――五日目:「フランツ先生の講釈」――


【08:00―王宮内『白亜回廊』にて】

 セイルは王宮の門前にやってきていた。
 何も提示せずに門を通ろうとすると当然ながら衛兵に呼び止められる。

 だが、前日グレイ伯爵から貰った書状を王城前の衛兵に渡すと
 あっさり通過を許された。

 グレイ伯爵かそのフランツ侯爵とかいう人物が王宮内でも
 かなり高い地位もしくは有力な者であることが伺える。
 勿論、爵位を与えられた人間が地位が低いとは思わないが、
 衛兵の態度には恐れに似たようなものを感じられた。

 衛兵に通され、王城に入る。

 城に入るとまるでそこは別世界だ。
 大理石の床に大理石の巨大な柱。
 所々に龍を象った彫像が目立つ大理石の柱などに思わず目が奪われる。
 そして、対照的にセイルの黒衣が酷く目立っている事に気付く。

セイル  :「皇国の宮殿よりは大きいかな…」

 と呟く。
 皇国の宮殿は比較的小さな造りになっている。余分な物を極力なくしたとか
 なんとかで設計技師が偉く大威張りに説明してくれた事を思い出した。
 城に入ってすぐ城内の衛兵がセイルに向ってくる。

 セイルは再び伯爵の書状を見せる。

セイル  :「フランツ=L=ウィドウ殿は何処か?」
衛兵   :「は、フランツ様ならこちらであります。」

 衛兵は畏まり、白亜の回廊を案内する。
 とは言うものの、ほとんど直線であったため、
 フランツの居るところにすぐについてしまう。

衛兵   :「こちらで御座います。わたしはまだ王宮警護の任務がありますのでここで――」
セイル  :「すまんね。案内ご苦労様。」

 何となく今すぐにもここから去りたいという気持ちを
 前面に出ているのが見え見えだったのだが、警護の任務では仕方が無いため解放する。
 フランツの居るところ、で案内されたのは王宮内の医務室のようで、
 その部屋の前に立つだけでアルコールやお香の匂いが立ち上っていた。

セイル  :(何で医務室に?)

 セイルは軽くせき払いをしてから、医務室の扉を叩こうとしたところ、
 部屋の中から男女の声が聞こえてくる。

男の声  :「お願いします。ディアーナ様。」
女の声  :「ひ、ひぃっ!」

 そして、突然扉が開き女性が引き攣った顔で出てきた。
 扉を叩こうとしていたセイルとディアーナと呼ばれた女性はそこでぶつかると、
 互いに尻餅をついた。

ディアーナ:「し、失礼。大丈夫ですか?」

 ディアーナは何事も無かったかのようにそう言って立ち上がると、
 セイルの顔を見るなり、剣―王宮内の儀式用の細い剣―を鞘から抜くと
 ずいっとセイルの目の前に突き出した。

ディアーナ:「見かけない顔ですね。あなたは。」
セイル  :「いつ……って何を――」
ディアーナ:「何者だと聞いているのです。」

 物凄い剣幕だが、一瞬その凛々しさに、そのディアーナという女性の美貌に目を奪われる。

セイル  :「俺はセイル・ビッグブリッジだ。あんたがフランツ殿かい?」
ディアーナ:「フランツ侯ならそこで変なポーズを取っている男です。
      わたしはディアーナ・リュフトヘン。本当に知らないのですか?
      よもやわたしの名前を知らない者がいるとは…ちょっとショックですね。」
セイル  :「生憎と、俺はこの国の人間じゃないんでね。」
フランツ :「ディアーナ様、どうやらその小僧ガキ
      …いや、セイル君はわたしへの客のようだね。」
ディアーナ:「そのようですが…もう動いても平気なのですか?」
フランツ :「大分楽になったよ。」
ディアーナ:「ではわたしはこれで――」

 ディアーナはフランツに会釈をすると門の方に行ってしまった。

フランツ :「さて、セイル君と言ったかな?
      わたしのお楽しみを奪ったんだから、それなりに面白い事をしてくれるんだろうね?」
セイル  :「え、いや、別に芸人じゃないし。」
フランツ :「では何の用なのかね?」
セイル  :「これを――」

 とエド・グレイ伯爵から渡された書状をフランツに渡す。

フランツ :「へぇー。エドワード・グレイ伯爵は五年前に姿を消して以来だよ。本物かね?」
セイル  :「さあ?自称で―そう名乗ってらっしゃったので――」
フランツ :「元気だったかね?」
セイル  :「俺…わたしが見る分にはお元気でいらっしゃいました。
      ただお嬢さんと奥様の事で未だに恨みを持っているという印象を受けましたが。」
フランツ :「なるほどね。それが本当ならとりあえず本物みたいだね。」

 グレイ伯爵という人物の、彼の過去。
 それがセイルのあった人物が本物への証明となったようだ。
 それは同時に、伯爵の身に起きた事は想像以上に酷い事だったという事も伺えた。

セイル  :「あのう、筆跡とか調べなくても分かるんですか?」
フランツ :「わたしは彼を本物と認識した。セイル君と言ったかな。
      君にはそれだけで十分では無いのかね?
      君はただ王立図書館に行きたいだけなんだろう?」
セイル  :「はい。」
フランツ :「わたしの"字"と"印"で許可証は出しておくから、これで行けると思うよ。」
セイル  :「ありがとうございます。」
フランツ :「でもこんな戦争中に勉強とはね。珍しいよ。」
セイル  :「まあ、色々ありまして――」
フランツ :「何を勉強したいんだい?」
セイル  :「え?」
フランツ :「あそこにあるのはクルルミクの王族の歴史とか龍神に関する事しか無いと思っていいからね。
      まあほとんどが"わたしの道楽"で集めたような物の写しだけどね。
      だから、知りたい内容によってはあそこに行っても無駄な事も多いんだよ。」
セイル  :「そうなんですか…ではちょっとだけ言っちゃいますか」
フランツ :「言っちゃいなYO」

 一瞬彼のテンションが変わったような気がしたのは、気のせいだろうか?

セイル  :「大まかに言うと龍神や竜騎士の事、クルルミクの事、ギルドの事、ワイズマンの事、
      そしてワイズマンの雄性種排除の魔法の事」
フランツ :「ふむ…行こうかね。」
セイル  :「???」
フランツ :「クルルミクと龍神についてはわたしの十八番なのだよ。
      もっとも、これについて話をする相手が今は居なくてね。
      だから特別に話してやろうと思うんだよね。
      なに、わたしの愚痴と思って聞いてくれてもいいよ。」
セイル  :「ほ、本当ですか?」
フランツ :「他国の者が聞いたところでどうこう出来ることじゃないからね。」
セイル  :「はあ?」

 セイルは医務室を出て、白亜の回廊をフランツの案内に従ってついていく。




フランツ :「ところでディアーナ様に突き飛ばされて羨ましい限りなんだが――」
セイル  :「はあ」
フランツ :わたしが突き飛ばされるように手伝ってくれないかね?」
セイル  :「意味がワカラナインデスガ」

 何となく不安が募ってきたのは気のせいではないはずだ。



【08:00―『龍神の迷宮』―リムカ・パーティ】

 シャーリーを連れたリムカのパーティ一行はならず者達に見つからないようにと
 慎重に出口を目指していた。




 そんな中、リコの率いる傭兵達で構成されたパーティと遭遇した。
 傭兵達は舌なめずりをして、喉を鳴らし、大きな布越しに見えるシャーリーのプロポーションを
 想像し、歓喜している。
 そう、まるで"ならず者"達のように――

 あの時の記憶が、監禁された時の記憶が甦り、自然と身体が震えてくる。
 そんなシャーリーを見てセララが優しく抱き寄せる。

 リコはシャーリーのその身の大きな布を被った姿を見ると「ふふん」と鼻を鳴らすと
 リムカ達を避けるようにして行ってしまった。
 その目は侮蔑の目であったか――
 シャーリーはただ歯軋りを鳴らすしか無かった。




 暫くすると、先ほどのリコパーティ同様に傭兵三人を連れたアリス率いるパーティに遭遇した。
 リムカ達は一瞬身構えたが、奥から姿を現したアリスの姿を見て、その構えも解く。

アリス  :「こんちは。今からお帰り?」

 シャーリーの姿を見止めるとアリスはリムカ達が城下町の方に戻っている事を察した。

リムカ  :「こんにちわ。この子救出したからさ――
      そうだ。もしよかったら、情報交換しませんか?」
クレメンテ:「その前にこれを――」

 ロウ傭兵―クレメンテはその大きな布の下が裸であろうシャーリーを見かけると、
 自分の代えの服だろうか、大きなシャツを彼女に手渡した。

 大きくぶかぶかなそれが小柄なシャーリーのほぼ全身を隠せるほどであった。
 シャーリーはその上から大きな布を更に羽織ると、

シャーリー:「その心遣い、感謝する――」

 と照れながらもクレメンテに礼を言った。

 そのやり取りが終わってから、リムカとアリスは互いに地図を見せ合い、情報交換をする。
 しかし攻略度合いは似たようなものだった。

アリス :「む、このアタシと同じ深度なんて、やるわね。
     でもま、ワイズマンをカッコよく倒すのは、アタシだけどね」
リムカ  :「わたし達だって負けませんよ。」

 両者は互いの健闘を祈ると、挨拶をして別れた。



 アリスと別れてすぐ、出口の明かりが見えてくる。
 自然とシャーリーの足取りも早くなる。

 リムカ達一行とシャーリーは迷宮の外に出た。
 こうしてリムカ達一行は無事にクルルミク城下町まで辿り着いた。




 リムカ達に支えられてクルルミクの王国指定の診療所の前まで来たシャーリー。

リムカ  :「本当にここまででいいの?」

 そんなリムカの声が聞こえてないのか、わななわと震えているシャーリーが突然、

シャーリー:「このような恥辱……けっして、けっして忘れんぞ! 我が名に誓いて奴等を滅ぼす!」

 そう吠えたのだ。

リムカ  :「えっと――」
シャーリー:「は…すまん、つい――」
リムカ  :「いえ、わたしも分かります。その気持ちは。」
シャーリー:「本当に有り難う。この礼は必ず――」
リムカ  :「気持ちだけでも嬉しいです。」

 シャーリーは一行に深々と頭を下げ礼を言った。





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アーリア :「救出部隊…ヒーローのお帰り、か。」

 あれからかなり慎重に動いたのだろう。リムカ達の動向はアーリアが思っていた以上に時間が掛かっていた。
 その中に傭兵の姿が見えなかった事にちょっと残念に思えた。

アーリア :「と、早くわたしも急がないとね。セレニア達そろそろ動くだろうし。」

 アーリアは一気に迷宮の入り口まで吹っ飛んだのだった。





【09:00―王宮内『フランツの執務室』】

フランツ :「いろいろ散らかっているが、適当に腰をかけたまえ」
セイル  :「はあ」

 彼の言う通りに確かに散らかっていた。
 様々な書類の束や丸められた紙―失敗した執筆物?―などがところどころに見受けられた。
 散らかってはいたが、白亜の回廊よりは落ち着いて話せる場所である事は確かだった。

フランツ :「いつもこんなでは無いのだがね。
      色々と整理をしなくちゃならないことばかりでね。」
セイル  :「お察しします。」
フランツ :「ふむ、そんなに固くならないでいいんだよ。
      わたしは堅苦しいのは嫌いでね。友達と話す感覚でいいよ。」
セイル  :「分かりました。」

 ふと大理石のテーブル―埋まっていてよく見ないとわからないが―に一番上に乗っていた
 データベースのような書類に目が行く。

セイル  :「これは――」
フランツ :「ワイズマン討伐に名乗り出た女性冒険者達のリストだよ。」
セイル  :「3サイズの明記もされているようだが――」
フランツ :「実に重要な事なのだよ。」
セイル  :「身長や体重も必要なのか?」
フランツ :「実に重要な事なのだよ。」
セイル  :「本当に?」
フランツ :「さて、龍の話をする前に…クルルミクの事に関して話そうかね」
セイル  :(話をそらしやがった)

 正に今この男の目は泳いでいる、と言う表現がぴったりマッチしていた。
 しかし、それはセイルにとっては別にどうでもいい事でもあったため、
 それ以上に追求はしなかった。

フランツ :「我が国クルルミクはラドラン、グラッセン、コルネード、
      そして「大地の橋」を隔てた先のボソロンに囲まれているのは存知ているだろうね?」
セイル  :「さっぱりだ」
フランツ :「そこから説明しないといけないのかね?」
セイル  :「適当でいいですよ。それほど詳しく知っておくべきところじゃないと思いますんで」
フランツ :「知りたいといっていた本人がそう言うのなら、端折るがね。」

 やたらと大雑把に書かれた地図を取り出すと、クルルミクと書かれた場所の南東をフランツは指でさした。

フランツ :「クルルミクの南東に位置しているラドランは簡単に言えばアマゾネスの国なんだよね。」
セイル  :「アマゾネスっていうと女性だけの国?」
フランツ :「正確には違うんだよね。
      雄性種は普通に生まれるから雌性種だけとはいかないんだよね。女性優位の社会になっていて、
      必要最低限の種としての雌性種のみ存在を許されていると言う国なのよね。勿体無いよね?」
セイル  :「勿体無いかはよく分かりませんけど…面倒そうだな。そういうのって」

 やれやれお子様には分からないだろうね、といった感じで首を横に振るフランツ。
 やはりその大雑把に書かれた落書きのような地図のクルルミクの南に位置している国を指さす。

フランツ :「クルルミクの南に位置しているのがコルネード。風の精霊の祝福を受けている地な所為か、
      竜巻がその地を守っている、そうなんだよね。」
セイル  :「そうなんだ?行ったことは無いのか?」
フランツ :「だって、竜落ちちゃうジャン」
セイル  :「まあ、そうだな…」
フランツ :「治安も悪いっていう話ダヨ」

 騎竜としての竜を大事にしているようにも取れ、ただ面倒に思っているようにも見える。
 ともあれ、それ以上に治安が悪いといった言葉に何かしら嫌悪のような感情が
 入り混じっているのが見て取れる。
 それ以上特に言いたい事も無いのか、すぐに地図のクルルミクの東の国をトントンと叩く。

フランツ :「クルルミクの東に位置しているのがグラッセン。
      何も知らない君でも知っている我々と戦争をしている国なのよね。」
セイル  :「戦況はどうなんだい?」
フランツ :「まあ楽勝だわね。」
セイル  :「そうなのか?」
フランツ :「我等が王国の竜騎士団は世界一〜〜〜〜〜!」
セイル  :「竜騎士団って他に居ないって聞いたけどな。」
フランツ :「うっ…」
セイル  :「他に居ないから世界一、とか言うんじゃなうだろうな?」
フランツ :「イワナイワヨ。ディアーナ様が居る限りは無敵なのヨネ。」
セイル  :「根拠は無いのに凄い自信だ――」
フランツ :「だけど、ディアーナ様は明日から迷宮に…竜を駆ってこその竜騎士だと思うんだけどね。」
セイル  :「ふむ…」

 チャラけて見せるが、その根底にあるの激しい怒りにも似た感情が彼から発せられているのが分かる。
 そのおチャラけな態度は彼の激しい内情を隠すためでは、とセイルは思い始めた。
 フランツは地図のクルルミクの(北)西の大きな大陸間の橋を指差し、更にその西にある国を指差した。

フランツ :「クルルミクの西に位置しているのが「大地の橋」を隔てた先のボソロン。
      海神を信仰している土地ダネ」
セイル  :「「大地の橋」って大きいのかい?」
フランツ :「勿論、有名な観光スポットダヨ」
セイル  :「そうなのか?」
フランツ :「ここいらでちょっと休憩にしましょうかね。」
セイル  :「おう…」

 正直ちょっと疲れていた。
 彼の話す言葉を賢者がこちらの言葉にする。その労力は並ではない。
 賢者もその言葉に一息を入れることにした。







【09:30―王宮内『フランツの執務室』】

 フランツは手際よく紅茶を作っている。
 彼が言うには「お婆ちゃん」の影響で、貴族の嗜みの一つらしい。
 皇国にもそう言うのを趣味にしているのが居たな、と妙に感心する。
 フランツは出来上がったばかりの紅茶をセイルにも渡す。

フランツ :「特別に君にもご馳走しよう。極上の葉を使用したものだよ。」

 セイルはまず香りを楽しむ。
 なるほど、これはいい香りだ。疲れが取れていくようなそんな錯覚を覚える。
 フランツは紅茶を片手にやはりその香りを味わってからカップを口に運ぶ。
 それが実に絵になっている。

フランツ :「そうそう。このクルルミクにとって一番重要な国の事を話すのを忘れていたね。」
セイル  :「大事な国?」
フランツ :「そう。竜騎士団の全ての騎竜はクルルミクでは生息していないのよね。」
セイル  :「生息していない?あれだけ竜がいるのにか?
      まさか、わざわざ何処からか輸送を行っていると?」
フランツ :「そのとーり。輸送してるのよね。
      クルルミクの陸海空全ての騎竜は全て「ドラゴンテール」から輸送している物
      なのよ。」
セイル  :「ドラゴンテール?」
フランツ :「当然知らないと思うから言うけどね、
      「ドラゴンテール」は海を隔てたクルルミクのちょうど南にアルンダヨネ。」
セイル  :「ふうん?でもどうしてクルルミクでは生息していないんだ?」
フランツ :「気候の問題ダネ。クルルミクよりもドラゴンテールの気候に適してイーンダヨ。」
セイル  :「なるほど…」

 もっともな意見だ。生物というもの―人間も含めて―は生息するのに重要になって来るのは
 まず気候を含めた環境。そして天敵の有無。
 天敵は何とかできるにしても、自然環境など含めた気候にはどうしようもないのだ。

フランツ :「その輸送に関してだけど、このクルルミクで新王子が誕生した際に
      その騎竜の竜の卵を運ぶ儀式は必見なのよ。」
セイル  :「そうならさ、「クルルミク」っていうより「ドラゴンテール」に竜騎士団作ったほうがはえーじゃん」
フランツ :「あっちには龍神がいないんダヨネ。」
セイル  :「本当に?」
フランツ :「多分ね♪」
セイル  :(いいかげんだなぁ)
フランツ :「まあ聞きなさい。龍神との盟約があってね。
      彼―便宜上彼と呼ばせても貰うけど―はわたしたちを守ってくれるけど、
      我々もまた彼を守っているんだよね。
      そのために必要となってくるのが竜騎士。そして、騎竜なんだよ。
      そして、その騎竜を操るという行為も元々は龍神の盟約の一つってわけなのよね。」
セイル  :「盟約…」
フランツ :「だから、竜騎士以外には懐かないし、操れない。
      まあ、稀にそういった能力を持った人間も生まれるようだけど。
      そんなわけで竜騎士は龍神に認められた証でもあるんだよ。そしてそれは誇りでもあるのよ。」
セイル  :「ふーん」
フランツ :「わたしも認められてるんだよ。凄いでショ。」

 と思いっきり胸を張るフランツ侯。

セイル  :「ふーん……………」
フランツ :「どうかしたのかね?」
セイル  :「マジ?」
フランツ :「オオマジダヨ。」
セイル  :「なるほど、稀にそういった能力を持った――」
フランツ :「モグリじゃないし。」

 皆まで言う前にセイルの言葉を遮るフランツ。

セイル  :「それじゃ、龍神は一体何処から――」
フランツ :「それは話すと長くなるのよね。研究の途中だから…また時間のある時にでもするとしますかね。」

 それはとりあえず今日話すべき事はこれ以上無いと言う宣言でもあった。
 セイルは背伸びをして席を立つ。

セイル  :「ふむ。紅茶、ご馳走様でした。」
フランツ :「いえいえ。とりあえず、これを渡しておく事にするね。」

 と、何かを紙に書き始めた。
 そしてそれをセイルの渡す。

セイル  :「これは…」
フランツ :「王立図書館の入場許可証。資料の持ち出しは厳禁だから注意してね。」

 セイルはそれを受け取ると、軽く会釈をして執務室を出る。
 フランツも立つと、セイルが執務室から出て行く彼を見送った。



フランツ :「実に厄介そうな物を持っているものだね。彼は――」

 セイルの持っている剣。
 あれは強力な"武気"を秘めているのは一目でわかっていた。
 護符でそれを隠そうとしているようだが、独特な周りを圧迫するような気を
 が漏れているが"見えた"。
 セイルがこちらに敵意を持っていないの事が分かっていても、油断はできなかった。
 ここでようやくフランツは安堵の息を漏らしたのだった。







【10:00―『龍神の迷宮』2Fレイラパーティ】

レイラ  :「何か音がするな――」
リリス  :「そう?わたしには何も聞こえないけどな。」

 フィーネとカリストにも同意を求めたが、彼女達にも聞こえてないようだった。
 レイラはそれが気になったので、耳を済ませるとやはり何かが聞こえてくる。
 どうやら誰かが話している声のように聞こえる。
 それは足元から聞こえていた。
 見ると、小さな小人が何かをキィキィと喚いていた。

リリス  :「本当に居たんだ…全然聞こえなかったよ。」
レイラ  :「静かに――」

 注意深く耳を傾けると、言っている事が聞き取れた。

小人   :「こんな浅い階、とっととすっ飛ばして行きたいだろ?
     ここの抜け道を通れば階段まですぐだぜ。
     通りたかったら、オイラの出す問題に答えてみな!」

 よく聞こえていなかったリリス達にレイラは小人の言っている事を伝える。
 すると、確かに早く地下に進みたいという意見も上がったため、
 小人の言う事に承諾した。
 そして、小人は謎掛けをしてきた。

小人   :「一つの聲を有しながら四足、二足、三足となるものは何か?」

 一行は考えたが、誰も答えが判らなかった…

小人   :「あったま悪い女どもだ全く!
     残念だったな!地道に進めよ」

 小人は言いたい事を言って居なくなってしまった。
 レイラにはその言葉も聞こえていたのだが、
 元々それほど興味を示していなかったリリス達にはどうでもいい事のようであった。




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アーリア :「小人の謎解き…ここからだとさっぱり聞こえないや。」

アーリア :(面倒だから今度あったら捕まえちゃって脅しちゃおうかな?)
 と笑みを浮かべた。どうやら力ずくでどうにかしようと考えているようだ。
 そんな事を考えていると、東の回廊の奥から十数人の足音が響いてきていた。




【11:00―『龍神の迷宮』フォルテ・パーティ】

アーリア :「今日はいつもより単調だったよ。つまんなかったよ。」
水晶玉  :声「事後報告かよ…」

 足音がかなり近いところで聞こえてきた。

アーリア :「あの足音はギルドの人間かな――なんか来たから"抜ける"よ。」
水晶玉  :声「おう、じゃあな。」
 アーリアは水晶玉をしまうと、その場で足の屈伸運動をする。
 次の瞬間、彼女の姿はそこから掻き消えたのだった。




【12:00―『龍神の迷宮』アリス・パーティ】

アリス  :「何なんだってんだ。あいつらは――」

 アリスは不機嫌そうにそう呟いた。
 リムカのパーティと遭遇した後に会ったパーティ。
 リコ率いるパーティに会ってからずっとこの調子だった。


―10分前―

獣耳の少女:「アハハハ、同じ顔が六個もあるよ〜〜〜」

 勿論、自分のパーティのカオス傭兵とアリスのパーティの傭兵達を指してのことだった。

カオス傭兵1:「リコちゃん。俺の方が男前だって……」
カオス傭兵2:「あんな雑魚と一緒にすんなよな。俺らのが強いんだから。」
カオス傭兵3:「俺らのが頼りになるぜ。お嬢ちゃん。
      一緒に俺達と行かないか?」

 軽薄そうな口調、そしてそのヘルムの隙間からアリスを嘗めるようにして見ているのが
 あからさまでアリスの背筋に寒いものが通る。

 彼らに何か言い返そうとするとアリスをクレメンテは止める。

クレメンテ:「お嬢。ここは我慢で――我々はなんとも思ってはいない。」

 わざと挑発に乗らせ、正当防衛とでも言ってこちらに害を成そうとしているかもしれない。
 仮に実力でこちらが上だとしてもそんな浅はかなものに乗ってしまって、
 傷を負った時に"ならず者"に襲われるかもしれない。

アリス  :「分かってる…けど――」
ダンテ  :「お嬢があっしらを信じてくれてるだけで、あっしらには十分でさぁ。」
フェル  :「だな。」

 リコ―獣耳の少女―はちっと舌打ちをしていたようだが、
 それも無視してアリスは彼女達と別れた。





アリス  :「自分で思った以上に神経張っているみたい――」

 と首をコキッとアリスは鳴らした。

ダンテ  :「お嬢は迷宮ははじめてで?」
アリス  :「盗賊の巣窟とかなら何度か行った事はあるわ。
      でも、こんな大規模なところは初めて。」
クレメンテ:「ふむ――」
アリス  :「ところでクレメンテってさ、何処かの貴族の出なんでしょ?」
クレメンテ:「どうしてそれを?」
アリス  :「昨日の見張りの交代の時に聞いちゃった。」
クレメンテ:「そうかい。ダンテ、君かい?」
ダンテ  :「お嬢が話をしてくれっていうもんでさ…」
クレメンテ:「そう言うときは自分の事を話すもんだろう。」

 クレメンテは溜息をついた。

アリス  :「でさ、なんで貴族のアンタが傭兵なんかやってるのかなって。」
クレメンテ:「聞いても面白くは無いぞ。」
アリス  :「面白くなくたっていいんだよ。なんか気になってさ。」
クレメンテ:「分かった。でも本当の面白くは無いぞ。」

 クレメンテは語りだした。

クレメンテ:「クルルミクとグラッセンとの戦。これが激化する前の話だ。
      わたしの国はとある小国。グラッセンとは敵対してたかな――
      まだわたしには妻も子供もいなかったのだが、その頃のわたしは若くてね。
      宮廷内で貴族と言うのが実に卑しく身勝手な事に嫌になってたわたしは
      自らの貴族と言う身分を捨て、野に下ったのだよ。」
アリス  :「よくある話しね。」
クレメンテ:「そう。よくある話。若気の至りというものだよ。
      だが、今にして思えば、それがわたしの命を救う事になったということも事実なのだ。」
アリス  :「命を?」
クレメンテ:「ほどなくしてグラッセンがわたしの国を占領化に強いたのだ。
      当然多くの王族、貴族は殺されたと言う。わたしはそれから逃れる事が出来たというわけだ。
      勿論わたしの父や母も殺された。恐らくは父としてはわたしの事を怒っていただろうが、
      今となってはその心を知る術は無い。」
アリス  :「……」
クレメンテ:「暫くするとわたしも好きな娘も出来、その娘と結ばれる事となった。
      わたしには勿体無いほどの女性だったよ。」
アリス  :「だった?」
クレメンテ:「そう急くな。
      彼女はわたしと小さな農園を束ねる地主となって、その村の者達と幸せに暮らしていた。
      それからすぐわたしの息子も生まれた。わたしに似ず実に聡明な…いや、彼女に似たのだろうな。
      あの子は。本当に幸せだった。」

 今でも目をつぶると、傍に妻がいて、息子がいて、皆がいて、
 本当に幸せだったと思う。

クレメンテ:「だが、あの日、全てが変わった。
      突然彼等が襲ってきたのだ。」

 クレメンテの口調が変わる。その口調から彼の激しい怒りを感じ取れた。

アリス  :「彼ら?」
クレメンテ:「最初はグラッセンがここまで進行してきたのか、と思ったが違った。
      正規の軍などでは無く、ただの盗賊の集団。」
アリス  :「まさか――」
クレメンテ:「ハイウェイマンズギルドの前身となった集団だよ。いや、吸収された集団かな?」
アリス  :「………」

 ここまで深い怒りを秘めていたとは思っていなかったため、
 アリスは思わず絶句してしまう。

クレメンテ:「そこでわたしと妻は村人を逃がすために、わたしは一度は捨てた剣を取り盗賊団を引き止め、
      妻は村人を先導していた。ダンテも手伝ってくれたかな?」
ダンテ  :「へぃ。あっしも兄貴と一緒に足止めをしてたんでさ。
      その時についた傷がまだこの左腕に残っているんでさ。」
クレメンテ:「盗賊団を引き止めていたわたしとダンテが戻った頃には、息子は泣いていて、
      妻は既に冷たくなっていた。
      妻は息子を守って死んだそうだ――」
アリス  :「それでここで傭兵を?」
クレメンテ:「そうだ。個人的復讐のためにわたしはここで傭兵をしている。
      どうだね。面白くは無かっただろう?」
アリス  :「うん。でも、アンタの思いは、痛いくらい分かるよ。
      ――それで、この仕事終わったらどうするつもりなの?」
クレメンテ:「まとまった金が入ったら、息子と共に静かに暮らすつもりだ。
      そこのダンテとフェルも連れて、な。」
ダンテ  :「兄貴――」
アリス  :「そうなんだ。お家再興とかは――」

 そこまで言ってアリス達は異変に気付いた。

クレメンテ:「――ふむ。お客が来たようだな。」

 回廊に響き渡る足音。
 十や二十では無い。それ以上の足音がする。

ダンテ  :「団体さんのお着きですぜ。
      盛大にお迎えしますかね。」
フェル  :「だな。」

 さきほどの話をしたばかりで気が立っているのかいつもよりも力んだように
 手にした剣をギュッと握り締めているクレメンテがいる。

アリス  :「数じゃないって事、思い知らせてやるんだから!!」






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アーリア :「60人近くもよくここまで動員出来るものねぇ――」

 ならず者達の足音がかなり近いところで聞こえてきた。
 アーリアは息を殺し、彼等が移動しているのを見送る。

アーリア :「あの程度の腕のを人数集めたところでどうも出来ないってのにね…
      ギルドの人間って馬鹿ばっか?」
 アーリアは背伸びをして欠伸をすると、アリス達の様子を遠目で見守る事にした。







【14:00―『龍神の迷宮』レーヴィン・パーティ:奥様、媚薬針です。】


スピリア  :「きゃッ!?…あの人なら、こんな罠に引っかからないのに……」

 後方を歩いていたスピリアからそんな声があがる。
 スピリアがレーヴィン達に罠がそこにあると指摘していたはずなのだが、
 どうやら床に躓いた拍子にその罠に触れてしまったようだった。

スピリア  :「いっつ…」

 針状の物がスピリアの指に刺さっている。
 シズカが急いでそれを引き抜くと、衣服の一部をその刺さった傷痕に巻きつける。

スピリア  :「ありがとう。シズカさん…」
シズカ   :「いえ、気を付けて下さい。スピリア様」

 シズカは誰に対しても「様」付けで呼んでいる。
 
 レーヴィン達はスピリアが針に刺されてから暫く無言のまま前進している。


スピリア  :「ひゃう…」

 と言って、突然その場に座り込んでしまう。

スピリア  :「あ……」

 見るとスピリアは自分の胸を揉みながら、杖を股間に押し当て、
 嬌声を上げ始めた。

 それは段段とエスカレートしていくと、服を脱いで全裸になってしまった。

シズカ   :「スピリア様、しっかりしてください。」

レーヴィン :「まさかさっきの針に毒が――」

 この場合毒と言うわけではないが、こうなって動けない以上は毒以上の毒であることには違いなかった。

レーヴィン :「参ったな――」

 この中で毒を中和できるのはスピリアのみ―もっとも今までまともに回復魔法を
 成功させた事は無いのだが―

 この状態はパーティ全体にとっても非常に危険な事でもあった。

レーヴィン :「マナ、とりあえず、身を隠せる場所に運ぼう」
マナ    :「そうね。」

 マナは全裸のスピリアに肩を貸す。

レーヴィン :「シズカは彼女の脱ぎ捨てた服を集めて持ってきてくれ。」
シズカ   :「はい。しっかりしてくださいね。スピリア様」

 マナは全裸のスピリアに肩を貸す。

小さな影  :「チチチッ…」
レーヴィン :「ん?何だ、この音は――」

 一行の前に立ち塞がったのは二足歩行をする四匹の鼠達。
 不気味に「チュ―チュ―」言いながらこちらを伺っている。

 今ここで戦闘する事は、そして勝つことは楽ではあると思うが、
 催淫状態になっているスピリアがどうなるかがわからない。
 とりあえずその鼠達に敵意さえ向けなければ襲っては来ないだろうと、
 そう判断しレーヴィンは仲間達に指示をする。

 静かにそーっと彼らの脇を通り去ろうとしたところ、
 我慢をしていたスピリアの口からあの声を上がってしまう。

スピリア  :「はぅ――」

 シズカが思わず彼女の口を塞いだのだが間に合わず、
 鼠達はレーヴィン達目掛けて手にした武器で襲い掛かってきた。
 レーヴィンは剣を鞘から抜くとそれらを払う。

レーヴィン :「急げ!駆け抜けろ!スピリアも早く!」

 スピリアは当然ながら、マナはスピリアに肩を貸していたため思うような動きを取れない。
 そのために彼女らが駆け抜けるまではレーヴィンが鼠達を抑えなければいけなかった。
 相手が鼠と言うわけで難しい事では無いのだが、どうにもシズカ達の事が気になって
 いつもの動きじゃない自分がいる。

 それでも何とか、シズカが先導しスピリア達を鼠達から完全に逃げられた事を確認すると、
 レーヴィンも一気に駆け抜ける。

 駆け抜ける際、何者かが仕掛けたトラップなのか、何処からか落ちてきた"鐘"が
 レーヴィンの頭に当たった。

レーヴィン :「くっ…何だコレは!」

 その"鐘"を手にとって鼠達に投げつけると、レーヴィンは一目散に走った。


 暫くすると前方からマナ達が血相を変えて戻ってきた。
 そして、その中にシズカの姿は見えなかった。


レーヴィン :「何があったんだ?」

 マナ達にレーヴィンは詰め寄った。






 ―レーヴィンが離れている間―

 まるでこちらに逃げてくる事を予期していたように、100人近い"ならず者"達が
 待ち受けていた。
 シズカはまだ鼠達を蹴散らしていたレーヴィンも戻ってこない事とスピリアの状態を見て取ると、
 マナにそのままスピリアを託すと逃げるように促した。>

 そして、ならず者の前に立ちはだかった。

シズカ :「ここでくいとめますっ!!スピリア様を早く安全な場所にっ!!」

 この人数相手にシズカは自分が捕まる事を察してはいた。
 だが、スピリア達を逃がすまでは倒れるわけにはいかないため、
 渾身の力を込めて、刀を振り続けた。

 何人斬ったかはわからないが、何時の間にかシズカの天地はひっくり返り、
 自分が"ならず者"達の手によって倒れている事で敗北した事を知る。

シズカ :「け、ケダモノッ!放しなさいっ!!」

 最後の力を振り絞ってそう言い放ったものの、
 彼らの嫌らしい笑い声、シズカに斬られた者の悲鳴にその声はかき消されてしまった。

シズカ :(皆は無事逃げられたみたいね――)

 仲間の安否が気になっていたが、自分と同じように捕まっている者が居ない
 ―仲間を逃がしたシズカに対して怒号を浴びせ掛けている者もいるようだが―
 事もあって、緊張の糸が切れたシズカは意識が暗転してしまった。

 シズカが"ならず者"達によって監禁玄室に連れ去られてしまった。







スピリア :「わ、わたひがこんひゃ状態じゃなひぇれば――」
レーヴィン:「シズカの判断は正しかった…(と思う。)」
マナ   :「リーダー。どうします?」
レーヴィン:「一度戻ってスピリアを診療所で見てもらおう。
      それから助けに行こうと思うがどうか?」

 現状ではそれ以上にいい案は浮かばなかった。
 マナにしてもそれ以上にいい案と言うものが無かったため、
 レーヴィンに従った。

レーヴィン:「シズカなら大丈夫だ…きっと。」

 マナ達を、そして自分を励ますようにそう呟いた。







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アーリア :「前見た時はそれほどとは思わなかったけど…あのエルフの人はドジ過ぎだよね。」

 誰とも無くそう言った。

水晶玉  :声「アーリア。しっかりセレニア見張ってくれよ。」
アーリア :「聞いてたの?」

 懐から水晶玉を取り出す。それに映っているのはセイルの顔。こちらをじっと見ているようだ。

水晶玉  :声「色んな意味で心配してるからな。」
アーリア :「いいけどさ、こっちはこっちでしっかりやってるから、あんたもしっかりね。」

 それだけ言うと再び懐に水晶玉を閉った。






【20:00―酒場『ドワーフの酒蔵亭』にて】

 小さな賢者―リムカは人を探していた。
 まだウィノアやセララが居なかったのだが、先に補充人員を確保しておきたかったのだ。
 そしてその中でよく知っている顔を見つけた。

リムカ  :「傭兵さん、この度はありがとうございました」
ロウ傭兵 :「おう、リムカちゃんか。いや、初めてヒーローっぽい事出来たよ。
      これで田舎のじっちゃん達に自慢話が出来る。」
リムカ  :「本当はもっと手伝ってもらいたかったんですが――」
ロウ傭兵 :「ワイズマンとやるとなると男の俺がいちゃーどうにもなんないしな。
      分かってるって。」

 朗らかにそう言ってその上機嫌な傭兵は酒場の喧騒に塗れその姿を消した。

 リムカは本気でワイズマンを倒すためのメンバーを探す事にした。
 既に声がかけられパーティを結成しているの人たちを尻目に、ひたすら傭兵の抜けた穴である、
 前衛を任せられる者を探していた。

 ふと、酒場で一人リムカと同じように人を探しているようで
 パスタの入ったスープを食べながら――あっちこっちキョロキョロと見ている女性が目に入った。
 リムカはその女性に声をかける事にした。

リムカ  :「すみません。あなたは一人ですか?」

 声をかけられた女性は口の中のパスタを飲み込む。

チェリア :「え、はい?一人です。忍者のチェリアと申します。」

 声をかけた女性、リムカの方を見るチェリア。

リムカ  :「バランスを考えると、あなたは合格ね。」
チェリア :「?」
リムカ  :「わたしたちと一緒に『龍神の迷宮』に行きませんか?
      ワイズマンを倒すために。」

 チェリアにとっては願ってもない事だった。
 本当はディアーナ様――と一緒のパーティに入りたかったのだが、時間一杯まで公務に
 追われていた。ようやく公務―これを任務と言うのも馬鹿らしい仕事内容―から解放され、
 念願のワイズマン討伐に着手出来たのだが、完全に出遅れており、ディアーナ様も既に
 パーティを結成された後であった。

 ――後にディアーナ様も「ごめんなさい。チェリアの事忘れてました。」
 と言われるわけだが、ディアーナ様も待てないぐらいにワイズマンやギルドに関して
 お冠であった事が伺えた――

 その故にこんなにも早く兄様の仇を討つためのパーティに
 入れる事にその目を輝かせた。

チェリア :「お願いいたします。」

 チェリアは丁寧にリムカに礼をする。

リムカ  :「よろしくね。わたしはリムカ。こう見えても賢者なんですよ。」
チェリア :「わたしはチェリアと申します。
      足手まといにならないよう頑張ります。よろしくお願いします。」

 とチェリアはニコっと笑った。

リムカ  :「ところでチェリアさんの頂いているそれは何ですか?」
チェリア :「ああ、これは――」





 ――カウンター席――

ペズ   :「今日は7人が新規来店したな。
      全部で新しく3つのパーティが組まれ、2つのパーティが再編成されたようだ。
      今は店内はキレイに空だ、依頼待ちの傭兵どもしか居ないぜ。」

セイル  :「俺は傭兵じゃないぞ。」
ペズ   :「分かっておるよ。」
セイル  :「トマトとキノコのリゾットでも頂こうかな。」
アーリア :「わたしも同じので。」

 何時からそこに居たのかセイルと同じ物を頼むアーリア。
 迷宮内の埃でも被ったのか何時も以上に埃っぽいアーリアであった。

セイル  :「どうしたんだよ。そのナリは」
アーリア :「別に。ちょっと埃っぽい玄室に入っただけだから。」
セイル  :「そうかい。」

 アーリアはパンパンと肩や服の袖を叩くと埃がモアっと漂う。

セイル  :「セレニアは今休憩中か?」
アーリア :「うん。今見張り交代しながら休憩してるってところ。」
セイル  :「そうか。まだ記憶が戻ったってことは――」
アーリア :「まだよ。戻ったのなら神速が使えるはずだからね。」

 アーリアとセイルの元に注文したリゾットが置かれた。

ペズ   :「あいよ。キノコとトマトのリゾット。」
セイル  :「おう。」
アーリア :「ありがとう。おじさん。」

 セイルはスプーンでリゾットを掬いながら、遠くの席で談話している一行を
 指差した。

セイル  :「あれが"白竜将"ディアーナ・リュフトヘン。
      クルルミク竜騎士団の"空の覇者"だ。」
アーリア :「ふーーん?でも竜無しだと空の――」
セイル  :「そうだな。でも龍神の祝福を受けている人間の一人には間違いない。」
アーリア :「でも何で彼女の事知ってるのよ。」
セイル  :「ここではかなりの人気者だしな。それに王宮で一度会ってる。」
アーリア :「へぇ。よく無礼討ちにされなかったねぇ。」
セイル  :「まあ、されかけたか、かな?」
アーリア :「それで?」
セイル  :「見事生きているさ。こうして。」
アーリア :「アンタが死ぬなんて思っちゃいないって。
      そうじゃなくてなんかいい情報手に入ったのかって事!」
セイル  :「まだ探りの段階さ…ってあんまりディアーナには興味無いように見えるな。」

 強そうな人にはすぐ反応するアーリアにしては珍しい反応であった。

アーリア :「竜に乗ってない竜騎士なんかに興味は無い。」
セイル  :「手厳しいな…あ、そうだ。竜と言やあ、竜の生息地はここじゃないんだとさ。」
アーリア :「ここじゃない?あんなに竜居るのに?」
セイル  :「ここから海を隔てて南にある「ドラゴンテール」とか言うところかららしい。」
アーリア :「「ドラゴンテール」か…一段落ついたら行ってみようかな。」
セイル  :「――好きにしろ。」

 アーリアはよほどドラゴンとやりたいらしい。
 あの時をもう一度、とでも言いたいのだろうか。
 セイルには理解出来ない思考には違いなかった。

アーリア :「それじゃ、お先に〜〜」

 ドラゴンの生息地の話を聞いて上機嫌になったアーリアは
 リゾットをあっという間に平らげてしまうと席をたった。

セイル  :「あいよ――
      亭主。麦酒を普通サイズで!」
ペズ   :「おう。今日はジョッキじゃないのかい?」
セイル  :「明日は王立図書館にでも行ってくるつもりだからね。」
ペズ   :「ほう?よく許可が降りたもんだ。」
セイル  :「まあね。こういうのはコネが物を言う、というところか。」
ペズ   :「違いねぇな。」

 ドワーフハーフはやはり何がおかしいのかガッハッハと笑いながら、セイルの前に麦酒をドンと出した。








【23:00―『龍神の迷宮』アリスパーティ】

アリス  :「ダンテ…そろそろ交代の時間。」

 アリスは眠たい眼を擦りながら、ダンテの身体をゆする。

ダンテ  :「む…ふわぁ〜〜お嬢、交代の時間ですかい?」
アリス  :「うん、頼んだよ。」
ダンテ  :「任せてくんなせい。」

 ダンテは気合を入れるために自らの頬をバチンと叩く。

アリス  :「クレメンテとダンテって長いんだよね?」
ダンテ  :「え、ああ?ってお嬢。早く寝ないと――」
アリス  :「寝るまで話してよ。あんた達のこと。」
ダンテ  :「あっしらの事?」
アリス  :「うん。昼間のクレメンテの話聞いてたら気になっちゃってさ」
ダンテ  :「兄貴も言ってやしたが、面白いもんでも無いんでさ。」
アリス  :「ダメ?」

 ダンテは女性に「ダメ?」と言われると弱かった。
 無性に本当に出来ない願いでも叶えてあげたいという衝動に駆られるのであった。

ダンテ  :「つまんない昔話しですぜ――」
アリス  :「うん。いいよ。」
ダンテ  :「兄貴とあっしが出会ったのは――今から十年前。
      グラッセンとクルルミクとの戦が激化するほんのちょっと前でさ。」

 その日のあっしは、いや、あっしらは飢えていた。
 小さな盗賊団に入っていたあっしはとある小さな農村に目をつけたんでさ。

 勿論、その農村って言うのが、今の兄貴のいる村だったわけで――
 兄貴は今もそうですが、あの頃も凄い強くて、あっしらなんかこてんぱんにやっつけられらんでさ。

 その時、兄貴はそんなあっしらを見て、一緒にやらないか、と優しく接してくれた。
 それからと言うもの、盗賊団は兄貴のために、兄貴と村のために一緒に田畑を耕したり、
 一緒に他の盗賊団から村を守ったりして――


アリス  :「――フェルはいつから?」
ダンテ  :「五年前くらいに、兄貴から物を盗ろうとしたところを…」
アリス  :「フェルとアンタって似たもの同士って事なんだ。」
ダンテ  :「そう言うこった。」
アリス  :「全然つまんなくなかった…よ……」

 とそこで言葉が途切れる。
 どうやらアリスは寝てしまったようだ。
 ダンテは一人、火の番をしながら、暗闇に目を凝らしていた。





:欄外:

※お詫び
まずお詫びを。
実際のキャラの口調や性格と異なる表記をしているかもしれないので
それについて最初にお詫び申し上げます。


※「ワイズナー」イベント参考
・レイラ・パーティ:小人と遭遇。
・リムカ・パーティ:シャーリーを街中まで護衛。傭兵→チェリアにメンバー交替
・フォルテ・パーティ:至って平和な日。
・アリス・パーティ:リムカ・パーティと情報交換。リコ・パーティと接触。ならず者達をたくさん始末する。
・レーヴィン・パーティ:奥様催淫状態になりシズカ嬢が変わり(犠牲)に捕縛される。


※叫び
毎度シャウトする予定。嘘。
でも、ネタが無いですよ

※アイテム

※セイル
・セイルの動き。
フランツとの会話。 書いてると真面目にならないネ
・貴族として
庶民に付き合う場合は暇つぶしでしか無い、という感じでしょうか。
・なぜなにセイル
Q1、既にセイルはワイズマンに会っているのか?
A1、勿論会っていない。彼は迷宮には一度も入っていないためです。
Q2、彼の持つ"剣"の能力は?
A2、護符を巻かれた状態でもかなり強い。
 この状態でも"彼に傷つける事"は至難の業だったりします。詳細はいずれ…
Q3、アーリアとセイルの関係は?
A3、ずばり強敵"とも"
 一応、このセイル君には恋人―彼に惚れている幼馴染―が居ます。
 姫に関しては"彼女の裸まで見て"おきながら、彼にとっては"憧れの対象"というもの。
Q4、セイルの黒衣は何か?
A4、セイル君の通っている学校の制服です。幼馴染の女性も制服を着ていると思いきや――
 大元のネタバレになるので伏せておきます。
Q5、幼馴染の女性はどんな娘?
A5、アーリアみたいな強引なタイプでは無く、一言で言えば引っ込み思案。内気。
 双子の妹の方だったりと、なんてエロゲ?とか言わないでクダサイネ。
 織月設定の女性陣の中でセレニア同様まともな人の一人。


※アーリア
今回は比較的大人しめか。コメントが変なのは相変わらず。
・なぜなにアーリア
Q1、既にアーリアはワイズマンに会っているのか?
A1、会っていない。何だかんだ言いつつ、セレニアにほぼ
 がっちりついているのでそれは無いです。
 行動範囲はフォルテパーティの階層±2くらい
Q2、アーリアは裸のくノ一は見つけているのか?
A2、複数の強力な存在を感じているようだが、
 上記と同じ理由で深い階層に行っていないいないため会っていない。
Q3、それだけ強ければギルドのならず者達をたくさん倒しているのでは?
A3、倒していない。雑魚とは剣を交えるつもりはさらさら無い。
 アーリアが足を止めるとなると下層モンスタークラスになると思われる。
(「ワイズナー」本編に影響出るほどの人数は倒さないようにしなくてはならないため)
Q4、神速ってどのくらの速さ?
A4、通常使用で音速の1/2〜1(約170〜340 m/s)。
 音速超えると衝撃波が五月蝿いので基本は音速以下です。
 アーリアの場合、最大瞬間速度はマッハ2くらい?
Q5、それだけ早かったらオープニングで五日もかからないのでは?
A5、実は彼女らが"ゲート"の魔法によって最初についた場所はクルルミクの遥か南の海の上。
 そこから海の上を神速で駆け抜けて(略)キングクインやエレギン辺りにも走り回ってたりも。
 如何にアーリアといえど、セイル君を引っ張りながら&持久力意地のため
 速度低下しています。が、それでも早い早い。
Q6、アーリアとセイルどっちが強い?
A6、純粋な腕力勝負ではアーリアの勝利。
 セイルの場合ほとんどの能力を"剣"に依存している事からそうなっています。

※フランツ=L=ウィドウ侯爵
かなり真面目に喋ってます。喋り捲り。
一応データ―喋っている内容も―を元に喋らせてます。が、かなり限界

※フォルテパーティ
今回は特筆すべき点が待ったく無い。
故にアーリアの事後報告で勘弁(何

※レイラ・パーティ
クイズを出す小人と遭遇。探索力の応じて聞こえるか聞こえないかを一応変化をつけてみたり。
リリスさんにはほとんど何も聞こえていません(何
敢えて古い文献より古い言い回しで書いてありますが、
答えは有名なスフィンクスの問題の答えです。

※アリスパーティ
未だにアリスの話し方に四苦八苦していたり。
クレメンテさんの死亡フラグ―クレメンテの身の上話―立ちました(何
ダンテはアリスの事を「お嬢」と呼ぶで決定かのう
つかフェルがほとんど喋ってないYO!

※レーヴィンパーティ
ほとんどスピリアさんの所為で全ての問題行為が展開されていく。
を描けていれば○

※リムカパーティ第二期
王宮密偵のチェリアが配属されますが、本編のテキストでは昨日のうちに城下町に出て
明日の朝となっています。このレポートの書き方にも問題があるわけですが、
時間がオカシイだろうという事でチェリアの配属は今日の夕方にしました。

※プレイヤーの不確定名表記
今回も適当すぎ♪

※シャーリーのお礼の台詞
本編ではならず者達への恨み事しか言っていません。
ので流れからおかしいので合えて別に礼を言わせています。









文責:織月

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