――二日目:「その名はフリーデリケ」――


【08:00―宿屋『セイルの部屋』にて】

 その日は清々しい朝だった。のはずだった。
声    :
うあああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああ!!!!!!


 そんな叫び声が宿屋中に響き渡った。
 そんな声を上げたのはセイル(偽名)であった。

セイル  :「(偽名)いらないってのに――」

 そんな声を上げたのはセイルであった。

セイル  :「それでいい。」

アーリア :「何今の叫び声は・・・耳にじんじん響いてるじゃない。」
セイル  :「それはこっちに台詞だ。なんでお前がここにいんだよ。」

 別々の部屋をとったはずのアーリアが何故かこのセイルの部屋にいて、
 何故かその手には
が握られていたのだ。

アーリア :「セイルって寝てる時もそれ離さないじゃない。」
セイル  :「当たり前だ。こんな危険なもの放っておけるか。」

 これとはセイルの持つ剣の事。

アーリア :「だからチャンスかなって」
セイル  :「寝込みを襲おうっていう結論かい――」
アーリア :「だって、まともに相手してくれないじゃない。」

 ふとドアの方を見ると隙間が出来ており、何物かの視線がセイルとあってしまう。

セイル  :「おい、そこにいるの、出てこいよ(東方言語)」
アーリア :「ん。誰か居るの?」

 アーリアがすっとドアの前まで行くと、一気にドアを開ける。
 すると、何人か顔を見たことあるような人たちがなだれ込んできた。
 そのうちこの宿屋に泊まっている冒険者と思われる連中はさっと散り、
 鈍そうなこの宿の女性従業員だけが残った。

セイル  :「・・・」
アーリア :「・・・」
従業員  :「えっと。叫び声を聞きまして・・・あの・・・」
アーリア :「だってさ。セイル」
セイル  :「まさか・・・」

 あの時アーリアは寝ているセイルの上に馬乗りをしているように乗っかっていた。
 そう、まるで
「騎乗位でしている」ように。

セイル  :「あ、待て・・・誤解だ。こいつとはなんでも(東方言語)」
従業員  :「あの。この方は何を仰られて・・・」
アーリア :「つまり、邪魔するな、と言ってるんだよ♪」
従業員  :「お楽しみ、でしたか?(と頬を染める。)」
アーリア :「そうだよ。あとちょっとだったんだから――」
従業員  :「それは失礼を・・・あの。シーツはそのままで結構ですので・・・」
アーリア :「はい、はい」

 アーリアは実に嬉しそうである。

セイル  :「おい、あいつに何て言ったんだよ・・・一体俺に何の恨みが・・・」
アーリア :「無いよ。」

 あっけらかんと答えるアーリア。

セイル  :「・・・・・・・・・・・・」

 なんと言っていいのか分からなくなったセイルに、アーリアはこんな事を言い出した。

アーリア :「わたしさ、セレニアの後つけてあの迷宮に入ってみようって思うんだ。」
セイル  :「何のために、だよ。」
アーリア :「何かの拍子で記憶が戻るかもしれないでしょ?
      そうなった時に仮に彼女の身に起きた時救い出す者がいなかったら意味無いでしょ?」
セイル  :「いつものアーリアじゃないな。何でそこまで執着する?セレニアに」

 いつもなら「それでやられるようじゃわたしは興味無いわ」とでも言っているところだ。

アーリア :「知ってる?神速の使い手って少ないって」
セイル  :「お前以外に使ってる奴なんて見たこと無いが、それがどうかしたのか?」
アーリア :「セレニアも使い手なんだ。その数少ない、ね。」
セイル  :「正しくは使い手だった、だろ?」
アーリア :「細かい事は気にしないで」
セイル  :「あのおっさんとか使えるだろ?フィスの旦那とか――」
アーリア :「あの筋肉鍛える事にしか頭に無さそうな馬鹿騎士には無理だって。わたしやセレニアみたいな細身じゃないとね」
セイル  :「そういうもんなのか?」
アーリア :「細かい事説明すると長くなるから省くけど、あんなに大きいのが早く動いてもただの的じゃない」
セイル  :「確かに、な」

 そこで何故かフンドシ一丁でポーズをつけるフィスの姿を思い出してしまったセイル。
 みるみる顔から血の気が引いてくる。

セイル  :「破壊力はあるがな――」
アーリア :「何が?」
セイル  :「こっちの話だ・・・つまりは、セレニアが神速の使い手だから、記憶を戻した暁には戻るよう(強制的に)にさせる、と」
アーリア :「そういう事」
セイル  :「ふむ・・・まあいいんじゃねぇか?俺はとりあえずクルルミクに関して調べなきゃいけないからな」
アーリア :「やったーー!!」
セイル  :(ここまで喜ぶとは何かあるな?)

 とセイルは思ったものの深く聞いても無駄なのを知っていたためそれ以上は突っ込まなかった。
 そこでセイルはふと皇国の宮廷魔術師から貰ってきたアイテムを思い出した。

セイル  :「(荷物の中から取り出し)これ、セレニアに渡しとけ。」
アーリア :「何これ・・・イヤリング?」

 セイルから渡されたのは小さなイヤリング1セットであった。
 飾りっ気の無いシルバーで十字の形状が特徴なイヤリングだ。

アーリア :「何で?」
セイル  :「お前はこれを持ってろ。今の話通りなら今日からお前も潜るんだろ?」
アーリア :「その予定だけど・・・これはコンパス?」
セイル  :「イヤリングとセットで使う相手の位置が分かる装置だそうな」

 アーリアがイヤリングを右手にコンパスを左手に持ち適当な位置にイヤリングを持っていくと
 コンパスの針がイヤリングを指していることを確認する。

アーリア :「これを渡しておけば、方向は間違わないって事か」
セイル  :「ああ。勿論細かい道などの指定は出来ないが、無いよりはマシってもんだろう?」
アーリア :「無いより、わね。」
セイル  :「ああ、無いよりは、だ。」

 実に頼りないが、実際にそれほど期待出来ないのは明白な事だった。

アーリア :「とりあえずはご飯ね・・・おなかが減っては戦は出来ぬ、からね」
セイル  :「お前が言うと、かなり怖いのは気のせいか?」
アーリア :「気のせい気のせい。」
セイル  :「んじゃ、ちょっと外で待ってろ。着替えるからな。」

 そう言われてアーリアはセイルの部屋の外に追い出されてしまった。



【09:00―酒場『ドワーフの酒蔵亭』にて】

 アーリアはあっという間に出された食事を片付けた。

アーリア :「んじゃ、行ってくるね〜〜ここにお金、置いてくよ〜〜」
セイル  :「おう。やけに張り切ってるな・・・」

 ミートソースをたっぷりかけたパスタをぐるぐる巻きにしながらセイルはアーリアが出て行くのを見送る。
 ふと見ると、にやにやしながらドワーフハーフの店主がこちらを見ていることに気付いた。

セイル  :「何だよ、おっさん(東方言語)」
ぺズ   :「ほう。あんた、東方の言葉、使うのか(東方言語)」
セイル  :「ん、うぉ。あんた、俺の言葉分かるのか!!(東方言語)」
ペズ   :「おう。こういう商売長いことやってると色んな言葉を覚える事を要求される。(東方言語:以下略)」
セイル  :「道理だな。話せる相手がいるのは少しは安心出来るな。(東方言語:以下略)」
ペズ   :「おふれ」で集まってきた冒険者の中にはあんたと同じ言葉話すのもいる。今度声かけてみたらどうだ?」
セイル  :「時間があったらな――ところでさっきは何で俺達の事を見ていたんだ?」
ペズ   :「今朝の宿屋での話だ。」
セイル  :「まさかもう――」
ペズ   :「彼女達―冒険者の耳に入ったら、あっという間に広がるぜ。」
セイル  :「やっぱりそうなのか・・・」

 思わず頭を抱えるセイル。
 そんな様子を楽しそうに見守る店主。

ペズ   :「夜這いとはやるね〜〜あのお嬢ちゃんも」
セイル  :「一つ断っておくが、あいつとは何も無かったし、恋人でも友人でも無い。」
ぺズ   :「照れ隠し・・・ってわけでも無さそうだな。」

 セイルから只ならぬ殺気を感じ、ペズはこれ以上冷やかすのを止める事をした。

セイル  :「ところで、ここはパスタしか無いのか?(とパスタをフォークに巻きつける。)」
ペズ   :「あるにはあるがここは酒場だからね。酒に合うものや簡単に出来て量のあるものしか出さんよ。
      他の物が欲しければ食堂にでも行ってみる事だな。
      「おふれ」で召集された冒険者達にはここと同じで無料解放・・・ってお前さんには関係無いか」
セイル  :「食堂ね・・・まあいいか。」
ペズ   :「たまに冒険者の中に腕利きが居て料理を振舞う事もあるがね。」
セイル  :「飲食持込可、なのか?」
ペズ   :「色々やる常連がいるのもあって冒険者専用の厨房もある。
      それに、酒のつまみの持ち込みを拒否するのはどうかと思うがね?」
セイル  :「そういうもんなのか?」

 フォークに大きく絡みとったパスタの塊をセイルは大きな口で頬張る。
 食事を取る、という事で半ば強引にアーリアに引き摺られてきたのが何故かこの酒場であった。

ペズ   :「ところで両替はしたのかい?と、言われるまでも無くしているようだな」

 アーリアが置いていった銀貨はクルルミクで流通している龍の姿が刻まれている貨幣であったからだ。

セイル  :「ああ、アーリアがしてきたようだが、何か?」
ペズ   :「ふむ。昨日見たところ(と昨日アーリアが置いていった銀貨を出し)こいつはかなり純度が高いと見た」
セイル  :「そうだな。確か純度の高い銀を重さだけ計量し刻印を押しているだけっていうやつだったな。」
ペズ   :「なら、街の両替屋に持っていくよりも高値で引き取ってもらえるところがある。」
セイル  :「ほう?耳より情報ってわけかい。」
ペズ   :「ああ、本来なら情報量頂くが、今回は只にまけてやるさ。」
セイル  :「そいつはありがたいが――」
ペズ   :「気にするな。昨日のこれで稼がせてもらったからな。」

 そう言って、ピンとアーリアの渡した銀貨を叩く。

セイル  :「なるほど、ね。それで、どうすればいい?」
ペズ   :「この国は今戦争をしている。それは知っているな?」
セイル  :「ああ、昨日の段階でそういった事情はわかっている」
ペズ   :「それで武器や防具に消費し金属や貴金属が慢性的に足りなくなっている。」

 そういった事情もあってこの近辺で"ならず者"を束ねているハイウェイマンズギルドの連中が、
 奪った防具などと横流ししているという噂もある。

セイル  :「そうだろうな。」
ペズ   :「そこで、だ。価値の上がった貴金属類を高値で引き取ってくれるところがある。」
セイル  :「まさか・・・ハイウェイ――」
ペズ   :「違う。確かに連中も集めてはいるが、彼らとの取り引きは危険すぎる。」

 ペズはギルドの話題を避けるためにセイルの言葉を遮った。

セイル  :「ならどこで?」
ペズ   :「もっと王国に役立つところだよ。それは――」
セイル  :「それは?」
ペズ   :「クルルミク魔法学院や錬金術ギルドだよ。」
セイル  :「そんなところが金属や貴金属を集めているのか?」
ペズ   :「魔法や錬金術を行う際に触媒や媒体として使うらしいんだが・・・俺も詳しい事は知らない。」
セイル  :「ふむ。」
ペズ   :「大体、街の両替屋の相場の1.5倍のレートで取り引きされる。」
セイル  :「ほう。耳よりな情報あんがとよ」
ペズ   :「ギブアンドテイク、当然のことよ。」
セイル  :「ふむ。当然の事、か。俺の言葉を理解出来るあんたに聞きたいが」
ペズ   :「なんだい?」
セイル  :「この国について調べなくちゃならないんだが、そういった物をはどうすればいいと思う?」
ペズ   :「調べるって何をだ?」
セイル  :「色々さ。まずは今話題になってる迷宮の魔術師ワイズマンについてだが、
       あの雄性種を死滅させるという魔法についても、だ。」
ペズ   :「ふむ」
セイル  :「本当は俺だけが派遣されるはずだったんだからな。まさか雄性種が死滅する、
       なんて魔法があるとは思いもし無かったよ。」
ペズ   :「それについては同意だ。理屈が分からねぇのはどうにも、な。」
セイル  :「そして、この国で暗躍しているギルドの事も、かな?」
ペズ   :「ふむ。最初に事については王立図書館かクルルミク魔法学院だろう。」
セイル  :「ふむ。王立図書館とクルルミク魔法学院か――」
ペズ   :「ギルドについては、今後嫌でも耳に入ってくるだろうさ。」
セイル  :「嫌でも、か・・・」
ペズ   :「特にあのお嬢ちゃんには気をつけるようにいっておくといい。」
セイル  :「なんでだ?」
ペズ   :「ほれ、そこの張り紙・・・」

 ペズの視線の先を見ると、そこにあったのは所謂「お尋ね者」の張り紙がしてある。

セイル  :「なるほどね・・・」

 ようやくアーリアが突然迷宮に行くと行った本当の理由に気が付いた。

セイル  :「あれとやりに行ったのか・・・」

 アーリアに呆れると同時に、彼らのお陰で自分の寿命が延びたと思うと
 感謝の気持ちでいっぱいになったのは気のせいだろうか?



【09:30―『龍神の迷宮』前】

 迷宮の前では女冒険者達で賑わっていた。
 クルルミクの王国衛兵が迷宮入り口で許可を得た者のみ通すために
 名簿と照らしあって確認作業を行っていた。

フォルテ :「これって何の意味が・・・」
セレニウス:「多分、一般市民が間違って入らないように、だとは思いますが――にしてもひ弱いような・・・」

 彼女に「ひ弱い」と言われたその衛兵は見るからにひ弱そうな見習戦士といった感じであった。
 彼らが幾ら戦争中とは言え城下町を守る衛兵の一人だというのだから非常に心許ない。

セルビナ :「どうだかね・・・」
身なりのいい男:「元々王族が儀式に使う神聖な場所なんでね。規則なんですよ。」

 と突然彼女達の後ろから身なりのいい男が話し掛けてきた。

フォルテ :「あなたは?」
身なりのいい男:「王国国民として、我らを守ってくれる女神達を見に来たのさ。」
フォルテ :「女神・・・たち?(思わず目を点になってしまう。)」
セルビナ :「神聖な場所にしては、やたらと不健全な連中が巣食っているようだが?」
身なりのいい男:「我々としても耳が痛い話だよ。早く退治される事を祈っているよ。」
セレニウス:「・・・(無言でフォルテ達と男の間に入るとキッと男を睨みつける)」
身なりのいい男:「な、何だね?」
セレニウス:「失せろ。下郎。」
フォルテ :「せ、セレニウス、さん?」

 セレニウスの突然の変貌にフォルテは戸惑う。
 男もまた困惑した表情で後ろに下がる。

身なりのいい男:「わたしが何を――」
セレニウス:「貴様からはよくない気を感じる。」
身なりのいい男:「わ、分かった。だからそんなに怖い顔するなよ。綺麗な顔が台無し――」
セレニウス:「失せろと言っている。」

 セレニウスは持っていた槍で地面を小突いた。

身なりのいい男:「せ、せいぜい頑張りたまえ。」

 男はそう言ってそそくさと町の方に帰っていく。

セルビナ :「ふうん、あんたも気付いてたんだ。あいつの目。」

 傭兵経験の長いセルビナは、彼があそこで何をしていたのか察知がついていた。
 一般市民がギルドの人間に恐れ近づかないこの場所に来るはずも無い。
 来るのであれば、自身の安全が保証されている人間。
 つまり、ギルドを裏で支援している関係者か、もしくは、ギルドの人間そのものだと。

セレニウス:「私達を物色しているような下衆の目でした。ああいう目を見たことがありますから。」
コトネ  :「そうなんですか?」
セルビナ :「あんまりいい目じゃないねぇ・・・」
コトネ  :「ふーん。よく分かんない。そんな事よりもさ、早く色んなお宝見たいな〜〜」
セルビナ :「そいつは同感だ。(とコトネの肩をポンと叩いた)」
セレニウス:「いい装備があったほうがいいのは同感ですね。」

 セレニウスは時々痺れた感じがして動かなくなる右手に気をかけつつ同意をする。

セルビナ :「まあ、あいつと一緒に行くわけでもないし――それよりも、だ。セレニウス。あんた大丈夫か?」
セレニウス:「何がです?」
セルビナ :「時々何かを堪えてるように見えるが。」
セレニウス:「(なかなか勘がいいですね)大丈夫です。古傷が疼くだけですから。」
セルビナ :「ならいいがな。隠し事はよせよ。チームなんだからな。」

セレニウス:「分かっています。隠し事や裏切りは――」

 突然ふらっとして倒れそうになるセレニウス。
 槍にしがみ付いてなかったらそのまま転倒していた事だろう。

フォルテ :「大丈夫ですか?(心配そうに顔を覗き込む)」
セレニウス:「だ、大丈夫です・・・」

 セレニウスは何か嫌な光景が脳裏に過ったような気がした。だが、思い出せない。
 すっきりしないセレニウスは頭を振ってみる。

アーリア :
「見ーーーーつけたっ!」

 その声に突然身構えるセレニウスとセルビナ。
 コトネはその突然の来訪者に目を輝かせる。

セルビナ :「昨日の女か――」
セレニウス:「何しにきたのです・・・」
アーリア :「昨日のお詫びに来ました(棒読み)」

 アーリアが声のトーンを落とし、そう言って頭を下げると、
 セイルから渡された十字のイヤリングをセレニウスに差し出した。

アーリア :「昨日は・・・突然酷い事をしてしまってすみませんでした(棒読み)」
セレニウス:「いえ。分かってもらえれば――」
アーリア :「これはせめてものお詫びのしるしです。受け取ってください(棒読み)」
セレニウス:「しかし、これは――」
コトネ  :「あーーいいな、わたしも欲しいなーー」
フォルテ :「セレニウスさん。受け取ってあげましょう。」
セレニウス:「しかし」
フォルテ :「拒否する事は彼女の気持ちを無下にする事と同じではありませんか?」
セレニウス:「分かりました。有り難く頂いておきます。」

 セレニウスはアーリアからそのイヤリングを受け取ると、とりあえず小物入れに入れておく。
 アーリアはそれを確認すると会釈をして冒険者達の人ごみの中に消えていった。

コトネ  :「いいなぁ、わたしもーー」
フォルテ :「そんなにいいものなのです?」
コトネ  :「見たところレアメタルで出来てると思う。」
フォルテ :「レアメタル、ですか?」
コトネ  :「調べてみない事には詳しくは分からないけど・・・多分そう」
セレニウス:「そんな物を・・・」

 前のパーティの確認が終わって次はフォルテのパーティの番になった。

セルビナ :「うちらの番みたいだよ。フォルテ。」
フォルテ :「あ、はい。」
衛兵   :「名前と登録番号をどうぞ。」

 衛兵は事務的に抑揚も無い気だるそうな声でそう彼女らに聞いた。

フォルテ :「フォルテです。登録番号は22です。」
セレニウス:「セレニウス。登録番号23。」
セルビナ :「セルビナだ。登録番号は24だ。」
コトネ  :「(シュタっと手を上げながら)コトネでっす。登録番号は26でっす。」

 衛兵は名簿にメモをしながら、

衛兵   :「以上四名で・・・リーダーは誰だ?」
フォルテ :「わたくしです。フォルテです。」
衛兵   :「フォルテっと・・・行っていいぞ。次どうぞ〜〜」

 衛兵が迷宮に入るように促す。
 フォルテ達はそれに従い、迷宮へと入っていった。







【10:00―『龍神の迷宮』】

 迷宮の入り口付近で、フォルテパーティの一行はフラフラと歩いてくる人影を発見した。

???  :「うう、あのぉ……
     ……すみません、出口は…
     ……出口はどこでしょうかあ………(TдT)」

 弱々しい足取りで蚊の飛ぶような細い声でその人影―少女は一行の元に救いを求めてきた。

セルビナ :「大丈夫かい?入り口なら――出口ならすぐそこだよ。」
コトネ  :「だよ。」

 一行は、すぐ真後ろを示して、そこが出口だと教えてやった。

???  :「ええっ、本当ですかあっ?!
     あぅぅ〜ありがとうございます〜!!
     私ホントに駆け出しの新人のドシロウトで、
     でもどうしても冒険者になりたくってなけなしの貯金叩いて装備を用意して、
     討伐隊に志願登録してたまたま運良くベテランの方たちと組めたと思ったら、
     なんか1Fには出ないハズらしい凄く強いモンスターが出てきてみんな私以外皆マヒしちゃって、
     そしたらならず者の人たちが皆攫っていっちゃって私一人取り残されてでも全然出口見つからなくって」

フォルテ :「まあ。それはそれは…では一緒に帰りましょうか?」
セレニウス:「フォルテがそう望むのなら、わたしは従います。」
セルビナ :「そうだな、心残りがあって動きが取れないなんて事は嫌だしね。(しかし、よく喋るな・・・)」
コトネ  :「わたしも構わないよ。」

 泣き腫らした顔で喋りまくる少女の様子に一人で帰らせるには一抹の不安を抱えた一行は、
 町まで一緒に連れ帰ってやる事にした・・・

???  :「ふあうぅ〜!!
     ありがとうございますありがとうございますありがとうございます〜!!
     私もうホント不安で心細くってどうしたら良いか全然判らなくって
     あぅぅ、人の情けが身に染みますぅ〜!!」
セルビナ :「感激し過ぎだって・・・(やや呆れ顔)」

 フォルテパーティの一行は迷宮の外に出ていってしまった。








アーリア :「ありゃ折角入ったのに…もう出て行っちゃったか…もうちょっと探索してから帰るか」

 アーリアは『龍神の迷宮』を探索する事にした。
 そうして、迷宮を歩いていてふと気になった事があった。

アーリア :「セレニアが入る前に入ったパーティは何で彼女に遭遇しなかったのかな?」

 その疑問を打ち消すように突然迷宮の奥の方で笑い声と悲鳴、
 そして迷宮自体を揺るがすような振動を感じた。

アーリア :「あっちの方で何かあったのかな?行ってみるかなぁ」

 途中、アーリアはモンスターや街で噂になっている『ハイウェインマンズギルド』の連中と遭遇するも、
 神速であっという間に抜けると、笑い声と悲鳴、そして血の臭いの入り混じった空間に出る。
 思わすそのままその部屋に入りそうになったのが、その異質な澱んだ空気を感じ足を止める。

アーリア :「ここは・・・拷問・・・監禁部屋?」

 部屋には女性を性的に責める様々の拷問―調教道具、薬瓶などが転がっている。
 その中には原型を留めていない死体も転がっていた。
 その広い玄室を見ると、一つのパーティが果敢にもちょうど特攻しているところであった。
 そして、その異常とも言える光景に暫しアーリアの目が釘付けになっていた。

声    :
「うふふふふフふふフフふダメヨダメヨ、にげにげ逃げるなんてぇえ!!」

 厳つい重鎧を来た巨大な女性―耳の尖っている特徴からかエルフ族だという事が辛うじて分かる―が
 棘のついた巨大な棍棒を振り回し、盾を振り回し、同時に2,3人ずつ屠っているのが見えた。
 それだけでも異常なのだが、その巨大エルフは、

巨大な影 :
「あははははっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははハははははははははははッーーーーーー!!!!!!!!!!」

 と笑いながらギルドの"ならず者"達を屠っていたのだ。
 彼女が射ち漏らした"ならず者"達を彼女のパーティメンバーが残らずトドメを刺していた。

巨大な影  :「大丈夫ですか!? 落ち着いてください、正義で味方なんです!!」
剣を持った僧侶:「だ、大丈夫ですか?」
黒髪の女性 :「大丈夫ですか、すぐに助け出しますからね!」
小柄な女性 :「やー、大変だったねー? クスクス (正義の味方じゃないんだ?)」

 "ならず者"達殲滅し、興奮の収まったフリーデリケ(巨大な影)達―興奮しているのは
 フリーデリケだけだったか―は監禁されていた女性達の拘束を解くと、
 そのほぼ裸体同様の服の上から薄布だが半身を隠せるマントような物を被るように促した。

ロングヘアの女性 :「あ……はぁ……助かった……の?」
ショートヘアの女性:「ん……すまない、その…不覚だった」
セミロングの女性 :「アハ…はァ、やっぱり信ずるべきは神サマじゃなくて…人間よね」

 マントを渡され立ち上がろうとする三人の女性。
 だが、その足取りはふらついていて、再びその場に座り込んでしまった。
 フリーデリケは屈んで三人の女性の一人を抱え上げようとして自らの鎧を見て躊躇する。
 確実に攻撃を通さない鉄壁の防御を約束してくれるそれが
 裸体同然の彼女達にとってはその柔肌を傷つける凶器でしかないからだ。

フリーデリケ:「心配だから彼女達を連れて、一旦外にデマショウ。異論はあるカナ?」

黒髪の女性 :「異論は無いです。バアさん。」
小柄な女性 :「賛成♪(本当は早く進みたいんだけどな) 」
剣を持った僧侶:(コクっと頷く。)

フリーデリケ:「それでは、わたしの鎧ジャ彼女達に傷をつけチャウチャウので
        ラフィニアちゃん、キャティちゃん、セリカちゃん。お願いデス。」
ラフィニア :「はい。任せてください。えっと―」

 ラフィニアと呼ばれた黒髪の女性は、ショートヘアの女性に肩を貸す。

サフィアナ :「サフィアナ。」
ラフィニア :「ではサフィアナさん。行きましょうか。しっかり掴まっててくださいね」

 僧侶のセリカはセミロングの女性に手を差し出した。

セリカ   :「どうぞ。わたしの肩に――」
セミロングの女性:「ありがとう。もうダメかと…」
セリカ   :「名前を教えてくれませんか?わたしはセリカと言います。」
セミロングの女性:「アクアマリナ…です。」
セリカ   :「そう。いい名前ですね。」

 セリカは微笑んだ。
 その笑顔を見てようやく緊張が取れたのかその目から大粒の涙が出るアクアマリナ。

アクアマリナ:「あれ…涙なんて枯れたと思ってたのに……あれれ…」
セリカ   :「帰りましょう、ね。」

 小柄の女性―キャティと呼ばれた―は二人がそれぞれ起こすのを見て、
 残ったロングヘアの女性に手を差し出す。

キャティ  :「立てる?」
ロングヘアの女性:「た、立てます!」
キャティ  :「じゃ、肩貸さなくていいの?」
ロングヘアの女性:「出来れば…お願い…」

 気丈に振舞うものふらふらで足腰の立たないその女性。

キャティ  :「えっとぉ。何さんって呼べばいいのかな?」
アメジスタ :「アメジスタ……」
キャティ  :「じゃ、アメジスタさん。行きますよ。」

 あまり腕力の無いキャティはなんとかその身体を支えるものの、
 あっちにふらふら、こっちにふらふらとしてしまう。

フリーデリケ:「キャティちゃん、もうちょっと筋肉つけないとダメダメデスヨ。」

 とキャティとアメジスタを片手で支えるフリーデリケ。

キャティ  :「ば、バアサンが特別なんでしょ!」
フリーデリケ:「それじゃあ、帰りまショウカ。」


 フリーデリケ達一行は救出した女達を連れて一度町に引き返すことにした。







@- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - @

 一部始終を見ていたアーリアはフリーデリケ達が玄室出口に来る前に
 その気配を絶ちその場を去った。

アーリア :「相手が雑魚だからまだよくわかんないけど…
      面白そうじゃない。」

 とアーリアは舌なめずりをするのだった。

アーリア :「あの子の事、バアサンって言ってたかなぁ・・・
      確か、
名前は、フリーデリケ、だったかな?一応覚えとこ♪」

 アーリアは自然と笑みがこぼれてくる。

アーリア :「さぁてと、噂のクノイチは何処かな〜〜♪」

 足取りも軽くアーリアは迷宮の奥に姿を消したのだった。







【11:00―クルルミク城下町の広場にて】

 フォルテたちのパーティは無事にクルルミク城下町まで辿り着いた。

???  :「ああありがとうございましたぁ〜〜!!
     このご恩は一生忘れませぇん!!
     …あの、これ、もし良かったら持っていって下さい。
     1Fで見つけたんですけど、先輩方が多分レアアイテムだろうって言ってましたから、
     きっと価値のある物ですー」

 フォルテは???から「?瓶」を受け取った。

パーラ  :「申し遅れましたけど、私、パーラって言います。
     怖い目にあったけど、やっぱりまだ冒険者になる夢は捨てきれません。
     もし縁がありましたら、またお会いする事もあるかもしれませんが、皆さんもお元気で!
     ご無事をお祈りしています〜!ホントにホントにホントに、ありがとうございましたぁ〜!!」

 パーラは一行にしこたま頭を下げて、町に戻って行った。

セルビナ :「あたしは英気の補充に行ってくるけど、あんた達はどうだい?」

 と言ってセルビナはくいっと酒を煽るジェスチャーをする。

セレニウス:「いいですね。付き合いますよ。」
コトネ  :「わたしも〜〜まだ早いからね。」
フォルテ :「わたしはこれを鑑定してみます。」

 フィルテはその手に持った「?瓶」をメンバーに見せる。

セルビナ :「あ、そういえばそんなのがあったな。」
フォルテ :「はい。何か役に立つアイテムならいいのですが――」
セルビナ :「呪われないように気をつけろよ〜〜」
フォルテ :「大丈夫ですよ。多分。」

 フォルテは軽く会釈をすると宿屋のある方に去ってしまった。

セルビナ :「んじゃ。行くか。」
セレニウス:「はい。」

 コトネ、セレニウス、セルビナの三人は宿屋とは反対方向の酒場へと足を向けた。







【12:00―宿屋『フォルテの部屋』にて】

フォルテ :「さてっと・・・」

 フォルテは持ち物の中から様々な品の事が載っている賢者の必須アイテム
 であるフォルテ直筆手書きの「百科事典」を取り出した。
 万が一のために窓を開けて換気をよくしてから、その瓶の蓋を開けると
、仰ぐようにその臭いを嗅ぐ。
 胡椒の持つ独特の臭いがそこから漂ってきているのが分かる。

フォルテ :「これは・・・」

 百科事典のページをぺらぺらと捲っていくフォルテ。

フォルテ :「これ、かしら?」

――ロウフルスニーズ――

魔法の込められた刺激的な臭いによって、モンスターと遭遇しやすくなる胡椒。
その刺激臭は強いモンスターやあまり見られないモンスターが好む。
魔法の効果がない場合もある。

フォルテ  :「持ってても大丈夫ですよね…」

 強いモンスターが来る可能性があるといってもフォルテ達は
 今のところは情報も少ないためにまだ浅い階層にまでしか探索出来ない。
 そう考えると、強いモンスターにあう可能性があるとしても
 それほど強いものには合わないだろうと納得する事にした。

 
――今にして思えば、
       無理矢理そう思い込もうとしていただけなのかも知れない――








【12:00―酒場『ドワーフの酒蔵亭』にて】

セイル  :「だからさぁ、あいつと一緒に居ると寿命がもうすっごい縮むんだわ…(東方言語)」
ペズ   :「あんたも大変なんだな。(東方言語)」

 いつからその青年―セイルは居たのか既に"出来上がっていた。"
 ペズはというと適当にセイルにあわせて相槌をうっている。

セルビナ :「真昼間から酒飲みとはいいご身分だな・・・」
セレニウス:「・・・あいつは――」
セルビナ :「あの女の連れだったやつだな。あの黒い服は間違えように無い」
セレニウス:「あの女性の事について聞いてみますか・・・」
セルビナ :「分かるのか?あいつの言葉?さっきから聞いてるとこの辺りの言葉じゃないぞ」
セレニウス:「なんか聞いたことある言葉なんだ。」

 セレニウスはセイルの後ろに立つ。

セレニウス:「隣、いいですか?(東方言語:以下略)」
セイル  :「ん?」

 以前アーリアと一緒に入ってきた男とはまるで別人に思えるほどで
 けだるそうなゆっくりとした動作で男はその赤い顔をセレニウスの方に向けた。

セレニウス:「座りますよ。」
セイル  :「俺の隣なんかでいいのかぁ?セレニアぁ」

 その酔っ払いの隣の椅子に座ると間髪入れず絡んでくる。

セレニウス:「昨日もそんな事を言ってましたね。セレニアっていうのは誰なんです?」
セイル  :「お前のことじゃぁないかぁ。何を言ってるんひゃぁ?」
セレニウス:
「わ、わたしはセレニウスです!」

 ガタンと音を立ててセレニウスは思わず立ち上がっていた。

セイル  :「そうかい?どう見てもセレニアだ。
セレニーア・V・アイヒェンハルトしゃま
セレニウス:「何を根拠に・・・」

 立ち上がったセレニウスは周囲の視線がこちらに向けられている事に気付き、
 咳払いをして静かに椅子に腰をかける。

セイル  :「そのせーかく。生真面目でじょーだんも通じない感じがいかにもねぇ。」
セレニウス:「話になりません!だから人違いだと――」

 興奮して再び席を立つセレニウス。

セイル  :「なら、その傷は何処でしたんだぁああい?」
セレニウス:「知らない!わたしの記憶には無い!」

 セレニウスは両手でバンとテーブルを叩く。
 テーブルは揺れ、料理の載った皿や調味料の入った小瓶などががたがたと揺れる。

セイル  :「しょれがひょーこだよぉお・・・・・・・・・」

 そこでセイルの口から言葉が出なくなる。どうやら潰れてしまったようだ。

セレニウス:「えっ?こんなところで寝ないでください!」

 起こそうとするセレニウスの肩をペズが叩いて、口を塞ぐようなジェスチャーをする。

ペズ   :「俺が面倒見るから、あんたは気にしなくていい。」
セレニウス:「すみません。先ほどから騒がしくしてしまって。」

 ペズはやれやれといった感じで、寝息を立てているセイルに哀し気な視線を落とす。

ペズ   :「あんたがこいつの知り合いによく似ているそうだ。」
セレニウス:「みたいですね。」
ペズ   :「悪気は無いんだろうけどな・・・戦争中だろう?」
セレニウス:「ええ。」
ペズ   :「俺が思うには既にその知り合いとやらは他界してて、
        似ているお前さんにそいつの事だぶらせてるんじゃねーかと」
セレニウス:「そうかもしれませんね。」

 他界という言葉に妙に心に残る。
 ドワーフハーフの店主が言っている事は分かるが、時々今みたいに妙に何かを忘れているような気がしてならない。
 大切な何か。いや、本当に大切であるのならば、忘れるものなのだろうか?

ペズ   :「お、おい?大丈夫かい?ボーっとして―」
セレニウス:「ん。あ、ごめんなさい。少し考え事が――」
ペズ   :「ほれ、こいつを持っていきな。」

 とペズはセレニウスにワインの瓶を渡す。

ペズ   :「酒場にきて小難しい顔をする事もあるまい。そいつを飲んで忘れちまいな。」
セレニウス:「ありがとう、マスター。」

 ラベルを見ると昨日セレニウスが飲んでいたワインであった。
 さすがこの城下町で一番繁盛している酒場であるというわけか、と妙に納得してしまう。
 セレニウスはそれを持ってセルビナ達のテーブルに戻ってきた。

セルビナ :「お、戻ってきたか、それで何か分かったのか?」
セレニウス:「さっぱりですよ。」
コトネ  :「知らないなら、知らない人じゃないの?」
セルビナ :「そうだな。深く考える必要無いって事さ。」
セレニウス:「そう、なのでしょうか?」
セルビナ :「そんな事よりもだ、腹減って死にそうだよ。」
コトネ  :「ウェイターさん。こっちー。(と大きく手を振る。)」
セレニウス:「わたしは何処でこの傷を・・・・・・」

 考えてみてもぽっかりと開いたように思い出せない。
 深く深く考えるほど、何なのか分からなくなる。

ペズ   :「ほら、そこで横になれ・・・全く――」

 そこでペズはセイルがお酒を頼んで無い事も飲んでいたところも見たことも無い事を思い出した。

ペズ   :「はて?いつ飲んだんだ?こいつは?」

 ペスがそんな疑問を持ったところで、客が入ってきた。
 早速お酒を注文してきたので、セイルの事はほったらかしになってしまう。

セイル  :「ふう、脈がまるっきり無いな・・・」

 とセイルは横になったままボソッと呟いたのだった。
 それから一時間ばかしセレニウス達がパーラの事を話している事に寝たふりをしながら聞き耳を立てていた。






 彼女達が酒場を去ったのはそれから更に一時間後であった。








【16:00―クルルミク魔法学院前にて】

 セレニウスが宿屋に到着したのを確認したセイルは
 ペズの情報を元にクルルミク魔法学院の前まで来た。
 が、ここで重要な事を思い出した。

セイル  :「ありゃ・・・そういや言葉通じるかな・・・対策してからにするか」

 セイルは渋々引き返したのだった。








【18:00―宿屋『セイルの部屋』にて】

アーリア :「た〜〜だいま」

 そう言いながら、がっかりした様子でセイルの部屋の扉を開ける。

セイル  :「お帰り〜〜って、今の今まで迷宮に行ってたのか?」
アーリア :「そうだけど?」
セイル  :「セレニア達、昼間に酒場であったぞ」
アーリア :「なんかねー。迷子の如何にも初心者って感じ娘を城下町まで連れ帰ったみたいで――」
セイル  :「そこら辺も聞き耳立てて聞いたよ」
アーリア :「ほむ。」
セイル  :「それで、見つかったのか?」
アーリア :「見つかったって何がさ?」
セイル  :
「強そうなクノイチ」
アーリア :「それが居なくてさ・・・もっと深い階に行かないと――」
セイル  :「やっぱりあっち狙いかよ」
アーリア :「は・・・違うわよ。何か情報になるようなものをって・・・」
セイル  :「情報って何だよ・・・セレニアは既に出てるって言うのに。」
アーリア :「色々とあるのよ。」
セイル  :「色々って何だよ・・・」
アーリア :「・・・」
セイル  :「・・・」

 何も言えなくなったアーリアと、セイルの間になんともいえない気まずい空気が流れる。
 ふと思い出したように、アーリアは手をポンと叩く。

アーリア :「そうだ。明日も早いだろうから、もう行くね〜〜」
セイル  :「お、おう。」

 アーリアが手を振ってセイルの部屋を出て行く。
 彼女が自分の部屋に入って扉の閉る音を確認したところでセイルは水晶玉を取り出した。

水晶玉  :声「( ̄ー+ ̄)と――」
セイル  :「それはもういいって。」
水晶玉  :声「あらあら?昨日もやりましたっけ?」
セイル  :「やってるよ。」
水晶玉  :声「そうでしたか、では早速本題に入りますか。それでセレニア様はどんな感じでしょうか?」
セイル  :「困った事に全然脈が無いんだわ」
水晶玉  :声「そうですか。時間が解決してくれる事もありますから、気長に待ちましょう。」
セイル  :「そうだな・・・次の"ゲート"が開くのっていつなんだい?」
水晶玉  :声「魔力自体のチャージは終わってますが、場所の問題で後一月ぐらいかと。」
セイル  :「ふむ。」
水晶玉  :声「ところで、クルルミクの調査はどうですか?」
セイル  :「あー、それがな・・・さっぱりなんだ。」
水晶玉  :声「さっぱりとは?」
セイル  :「さっぱり読めねぇ。さっぱり話せねぇ。」

 街のいたるところで使われている言葉、文字、その全てが珍文漢文である事を宮廷魔術師に告白する。
 今のところほとんどがアーリア頼みになってしまっている事にセイルは不甲斐なさを感じていた。

水晶玉  :声「やっぱりですか。」
セイル  :「やっぱりなのか」
水晶玉  :声「はい。では早速その問題を解決しましょうか。」

 水晶玉に映っている宮廷魔術師は事も無げにそういった。

セイル  :「解決、ってできるのか?」
水晶玉  :声「はい、わたしの指示通りにしてください。」
セイル  :「分かった。」
水晶玉  :声「まず、この水晶玉の台座にこの水晶玉を嵌めてください。」
セイル  :「台座?そんなのあったのか?」
水晶玉  :声「わたしが渡した巾着袋があるはずです。金糸の刺繍入りの」
セイル  :「ん、ああ、あれか」

 ここに来た初日の荷物を整理していたときに見つけた巾着袋。
 余りに女性が好むデザインであったために荷物の奥の方にしまってしまった記憶があった。
 荷物の中に手を突っ込むとがさがさかき回して、それを見つけた。
 袋を解くと、中から確かに水晶玉を嵌めれそうな台座が出てきた。
 他にも物凄く細い糸四本に、貝殻のイヤリングが出てくる。
 そして、言われた通りにその台座と水晶玉をはめ込んだ。

セイル  :「これでいいのか?」
水晶玉  :声「はい。そしたら、その台座の下を見てください。そこに穴が二個あるはずです。」
セイル  :「むぅ・・・これか。あるな」

 確かに穴が二個あった。青く塗られた穴と赤く塗られた穴が。

水晶玉  :声「その穴に錬金術で使う人工神経を差し込むんですが・・・さっきの巾着袋に一緒に入っていると思います。」
セイル  :「四本あるこの糸か?」
水晶玉  :声「はい。それぞれ同じ色の物を二本だけ差し込んでください。後二本はスペアです。」
セイル  :「了解。とこれでいいのか?」
水晶玉  :声「それでいいです。仕上げにその二本の線の先に貝殻のイヤリングについている穴に差し込んでください。」
セイル  :「貝殻のイヤリング・・・確か一対だけのが入ってたっけ・・・」

 貝殻のイヤリングにも着色されていて、それに対応した人工神経―線を挿し込んだ。

セイル  :声「挿したぞ。これでいいのか?」
水晶玉  :声「・・・・・・」

 差し込んだと同時に水晶玉の中の彼女は何かを喋っているように見えるのだが、水晶玉から宮廷魔術師の声は聞こえず、
 どこかで何かを言っているのが聞こえてきているような気がした。
 耳を澄ますと、その声か貝殻のイヤリングからしているのが分かる。
 セイルはイヤリングに耳を近づける。

セイル  :「・・・・・・」
イヤリング:声「これで準備完了です。」
セイル  :「これで、どうするんだ?」
イヤリング:声「わたしが翻訳するのです。"そちら"の言葉を話すときは、
       こちらが状況に合わせて"そちら"の言葉を言うので、それをリピートするだけでいいです。」
セイル  :「つまり、俺が腹話術の人形で、あんたが本体、みたいな物か。」
イヤリング:声「変な例えですが、そうですね。」
セイル  :「わざわざ俺に解説しながらだと、大変じゃないか?」
イヤリング:声「そうですが、直にわたしの声をそちらに出すと・・・困りますでしょう?セイルさんが」
セイル  :「ん、まあな」
イヤリング:声「そういうわけで、水晶玉とイヤリング、必ず持ち歩いてくださいね。」
セイル  :「分かった。」
イヤリング:声「わたしが寝ている時間は使えないのが難点ですが・・・そういう時はアドリブで、ね」
セイル  :「はいはい。」

 そいつは無理な相談であるが。

イヤリング:声「では、わたしは寝ますので――」

 水晶玉に映っていた宮廷魔術師の姿が消え、そしてイヤリングからも声が聞こえなくなる。

セイル  :「んじゃ、俺も寝るか〜〜」

 いつものように、剣を手にして寝床に入るセイル。
 目を閉じると、あっという間に睡魔に身をゆだね、寝てしまった。




【20:00―酒場『ドワーフの酒蔵亭』にて】


ペズ   :「今日は19人が討伐隊に新規登録して、新しく5つのパーティが組まれたようだ。
       他には特に目新しい情報は無いな。
       戦況も今日は落ち着いているようだ」

 と誰に言ったというわけでも無くドワーフハーフは言った。


:欄外:

※お詫び
まずお詫びを。
実際のキャラの口調や性格と異なる表記をしているかもしれないので
それについて最初にお詫び申し上げます。


※「ワイズナー」イベント参考
・フォルテ・パーティ:
迷宮入り口で迷子の新米冒険者パーラ救助
・フリーデリケ・パーティ:アメジスタ・サフィアナ・アクアマリナを1F監禁玄室より救出

※叫び
毎度シャウトする予定。嘘。

※アイテム
皇国の賢者・宮廷魔術師製のすっごいアイテム。
今回は「サーチ」付きアイテムと翻訳アイテム。
翻訳に関しては中の人がいないと全く意味が無い。断っておくが、中の人はド○えもんでは無い。
・・・フリーデリケ嬢の活躍、パーラと遭遇によって、使わずに二日目は終わる事に。

※(東方言語)
所謂日本語。チャイニーズやハングルな言葉ではない。

※アーリア
既に暴走している気味あり。
ならず者が彼女を見つけるとイベントバトル。「速い剣は―」発生(嘘?
彼女がならず者を見つけるとイベントバトル。「切る価値も無い―」発生(本当?

※迷宮前で・・・
実際のところどうなのでしょう?衛兵一人や二人見張ってそうですが・・・
ならず者達が大量に出てきたとき何も出来なさそうなそんな役(ぉ

※フリーデリケパーティ
いきなりやらかしたあのパーティ。トランスしてます。SSやログデータを引用しています。
実際どうやって運んだのかが…難しいです。ええ。
四次○ポケットとか出しそうな気もしますが(何

※マントを渡す行為
ほぼ真っ裸だった彼女らに迷宮の風は冷たく、恐らくは羽負う物を渡しているだろうという描写。
真っ裸でもいいじゃな〜〜い。余計な事するな〜〜。とも思われるでしょうが、
バアサンは優しいので、彼女らの事を気遣ってくれる事でしょう。
実際に大きな布というと簡易テントに使う布、マント、ケープ類しか思いつきませんでしたが、
何がいいでしょうか?

※プレイヤーの不確定名表記
適当すぎ♪
実は考えるのが一番大変。
基本的に名前を聞いてからしかその状態を解放出来ないわけですから――

※フォルテパーティでのコトネ嬢
ムードメーカーであると思われるのでそういった位置に。

※パーラと遭遇
こちらもログデータのをほぼ引用しています。

※フォルテの鑑定
実際の鑑定はじっくり対象を観察(臭い、感触、材質等を調べて)して、既存の資料と照らし合わせる。
でしょうからそのように。魔法を使った鑑定って頭に言葉でも浮いてくるのでしょうかね?謎です。

※ロウフルスニーズ
効果が若干違う表記なのは、ロウとか実際には分からないだろうな、という事からです。
というよりロウって識別どうやるのだか…分かりにくいです。

※【16:00―クルルミク魔法学院前にて】
イベントの起こらなかった分岐、をイメージ。実際あるでしょうけどね。
行ったけど、何かを忘れていた、というパターン。
書かなくてもいいでしょうっていうどうでもいい動き。

※【18:00―宿屋「セイルの部屋」にて】
読まなくてもいい話。ただ単に工作してるだけだから。から。

※ペズの報告
大体夜20時ぐらいで全部のパーティが結成される(と勝手に想像)
ペズ自身もこの時分には酔ってきているため独り言が多くなるのです(ぉ
ペズ「酒でも飲んでないとやってられんよ」



【登場人物】
レポートサブキャラクター(補佐)
・水晶玉(交信相手)― The Wise Woman

不確定名 :光るオーブに写る影
経験レベル:Unknown(Very High)
名声レベル:Unknown(Very High)
才能レベル:Unknown(Very High)
性格   :Neutral と言うか Natural
性別   :Female
職業   :皇国宮廷魔術師
職業(ワイズナー):賢者
呼称   :太古魔術師、大賢者、宮廷魔術師。
所持武器 :無し
得意技  :攻城戦用の広範囲破壊魔法
備考   :白髪白肌赤眼の先天性白子(アルビノ)。
基本的にボケている。が太古の秘術に精通し、一国のお抱え賢者となっている恐るべき女性。
皇女ラブでレズッ気を見せるが、そういった関係になりたいという願望は無い。
このレポートの中ではセイル(偽名)とアーリア(偽名)をサポートする。特にセイルを。
03/03以降はほとんど彼女の言葉。
セイル(偽名)で無いと認識出来ない、わけでは無く、所謂本人認証のためのもの。
絵は勿論、( ̄ー+ ̄)と輝く水晶玉。


・皇女(姫) ― The Princess Royal

不確定名 :物腰の軽い女性
経験レベル:Unknown
名声レベル:Unknown
才能レベル:Unknown
性格   :Law
性別   :Female
職業   :皇国の姫
職業(ワイズナー):Unknown
呼称   :巫女・姫・皇女・(敵国からの通称)銀の悪夢
所持武器 :いろいろ、特にクッキーは強烈とかなんとか(ぇ
得意技  :スターバスター(何
備考   :銀髪のロングヘアで緑目。やや小柄な女性。
上記の宮廷魔術師からは「完璧」と言われる容姿を持つ。
セイルらがところどころ言う姫(皇女)の事。そのボケ度から稀に宮廷魔術師と混同される事があるが別人。
ボケ度は完全に宮廷魔術師のが上。母である皇妃が死亡しているため皇国における実質発言権一位。
超箱入り娘にして"ゲート"の門番(ゲート―キーパー)でもある巫女。
セイル同様、アーリアに狙われている。
セイル、アーリアを送り出した張本人だが、とりあえずエンディングに登場するかも、程度な人。

ちなみにやたらと料理は下手(お約束)。有害指定。劇物。兵器。
実験台はセイルである。






文責:織月

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