら出来ないと思った
 一行はシャーリーを連れて一度帰還することに決めた。






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 そんな一行を背後から見ているアーリア。
 その手にはパンが一斤握られている。

アーリア :「あの傭兵…なかなかやるわねぇ」

 恐らくは様々な修羅場を経験しているであろうその傭兵にアーリアの目が向けられる。

アーリア :「セレニアはっと・・・あんまり進んでないみたいね。」

 コンパスを取り出し地図と比較して位置を割り出す。
 アーリアはそれだけを確認すると迷宮の奥に消えていった。
 パン屑を点々と落としながら――





【14:00―『龍神の迷宮』アリス・パーティ】


 ハデスのパーティとアリスのパーティが出会い頭、いきなり剣を交える事になった。

カルラ  :「ギルドの連中の癖にやるじゃないか!」
クレメンテ:「待て、違う。私達は――」
アチャチャ:「何でこんなに強いのよぉ。全然当たんな〜〜い」
ダンテ  :「お待ちくだせぇ。お嬢さん方。あっしらは――」

アリス  :「止めな!!!!」

 アリスが剣を振るう。

 斬!!!

 すると、その剣から放たれた剣圧を避けるためにカルラやクレメンテ達は
 互いに後ろに飛んで間合いを開けた。

ハデス  :「あら?あんた達、ギルドの人間じゃないの?」

 アリスの姿が見えると同時に攻撃が止んだ。恐らくはこのハデスと言う女性の指示であろう。
 が、彼らに対しての警戒を解いたわけでもなくハデス達はアリス達を油断無く凝視したまま身構えたままであった。
 それに対してクレメンテは彼女達がギルドの関係者やモンスターで無い事を悟るを剣を鞘に戻す。

クレメンテ:「お嬢さん方、わたしらをそんな奴等と一緒にしないで欲しいな。」
ハデス  :「ハア。違うのかい」
アリス  :「変な言いがかりはよしてもらおうか。このアタシの目に狂いは無いんだから!」
ハデス  :「まあ、いいけどさ。男には気をつけたほうがいいよ。」
カルラ  :「男は皆狼って言うからねぇ」

ダンテ  :「信用ねぇもんだ、あっしらも――」
フェル  :「ギルドの奴等、絶対ぜってー許さねぇ…」

 ギルドの連中が居る限り、彼らも彼女達にとっては敵と見なされてしまう。
 それは誇り高いロウ傭兵の彼らにとっては許されざる事でもあった。

ハデス  :「そんじゃ、縁があったらまた会いたいもんだねぇ」

 と含み笑いをするハデス。

アリス  :「誰がアンタ達なんかと!」

 とアリスはベーっと舌を出してみせる。
 ハデスのパーティはいそいそと行ってしまった。

 ハデスと別れた後、アリスはイチャモンをつけてきたことに腹の虫が治まらず、

アリス  :……くぅっ、あんなのに負けてらんないわ。
      いくわよ、みんな!!」
ロウ傭兵達:『オウ!!!!!』

 というアリスの檄にロウ傭兵達が呼応する。






 ――二十分経過――

 ハデス達と別れた後、仕掛けた者が余程急いでいたのか、麻痺薬の塗られた針が
 仕掛けから離れたところに転がっていて作動しない未完成な罠を見つけた。

 そうして更に迷宮の中を進むと飛べなさそうな体型なのに僅かに飛べる鳥―ペンギン―
 が襲ってきたがこれをアリス達は難なく撃破する。

 アリスは自分が斬ったその大きな丸々とした鳥を見て、

アリス  :「この鳥…食べられないよね?」

 と何となく傭兵達に聞いていた。

クレメンテ:「ペンギン…がですか?」
アリス  :「ペンギンって言うんだ。あの鳥。」
クレメンテ:「普通は寒い地方にしかいない鳥なんだがね。」
アリス  :「へー、それで食べられるの?」
クレメンテ:「わたしは食べたことは無いですね。」
ダンテ  :「あっしも無ぇですぜ」
フェル  :「お嬢ちゃんもしかしてお腹が――」
アリス  :「あ、いやね。あんなに丸々としてるとさ――」

 そこでアリスのお腹の音が聞こえてくる。
 アリスは赤面する。

アリス  :「あ、ハハハ……」
クレメンテ:「まあ、なんだ。人間誰しもお腹は減るもんさ。
      ちょっと急ぎすぎたからな。ここらで飯にでもしますかね?」

アリス  :「そうしよっか。ん…ちょっと待って。これは――」


 さっきまでは聞こえてこなかったのだが、いきなり大量の足音がアリス達に向って来ていた。

クレメンテ:「こいつは…ギルドの連中だな。飯はこいつらを片付けた後で、だな。」

 そう言ってクレメンテは長剣を鞘から引き抜いた。

ダンテ  :「了解。本当の男の仕事ってやつぁ、見せてやらぁ。」
アリス  :「気を引き締めていくよ!お前達!!!!」

ロウ傭兵達:『おうっ!!!!』






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 そんな一行を背後から見ているアーリア。

アーリア :「予想通り、楽勝みたいだね…でも」

 セレニア達が相手にしていた時よりもならず者達の数が多いように見えた。

アーリア :「また誰か悪戯でもしたのかなぁ?」

 コンパスを取り出し、セレニア達の位置を確認すると
 アーリアはアリス達の向う方向とは逆に歩みを進めた。







【18:00―酒場『ドワーフの酒蔵亭』にて】

 結局昼ご飯までご馳走になってしまったセイルは
 クルルミク城下町についたのは夕暮れになってからだった。
 宿屋にすぐに戻らずにいつも通りにセイルは酒場『ドワーフの酒蔵亭』に
 その足を向ける。

 酒場の扉をくぐると、セイルの取り巻く空間が熱気と喧騒を醸し出すものへと変わる。

ペズ   :「あんたか。今日は朝から顔を見なかったから心配したよ。」

 セイルの姿を見ると開口一番にそう言った。
 セイルは苦笑しつつ、最近専用席と化してるカウンターの席に座る。

セイル  :「ここんとこ入り浸っていたから空気を変えにいったのさ。」
ペズ   :「そうかい。
       そうそう。今日は八人が新規来店したな。
       全部で新しく二つのパーティが組まれたみたいだ。」

 誰とも無くそう言う店主。

セイル  :「東の合戦場はどうなっているんだい?」
ペズ   :「戦況も今日は落ちついとるようだ。」
セイル  :「一進一退か――
       ん・・・迷宮に竜騎士が明日出るのか?」

 ペズの持っているメンバーのリストを見せてもらってそれに気がついた。
 クルルミク王国も本腰を入れ始めた、というところなのだろうか?

ペズ   :「戦況が落ちついとるからの。それで、ご注文は?」
セイル  :「ふむ・・・シーフードシチューをお願いするかな。」
ペズ   :「他には?」
セイル  :「そうだな、麦酒をジョッキで一杯もらえるかな?」
ペズ   :「そうそう。酒場に来たのならこいつを頼まねーとな。」

 ペズは嬉々としてジョッキに麦酒を波々と注いで行く。
 それをセイルの前に置く。

セイル  :「どうも。」

 受け取るとそれを喉に流し込む。
 最初の喉越しを味わうと、一気にゴクゴクと半分くらいまで飲む。
 そしてプハーっと息を吐く。
 その一連の動作を見ていたペズは何か言いたそうにしている。

セイル  :「何か?」
ペズ   :「いやな、そう"如何にも豪快に"飲む奴も珍しいな、と」
セイル  :「そうなのか?」
ペズ   :「東方では酒はこう静かに飲まないのか?」

 そう言われてみるとそうである。
 日本酒などでそういった飲み方をする奴は居ない―たまにいるか?
 麦酒だけこういった飲み方というのも確かに可笑しな話だ。

セイル  :「ふむ」

 指摘されて今度はゆっくりと喉を潤おわせるようにして飲むセイル。

ペズ   :「極端なやつだなぁ」

 とドワーフハーフは笑った。


 それからシチューが来たのは十分後であった。




【20:00―宿屋『セイルの部屋』にて】

 暗い部屋に戻ってくると、すぐ備え付けのランプに火を灯す。
 その薄暗い灯りを頼りに水晶玉を取り出す。

セイル  :「さて、明日は"フランツ様"とやらの元へ趣くわけだが――」
水晶玉  :声「わけだが?」
セイル  :「どうしたらいい?」
水晶玉  :声「王立図書館にいけるようにするのですよね?」
セイル  :「当然そうだが…俺は貴族連中の話の相手をした事が無い。」
水晶玉  :声「あるじゃないですか。姫様とかフィス卿とか…」
セイル  :「あんたもそうだけど姫様に合わせていたらこっちのリズムも崩れるんだがね。」

 芯は通っているのだが、一般的常識を知らない彼女には
 こちらの常識を無視されいつも話題を反らされるのだ。

水晶玉  :声「ではフィス卿とかを――」
セイル  :「あの筋肉馬鹿と同じように接しろと言うのか?あなたは。」
水晶玉  :声「筋肉馬鹿って…酷い言われようですね。」
セイル  :「あんたも朝から相手をしてて疲れてるだろう?」
水晶玉  :声「わたしはあの方を尊敬していますので。」
セイル  :「はあ…分かんねーなぁ。」

 聞き間違い、では無いようだ。過去に彼女とフィスの間で何かあったのだろうか?

水晶玉  :声「つまり端的に言えば、自信が無いって事ですか。」
セイル  :「そうだ。」
水晶玉  :声「わたしからはこういう助言しか出来ないけど…失礼の無いようにって。」
セイル  :「礼儀とか皆目――」
水晶玉  :声「自分がされたら嫌な事をしないように心がければいいのです。」
セイル  :「ふむ。」
水晶玉  :声「( ´O)η」
セイル  :「眠いのか?」
水晶玉  :声「当然です( ´O)η」
セイル  :「ふむ。では小会議はこのくらいで。」
水晶玉  :声「お休みなさーーい。」
セイル  :「ああ、また明日な。」

 本当に寝たのかそれっきり声がしなくなる。

セイル  :「さて、とアーリアは…もう戻ってるんだっけか。」

 セレニア達と違い、アーリアは必ず一日毎に城下町に戻ってきている。
 とりあえず何かあったらシルフ―賢者―から渡されている水晶玉を介して
 連絡を取るようにはいってあるため、この時間まで何も連絡が無いと言う事は、
 セレニア達に異常は無いと言う事でもあった。

 今日するべきことが無くなったセイルはランプの火を消してベッドに横になると、
 そのまま睡魔に身を委ねた。




:欄外:

※お詫び
まずお詫びを。
実際のキャラの口調や性格と異なる表記をしているかもしれないので
それについて最初にお詫び申し上げます。


※「ワイズナー」イベント参考
・フリーデリケ・パーティ:ヴァイオラ・パーティと接触。一緒にお茶する(ぇ
・リムカ・パーティ:1F監禁玄室にてシャーリーを救出。残念(違
・フォルテ・パーティ:通常の流れ。スペランカーと遭遇。ただの行き倒れ。
・アリス・パーティ:ハデス・パーティと接触。ならず者達をたくさん始末する。

※タイトル
「行き遅れ」ジャナイデスヨ。

※セイルの動きの要約
町外れの隠された町にてフィス卿と遭遇。
フィス卿自体はクルルミクに直接的知り合いは存在しないため、
逃げている貴族にフランツへの書状を準備してもらう。
如何にもRPGっぽい展開。王道。

※アーリアの動き
大体単にこうやって後ろを付回すような行動をしている。
そのうち動きます(何

※叫び&冒頭
毎度シャウトする予定。嘘。
つい使っちゃったあのネタ。二度はナイデスヨ。

※アイテム
・麦酒
麦酒もワインも古代シュメール人により作られている。
少なくとも紀元前9000〜3000年前ぐらいか?
麦酒は勿論ビールっす
・麦酒の飲み方
日本人の飲み方―CMのように一気に飲んでプハーと息を吐き出す―
のは珍しい飲み方のようです。
日本酒のようにちびちびと飲むわけでは無いが、"静かに"飲むのが一般的

※アーリア
参加者ではないため一切救出活動をしないアーリア。
なかなか薄情ではあるが、自分の仕事(&欲望)に只忠実なだけだと解釈を――

※フォルテパーティ
嵐の前の静けさその1
いたって淡々とアーリアの言葉によってのみその様子が説明・・・
しようと思いましたが、スペランカーですからねぇ

※フリーデリケパーティとヴァイオラパーティ
・迷宮内で料理
いつも通りに慣れた手つきで用意するフリーデリケ。
ならず者が徘徊する迷宮でもマイペースであるに違いない。
・フリーデリケさんの言葉使い
それになり人を警戒している場合はああいった丁寧な口調で話す、と踏んではいます。
もっともうち溶け合っていくとどんどん崩れてはいくでしょう。
・ヴァイオラさんの一人称
男っぽい豪快な性格というイメージで一人称は「オレ」で書いていましたが、
Moriguma様のSSの時は「あたし」であったために変更してたりも。
・キララ
餌付けされてます(何

※リムカパーティ
今回のスポットライトはここ。
ヒーローはやはり傭兵でしょうかね?
ラッシュすげーー
彼の台詞は心の中の台詞として表記。実際にあれ言っていたらひかれるでしょうからね。
・ソニックスラッシュ
サプソー2より拝借。風の魔法。

※アリスパーティ
初陣。姐さん。と呼ばせようと思いましたが、明らかに年下である彼女に対しては
失礼な気もしないでもないってわけでお嬢ちゃん、と
やっぱり姐さん?
・罠回避?
仕掛け損なった罠…もあるでしょうっていう表記。
ならず者の中の人も忙しそうですからね。
・お嬢さん方←→旦那方の対応のつもり…ですよ。
ただ、旦那の反対語は使用人(実は差別用語)、らしいので注意です。
同じような意味で主人←→奴隷らしいです。
・遭遇時の台詞。「うっそー、アタシ達が一番だと思ったのに!」
の部分は既に何人も迷宮に入っている人が多いために不適切と判断し
カットさせていただきました。
・アリスの剣技
一応Moriguma様のアリスSSより「疾風斬」を参考に。

※プレイヤーの不確定名表記
今回も適当すぎ♪



【登場人物】
ちょい役:登場キャラクター
・先生(ジム・グランデ) ― Professor. Jim Grande
不確定名 :野太い声
経験レベル:35(-10)
名声レベル:25
才能レベル:5
性格   :Neutral
性別   :Male
職業   :クルルミク魔法学院の先生
職業(ワイズナー):魔術師
呼称   :先生、錬金術士(みたい)
備考   :主に研究中の魔法のエンチャントを施している事が多い。
よく爆発を起こしているとかいないとか。
本文では名前すら出てきてない。
声はよく響く低音の「いい声」らしい。

・エレシア・アンダーソン ― Elesia Anderson
不確定名 :女性事務員
経験レベル:17
名声レベル:20
才能レベル:7
性格   :Neutral
性別   :Female
職業   :クルルミク魔法学院の事務員
職業(ワイズナー):魔法戦士
呼称   :エル、キレル
備考   :栗毛色の癖のあるミドルヘア、ライトブラウンの瞳が特徴のそろそろ三十路
なお年ごろな女性。お金を預かる事が多いためかかなり強いらしい。
普段は優しいので、怒る―その状態を"切れたエル"→"キレル(キラーエル=Killer EL)"と呼ばれる―
と怖いが、学院の生徒からは"エル""エル姉さん"と親しみを込めて呼ばれている。
但し"オバサン"、"オバアサン"等の言葉は禁句。
オプション『外法』(何

・エドワード・グレイ伯爵 ― Earl. Edward Grey
不確定名 :初老の男
経験レベル:5
名声レベル:15
才能レベル:1
性格   :Neutral
性別   :Male
職業   :貴族
職業(ワイズナー):Unknown
呼称   :エド・グレイ伯爵
備考   :茶色の髪白髪混じりで顔に皺の刻まれた初老の男。
親しみを込めて"エド・グレイ伯爵"又は"グレイ伯"と回りから呼ばれる。
戦争反対派、ギルド討伐派、と市民からは慕われている貴族の一人。
妻と娘が居たが、とある事件により妻は殺害され、娘は精神障害を患っている。
ギルドへの恨みは相当のもの。

今後この人物は出てくる事になるのだが、最終的に彼は――

※分かる人には分かるだろうが、グレイが伯爵位なのは紅茶アールグレイ
―アールグレイの元もグレイ伯爵から―になるため。








文責:織月

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