――三日目:「暗躍する混沌」――


【08:00―宿屋『セイルの部屋』にて】

 その日は清々しい朝だった。のはずだった。
声    :うあああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああ!!!!!!


 そんな叫び声が宿屋中に響き渡った。
 そんな声を上げたのはセイル(偽名)で―中略―

セイル  :「ハア、ハア、ハア、ハア・・・」

 なんか嫌な夢を見た。
 漠然としていてどんな内容だったか覚えていないが、
 酷く哀しい夢。
 酷く恐ろしい夢。

セイル  :「・・・・・・」

 広げた自分の手をじっと見つめ、精神を集中していく。
 その手でずっと握っているのはこの剣。恐らくはこれの持つ意志。見えない恐怖。絶望への予感。
 人の夢。儚き命。渇望している本能。纏わりつくような冷たい鼓動。言葉に顕せない感情。
 様々な思いを秘めたこの冷たく暗い刃。

セイル  :「く・・・お前か。生贄が欲しいのか・・・」

 部屋の扉がどんどんと叩かれていた。
 外から聞こえてくるのはアーリアの声のようだ。
 重たい身体を起こし、ベッドから降りてドアを開ける。

アーリア :「セイル?どうかしたの?」
セイル  :「何でも無い・・・ただの夢だ。」

 全身から汗―冷や汗を出し、草臥れた様子でアーリアの前に立つセイル。

アーリア :「本当に?大丈夫?」
セイル  :「心配ない。いつもの事だ。」

 そう。いつもの事だ。いつもの夢。いつもの悪夢。剣の見せる夢。見たくない夢。見せられる夢。
 彼女の心配している事は、この俺と剣を交える事が出来ない状況になる事だけだ。そう思っていた。
 彼女がこういう普通の女性のような心配をする事にセイルには意外であった。

アーリア :「そう。なら行くよ。セレニア達、そろそろ迷宮につくみたいだから。」
セイル  :「おう、気をつけろよ。」

 アーリアは手を振って自分の部屋に鍵をかけると走って行ってしまった。
 セイルは水差しの中の水を飲んで気を落ち着かせる。

セイル  :「こいつと同調しすぎるな。俺よ。」

 そう言い聞かせるセイルであった。
 汗を拭ったセイルは宮廷魔術師と交信するための水晶玉を取り出すと、イヤリングを耳につける。

セイル  :「起きてるか?シルフ。」
イヤリング:声「起こされました。貴方の声で。」

 予想通りぼーっとしてはいるが不機嫌そうな声が返って来る。

セイル  :「悪かった。こいつの影響でな。」
イヤリング:声「それですか。気をつけて下さいね。取り込まれないように。」
セイル  :「大丈夫さ。今のところはな。怪我したら保証出来ないが。」
イヤリング:声「それで、今日の予定は?」
セイル  :「食事をとって、今日はここの魔法学院にいってみようと思う。」
イヤリング:声「魔法学院ですか。わたしも個人的に興味がありますね。」
セイル  :「その後ちょっと酒場に行って・・・」
イヤリング:声「酒場、ですか?」
セイル  :「ああ、別に遊びに行くわけじゃない。」
イヤリング:声「情報集め、ですか。」
セイル  :「そんなところだ。」
イヤリング:声「分かりました。それで、アーリアさんは?」
セイル  :「もうセレニアを追って迷宮に行っている。」
イヤリング:声「そうですか・・・アーリアさん、わたしの渡した水晶玉持っていってくれないので困ってるんですよね」
セイル  :「あいつにも持たせてあるのか。」
イヤリング:声「情報を正確に把握しないと行けませんから。」
セイル  :「はあ。いつもよりも慎重なんだな。」
イヤリング:声「わたしが直接動けたのなら、こんなにも慎重にはなりませんよ」
セイル  :「そうだな。まああんたはそこで高みの見物でもしていてくれ。」
イヤリング:声「はい。」

 いつもの黒衣をイヤリングと水晶玉を結ぶ線を隠れるようにして着ると、
 セイルは身だしなみを整えて水晶玉をズボンのポケットに入れる。
 着替える時以外手を離さないベッドに立てかけておいた剣を手にとると、宿屋の部屋を出たのだった。



【09:00―食堂『龍の黄昏亭』にて】

 食堂『龍の黄昏亭』。
 セイルはそこで朝食をとっていた。
 表通りから外れたところにある小さいな食堂。
 狭い店内ながらも朝だというのに賑わっていて、
 よく見るとセイルと同じような黒髪黒目な人間が多い。

セイル  :「ここで、"米"にありつけるとは思いもしなかったな。」

 大きなお椀の上にたっぷり盛られたご飯。その上に牛肉、玉葱、などの具材を
 穀醤(醤油の原型)、ワイン、砂糖などで煮込んだものを上にかけた所謂"牛丼"をセイルは食べていた。

セイル  :「なかなか美味かったな。」
イヤリング:声「そうですか。そんなにその牛肉の甘辛煮&ご飯がおいしいのですか、今度作ってみましょうかねぇ。」

 ―この言葉が皇女の言葉なら断固拒否したのだが―
 「頼むよ」と水晶玉の主につい頼んでしまった。

セイル  :「東方系料理を置いてるとは、やるなぁ。」

 他にも漢方系の所謂「身体に優しい」メニューもあるようだ。

イヤリング:声「セイルさん。それじゃ通じないかと――」
亭主   :「うまかったアルか?」
セイル  :「ああ、米がもうちょっとしっかりしていれば最高だな。」
亭主   :「そうアルか?」
セイル  :「まあそこは好みの問題かな。」
イヤリング:声「通じてるじゃないですか・・・わたしいらない?」
セイル  :「いや、たまたまそういう食堂があったってだけだから――」
亭主   :「お帰りアルか?」
セイル  :「ああ、お勘定、これでいいか?」

 セイルは貨幣をテーブルに置く。
 店員は貨幣の数を確認すると、にこっと笑う。

亭主   :「またのご来店お待ちしているアル。」
セイル  :「ご馳走さん。」

 セイルは店を出た。


【10:00―『クルルミク魔法学院』にて】

セイル  :「ここか、クルルミク魔法学院てのは」
イヤリング:声「だから最初から人に聞きましょうって・・・」

 あの食堂から魔法学院までは普通に歩いて30分もかからないところにあったのだ。
 だが、昨日魔法学院の入り口まで来たのだが、朝と夕方ではセイルには丸っきり風景も違って見えたためか、
 なんだかんだで一時間もかかってようやくたどり着いたのだ。

セイル  :「いいじゃないか、別に。ついたんだしさ。」
イヤリング:声「時間は有意義に使わないと・・・」
セイル  :「ここでその事について問答してても時間の無駄かと。」
イヤリング:声「それもそうですね。」
セイル  :「さて、受付はどこかな・・・と」

 セイルは魔法学院の門をくぐる。  入ってすぐの左手側に小さな警備員室があることに気付く。

セイル  :「誰かいるかなっと――」

 警備員をしているであろう男性は頬杖をついて寝こけていた。
 顔はあまり見えなかったが、その体型は小太り。
 おおよそ警備員に相応しいとは思えない体型をしている。

セイル  :「警備する気あんのかなぁ(思わず頭に手を当てるセイル。)おい。あんた。」

 セイルは警備員の身体を揺すり、起こそうとする。だが、なかなか起きない。

セイル  :「むぅ。だが、こういう手合いは――」

 セイルは水晶玉の主に状況を説明する。そして、

セイル  :「(セイルは大きく息を吸い込んで)ご飯の時間だぞ!!!!!」

 案の定、小太りな警備員は跳ね上がるようにして起きると、周囲を見渡す。
 警備員はその様子を見ている男を見て、自分の状況を把握すると身だしなみを整え、

警備員  :「と、当学院に何の用でしょうか?」
セイル  :「寝ていると給料減らされるぞ・・・まあいいか。ここで貴金属を買い取ってくれると聞いたんだが、どうすればいい?」
警備員  :「貴金属の買い取り?お兄さんは商人かい?」
セイル  :「いや、たまたま手に入ったんでね。こっちの方が高く買い取ってくれると聞いたんだよ」
警備員  :「ふむ。確か資材管理をしているのは事務室だったかな・・・直接事務室に行ってくれないか?」
セイル  :「どういけばいい?」
警備員  :「そこをまっすぐだ。」

 そう言って指差す警備員。その指の先を見ると汚い・・・じゃなくて、学院の建物が見える。
 その入り口近くに小さな窓口が見えた。

セイル  :「あの窓口がそうか?」
警備員  :「そうだ。ところで俺が寝てた事は・・・」
セイル  :「言わないさ。でも、警備が仕事なら寝るなよな。」
警備員  :「あ、ああ。気をつけるよ。」
セイル  :「ふむ。大分慣れてきたかな?」

 水晶玉の主の翻訳と「言葉合わせ」。
 翻訳は非常に早口なため、最初は聞き取り辛かった物の、それなりに慣れて来ていた。
 彼女が次に言うべき(こちらの言語での)言葉ををそのままセイルが発音等を合わせて言っているのだ。
 学院の玄関口のすぐ近くに窓口があった。
 そこにはこの学院の職員であろうか、女性が書類を片付けていたりするのが見えた。

セイル   :「もしもし。」

 閉じている窓口をとんとんとセイルは叩く。

女性事務員:「はい。はい。」

 書類の整理をしていた女性職員がぱたぱたとこちらにやってきて、窓口の窓を開ける。

女性事務員:「はい。何でしょうか?(ニコっと笑う)当学院への入学希望者でしょうか?」
セイル  :「貴金属の買い取りをしていると聞いて来た。」
女性事務員:「あ。はいはい。しています。」
セイル  :「では――」

 セイルが袋から売り物を取り出そうとする。

女性事務員:「ちょ、ちょっと待ってください。わたしが直接ここで買い取るわけじゃないです。」
セイル  :「どうすればいい?」
女性事務員:「貴金属の買い取り価格っていうのが、重さと純度に左右されるのです。」
セイル  :「そうだろうな。」
女性事務員:「だから、専門としている人が直接買うのです。」
セイル  :「つまり?。」
女性事務員:「つまり、当学院の先生です。」
セイル  :「つまりはその先生のところに行けって事かい。でも右も左も分からなくてな・・・」
女性事務員:「はい。案内しますよ。」
セイル  :「ふむ…頼むよ。」

 事務員は事務室から出てくるとセイルの横に立つ。
 事務室の中に居た時は分からなかったが、
 女性にしては背が高いようで並ぶとセイルと同じくらいのところに頭の位置が来ている。

女性事務員:「では、行きましょうか?」

 穏やかに微笑みながら、その事務員は学院内にセイルを導き入れる。

セイル  :「ふむ・・・」

 事務員に連れられて歩いていると、その事務員に女の子―この学院の生徒だろうか―
 が寄って来て話し掛けてきた。

女生徒  :「エルさん。この方は?」
エレシア(女性事務員):「研究に使う資材を売りに来た方です。」
女生徒  :「ふーん?あんた、商人には見えないけどねぇ」
エレシア :「これ、止めなさい。失礼ですよ。」
女生徒  :「いーじゃん、減るもんじゃ無し。」
セイル  :「残念だけど、経るんだな。これが。」
エレシア :「え?」
セイル  :「冗談だ。君は教室に戻った方がいいんじゃないのか?」
女生徒  :「え?あ・・・」

 遠くのほうでベルを鳴っているのが聞こえてくる。
 女生徒は慌てた様子で、バイバイと手を振って掛けて行く。

エレシア :「廊下は走っちゃダメですよ!」
女生徒  :「ごめぇええん・・・」

 事務員に叱られても女生徒走って行ってしまった。

エレシア :「元気な子ばかりで――気分を害してなければいいですが。」
セイル  :「ん・・・ああ、別に気にしてないよ。」

 エレシアとセイルは長い回廊を抜けると、鉄の柵に鍵を掛けられた扉の前に立つ。
 エレシアは鍵を取り出すと、鉄の柵を開け、更にその奥の雑草の繁った土で出来た道に下りた。

エレシア :「こちらです。」
セイル  :「ところで、あなたの名前、エルと言ってましたが――」
エレシア :「エレシアって言うんですが、生徒達はエルと呼んでいます。そんなに長い名前でもないんですけどね。」

 ところころと笑う。
 どうやらエルと呼ばれる事が気に入らないわけでもないようだ。

セイル  :「エレシアさん、ですか。」
エレシア :「それが何か?」
セイル  :「いえ、いい名前だと思いまして。」
エレシア :「ありがとうございます。
          あ、気をつけて下さいね。足元。凸凹してますから。」
セイル  :「あ、はい。」

 歩いていると低木で囲まれた行き止まりに着く。
 エレシアが行き止まりになっている茂みを掻き分けるようにして強引にそこを抜けると、
 小さな小屋がそこに見える。

セイル  :「ここ、ですか?」
エレシア :「色々研究をやっていてな、校舎に近いと・・・分かるでしょ?」
セイル  :「失敗した時に、ですか。」

 爆発やら薬の散布などなど。周りに人を居ない状況にして被害を減らすためだと理解できた。

エレシア :「本人は悪気は無いのは分かってるんですけど、ああ何度も被害を出されては――」
野太い声 :「被害が、何だって?」
エレシア :「あら、先生。聞こえてましたか。」
野太い声(先生):「研究に失敗はつき物。失敗があるからこそ成功たりえるのだ。」

 先生と呼ばれたその壮年の男性は、立派な髭を蓄え、頭頂部の毛髪が頼りなさそうであった。
 だが、その眼光は今の尚現役の魔法使いである事を意味し、独特の雰囲気を醸し出していた。

エレシア :「ですが、学院の名誉に傷が――。」
先生   :「最初から成功していると分かっている研究をする意味があると思うのかね?」
セイル  :「あの〜〜。講釈の最中悪いですけど、俺の要件をさっさと済ませたいんだが――」

 このまま二人の議論を見守っているとあっという間に日が暮れそうだと思ったセイルは口を挟んだ。
 エレシアは「ごめんなさい」と言って、一歩身を引いた。

先生   :「誰だね?君は?新入生かね?」
エレシア :「貴金属を買い取って欲しいそうなのです。」
セイル  :「お願いします。」
先生   :「ほう。何かね?」
セイル  :「この辺では使われていない銀貨です。」

 セイルはそう言って、銀貨の入った袋を手渡した。
 先生はそれを手にとってまずは袋全体の重さを確かめた。

先生   :「かなり入っているね・・・どれ・・・」

 一枚手を取り、睨みつけるようにそれを見つめる先生。
 そのしかめたままの面でセイルを見て、

先生   :「盗品かね?」
セイル  :「いえ、俺らの国で使われてる物なんですよ。」
先生   :「ほう。しかし見たこと無い刻印だのぅ・・・
        ペペフォジチノ・ビナヴェスニチィアン・グラッチェルニズのやつが持ってきたのと酷似しているが――」
セイル  :「ペ・・・誰です?」

 えらく長い名前だった。それを覚えてるのはさすがは魔法学院の先生というところか。

先生   :「ドワーフハーフの酒場の主人だ。」
セイル  :「あ、ああ、それなら俺の連れがその酒場の主人に渡した物だ。」
先生   :「御主達がこいつの持ち主だったのかい。なるほどねぇ。」
セイル  :「あんまりゆっくりしてる時間は無いのだが――」
先生   :「ほうほう。ちょっと待っておくれ。こいつの純度を調べるからの。」
セイル  :「早いとこ頼む。」

 水槽と計りを組み合わせたような器具の中に丁寧に一枚ずつセイルから渡された銀貨を入れていく。
 一連の作業を終えると、先生はセイルの持つ物に目を止めた。

先生   :「さっきから気になっておったのだが、それは何じゃ?」
セイル  :「うん?」
先生   :「その手に持っておる棒じゃよ。」
セイル  :「こいつは・・・呪われたアイテムだよ。」
先生   :「呪われたアイテム、じゃと?」
セイル  :「そう。何処でも祓う事が出来ない強力な魔法の込められた呪われた物。
       誰の手にも渡る事が無いように、こうやって俺が持っているのさ。」
先生   :「ふむ。にしてはお主から特に強い力は感じられないが――」
セイル  :「そういうのが分かるのか?」
先生   :「魔法学院の教師をしているものが分からぬと?」
セイル  :「そういやそうだな。あんた魔法学院っていうより、丸っきり錬金術士って感じだからな。」

 素直な感想だった。
 魔法の杖を持って、というよりフラスコを持っていたほうがよく似合っている。

先生   :「ほっほっほ。よく言われるぞい。」
セイル  :「まあ、そんな分けであんたにも触らせる事は出来ないんだ。」
先生   :「お主は大丈夫なのか?」

 この先生はセイルの事を心配してくれているようだ。
 厳つい風貌とは裏腹にどうやら"出来ている"先生のようだ。

セイル  :「相性がいいんだとさ。だから、俺は呪われていない。」
先生   :「ふむ・・・そういう事もあるもんかの・・・
          さて、計測出来たぞい・・・成分に間違いは無いようじゃ。」
セイル  :「そうかい。それで幾らで買い取ってくれるんだ?」
先生   :「こんなもんでどうじゃ?。」

 そう言って価格を表記した紙を見せる。
 ちょっとした魔法の武具一式を買える値段―と賢者は一言添えて―にはなっているようだ。

セイル  :「売った。」
先生   :「商談成立じゃな。ところで、銀以外は持っておらんのか?」
セイル  :「何かあった時用に金貨もある。」
先生   :「そいつは見せてくれなんだ?」
セイル  :「必要になった時には見せるさ。」
先生   :「ふむ。っと、これを持って窓口で貰いなさい。」

 さきほどの価格を書いた紙にこの先生のサインが入ったものを手渡される。

r セイル  :「窓口って?」
エレシア :「わたしがさっき居たところ。あそこでこの学院の運営や研究費とかお金関係含めて全て統括して行ってるの。」
セイル  :「なるほど、ね。」
ペズ   :「わしの手持ちはこれしか無いしのぅ」

 おそらく今日のお小遣いといったところだろう。銀貨数枚がその皺くちゃな手の中にあった。

セイル  :「んじゃ、行きますか。」
エレシア :「はい。では、先生。わたしは行きますが、くれぐれも爆発などしないように!」
先生   :「エレシアちゃんは手厳しいのぅ。」

 ちゃん付けで呼ばれた事にエレシアはきっときつい目線を送り、怯んだ先生を尻目にその小屋からセイルらは出て行く。

エレシア :「でも、凄いわね、これ・・・こんなに一度に請求されたのははじめて・・・じゃないけど、久しぶりね。」
セイル  :「はあ。」
エレシア :「まあしょうがないわね。銀は魔法を載せやすいから――」
セイル  :「はあ。」

 セイルはそっちの知識に関しては疎かったため、ただただ彼女の言葉に相槌をするだけであった。





【10:00―『龍神の迷宮』フォルテ・パーティ】

 フォルテ達は『龍神の迷宮』地下1階を無難に進んでいる・・・

 コツ、コツ、コツ。
 ガシャ、ガシャ、ガシャ。

 静かな迷宮内に足音だけが木霊する。
 昨日はパーラという娘を保護しただけで終わったため、
 彼女達にとって実質初めての迷宮探索なためか
 一行は油断なく、そして比較的遅い足取りで迷宮内を探索していた。

セレニウス:「ん・・・何か妙ですね―」

 何かに感づいたのかセレニウスが足を止める。

セルビナ :「ここだけ妙に床が新しくないか?埃が無いね。フォルテ、あんたはどう思う?」

 セルビナもまた目の前の床に違和感を感じたのかフォルテに伺いを立てる。

フォルテ :「ちょっと待ってください。」

 フォルテは一番前を歩いていたセレニウスに"待った"をかけると、セレニウスやセルビナの指摘したその個所を見定める。
 意識を集中して、眼前の目標を強く思う。
 すると、頭の中に一瞬何か歯車の仕掛けのような物が浮かび、そしてそのイメージはすぐに霧散する。

フォルテ :「―――・・・罠が仕掛けられています。回転する何か――」
セルビナ :「回転床かな?」
フォルテ :「恐らく」
コトネ  :「へぇー」

 罠そのものに知識が無いフォルテはセルビナの意見に賛同する。
 セルビナは適当に迷宮内に転がっている小石を拾うと、その埃のかかってない床にポンと放り投げる。
 すると、大きな音と共に、その床全体が高速回転し、暫くすると止まった。

コトネ  :「ビンゴ!だね。」
セレニウス:「そこを避けて、その埃の被っている部分を歩けばいいのでしょうか?」
セルビナ :「そうだな。今回転した部分には絶対触れるなよ。」


 注意深く回転する床の仕掛けを回避すると、前方に何かが佇んでいるのが見える。

 フォルテは『光源』を前方に向けると、その何物かはこちらに気がついたのか
 徐々に近づいてきた。

 その六つの黒い人影―男達は、フォルテ達の前に来ると、一礼をした。
 釣られてフォルテ達もその男達に一礼をする。

 礼をすると男達は無手のまま構えを取る。その風貌から彼らが格闘家であることが分かる。
 その格闘家から発せられるのは殺気。それに気がついたフォルテ達は戦闘態勢を取る。

フォルテ :「ワームバインド!」

 その声を戦闘開始の合図となった。
 男達の足元から土くれが持ち上がると、その足を"蔓"のような物になって拘束する。

 その動けない男達に向って、セレニウス、セルビナ、コトネがそれぞれの武器をもって迫る。

 まず最前列の男にセレニウスのリーチの長い槍が胸を貫く。
 続けざまにセルビナの剣が男の受けようと出した手ごと切り落とし、
 返す刃で逃げられない男を袈裟懸けに斬る。
 セルビナに斬られた男の合間を縫ってコトネは素早く間合いを詰めると、
 "蔓"を必死に外そうと試みる男の不意を付いてその頭にガントレットでの一撃を加える。

 セレニウスは槍を引くと男の胸に足を当て大きく蹴り出すと、
 その後ろに居た男に貫かれた男の骸が当たる。
 その衝撃でワームバインドの"蔓"の呪縛から解かれるもの、
 すぐさまセレニウスの薙いだ一撃によって、その場に崩れる。

 セルビナが二人目にきりつけようとしたところで、残った二人は両サイドの壁際まで飛んで、
 攻撃を回避する。

 フォルテ達は「ワームバインド」の効果が切れる前に、四人もの男達を戦闘不能へと追い込んだ。

 二人の男達は壁に向って大きく跳躍すると壁を蹴って、最前列にいるセレニウス目掛けて時間差の跳び蹴りを放つ。

黒い男達 :「チェィィスゥトォ!」

 いきなり飛んでくるとは思っていなかったセレニウスは一人目の蹴りはぎりぎりでかわせた物の、
 二人目の跳び蹴りを受けてしまう。

セレニウス:「うっ・・・」

 それは見事にセレニウスの頭にスパーんと入り、彼女の上体が揺らぐ。
 それを好機と見て男達は一旦間合いをあけると、再びセレニウス目掛けて突進すると、
 正拳突きを繰り出してきた。

 が、その突きがセレニウスに当たる前にコトネのガントレットの一撃が、
 セルビナの剣による斬撃がそれぞれにクリーンヒットすると、

黒い男達 :「ぐぅは・・・」

 二人ともそんなうめき声と共にその場に沈むようにして倒れてしまった。

 倒れたその男をよく見ると、

 東方の格闘家の着る着物が特徴的で、その腰には黒い帯が巻かれている。
 通称ブラックベルツ(黒帯)と言われる格闘の上級者のようだ。

 とフォルテはメンバーに説明した。
 東方の格闘家の衣装。黒帯などは、本の中でしか知らなかった物で、
 初めてみたそれにフォルテはちょっと嬉しかったりした。

セレニウス:「ふぅ・・・危なかった。」
セルビナ :「大丈夫かよ。」
セレニウス:「後もう少しで昏倒してましたよ。」
セルビナ :「ん?」

 突然。

 回廊に響く複数の足音が聞こえてきた。

 後方に一人、前方に十人ほどのならず者達にあっという間に囲まれてしまった。
 ならず者達はフォルテ達の姿を確認すると下卑た笑みを浮かべ舌なめずりをし、
 そして襲い掛かってきた。
 同時にフォルテは呪文を詠唱を始めた。

セレニウス:「コトネ、後ろを頼む!
         セルビナとわたしは前を蹴散らすぞ!」

 呪文の内容からフォルテが何をしようとしているのか察したセレニウスは
 槍を手に牽制しつつ、ならず者達の動きを注意深く見る。

セルビナ :「りょーかい!はん。掛かってきやがれ、屑どもが!」

 セルビナは一度しまおうとしていた剣を鞘から引き抜くと、
 突進してきたならず者達を出迎える。

コトネ  :「は、はい。」

 ガントレットを手に構えるコトネ。
 後方―コトネにとって前方―にいるならず者はたった一人。
 大人数での戦闘・戦場慣れしているセルビナやセレニウスの配慮であろう。
 その一人に集中して、思いっきりその拳でならず者の頭を狙う。
 頭を狙われたならず者は、それを短剣で受けると、コトネのお腹目掛け膝蹴りをくりだす。
 コトネは拳を引っ込めると、その蹴りを両手で受けるとその足を掴んで思いっきり引っ張った。

ならず者 :「う、うお・・・」

 それでバランスを崩したならず者にコトネは渾身の力を込めた拳をそのお腹に叩き込んだ。

コトネ  :「えいっ!」

 バスン!

ならず者 :「へへ。痛くも痒くも――」

 衝撃をお腹に受けるものの、耐えられない痛みで無かったためにニタリと笑うならず者。

コトネ  :「逝っちゃえーーー!」

 その掛け声と同時にコトネはトリガーを引いた。

 刹那。

 ズン!!

 小さな爆音と衝撃がならず者を襲う。
 ならず者のお腹で何かが弾け、彼の着ていた革製の鎧を杭のような物が貫通し、
 そのお腹を抉っていた。

ならず者 :「ぶ、は・・・」
コトネ  :「コトネ特製ガントレットの味。どう?」

 それは内臓まで達していたのか、そのまま何も言えずにならず者は突っ伏した。

フォルテ :「皆さん!避けてください!」

 その一声で前方を抑えていたセレニウス、セルビナは回廊の壁際まで飛ぶ。

フォルテ :「ファイアーボール!!!!」

 フォルテの手から生み出されたのは「ファイアーボール」。
 着弾と同時に爆音、熱風が巻き起こり、煌々と迷宮内を照らす。 
 そして、彼女達が引き付けていたならず者達全てがの餌食となった。

セルビナ :「すっげー威力だな。一気に全員やっちゃうとはな。」

 セルビナは素直に感心していた。

フォルテ :「いえ、皆さんが詠唱の時間稼ぎをしてくれていたからこそ、ですよ。」
セレニウス:「ところでコトネ。そのガントレットは――」
コトネ  :「コトネ特製ガントレットの事?」
セレニウス:「ああ、そこに転がっているそいつはそれでやったのでしょう?」
コトネ  :「勿論。」
セレニウス:「あんなにお腹を抉るようなガントレットなんて聞いたことも見たことも無い。」
コトネ  :「コトネ特製ガントレットだから成せる技。勿論、企業秘密、でっす。」
セレニウス:「そ、そうか。」

フォルテ :「皆さん、こちらに何かあります。」
セレニウス:「ん?何です?」

 フォルテはならず者の一行が大きな箱を輸送していた事に気が付いた。
 その箱を開けると武器が入っている。

 短剣。長剣。棍棒。エトセトラ。

 そして、その中からフォルテは良さそうな槍を見つけた。

フォルテ :「セレニウスさん。これを・・・」
セレニウス:「槍か・・・今わたしの持っているものより良さそうですね。」

 そう言って、その槍を手に取るとヒュンヒュンと回してみたり、突いてみたりする。

セレニウス:「使わせてもらいますか。」
セルビナ :「他にいいもんないか?」
フォルテ :「そうですね・・・特にこれといってなさそうです。」
セルビナ :「そうかい。」

 フォルテが一個ずつ几帳面に並べているその武器を、
 セルビナも一個ずつ手にとって物を確かめては戻し、確かめては戻し、を繰り返す。
 そしてセルビナが最後によく訳の分からない装飾のついた短剣を手に取る。

セルビナ :「なんだい、こりゃ・・・」
フォルテ :「多分ですけど、呪われた武器のレプリカかと――」
セルビナ :「レプリカ?」
フォルテ :「魔法の力は全く感じられないのでそうだと思います。」

 これから魔力を入れるつもりだったのかもしれない。
 が、はっきりいってセレニウスに渡された槍以外はこれも含めて特に使えそうな物は無かった。

 コトネは暫くその盗品と思われる武器を眺めていた。
 が、自分の作った武器が入って無い事にほっと胸を撫で下ろした。


フォルテ :「コトネちゃん。行きますよ。」
コトネ  :「あ、は〜〜い」

 フォルテ達一行は更に前進することにした・・・







@- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - @

 そんな一行を見ている影一つ。アーリアである。

アーリア :「普通だったなぁ。セレニア・・・
      基本だけでなんとでもなる相手だからしゃーないか。」

 フォルテ達が去った後に並べられている武器を手に取る。
 フォルテやセルビナが言っていたとおり、本当にいい武器が無かった。
 どれもDやEグレードな品。とりあえず振れば切れる、ダメージにはなる。
 その程度の代物。所謂粗悪品であった。

アーリア :「ひとまず・・・どっかに行くかな。セレニアはまだいつも通りだし・・・」

 アーリアは武器をやはり並べると、迷宮の奥に進んでいった。







【12:00―『龍神の迷宮』ハデス・パーティ】

アーリア :(すっごいカッコウの娘達だなぁ)

 その様子を遠巻きで見ていたアーリアは素直にそう思った。
 セレニア達の監視をしていたアーリアが偶然遭遇したのは
 ハデス率いるパーティとシャーリー率いるパーティのメンバーが
 にらめっこをしている状況であった。

派手で露出の多い女性(ハデス):「酒場で見たことある顔だな。そうだ、シャーリーさん、だっけか?
         あたしはハデス・ヴェリコ。よろしくな。」

 とハデスはいつもの調子で握手を求めようとする。

シャーリー:「私はお遊戯でここに来ているわけではない。失礼する。」

 シャーリーはハデス達の格好を見て、不機嫌そうにそう言うと
 ハデスの差し出した手を見もせずに素通りしていった。

白髪の女性:「すみません。この子、融通聞かなくて――」
シャーリー:「クレア、何をしている。」
白髪の女性(クレア):「では――」

 小さなリーダーに呼ばれてハデス達に一礼するとクレアは去っていった。





 自分よりも若いシャーリーに握手を拒否された事にハデスは腹を立てたのか、
 ハデスの仕事を"お遊戯"呼ばわりされた事に腹を立てたのか、
 周りの人間から見て分かるぐらいに機嫌が悪くなっていた。

ハデス  :「ふふん。こいつを使ってみるか。」

 ふと何かを思い立ったハデス・ヴェリコは不気味な笑みを浮かべながら
 荷物の中から筆と液体の入った容器を取り出した。
 パーティの最前列を慎重に警戒しながら歩いているカルラは、
 ハデスが何事かをしている事が気になったので、足を止めると振り返った。
 すると、ハデスは手に筆と薬瓶のようなものを持っていた。

カルラ  :「なんだい?それは??」
ハデス  :「こんな事もあろうかとあたしが仕入れてきた特性の塗料だよ。」
カルラ  :「そいつで何をするんだい?(こんな事もあろうかって・・・)」
ハデス  :「こうやるのさ。」

 ハデスは筆をその液体に浸すと、その液体のついた筆で回廊の壁に落書き―矢印を書いた。

カルラ  :「矢印?」
ハデス  :「そうさ。こいつであの『シャーリーお嬢ちゃん』に世間の厳しさって言うのを思い知らせてやるのさ。」
カルラ  :「ふぅん。ところで何が特製なんだい?」
ハデス  :「一日経つと消えるんだよ。この塗料。」
カルラ  :「水で流さなくてもいいの?」
ハデス  :「ノン。ノン」
カルラ  :「こすらなくてもいいの?」
ハデス  :「ノン。ノン」

ハデス  :「だから、ノー○ッチ」

 心なしか迷宮内の温度が下がったように感じられた。

胸の大きな少女:「わたしも、わたしも。」
ハデス  :「あいよ。全部使うなよ。アチャチャ。まだまだ使うんだからさ。」
胸の大きな少女(アチャチャ):「分かってるよぉ」

 とアチャチャは調子に乗ってそこら中にシャーリーの向かった先を記した矢印を描きまくる。

ハデス  :「おいおい。描きすぎだよ。また後で描かせてやるから」
アチャチャ:「はぁーい。」



――10分経過――



ハデス  :「これでよしっと・・・」


 そんなハデス達のやり取りを聞きながら、
 喉の渇いたアーリアは水筒を取り出すと水を飲みだした。
 アーリアが喉を潤わせていると、東の回廊から近づいてくる人影に気が付いた。

アーリア :(別のパーティが来たのかな?)

 見つからないように死角側に回りこみ、彼女達の様子を見ようとする。
 そこでアーリアは思わず、

アーリア :「ぶぱっ!」

 飲んでいた水を吹いてしまった。
 胸の大きな女性(ヴァイオラ)達にその音は聞こえなかったのか、気付かれなかったようだ。

アーリア :(胸っ!!でかっ!!!)

 思わず声に出しそうになったが必死にそれを飲み込んだ。
 あれを見た後、自分の女性としては未発達の胸を軽く触ってみる。
 脂肪分よりも筋肉が目立つその微乳を。

アーリア :(あんなの本当にいるんだ・・・あたしの郷里にも皇国にも居なかったな。あんなでかいの。)

 アーリアにとってアレは嫉妬というより寧ろ感心・感動物の大きさであった。

 シャーリー達とすれ違った時と同じように、両者の間からは険悪のムードが場を支配し、
 それぞれ反発するようにして反対方向に歩き出していた。

アーリア :(んで、あのハデスって娘。やっぱり印書いてるのか・・・)

 ヴァイオラ達が去った後を追うように付けられた目印。

アーリア :(あたしはあーいう卑怯なこと嫌いだけど、ありなのかな。報奨金を独り占めにするには。)

 アーリアはハデスの付けた目印を指で触りながら、

アーリア :(あたしなら正正堂堂と討ち果たすけどね。)

 と、その印を暫くなぞっていると、
 はげてしまった。




【14:05―『龍神の迷宮』シャーリー・パーティ】

 ハデス・パーティの観察にも飽きたアーリアは適当に迷宮内をぶらついていた。

アーリア :「セレニアはまだ動いてないか・・・」

 コンパスを見て一人呟いた。
 パーティの誰かが負傷したのか、それともただ単に休憩をしているのか全く動いていなかった。

アーリア :「あれ、探すかなぁ」

 やはりあのお尋ね物。裸のクノイチを探す事にした。
 アーリアはるんるんとスキップ―下手な―をしながら、回廊の奥に消えた。











 ――アーリアがシャーリーに遭遇する五分前――



シャーリー:「ふう・・・」

 シャーリーは何気無く溜息をついていた。

 そう。シャーリーはいらついていた。
 生理的に合わないというのだろうか。あのハデスと言う女性とは。
 彼女は実に友好的に握手を求めてきたのだが、それを受けることは出来なかった。
 あれから、パーティ内の空気は険悪になっていたのだ。

 その後、ヴァイオラのパーティに出会ったことで気持ちもそれなりに落ち着いたのだが、
 やはりそれをまだ引き摺っていた。それは彼女の幼さから来る物なのかもしれない。

 過去に故郷で事件が起きた時も、
 あの時も何か訳の分からない感情を抱いた事があったことを
 シャーリー・ヘッドは、『今は』忘れていた。


 ―――それは虫の知らせでは無かったのか―――

 そんな事を考えながら、疲労からかシャーリーはいつもはしない、
 明らかにおかしい罠に足を踏み入れようとしていた。

クレア  :「シャーリー!そっちは!」

 クレアはそう叫び、その罠のある方に行こうとしていたシャーリーの手をとって引くと、
 彼女の身体を抱き寄せた。

シャーリー:「な、何をする・・・むがっ」

 クレアの豊満な胸でその口を塞がれる。

クレア  :「そっちは罠ですよ。」
シャーリー:「く、はっ、ぷはっ!」

 クレアの胸に埋もれていた顔を出す。

シャーリー:「ち、窒息死させる気か!」
クレア  :「あらら?すみません。でも、あちらは罠ですよ。」

 シャーリーはクレアから離れると、ソッポを向く。

シャーリー:「す、すまん。・・・・・・少し考え事をしていた。」

 顔を見せずに謝るシャーリー。

クレア  :「いえいえ、無事で何よりです。」

 とクレアはにこっと笑った。
 無事その罠を回避したところで、遠くのほうに三人の人影が見えた。
 東方の道着と呼ばれる着物を着て、その実力をあらわす黒い帯を腰に巻いている。
 彼らが東方のカラテと呼ばれる武術の実力者。
 ブラックベルツだとシャーリーは聞いた事があった。

 彼等に近づくと「オッス!」という掛け声と共に一礼をすると、
 身構えると、シャーリー達に襲い掛かってきた。

 シャーリーが剣を振るうとリーチの差で彼らの拳より先に彼女の剣が彼らの胴を切り裂いた。
 それとほぼ同時にクレアの剣が別の男の胸に突き刺さる。
 クレアはすぐにその剣を抜いて残る一人を仕留めようとしたのだが、
 刺された男はその刺さったままの剣を手で抑えたため、すぐには抜けなかった。
 クレアがそれに気を取られたところに、彼女はお腹に正拳突きを貰い、
 続けざまにアッパー気味の掌底が顔を入ってしまった。

 シャーリーは倒れたクレアに援護をするようにして剣で薙ぎ払うと。男はそれを軽いバックステップで避けた。
 その残ったブラックベルツは後退して間合いを離そうとしたところ、突然その姿が掻き消えた。

シャーリー:「な、なんだと!」

 よく見ると床が抜けていたのだ。
 さきほどシャーリー達が回避した罠、フォールピットに引っ掛かったようだ。
 穴を覗き込むと男は打ち所が悪かったのか、頭から出血し、既に血溜まりとなっていた。

シャーリー:「・・・」

 思わず目が点になるシャーリー。

シンシア :「シャーリーさん?」
シャーリー:「――あ、ああ。終わったよ。」
シンシア :「そうですか。」

 シンシアはロッドを腰のベルトに戻す。

シャーリー:「クレア・・・クレアは大丈夫なのか?」

 ブラックベルツの掌底の一撃を思いっきり受けて倒れたクレアのことを思い出した。
 アリエは倒れたクレアの様子を伺っている。

クレア  :「う・・・ん・・・」
アリエ  :「――打撲傷と軽い脳震盪のようです。」

 頭を強く打っているのかその目の焦点は定まっていなかった。

シンシア :「よ、良かったぁ・・・」

 魔術師の少女も安堵の息を漏らす。

シャーリー:「アリエ、安全な場所を確保するから治療に専念を――」

 そこでシャーリーは耳を済ませる。アリエやシンシアもその異変に気付きシャーリー同様に耳を済ませる。
 アリエの耳には遠くからこちらを包囲するように来る大量の足音が聞こえてきたからだ。

アリエ  :「何か、来ます・・・」
シャーリー:「こ、これは――」

 罠だ、そう思った時には前後から挟まれる形で。
 このままでは完全に逃げ場を失ってしまう。
 包囲してるのは恐らくハイウェイマンズギルド―"ならず者"の集団であった。

 クレアは先ほどの戦闘での負傷が思った以上に深く、昏睡状態にあった。
 足手まといとなるクレアを彼女の言うとおり囮にして逃げる事は戦場ではよくある事。
 だが、シャーリーはそれを許さなかった。
 この状況を打破するために、シャーリーはシンシアに耳打ちをする。
 シンシアはアリエと一緒にクレアの身体を起こし両脇から支えた。




 そして――

シャーリー:「ここを通りたくば、汝が命が対価になると心得よ!」

 敢然として立ちはだかるシャーリー。
 シャーリーに自信はあった。
 確かにこの五十人近い人数を相手にするのは始めてであったが、
 これと似た状況は幾度と体験している。

 シャーリーがパーティメンバーを守るようにして立ちはだかるのと
 同時にシンシア、アリエは動けないクレアを支えるようにして
 その場を振り返らずに一心不乱に逃げた。

 アリエ達が無事逃げられた事に安堵の息を漏らすと同時に
 今度は自分がこの包囲からの脱出するために、一方向に集中して切り込む。
 が、十数人ばかり切ったところで、手に突然の痺れが襲い、
 シャーリーは剣を落としてしまう。

シャーリー:(こ、こんな時に――)

 今まで無理をしていた反動。時々思うように自分の四肢が操れなくなる。
 それが今起こっていた。
 それを機にならず者達は一斉に襲い掛かり、シャーリーのその腕を、足を拘束し、
 彼女は彼らの手によって捕縛されてしまった。

シャーリー:「な、何をする、貴様ら! いったい何の目的があってわたしをっ!」

 捕縛されて尚、叫び暴れるシャーリー。

シャーリー:「貴様ら・・・むがっ(殺すなら殺せ!)」

 他の冒険者達を呼び寄せる事を恐れたならず者達はシャーリーに猿轡をかませる。
 そして、シャーリーはならず者達によって監禁玄室に連れ去られてしまった。






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 三十人近いならず者達が一人の少女を連れ去っていくのを見ている者がいる。
 アーリアである。  五月蝿い足音や女性の悲鳴が聞こえてきた方に向かったら、
 ちょうどシャーリーが連れ去られていく現場に遭遇したのだ。
 ならず者達はアーリアには気がついていないようだった。

アーリア :「あれは、シャーリーとか言ってったっけ?捕まっちゃったんだ。
       それなりの腕を持っていると思ってたけど・・・実力見誤ったかな?」

 特に興味が無い様子でアーリアはそれを見送る。

アーリア :「しっかし、あいつら多いなぁ、どこか秘密の通り道でもあるのかなぁ?」

 とアーリアは壁を念入りに調べ始めた。







【19:00―酒場『ドワーフの酒蔵亭』にて】

黒衣の少女:「……くっそお、あのバカ竜騎士めー。
       ネチネチネチネチしつこいってのっ。おかげで出遅れちゃったじゃないのよ。
       まだ、酒場にいい奴が残ってるといいんだけど――って、げ。もう誰も居ないじゃん!
       くうっ、こうなったら最後の手段よ……!」

 不機嫌そうなその黒衣の少女は、酒場のカウンター席に一人佇んでいる黒衣の青年に目をつけると声をかける。

黒衣の少女:「ねぇ、あんた傭兵でしょ?わたしと一緒に「龍神の迷宮」に行かないかい?」
黒衣の青年:「ん?もしかして俺のことか?」
黒衣の少女:「そう、黒いあんたの事だよ。」

 少女はニコっと笑う。
 ショートの金髪と黒を基調とした服装が非常によく似合う活発そうな少女だ。
 青年は自然と腰に下げた「刀」に目が行く。

黒衣の青年:「カタナか。よく切れそうだな。(東方言語)」
黒衣の少女:「え?何?カタナがどうしたって?」

 どうやら少女は別に東方の言葉が話せると言うわけでは無さそうだ。

黒衣の青年:「いや、こっちの話だ。それと残念だが俺は傭兵じゃないんだ。」
黒衣の少女:「違うっていうのかい?じゃあ、あんたの持ってるそれは何なんだい?」

 少女は青年が大事そうにしてずっと手を離さない護符の巻かれた剣を見る。

黒衣の青年:「護身用の剣さ。これを持ってないと危険でね。」
黒衣の少女:「そうかい。てっきり傭兵だと思ってのにな――」
黒衣の青年:「メンバーが集まらないのか?」
黒衣の少女:「そうなんだよ。でもさ、もう皆組んじゃっててさ――めぼしいのが居ないからさ。」
黒衣の青年:「そんじゃ、あそこのテーブルに座ってる三人なんかどうだ?」

 見ると、酒を煽りながらカードゲームをしている三人組がいる。
 三人ともこの青年よりも年は十歳ほどいってはいるようだが、その筋肉のつき具合などが段違いであり、
 如何にも屈強という言葉が似合いそうな男達であった。

黒衣の少女:「ん?あいつらは?」
黒衣の青年:「盗み聞きする気は無かったんだが、前の仕事がどうとか話していたからな。
        内容からまず傭兵をやっているのには違いないだろう。」
黒衣の少女:「んじゃ、あいつらに聞いてみるか。」
黒衣の青年:「ガンバレよ〜〜」

 少女はそんな声援を送る青年に手を振ると、彼の言っていた男達のテーブルに足を運ぶ。
 そして酒テーブルを囲んでカードゲームに興じている男の傭兵達に声をかけた。

黒衣の少女:「ねぇ。あんた達暇してる?暇してるならさ、
          わたしと一緒に「龍神の迷宮」に行かないか?」

 小柄な黒衣の少女が如何にも傭兵な男達の声をかける。

ロウ傭兵1:「お嬢さん、冗談だろう?あそこは危険だって「おふれ」出てるの知ってるだろう?」
ロウ傭兵2:「ん?どうかしなすって?兄貴。」
ロウ傭兵1:「このお嬢さんが、あの「龍神の迷宮」に挑みたいんだとよ。」
ロウ傭兵2:「勇気あるねぇ。お嬢さん。」
ロウ傭兵3:「報償が目当てなんだろうけど、やめたほうがいい。
        あの迷宮に入っていって行方不明になった女冒険者はたくさんいる。
        それがあの悪名高いハイウェイマンズギルドと関係があるっていう話だしな。」

 小さな窃盗から麻薬、強盗、暗殺などを生業とする闇に暗躍する犯罪ギルド。
 クルルミク王国内のみならず、国外にも知れ渡っている。
 最近は人身売買も手をつけ始めたと言われている。

黒衣の少女:「よく知っているよ。だからこそ行くんじゃないか。
       ああいう奴等、許しておけないんだよね。わたしは。」

 それ以外にも理由はある。
 だが、それは彼らには関係無い事なため少女はそれについては触れなかった。

ロウ傭兵1:「ふむ。それには同意見だ。だがね。言葉にしても出来る事と出来ない事がある。」
黒衣の少女:「わたしはこの剣を・・・わたしの力を信じている。だから挑もうと思っている。」
ロウ傭兵1:「決死の覚悟、というわけかい。」
黒衣の少女:「死ぬ気なんて更々無いけどね。」

 とニコっと少女は笑う。
 その笑顔には自分の腕に対する確かな自信が見て取れた。

ロウ傭兵1:「よかろう。あんたの依頼引き受けた。」
ロウ傭兵2:「え?兄貴、いいんですかい?」
ロウ傭兵1:「ギルドの連中には灸を据えないといけないと思っていたところでもあるしな。」
黒衣の少女:「それじゃ決まりだね。わたしはアリシア=ラディリス。あんた達の名前は?」

 その名前を聞いた傭兵達はふと何かを思い出したようだった。

ロウ傭兵3:「アリシア=ラディリス?何処かで聞いた事ある名前だな」
ロウ傭兵2:「アリシア=ラディリスっていやあ、あれだ、黒騎士団の――」
ロウ傭兵1:「……お嬢さんが、"それ"だっていうのか?」
アリス  :「信じられないっていうのかい?何ならその証でも見るかい?」

 アリスはその腰の下げた刀の柄に手をかける。

ロウ傭兵1:「悪かった。別に疑うつもりは無い。
       寧ろ光栄の至り。あのご高名なアリシア様に雇われるとは、ね。」

 傭兵達は顔を見合わせると頷く。

アリス  :「ふふ…そんなに持ち上げたって何も出やしないよ」

ロウ傭兵1:「わたしの名前はクレメンテ。この三人の中では最年長故に一応まとめ役となっている。
       今後ともよろしく頼むよ。」
ロウ傭兵2:「あっしの名前はダンテ。有名人とご一緒なんてなんだか嬉しいねぇ。」
ロウ傭兵3:「俺はフェルナンド。フェルと呼んでくれ。」

アリス  :「わたしの事はアリスでいいよ。皆そう呼んでるから。
      クレメンテにダンテにフェル……ね。よろしくね。」

 アリスと傭兵達は握手を交わした。





 そんなやり取りをボーっと見ている黒衣の青年。
 その青年―セイルの隣に着物を着た女性が座ると、店員に野菜スープを注文する。

セイル  :「おう?戻ってきたのか?」
アーリア :「悪い?」
セイル  :「セレニアは?」
アーリア :「当然、まだ迷宮の中よ。」
セイル  :「そうか。まあ丁度良かったかな。」
アーリア :「何がよ?」
セイル  :「後で俺の部屋によってくれ。」
アーリア :「ここじゃ言えない事?」
セイル  :「そうでも無いけどさ。一応伝言という扱いだからさ。」
アーリア :「そう。」

 アーリアの元に注文した野菜スープが来た。

アーリア :「ところで、あの子とかあの子は強そうだね」
セイル  :「誰よ。」

 セイルのところに来る前に早速物色をしていたのかアーリアはそんな事を言い始めた。

アーリア :「あの子。」

 そのスプーンの指した先にはセイルがボーっと事の成り行きを見ていた黒衣の少女。
 アリシア=ラディリスである。

セイル  :「結構有名人だそうだ。ここでは喧嘩ふっかけるなよ。」
アーリア :「しないって。それにもっと強くなってからじゃないと美味しく無いしねぇ」

 とアーリアはスープを啜る。
 どうやら少女のレベルではまだ彼女にとっては面白い相手と言えないらしい。

アーリア :「と、あの子。」

 ともう一人は巨大な鎌を傍に置いて迷宮探索のメンバーと話しこんでいる女性であった。


セイル  :エレシュとか言ったかな?なんだか邪神を信仰いるとかで《死神神官》とか呼ばれてるそうだよ。」
アーリア :「セイルにしては珍しいじゃない、調べてるなんて。」
セイル  :「酒場に来ていた他の客がそう噂していたんだよ。
      彼女が来た途端そんな事を言い出したと思ったら、帰っちゃったけどね。
      よっぽど良くない噂らしいね。係わり合いになりたくないっていうくらいなんだから。」
アーリア :「ふーん」
セイル  :「まあ、お前よりはましだろうけどね。」
アーリア :「わたしが・・・何だって?」
セイル  :「何でもないよ。」
アーリア :「そう?」

セイル  :「ふむ・・・んじゃ先に戻って待ってるよ。」
アーリア :「はいはい。とお勘定置いてってね。」
セイル  :「あいよ。」

 とセイルは自分とアーリアの食事代をアーリアの前に置くと酒場を出るのだった。



【20:00―宿屋『セイルの部屋』にて】

 セイルが部屋に戻ってから三十分ほどでアーリアが扉を叩く。

セイル  :「よお。来たか。」
アーリア :「よお。来たか。じゃないわよ。」

 扉を開けてそう言いながら入ってくるアーリア。

セイル  :「そう言うなって、伝言だ。」
アーリア :「何よ。」
セイル  :「シルフから貰った水晶持ってきてるだろう?」
アーリア :「ああ、あれね。宿屋に置いたままだけど」
セイル  :「持ってけ、だと。」
アーリア :「えー、二個も持っていくの?」
セイル  :「どっちか片方でいいとさ。出来れば俺と交信できる奴。」
アーリア :「一個ならいいかな・・・でも何で?」
セイル  :「ばらばらに動いてるんだからいつでも意思の疎通できるように、って事だろ。」
アーリア :「別にいいんだけどな(勝手な行動もしやすいし)」
セイル  :「まあ、あんまり勝手に行動するな、って事だろ。」
アーリア :「え、わ、分かったわよ。」

 図星をつかれ、珍しく動揺するアーリア。

アーリア :「ところでセイルは何してたの?」
セイル  :「ん?今日か?今日はこっちの貨幣に換金してきたんだよ。」

 と銀貨の山を見せる。

アーリア :「ふむ・・・これで何か買うの?」
セイル  :「何言ってるんだよ。当面の食費、滞在費だ。当たり前だろう?」
アーリア :「あ、そっかぁ。」
セイル  :「全く…勘弁してくれよ――」

 野宿慣れしている所為か、お金を使うことに縁の無いアーリアは、
 そういった宿屋に泊まったらお金を支払う等基本的な観念に欠如している。

セイル  :「ま、それだけだ。通信用の水晶玉、持ち歩けよ。」
アーリア :「分かったわよ。」

 アーリアはセイルの部屋を出て行ってしまった。

セイル  :「武器以外の物のことになると扱いが乱暴になるからな・・・」

 ポリっと頭を掻くと、セイルはベッドに身を放り投げた。





番外【??:00― My Nightmare is .. ―】

 そこは一面の野原だった。
 たんぽぽなどの草花が咲き乱れ、ここちのよいそよ風が吹いている。
 そこに立ち尽くしていた俺は深呼吸をしてその野原に身を放り出す。
 ふわっとした感触が俺を包み、土の臭いが俺の心を癒していく。
 そうしていると、何やらザクザクザクと何かを切っているような音が聞こえてくる。

セイル  :「何だ?」

 俺は寝転がったまま音のする方に顔を向ける。

セイル  :「な、何をしているんだ。アーリア」

 俺にアーリアと呼ばれた少女は口の端に笑みを浮かべ何かを切っては並べ切っては並べ、それを繰り返していた。

アーリア :「並べているんだよ。」
セイル  :「だから、何を――」

 俺がそれを疑問に思うと、今まで見えなかったそれの輪郭が見えてくる。

アーリア :「並べているんだよ。わたしの戦果。」
セイル  :「な――」

 アーリアの手によって並べられていたのは、

 人間の首。

 だらしなく開いた口からは涎と血。
 その目は大きく見開き、
 今にも襲ってきそうだ。
 首から下の胴体は無く、
 地面から生えている生首。

 彼女はそれを並べていたのだ。
 笑いながら。


 それはこの野原一面を埋め尽くし、
 千個、二千個、いや、一万個以上はあろうか。

 それは首の海原。

 赤と土気色のそれは俺を見つめているようにも見える。
 無限の瞳で――


アーリア :「こうやって並べると、壮観だよね。」
セイル  :「あ、ああ」
アーリア :「ぞくぞくしてくるよね。」
セイル  :「ああ、お前とは別の意味でな。」
アーリア :「そうだろうね。」

 アーリアは笑っていた、と思う。
 曖昧なのは、俺の首が手が足が全く動かず、彼女の事をよく見れないからだ。

アーリア :「そうだろうね。だって、セイル・・・死んでいるんだもの。」
セイル  :「え――」

 言われて俺は気付いた。ここは野原じゃなく、花だと思っていたのは草原だと思っていたのは、生首の頭髪。
 首を動かせない俺は何故か自分が血塗れで倒れている事を認識している。

アーリア :「セイルもわたしのコレクションの仲間入り♪」
セイル  :「待て、俺はまだ――」
アーリア :「死んでるんだよ?もう痛くないでしょ?」

 アーリアのその言葉はまるで子供をあやす様で、とても心地よくにも聞こえた。

セイル  :(待て、違う、俺は、俺は、俺は・・まだ・・ボクは・・まだ・・・・・)

 俺は必死にアーリアに生きている事を伝えようとする。
 が、それは声にならず、アーリアはその手に剣を持って徐々に近づいてきた。

アーリア :「えい♪」

 俺の意識は暗転した。
 最後に感じたのは、首に冷やりとした感触。
 衝撃と熱い感触。
 そして、転がったその首で見えたのは
 俺の身体だった物だった――


































セイル  :「うあああああああああああアああああああああああぁぁぁぁあぉぉぉおおおおお!!!!!!!!!」

 俺はそう叫びながら、ガバッとベッドの上で上体を起こしていた。

アーリア :「大丈夫?」

 汗だくで身を起こしている俺に向かって不思議そうにアーリアはこちらを眺めていた。

セイル  :「あ、ああ・・・夢、だったのか・・・」

 呼吸が荒く胸を上下させ、びっしょりと濡れたシーツを見る。

アーリア :「何かあったのかい?」
セイル  :「夢を見た。アーリアに――」

 そこで言葉が切れる。この話を彼女にしていいのだろうか?俺はそう考えていたのだ。
 何かの作業をしていたアーリアは俺の寝ているベッドに来て、俺の額に手を当てる。

アーリア :「こんなにうなされてるんだから、話した方が楽になるかもよ。」
セイル  :「そうかもしれないな。じゃあ――」

 先ほどみた夢の一部始終を話した。
 アーリアが首を並べていた事。そして、俺がアーリアに殺されていた事。

アーリア :「あっはははははっはっ!!!!!」
セイル  :「な、なんだよ。」
アーリア :「いやっ・・・だってさ。あっはははっは。わたしが生首なんて集めてるわけ・・・
       うっふっふ。ないじゃない。」
セイル  :「わ、悪かったな・・・」
アーリア :「ごめん、こんなに笑うつもりじゃあ・・・ぷっ」
セイル  :「笑い過ぎだ・・・」

 と未だ笑っているアーリアの頭を小突く。

アーリア :「でも、わたしの事そういう目で見てたんだ。」
セイル  :「ち、違う。ボクはあの剣が――」

 はっとなって常に手に持っているあの剣が見当たらない事に気が付いた。

アーリア :「どうしたの?」
セイル  :ボクの剣は・・・何処?」

 心無しかアーリアが笑っているように見える。
 ボクはそれを恐れている。
 ボクハソレヲオソレテイル。

アーリア :「首は集めたりはしないよ。でもね。剣で人を斬っている感触。あの感触は忘れないよ。」
セイル  :ボクの剣・・・アーリア?今なんて――」
アーリア :「この手にずっと、ずーっと残ってるんだよ。ずっとね。」

 アーリアのその手にはボクの剣。
 漆黒のあの剣。破壊を呼び、破壊を滅するあの剣。
 そして、それは何時の間にかボクの胸に刺さっている。

 ――刺サッテイタ――

アーリア :「この感触。いい。凄くいいよ。気持ちいいのぉ〜〜。」
セイル  :「ゴホっ」

 吐血しているボク。これも・・・夢だよね?
 ――夢・・・ダヨネ?――












:欄外:

※お詫び
まずお詫びを。
実際のキャラの口調や性格と異なる表記をしているかもしれないので
それについて最初にお詫び申し上げます。


※「ワイズナー」イベント参考
・ハデス・パーティ:シャーリー&ヴァイオラ・パーティと接触。ハデス、Lawパーティを罠に貶める。
・シャーリー・パーティ:リーダーのシャーリー捕縛。参考:Arieさんの日記03/03。
・フォルテ・パーティ:通常の流れ。全部書いていくとこうなっちゃうよ版。
・アリス・パーティ:漢傭兵とのパーティ結成。


※"龍の黄昏亭"
主人はどこか憎めない語尾が「アル」のちょっと小太りのおっさん。
路地裏の隠れた名店。固定ファンも多く、意外に賑わっている。
東方系料理何でもござれなのか牛丼もどきまで作っている。
無論、この世界のこの時代にそんな料理があったのかと問われると甚だ疑問である。

この店のお薦め料理はその名も「ドラゴンステーキ」。
ワイズマンと戦争の所為で現在仕入れていない。
ドラゴンと言ってもあのドラゴンでは無く巨大なトカゲの事。
個体数は少ないため高価。本物のドラゴンの肉よりは安いが。
味は鳥肉に似ているとか。身は固めなため叩いてから焼く。
独特の臭味があるが香辛料を使い消してある。特性の秘伝ソースが絶品。

※叫び
毎度シャウトする予定。嘘。
でも、ネタが無いですよ

※アイテム
・銀貨・セイルらの故郷「皇国」銀貨。
現在我々の使っている貨幣のような型に流しこんで作られておらず、
重さを計った銀に皇国の刻印が押されたシンプルな貨幣。
純度はかなりの物らしく、ほぼ純銀なので貨幣にしては柔らかい。
金貨に至っては噛むときっちり歯型がついてしまいます。
・ハデスの特殊な塗料
ついやってしまった。ノータッ○。
そこ!物投げないで!
このCM知っている&覚えている人は何人いるのだろうか?
「水をかけなくても真っ黒だ」は子供心に綺麗になったのか汚くなったのかを考えさせられた表現
Moriguma様には「ごめんなさい。」
何で勝手に消えるのかは不明。でも消えてくれないと落書きだらけになる罠。
・・・もしやならず者が消しながら・・・ならず者の癖に潔癖症だなぁ(ぉ

※アーリア
やっぱり暴走している気味あり。
剣以外の事になると途端に頼りなくなるのが通例。
ハデス達の行動に「それもありか」と頷く。本当にニュートラルなのか?

※フォルテパーティ
フォルテの討伐数が多い理由はこれでしょうってな感じで。
魔法使い系はやっぱりこういうイメージがあります。
・賢者=WIZのビショップ
と想定して一応攻撃魔法及び回復魔法を使える、と思っています。
・武器を並べるフォルテ
なんとなくやりそうなので――
・コトネのガントレット2
勝手にリボ○ディング・ステーク付きにしてます。
トリガーを使わずに接触と同時に打ち出すバージョンもあるが、
暴発するため危険だったりも。色々実験中。
他に鎧をも砕くとなると、魔法武器関連しか思いつかないのだよ。
ガントレット1はコイン11様のSS参照。
・ワームバインド
土塊から触手を創り出し、相手を絡めて拘束する。
サプソー2より(変な略だ)
・ファイアーボール
炎系基本魔法にして高威力の魔法。
同じくサプソー2より引用。
それと炎系魔法は迷宮内では使っちゃあいけないよ(何
あえて使わせてますが( ̄ー ̄)

※ハデスパーティ
今回のスポットライトはここその1。ロウPTを罠に嵌めていく姉御。
ロウパーティとの遭遇で寧ろカオスパーティの方がフレンドリーな事が多いと思われます。
この場合、"潔癖な"シャーリーはハデス達の格好などを見て、
彼女達の価値を判断しつっけんどんな態度になったりするわけです。
なので、ハデスのパーティだけを責める事はできなかったりも

※シャーリーパーティ
今回のスポットライトはここその2。
プロフィール見ると、リーダーのシャーリーが一番幼く、一番ちびっこ(ちびっこ言うな〜〜
イメージ的にクレアがシャーリーを子供を扱うようにして、煙たがるシャーリー。
アリエはそれを暖かい目で見守っている。
・アリエさんの日記では玄室となっています。ですが退却もしやすい回廊であると、表記します。

※プレイヤーの不確定名表記
今回も適当すぎ♪

※セイルの生息地
やたらと酒場にいるのは気のせいか?否、気のせいではない。
アーリアとの合流場所の一つなため、比較的出没しやすい。

※アリスの傭兵
傭兵1:一人称"わたし"、一番礼儀正しい。2,3からは兄貴と呼ばれ慕われている。
    03/06志し半ばでアリスを庇って絶命する。元名門の没落騎士で男の子の子供もいる。
    本名「アンドレア・クレメンテ・ファルネーゼ元子爵」 Viscount.Farnese.
    Andrea Clemente Farnese.
傭兵2:一人称"あっし(あたし)" 男としてどうあるべきか、を常日頃考えて生きている。
    1を兄貴と呼んで慕っている。本名「ダンテ・ベルッティ」通称ダンテ
傭兵3:一人称"俺"、あまり特徴が無い顔立ちらしい。1を兄貴と呼んで慕っている。
    本名「フェルナンド・コンコーネ」通称フェル
暫定的につけた名前なので、好きな名前に変換してご利用ください。
一応、イタリア系(ファミリーを大事にするアレ)の名前から拝借しております。
皆さんの中では東方系、特に漢を意識した名前の方がしっくりくるのでしょうが、
クルルミク自体が東方より比較的遠いため、イタリア系に、といったところか。

※【夢】
果たして冒頭のあれはこれなのか?さてはて?
理不尽な夢。いきなり展開する夢。ループする夢。
第三者の視点にも関わらず違和感を感じていない自分。
忘れていた悪夢・・・
・夢の中のアーリア
似たような状態になる事も(何


【登場人物】
SSキャラクター
・フィス卿 ― Sir. ***Phis
不確定名 :うほっ、いい男(ぉ
経験レベル:Unknown(Very High)
名声レベル:Unknown(Very High)
才能レベル:Unknown(?)
性格   :Law
性別   :Male
職業   :亡国の聖騎士(パラディン)
職業(ワイズナー):神官戦士
呼称   :聖騎士
所持武器 :両手剣(片手剣のように扱うが)、笛
得意技  :渾身の一撃
備考   :亡国の紋章の入った両手剣(儀礼用装飾剣)を所持。
その亡国の王は彼の友人であり元同僚でもあった。
既に500年以上生きていると言われるが外見は三十歳前後に見える筋肉隆々の騎士。
フィスを偽名として行動(暗躍)している物の、思いっきり回りにばれているという脳筋男。
色々暗躍しているために頭は悪くないはずなのだが、糞騎士、馬鹿騎士とか言われたりも。
ちなみに「何体目」とかそういうのでは無く紛れも無い「一体目」。
その外見通り、男臭い料理が得意。

・ゲッシュ神官長 ― Gesh Shinto Priestmaster
不確定名 :うほっ、(略
経験レベル:Unknown(Very High)
名声レベル:Unknown(Very High)
才能レベル:Unknown(High)
性格   :Law
性別   :Male
職業   :聖王国神官長「炎」の位
職業(ワイズナー):魔法戦士、かな?
呼称   :炎の神官長
所持武器 :炎系魔法道具及び武装「火炎鞭、守りの剣」
得意技  :炎の魔法、禁呪
備考   :カオスと思いきやロウ。
彼なりの正義のために彼なりの守るべきもののために、その力は振るわれる。
フィス卿とは間逆のダークサイドの「騎士」といった感じ。対極。
神官長と言う割に、回復魔法は一切使えないと言う攻撃特化キャラでもある。
※意図はしてないが、メソポタミアではgeshは「人・男根」を現すとか(何

男だらけで申し訳ない。
つーか、ゲッシュ出る予定無いジャン。







文責:織月

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