――エピローグ『Dead or Alive』――


【05/01・06:00―『王家の聖櫃』死闘1・コトネPT】 飛ばす↓

「フォルテ、こっちであってると思う?」
「どうでしょうか…残念ですがわたしにも分かりません――」

 スライムプールによって全てのアイテムを失ったコトネ達は上の階への階段を探していた。
 本来、素っ裸であるはずなのだが、「女の子がお腹を冷やしちゃいけない」などとある男の計らい
―セレニウスにとっては不本意ではあるが―で防具や武器を抜かした同じデザインの普段着―
何故細部やサイズまであっているのか問い詰める前にその男は逃げた―を今は着ていた。

 本来であるならば間違うはずの無い道筋であったのだが、地図を無くしたことと
コトネの自慢の武器の喪失により、難儀していた。
 何度か誰もいない玄室に入ったり通路を抜けたりしていた。

 全て"ハズシ"ていたために次第に自身の無くなって来たコトネは、PTメンバーに救いを求める。

「地図が無い事にはわたしにも分かりません」
「同感だ…真っ先に地図は外に出すべきだったな」

 とセレニウスとセルビナ。

「また、扉ですね――」

 今までの物とは違う扉。
 厳かな竜のレリーフが描かれている。その竜は何処となくあの《龍神》に似ているような気がする。

「コトネ…どうします?」
「回り道してる時間は無いよ…」

 一刻も早く装備を取りに城下町まで降りなくてはならない。
 そうしなければ《使命》の完遂は無理であるのは誰の目にも明らかであった。

「分かりました…開けますよ」

 パーティの最前列にいるセレニウスが扉に手をかけると強く押した。
 しかし、びくとも動かなかった。

「…開きませんね――」

 そこでセレニウスは両手で更に全身全霊の力を持って扉を開けようとしたが、
それでも開かなかった。

「これ?本当に開くのでしょうか?」
「そうですね。押してだめなら引いてみては如何でしょう?」
「それもそうですね」

 フォルテの進言に従い、セレニウスは扉にある突起に手をかけ、渾身の力を込めて引っ張った。
 が、それでも開く気配が無い。

 間違ってもこれがスライド式の扉では無いことは床に円形状に出来た
扉の引きずったような跡が示している。

「…開かない扉…ダミーなのでしょうか?」
「そうかもな。元々試練のための迷宮だし、そう簡単にはいかないってこった――」
「他の道を探すのかぁ…」

 ふと、セレニウスの脳裏に竜のレリーフが頭に突っかかった。
 そして、自分には…資格が無いという事を思い出す。
 皆の手にはある"あの紋章"が、セレニウスには無かった。

 ふらふらとコトネはその扉に近付き、扉に軽いパンチを繰り出した。
 恐らくは八つ当たりでもするつもりであったのだろうが――

「待ちなさい!コトネ!
 その扉は――」
「えぇ?何?」

 静止の言葉も間に合わず、コトネはそのまま扉を殴ってしまう。
 コトネの手の平の"龍紋"が光り輝き、その手が触れただけでその扉は容易に動いてしまう。

 ギギギギギギッ!!

 大きな軋む音と共に竜のレリーフの施された大きな扉は開いた。
 その扉の中は、大きな広間となっていた。

「なっ…」
「ここは――」

 その広い玄室の中の様子に思わず絶句するコトネ達。

 その広間には数え切れないほど無数のならず者達がひしめきあい、
部屋の中央には、天井から吊り下げられた鎖に繋がれた、明かにならず者のものとは思えぬ、
白く細い手首が力無くうなだれているのが見える。

 ならず者達はその手首の主の付近に群がっているようだ。

「まさか、あれは――」

 早く装備を取りに戻りたいという気持ちが仇となってしまった。
 セニティ王女が監禁されていると思われるその部屋《王家の聖櫃》に
武装も無しで足を踏み入れてしまった。

 ギギギギギギィ!!

 コトネ達の背後の扉が突然閉る。
 コトネはすぐさま扉を開けようとするが、扉を閉めた者達であろう数人のならず者達が
彼女達の退路を塞ぐべく立ちはだかっていた。

「ふん、ここまで来やがったか。そろそろ逃げ時と言うことかな」

 その声はコトネ達の頭上から聞こえてきた。
 一人の男―このならず者達の中で明らかな異質で眼光の鋭い男が魔力によって宙に浮き、
こちらを見下ろしていた。

 その顔はコトネ達が酒場の手配書でもよく見た顔であった。

「あ〜〜〜もしかして、あの"ボス・ギルドボ"〜〜?」

 コトネは驚きのあまり、この場に似合わない素っ頓狂な声を出す。

「もしかして、じゃなくて"ボス・ギルドボ"様だ。
 あぁん?報告だとスライムプールにはまったって聞いたけどなぁ」

 その時の部下の報告は嬉々としていたのをよく覚えている。
 "ボス・ギルドボ"は目の前の女性達四人とも服を着ていることに疑問を覚えた。

「まぁ、いいか。武器も無くて薄着…裸も同然。
 鴨葱とはこいつらの事を指すんだろうねぇ。
 よしっ!せっかくの鴨葱だ。
 逃がさず捕らえて、少しでも財産を増やすとするか。
 野郎ども、逃がすんじゃねえぞ。
 長々と調教してるヒマは無えからな、遊ばずに急いで、
 逃げる気力が無くなる程度に、《いたずら》してやれい」

 うっしっしと下卑た笑みを浮かべる"ボス・ギルドボ"。
 "ボス・ギルドボ"のその言葉に王女を陵辱していた無数のならず者達が一斉にコトネ達の方を
振り向くと、血走った目で彼女達に襲い掛かってくる。

「俺様のギルドが力を得るたび、俺様はチカラを増す!」

 "ボス・ギルドボ"の手に魔力が収束していく。




「下がってください!!」

 セレニウスは自らの指先を噛み千切り、その血で左腕に文字を描き出す。

「algiz, algiz, algiz rune(アルジズ・ルーン)よ。我等に保護を!!!」

 力ある言葉に応じ、ボウっとセレニウスの前方にコトネ達を護るようにして
大きな薄い光の盾―可視化された高密度な障壁が現れた。

「セレニウス。それは――」
「思い出せた《保護》のルーンの力です。あいつの攻撃はわたしが受け止めます…
 その間にこのならず者達をどうにかしてください」

 セレニウスが龍神との死闘で倒れた際に得た力の一つ。
 夢の中で自分とおぼしき人物が使っていたルーン魔法。
 それがこの《保護》のルーン。元々軍経験者なら誰でも使えるルーン魔法だと、
"誰か"が言っていたような気がする。

 まずこの"ボス・ギルドボ"を護るようにしてたちはだかる大量のならず者達を
どうにかしない事にはその後方に控える"ボス・ギルドボ"に一切触れる事は出来ないし、
退却しようにもやはりこの"肉の壁"は邪魔になっていた。

「分かった。フォルテも攻撃に集中しろ」
「は、はい」
「わ、わたしがリーダーなんだけどな…」

 前日フォルテに窘められた事を気にして、小声で言うコトネ。

「コトネは死んでもフォルテを護れ。いいな」

 今の状態でまともな致命打となる攻撃を放てるのは賢者であるフォルテのみ。
 フォルテが倒れたら後はどうにもならない事を暗に示していた。

「分かったよ。わたし、頑張るよ」

 あのガントレットが無いコトネにはいつものような活躍は出来ない。
 セルビナにはそれが分かっていたため、敢えてフォルテの護りを任せた。

「teiwaz,teiwaz,teiwaz rune(ティワズ・ルーン)!我等に勝利を!!!」

 あの日思い出せたもう一つの力がこれだった。
 使用者に確実なる《勝利》を齎すという《勝利》のルーン。
 使用者の武器に宿せば、その切れ味は二倍、三倍にもなるという代物で、
それをセレニウスは自らの右手に刻み、その力を覚醒する言葉をセレニウスは解き放った。

 そのルーンの力を帯びた"右手"と言う武器で前方に群がるならず者達を蹴散らす。

「これでも致命打には為り得ないですか…」

 そう呟きを漏らしながらならず者達を睨みつけるセレニウス。
 その彼女の攻撃を受けて倒れたままの者もいるが、何事も無かったように立ち上がる者もいた。

「こんな事ならもう少し鍛錬しておくべきでしたか――
 !?、algiz rune、絶対なる壁を!!!」

 "ボス・ギルドボ"に収束していく力が見えたセレニウスは第二波の攻撃に備えたのだった。










「いい加減に!俺様に跪け!!!」
「くっ…algiz, algiz、我等を護れ。algiz rune!!!」

 "ボス・ギルドボ"の放った風を纏った魔力弾はセレニウスの《保護》のルーンの力で形成された
《光の盾》をも透過しそれがまともにセレニウスに直撃した。
 《勝利》のルーンを刻み素手での攻撃の能力を倍化させた右腕もまた限界に達し、
ところどころ血管は切れ血塗れになっている。

「うぐぅ…まだ…まだ倒れるわけには――」

 まともな武具も無いコトネ達であったがそれでも善戦していた。
 まるで"肉の壁"のようであったならず者達も半分まで減らせたのだから――

 そのならず者達も半分まで減ったところで、パーティの先頭で"ボス・ギルドボ"の魔法の直撃を受け、
ずっと耐えていたセレニウスが地に伏した。

「セレニウス!!」

 セルビナの叫びに応えなんとか立ち上がろうとしていたセレニウスの血塗れの右腕を
ならず者は捕え、引っ張った。
 既に痛みを通り越して感覚が麻痺していた右腕であったが、強引に引っ張られる事で
その痛みもぶり返してくる。

「くっ…離せ!!」

 力を失い体力的にも限界なセレニウスの蚊の泣くような声を飲み込んで、
"肉の壁"の中にセレニウスは埋まっていくようにその中に消えた。

 それからの崩壊は早かった。

 《保護》のルーンでギルドボの魔法力を軽減していた"壁"のセレニウスを失った事により
セルビナ、そして最後までフォルテを庇うようにして立っていたコトネの体力も尽き倒れてしまう。

「コトネさん!!」
「フォ…ルテ…逃げて――」

 包囲されて逃げられない事は知っていたが、コトネはフォルテには逃げて欲しかった。
 だがその願いも空しく、コトネ達に、フォルテにも"肉の壁"が迫ってきていた。







【05/01・06:30―『王家の聖櫃』にて】 飛ばす↓


「失せろ! 下郎!」

 普段のセレニウスであればその一喝だけでならず者達は逃げるのだが、
ほとんど全裸のようなぼろぼろになった衣服に動かす事も出来ないほど消耗しきった
その身体ではならず者達をひるませる事すら出来なかった。

 そのならず者達の中にオニヘイの姿を見つけると、セレニウスは吠えた。

(やはり、そうなのか――)

 スライムプールで全ての装備、アイテムを失った時に現れたのがこのオニヘイ。
コトネの危機を聞いて飛んできて、わざわざ四人の服まで持ってきていた。
 フォルテやコトネは凄く感謝をしていたのだが、セルビナとセレニウスには
何か含むところがあると彼の用意した服には手を付けなかったのだが、結局は改心した
というコトネの言もありその時は彼の好意を受け取ったのだが、やはり彼は
何も変わってはいなかったと言う事なのだろう。

「オニヘイ!貴様!性懲りも無くぅ――」

 オニヘイへのセレニウスの言葉は届いたのか届いてないのか、
 こちらをちらりと見たオニヘイは特に何かを言うわけでもなくコトネの方へ消えていった。

 その時の目はセレニウスへの憐れみとコトネを犯せる事への歓喜だったか――

「余所見なんてしてる余裕ねぇってよぉ」

 オニヘイの消えていった方に行こうとしていたセレニウスを強引にぐいと引っ張り、
 ならず者達はセレニウスの脚を左右に開き、セレニウスの秘所を丸見えにした。
 上気してほのかに赤みがかった白い肌を、陰部を彩る金の茂みを僅かに触れつつ、
男は自らの下半身を弄りグロテスクなそれを取り出した。

「何をする…触れ…るな…下郎…や…」

 ならず者達は下半身剥き出しにして、その股間にいきり立ったモノをセレニウスに見せる。

 玄室にて幾度と無く見たそれはいつ見ても慣れない男性の泌尿器官。
 凶悪で赤黒く波打つ鼓動がセレニウスには忌わしき物に見え、
それを直視する事も彼女には苦痛であった。

 セレニウスはそれから目を背けようとするが、頭を掴み無理矢理それを見せつけ、
 ゆっくりとそれをセレニウスの秘所にあてがう。

「い、ぎ、止めろォ」

 ズン

 男はセレニウスの秘裂に前戯も無く容赦無く突き入れていく。

「まだ先っぽがほんのちょっと入っただけだぜ?」
「わたしは……やめて、やめてくれ――――」

 ズン ブチ ブチ
 肉が裂ける音。
 セレニウスは今まで感じた事の無い秘所への痛みに声が消えてしまった。

 ポタ ポタ ポタ…

 そして流れる鮮血――
 そのセレニウスを貫いた男の陰茎と秘裂の間から伝い、玄室の床に真っ赤な"純潔の印"を
刻み付ける。

「―――――!!!!!」
「へぇ、処女だったのかよ?
 道理でキツイわけだ、ガハハハ!!!」
「う…い…」

 痛いと言う言葉を必死に飲み込むセレニウス。
 彼等にそんな言葉を発したところで喜ばせるだけである事は明白だからだ。
 が、我慢したところでセレニウスの明らかな狼狽振りにならず者達は歓喜する。

「泣き叫んでもいいんだぜ?我慢なんてする事無いぜ。
 どうせ、誰も助けになんて来ねぇんだしよ」
「う…るさい――」

 セレニウスの事を考えない強引な男根の挿入に、僅かながらの残った力で抵抗を試みたが、
その僅かな挙動を感付かれ更に強く押さえつけられてしまう。

「い…や……」

 次第にぐちゅぐちゅといった音と共に赤い鮮血に透明な液も混ざっていく。

「上の口よりも下の口の方が正直なようだなぁあ!?」
「そん…な事は…(無い――)」
「てめぇの所為で――」

 ここぞとばかりに恨み事を言い始めるならず者。

「てめぇの所為で何度フォルテに逃げられた事か!」

 ならず者達の一番人気と称される賢者のフォルテ。
 幾度となく致命的と思われる罠に嵌るフォルテ達であったがそれが
 コトネとセレニウスのお陰で何度も取り逃がす事になった。
 その度に"ボス・ギルドボ"に文句を言われたものだ。

「犠牲にしてもこんだけ囲まれてちゃあ、どうしようもねーよなぁ」
「ふん…主…を護るのが…騎士…はぁうん…のぉ…務めぇ…う…まだ…」

 処女を散らしたばかりの秘所は痛むものの、ならず者達に身体中弄られ
突かれる度に、感じているわけでもないに自分の物とは思えない淫猥な声を漏らしてしまう。

「その騎士様とやらもこうなったらおしまいだなぁ?
 と、時間もねぇんだったな。その騎士がどうこうって五月蝿い口も塞いでやれ!」

 そう言われるまでも無く、ならず者の一人は既にセレニウスの頭の上で
凶悪な太さを誇るギンギンにいきり立った陰茎を見せつける。

「何を――」

 ずいっと鼻先に凶悪な臭いを放つ陰茎を擦りつけると、
すっと下にずらしセレニウスの口に無理矢理それをねじ込んだ。

「はぅぶ…ん……」

 なんとも言えない臭さのそれを咥えさせられる。
 セレニウスの頭を掴むとその陰茎を扱くように強引に前後させる。
 この屈辱的に行為に抵抗をしようとするものの、その大きさ故に口は大きく広がったままで
それを噛み切る事など出来なかった。

「ふはは!!歯を立てる力も無ぇか!!!」
「ぶ…は……」

 言われるがまま、されるがまま、肉体を蹂躙されるセレニウス。
 いつしか秘所の痛みは快感へと変わり、その快感の波に飲み込まれようとしている。
 セレニウスはそれを必死に自分の理性が弾け飛んでしまわないように堪える。

(これは違う…こんなのは…わたしじゃない。飲み込まれちゃダメ…ダメ…)

「く…そろそろ、出すぞ!!」

 セレニウスを前から貫いていた男が非情な言葉を投げかける。

「んんんん…んぶ……」

 本能的にそれは嫌な行為と察したセレニウスは、必死に抵抗をする。
 ならず者達に押さえつけられているために、僅かに腰を捻っただけで何も変わらなかった。

「そんなに欲しいってのか!!」

 寧ろその腰捻りが男の絶頂を早め、男はモノを深く突き入れる。

 次の瞬間、

 ドピュ! ドクッ! ドクッ!

 熱い液体が膣内に流し込まれていった。

「んんんんんんんんんんん!!!」

 セレニウスは大きく目を見開き、その熱いモノが何かを思い起こした。

 目的を果たしたならず者は陰茎をセレニウスの陰部から引き抜く。
 同時にぱっくり開いた赤い花弁からドロっと白濁液が溢れ出る。

「おいおい、一発目から膣内射精かよ…後の事を考えろって――」
「時間がねぇんだからしょうがねぇだろうが。
 それにいい潤滑油になってると思うぜ?」

「こっちも行くぞ!」

 セレニウスの口を陵辱していた男根からビュルビュルっとドロッとした生臭い液体が
勢いよく喉元に吐き出される。

「んぶ…う――」
「全部飲めよ。これがテメエの食事なんだからよ?」

 セレニウスの鼻を摘み無理矢理それを飲み込ませる。

「う、ふぅ…」

 ゴクンと喉が鳴る音がする。
 それで満足したのかならず者はセレニウスの口を解放した。

「げほ、げぇ――」

 思わず吐き出そうとするが、その口を別の男根が塞いでしまった。

「んむ――」

「おい、ちょっと持ち上げてくれ」

 ならず者達はセレニウスの両膝をもって抱え上げると、口を塞いでいた陰茎は抜けたが、
 順番待ちしていた男は浮かされたセレニウスの尻の穴にその凶器をあてがった。

「オレはこっちを貰うぞ」

 その言葉に震え上がるセレニウス。
 
「よし。下ろせ」

 ゆっくりとセレニウスの腰が下に落ち、尻穴にあてがわれた男根が沈んでいく。

「い”や”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ” ! ! !」

 痛みの余り、目を見開いて背中を反らし、目から涙が溢れ出る。
 そんなセレニウスを余所に、男は腰を揺らし、アナルを陵辱する。

「ちょっと倒せよ。前が空いてるんだからな――」

 そう言って、セレニウスの上体を後ろに倒され、
そのぱっくりと開いたままになっているヴァギナに陰茎を挿入していく。

「抜い…うぶ…」

 セレニウスが懇願するがその口を再び男根が塞いだ。

「うるせーって。喋ってる暇あったらその口でしっかり奉仕しろや」
「ん…ん…うむ…」

 アナルとヴァギナ、そして口まで犯されたセレニウスは突かれる度に
くぐもった呻き声を漏らす。


 狂乱の宴はまだ始まったばかりであった――



【05/01・07:30―『王家の聖櫃』最後の抵抗】 飛ばす↓

「んむっ…」

 コトネ達が代わる代わる嬲られ続けて一時間は経っただろうか。
 セレニウスはならず者達の"責め"は処女開通以降は単調な物であることに気付いた。

「ん…うん…ふぅあ……」

 敏感なところを弄繰り回しその反応を見たり、卑猥な言葉を投げかけ羞恥心を煽る。
 最初のうちは秘所の痛みや羞恥のためそれらに翻弄されていたが、快感から断続的に飛びそうになる
意識を抑える事が出来れば―これが難しいが―我慢できない事も無い。
 それほど"調教"が作業化してきていると言う事なのだろうか。
 コトネとフォルテに人気があることが幸いしてかセレニウスに周辺の人数は彼女等に比べて
比較的少ないように見える。
 そのため、少しずつではあるが、集中する"時間"が出来ている。
 もっとも、こうやって冷静でいられるのは右腕の痛みによる物が多いわけであるが――

「おい。俺で何人目だ?」
「んなの知るか」
「っと、まだまだ締め付けてくるんじゃねぇか」

 時折思い出したようにセレニウスの乳房を揉み、敏感になった乳首を摘む。
 ビクッと震えるとそれに反応して男根への締め付けも強くなる。

「んぐぅ――んっん……」

 ここから脱出するためにはここにいる全員を動けなくする必要がある。
 なぜならば、全員が全員に対しての人質であるからだ。もし、一人でも漏らしたら、
その一人がどんな目にあうのか。想像するだけでも寒気がしてくる。
 そうなると一人一人に対してに有効な《勝利》のルーン程度の力では到底敵わない。

 そう。龍神と戦闘した際、負傷し朦朧とした意識の中で思い出したルーン魔法の中に《勝利》
《保護》以外に《捕縛》のルーンなるものがあったことを思い出す。
 あれをこの場全体、いや、少なくとも自分の周囲をどうにか出来れば活路は見出せるはず。

「うん、ふぅん、んぷ――」
「何で、こいつの口を塞いでやがるんだ?」
「動けない癖にまだ反抗的だからさ」

 そう言って陰茎を咥えこんでいるセレニウスの顎をくいっと上にあげる。
セレニウスの蒼い目は未だに"落ちていない"。
 油断したところで魔法を使われた場合元々のポテンシャルの違うならず者達には対抗出来ない。
 それ故に、常にセレニウスの口を塞ぐ必要があった。

 もっとも、同じように魔法を使える紫の賢者―フォルテは耐性が全く無いのか、
今ではかなり従順になっている。
 口が自由になっていてもならず者達に言われるがままに男達の男根を舐め、尻や秘部を突かれる度に
気持ちよさそうによがり狂っている。

(どうか間に合って――)

 その賢者の嬌声が"聖櫃"内の閉鎖された空間故に一際響き渡り、セルビナやコトネ、
そしてセレニウス達を犯しているいる者達の競争心に火をつけていた。
 彼女達にも賢者同様に自分達の言いなりにする事への――

「喘ぎ声聞きながらのがやってる感じっていうか――」
「んん」

 そう言いながら腰を突き入れるならず者。

「てめぇの趣味とか都合に合わせてたら痛い目見るってぇの」
「んぐ…はぁ…(今に……痛い目を、見せてやる――)

 セレニウスが意識を集中すると、右腕から流れ出している血液が僅かながら微動し始める。
自らの血に直接魔力を這わせ、自身の意志通りに身体の一部としてそれを自在に操る。
魔法修練の初期で自身の鍛錬を目的に行う初歩中の初歩であった。
 セレニウスからは仰向けにされていてそれらの全ての動きを見ることは出来ないが、
"魔力"の迸りを身体で感じる事が出来た。

(これならいけるかもしれない)

 そんな事をしているのを知らないならず者はセレニウスの陰核を弾く。
 身体中痙攣させ背を反らし目を大きく見開くセレニウス。
 意識の集中は中断され動いていた"血"は動かなくなる。

「ん…はぁ…(少しずつ…くっ)」
「大した淫乱だなぁ?こんなによがりやがって」

 セレニウスはそこに触れられる度に痙攣している。
 そんな彼女の秘裂からはぐっしょりと蜜が垂れてきている。

「んふぅ…(今に、見てなさい…)」








 セレニウスが細工を始めて十数分経った。

「ちっ…全く右手動かねーんだな」

 自慢のペニスを扱かせる為に握らせようとしていたならず者は舌打ちをする。
 握らせようとしたセレニウスの腕は腱が切れているのかダランとだらしなく
ぶらつくのみであった。

「ふん。動かせたってかわらねーって。
 こいつまだまだ反抗するつもりみてーだし、左手もこうやって握らせないとしごきゃしねぇ」

 とセレニウスの左手を使って扱くならず者が答える。

「ん?出血が酷いな…死なれたら商品にもならんだろうが。止血を――」
「止血?」
「こいつの右腕の傷から――」

 そこでならず者達の間に動揺が走る。
 ならず者達はその血の流れ出ている先に"何かが描かれている"のが見えたのだ。
 それもかなり大きな文字のようであった。

(気付かれた!?)

 後もう少しだったのに、口が解放された一瞬にルーン文字の持つ魔力を解放する言葉
《stodva》をただ一言言うだけで完成していた。
 それだけでこのフィールド全体に《捕縛》の効果が現れ、ならず者達は動けなくなるはずであった。
 ここまで来てこれは無い、とセレニウスはこの自身の悲運を呪った。

「お前、何をしていた?」

 気付いたならず者はセレニウスを睨みつけ、口を塞がれたままの彼女に問う。

「……」

 セレニウスはただならず者を睨み返しただけであった。

「何も言う気は無いってか…
 おめぇら、下の血文字に触れるなよ!」

 そう言われて始めて気付いたならず者達はセレニウスを下から貫いている者と
口腔を犯している者以外、彼女から離れる。

「ボス。こいつはどうしたらいい?」

 魔術的な物だと容易に判断できたため、"ボス・ギルドボ"に指示を仰ぐ。
 ふわふわ浮いてフォルテ達の陵辱、調教される様を見ていた"ボス・ギルドボ"が
セレニウスのところにやってきた。

「あぁん?
 何だこりゃあ、魔術文字じゃねぇか
 ルーン文字って言ったか?
 もしかして、おめぇらが描いたのか?」
「俺らは知識無いって知っているだろう?こいつが自分の血で描いたらしい」
「手も動かせないのにか?」

 右手はどう見ても動かせるような状態じゃない。左手もならず者によってずっと抑えられている。
その状態からどうやって床にこれだけ大きな文字を書き込めたのか?
 と素直に"ボス・ギルドボ"は疑問に思った。

「分からねー、が、こいつ以外にいないだろう?」
「器用な事をするもんだ――何をしようとしていたのかわからねぇが、水で流してやれ。
 そんな物は今は無いから…小便でいいだろう。
 この手合いは強力だが文字だけじゃあ発動しねぇし、呪文だけでも発動しねぇ」

 ルーン魔法は儀式魔法の一種。即席の魔法と異なり、発動手順は極めて古めかしい。が、その分
天候すら左右する強力な物が多いと言われる。
 それを見破った"ボス・ギルドボ"を流石と言うべきか、セレニウスは平静を装うつもりでは居たが、
下から再び突かれ始めた事により、その眼に僅かに絶望が宿る。

「図星ってか、くっくっくっ。
 おら、おめぇら。早くしろ。時間がねぇって言ってるだろうが」
「了解。ボス
 って事だ。再開と行こうか。このメギツネが」
「心配いらねーってのは分かったけど、こいつは消さなくていいのか?」

 床に描かれた血文字がならず者は気になってしょうがないようだ。

「消してもらうさ、こいつにな」

 セレニウスの秘所から男根を引き抜くと、秘裂に乱暴に指で弄りはじめる。

「ん…うん…んあ…」

 乱暴だが、的確にセレニウスの一番感じる場所を指で責め立てる。
 そこに触れるたびに身体は今まで以上に熱くなり、ビクビクっと反応するセレニウス。
 次第にその蒼い眼はトロンとした焦点の定まらなくなってくる。

(何か…出そう――ダメ、ダメ、出ちゃダメ…)

 何か出そうになるのを必死に堪えているセレニウス。
 その頃合を見てならず者はセレニウスの陰核を抓り上げた。

「んあ…んんんんんんんん!!!!」

 プシャーーーーーーーーーーー

 尿道から小便を漏らすように勢いよく液体が吹き出る。
 それによって血文字は彼女の出した液体と混じり、描き始めの固まっている血の部分は
消えなかったが新しく垂らした部分は呆気なく流れ、やがて血文字は形を失ってしまう。
 放心して力無く項垂れるセレニウスは焦点の定まらない目でその有様を見る。

(消えちゃった…消しちゃった…わたしの最後の力で描いたのに――)

 文字を書くことに"力"の大半を消費した事もあってセレニウスは彼等の責めに対し、
僅かな抵抗さえ示さなくなる。

「う…あぁ…」
「自分で消してりゃ世話ねーぜ。ギャハハハ!!!」
「とんだ淫乱だなぁ?」
「ん…んむむむ…(違う…こんなのわたしじゃない…)」

「さて、これで心置きなく再開出来るなぁ?」
「もう二度とこんな事出来ないようにしなくちゃなぁ」

(ごめんなさい。フォルテ、コトネ、セルビナ……)

 抵抗出来なくなったセレニウスは徹底的に陵辱されてしまった――






【05/01・18:00―『王家の聖櫃』死闘2・レイラPT】 飛ばす↓


 扉を開けると、大きな広間に出た。

《王家の聖櫃》。

 ここがそう呼ばれている場所だとレイラ達には理解した。


 しかし、その本来神聖であるべき場所には、
数え切れないほど無数のならず者達がひしめき合っていた。

 部屋の中では数人の女冒険者達が凌辱の憂き目を見ているようで、
 絹を裂くような悲鳴、くぐもった嗚咽などが男達の下卑た罵声に
掻き消されそうになりながらも聞こえてくる。



 更に、部屋の中央には、天井から吊り下げられた鎖に繋がれた、
 明かにならず者のものとは思えぬ、白く細い手首が力無くうなだれているのが見える。
 ならず者達はその手首の主の付近に群がっているようだ。

 まさか、あれは――

「……ここが、か。悪いが貴様らには死んでもらおう!!」

 眼帯の女性―レイラ―は、吐き捨てるようにならず者達に言った。

「おいおい、今日は千客万来だな」

「貴様がギルドボか。この瞬間どれだけ待ちわびたことか。……貴様
を! この手で! 殺す!!」

「やれやれ、今日一日嬲ってやれば《王女》の調教も完了したものを、仕方ねえ。
 仕上げは新たなアジトに着いてからだ。
 ずらかる準備と行くか。だがその前に────」

"ボス・ギルドボ"は 一行の姿を見て、醜く顔を歪め、嫌らしく舌なめずりをした。

「せっかくの鴨葱だ。逃がさず捕らえて、少しでも財産を増やすとするかな。
 野郎ども、逃がすんじゃねえぞ。この場で調教してるヒマは無えがな、
 逃げる気力が無くなる程度になら、ちと《いたずら》してやっていいぜ」

"ボス・ギルドボ"の言葉に無数のならず者達が一斉に一行の方を振り向くと、
血走った目で一行に襲い掛かってくる。

 いち早く風変わりな格好をした少女―15―はクリムゾンブラスターによる先制攻撃を行ったが
"ボス・ギルドボ"の放った魔力によって無効化されてしまった。

「何!?」

"ボス・ギルドボ"の指揮により、彼女達を囲うようにして四方八方からならず者達は襲い掛かる。

「俺様のギルドが力を得るたび、俺様はチカラを増す!」

 先制したのは"ボス・ギルドボ"の魔法による攻撃であった。
 瞬時に複数の炎の玉が現れ、レイラ達に降り注ぐ。

 避け切れずにレイラ達はその攻撃をまともに受けてしまう。
 が、余裕の笑みを浮かべた女性―カテリーナ―が形成した防御の術で
彼女達への直接的ダメージを軽減する。

 魔法による攻撃をしている間はならず者達は手を出せない。
 その合間を待ってましたとばかりに、力を溜め込んでいた15はならず者達を睨みつける。

「僕の! 怒りの炎は!! もっと熱い!!!
 忍法ゥ!!火遁!!!鳥翔乱舞ぅぅぅうう!!!!」

 風変わりな少女はそう叫ぶと物凄い勢いでならず者達に突撃していく。
 その無謀とも思える突撃であったが、次第に加速していく15の身体は
炎に包まれていく。
 燃え盛る"炎の鳥"となった15は一瞬のうちにならず者達を半分以上屠ると
レイラの元に戻ってきた。

 その少女は身体中の筋肉を酷使する術だったのであろうか、
 小さな身体では最早限界なのだろうか疲労も隠せず両肩で荒く息をしている。

「後は…任せなさい――」

 レイラ、カテリーナ、そして巨大な剣と風の魔法を操る小柄な少女―フィル―が
残ったならず者達の排除していく。

 15の放った"術"で一気に屠られた事もあって既に士気ががたがたになっていた
ならず者達の敗退は目に見えていた。

 "ボス・ギルドボ"の魔法による加勢はあるものの、彼女達に前ではそよ風の如し。
あっという間にならず者達は肉塊と化し、ボスとを隔てる壁は消えてしまった。

 慌てて結界を展開し、再び"ならず者の大群"を召喚しようとする"ボス・ギルドボ"の前に
レイラが切り込んでおり、一刀の元にその肩から胸にかけて切り裂いた。

「うぎゃあああ!馬鹿な、こ、こんな馬鹿な!」
「これで、終わり――」

 "ボス・ギルドボ"は血飛沫を上げ、倒れ伏した。
 荒い息で地に膝を突き、目を血走らせた形相で一行を睨みつける。

「くそ、くそくそ、終わらねぇぞ、終わらねぇ!」

 "ボス・ギルドボ"の気迫に押され、トドメの一撃の手を一瞬躊躇うレイラ。

「俺様が死なない限り、幾度でも、何度でもハイウェイマンズ・ギルドは再生する!
 知ってるか、この最下層への《転移》魔法は封じられてるがな、
 最下層からの《転移》は自由なのよ・・・」

 呪詛の様にそう呟くと、"ボス・ギルドボ"は転移魔法を唱えた。

「しまった!」

 レイラが"ボス・ギルドボ"に剣を突き刺したが時既に遅く、
 "ボス・ギルドボ"の姿は掻き消えてしまった。

 "ボス・ギルドボ"はどこかへテレポートしてしまった。
 それに合わせ、残ったならず者達もあわててわらわらと逃げ散った。





【05/01・18:10―『王家の聖櫃』救助・レイラPT】 飛ばす↓


 累々たるならず者達の屍の中、
 嬲られていた女冒険者達は解放された。

「大丈夫かい?」

 散々陵辱されていた彼女達にはレイラ達の言葉は聞こえていないようで、
強い反応は無かった。

「治療を――」

 言われるまでも無く仕事のように淡々とカテリーナは彼女―コトネ―達に
回復の呪文を唱えていく。
 が、先の戦闘で消耗しきったカテリーナには彼女達を癒す事は出来なかった。
 その様子を見ていたレイラはポンと軽くカテリーナの肩を叩いた。

「カテリーナは休んでてくれ」
「はい」

 レイラ達はならず者達が影に隠れていないかを警戒しつつ、広間の中央、
台座の上に、天井から鎖で吊るされ、オブジェの様に力無くうなだれている彫像のように
見える"人物"に近づいていく。

 それは、紛れも無い、王子の出した御触れにより救出せよと言われた人物、
変わり果てた姿となったセニティ王女その人であった。

 その全身は、まるでヨーグルトの湯船に漬かったがごとく白濁の液で塗りたくられ、
かつての王女として意志の強かったであろう瞳からは、ほとんどその意思の光が消えかけていた。

 だが、一行がその戒めを解き、抱き起こすと、
虚ろに、しかし思いのほかはっきりとした発音で、言葉を発した。

「私…助かった…の……?
 そう…《冒険者》に…助けられたのね……
 ……皮肉な話…ね……」

 とにかく、《王女》の状態はどうあれレイラ達は彼女を助け出す事に成功した。

 多くの冒険者が志半ばで迷宮で散っていく中、
 幾多の苦難、幾多の出会い、そして幾多の別れを乗り越えて、
 ついに、レイラ達は、ついに《使命》を果たした事になる。
 それを思うとレイラは自らの傷つけた右目が疼いて仕方が無かった。

「カリスト、リリス、フィーネ、リムネシア、そして、ハルヒ…わたしは――」

 かつての仲間達の名前。彼女達は今は何処に居るのだろうか?
 だが、感慨に耽っている場合ではない。《王女》を城に連れ帰らねば《使命》は完遂しない。
《使命》を果たす事が無念のうちに散った彼女達への"餞"の一つとなる。
 レイラ達は《王女》を助け起こすと、急ぎ帰還の途を目指そうとした。




【05/01・18:20―『王家の聖櫃』真相・レイラPT】 飛ばす↓


 その時、




「すみません、ほんの少しだけ、待っていただけませんか?」

 背後から、聞きなれない少年の声がしたのだった。
 レイラ達はその声に反応してそれぞれ武器に手をかけ、振り返る。

「姉上を救って頂き、ありがとうございました」

 そう言った人物は、あのハウリ《王子》であった。
 ――なぜ、こんなところに《王子》が、単身で?
 ふと、レイラ達の脳裏にそんな疑問が過る。

「ハ…ウリ……
 ハウリ…なの……?
 何故……どうして、あなたが、ここに……」

 レイラ達一行の疑問を、《王女》が代弁してくれた。
《王子》は《王女》に近づくと、その身が汚れるのも構わず、ぎゅっと《王女》を抱きしめた。

「可哀相な姉上…ラシャから話は全部聞いたよ。
 どうしてこんな…馬鹿な事を考えてしまったの…?」
「ごめ…なさ…ハウリ……
 わた…私は……」

 その言葉を聞いた《王子》の目を開いた。

「どうしたって、姉上は、国主になんてなれなかったのに」

 その声は何処と無く冷たく、そして、悲しいものに聞こえた。

「え……?」
「《龍神の試練》は、ただの形骸的な儀式ではないんだ。
 代々国主には王妃との間に必ず男の子が生まれ、第一王子のみが国主となる、
 そんなシステムが建国以来ずっと続けられてきた、それをただの偶然だと思うの?
 代々の国主継承者は、《龍神》との契約によって、その力をお貸し願い、そして分け与えられた男児を、
必ず授かるのさ。
 だからこそ、必ず「第一王子」が誕生するし、代々王子の力は超常なのだよ」

 口調も変わった《王子》は淡々と説明をはじめる。
 その《王子》の手には、輝くコインが一枚、握られていた。
 それを見た《王女》の、顔色が変わる。

「ディ…《Dコイン》……
 ま、まさか」
「本当に、哀れなセニティ。かわいそうな、哀れな姉上。
 ボクはもう、とっくに《龍神の試練》をこなしてしまっていたんだよ。
 ワイズマンが《龍神の迷宮》を占拠する、二年も前にね」
「う…ウソ……ウソよ…
 ありえないわ…まさか、そんな……
 父上から、お借りしたんでしょ?そう…でしょう?」
「信じたく無いなら、信じなくてもいいけど…
 姉上に信じてもらえないなんて、悲しいな…」

 と心底悲しそうな表情を見せる《王子》。
 《王子》は、一言二言呪文のようなものを唱えると、今度は手の平を開いて見せた。
 そこには、薄緑色に輝く、《龍紋》が、確かに存在していた。

「そ、そんな……何故……」
「姉上がラドランに留学に行ってる時だったかな?
《龍神の迷宮》って、どんなのかと思って、こっそり入ってみたの。
 ホントにたまたまだったんだよ?子供の好奇心って、怖いよね。
 そしたら、最後まで行けちゃって…
 どうやらボクは《龍神》の恩恵を、今までのどの王子よりも強く受けてしまっているようでね。
 戻って来て父上に話したら、凄く慌てた様子で、
『まだ誰にもその事は言うな、特にセニティには』って。
《龍紋》も魔法で隠すように言われたの」
「ち…父上…が……」
「多分父上も、姉上の感情と気性に、薄々気付いていたんじゃないかな?
その上で、ボクにそんな途方も無い才能があると知ったら、何かしてしまうんじゃないかって、
そう思ったんだと思う。
ボクもそれを察したから、それからずっと姉上を立てて、無能な王子を演じていたんだよ。
ああ、誤解しないでね、ボクが姉上を大好きだったのは事実だし、
そんな姉上に嫌われたくなかったからこそ、ボク自身の意思でそうしていたんだからね?」
「あ…あ……」
「でも、そんなボクの気遣いも、父上の気遣いも、全部無駄になってしまったのだね。
と言うより、逆効果だったのかな……。
まさかボクの無能に国を憂いて、こんな大掛かりな事をしでかしてしまうなんて…
ボクが余計な事をせず、全ての才を発揮してさえいたら、
姉上もこんな大それた野心は抱かなかったかもしれなかったのにね…」
「ぉ…ぉぉ……」

《王女》の瞳に宿されていた正気の光は、徐々に失われようとしていた。

「それについては謝ります。
 でも姉上、あなたはもう許されない大罪人になってしまった。
 どんなに庇おうとしても庇いきれない。
 国民も、誰も、絶対にあなたを許さないでしょう。
 ボクは次期国主として、あなたを断ずる義務がある。そうせねばならない。
 それは…わかるよね?」
「う…うふ……うふふ……」
「勿論、事を公には出来ない。そんなことをしたらそれこそこの国は滅んでしまうよ。
 だからあなたには、あくまで『被害者』となって頂く。
 ここであなたが五日間受けたこと、それのみを事実として公表させて貰います。
 そのせいで、気が触れてしまったと、そう言う名目で、生涯軟禁させて頂く。
 でも大丈夫、ボクが毎日会いに行くよ?だから寂しくは無いよ」
「あ…は……あは…あははは……
 あははははははは……」

《王女》の瞳からは最早正気の光が完全に失われ、
狂ったような哄笑が広間に響き渡った――
《王子》は悲しそうに何事か呪文を唱えると、《王女》の意識は途切れ、カクリと首が落ちた。

 そして、《王子》はレイラ達一行に向き合った。

「心配せずとも、あなた達の《使命》完遂の手柄を横取りしたりはしませんよ。
 そのかわり、今ここで行われた会話、全てを胸の内にしまって置く、
と約束して頂けませんか?
 して頂けないと、ボクは国主として、この国を守るために手段を選ばず、
あなた方の口を封じねばならなくなる…
 国の恩人に、そんなことはしたく無いのです」

 "覚悟"を秘めた《王子》の言葉に、一行は戦慄する。
――しかし、それで本当に解決するのであろうか?

「勿論、人の口に戸は立てられない。そんなことは判っています。
 この《事実》を知る者も、きっとあなた達だけでは無いのでしょうし、
ならず者達も完全には駆逐出来ない。
 それでも、事実認定されるよりは、噂話の類に収まってくれれば御の字です。
 王女の純潔がならず者達によって散らされたなどと言う、
それだけで充分国家にとってのスキャンダルなんですから。
 あなた方は何食わぬ顔で、このまま姉上を王城に連れて行き、
救国の勇者としての恩賞を受け取るだけでいい。
 国家を敵に回すよりは、よほど有益な取り引きだと思うのですが―――


 いかがでしょう?」

 15は反論したい事がたくさんあったのか今にも《王子》に組みかかろうと
戦慄いているのをレイラは目で制し、今は首を縦に振り、彼の要求に従う事にした。
 それを見ると、《王子》は元のにこやかな笑みに戻り、

「ありがとう、皆さん。
 ではまた後ほど、王城にてお会いしましょう」

 そう言って、《王子》は《転移》の魔法で姿を消した。




「とんだポーカーフェイスだったな――」

 レイラは《王子》が去った後ぼそっとそう呟いた。

「何故止めた!!
『全くだ。殴らなきゃ気が済まないぞ。俺は!』
 僕は…僕達はこんな茶番のために――」
「殴ったところで何も変わらない…いや、寧ろお前がどうにかなってたかも知れない。
 そう、わたしはアレを…アイツを恐れている。それを笑いたきゃ笑うがいいさ」

 とレイラはぶっきらぼうに答える。
 彼女とて彼等の狂言のために仲間を失っていた。
 15の憤慨も分かるが、それ以上に今ここで彼女をも失う事も嫌だったのだ。

「笑えるものか…」

 15は静かに握り拳を床に叩きつけた。

「この娘達はどうしましょう?」

 とフィル。
《王子》が去ってから残された先ほどまで陵辱されていた女性達を見る。

「竜騎士の連中が降ってきてるはずだ。
 彼等に任せよう――」
「しかし――」
「王女と共に"生き恥"を晒す事になる彼女達の事も考えるんだ。15!
 竜騎士達なら悪い事にはしないだろう…」
「レイラ――分かったよ。でも僕は――」
「今は我慢してくれ」

 レイラ達は気を失った《王女》のみを連れて帰還の途につくことにした。





【05/01・19:00―『王家の聖櫃』呪歌《ガルドル》】

 ――あれからどれだけの時間が経ったのだろうか?

 セレニウスはぼんやりとした頭で自身を見た。
 昨日まで男を知らない無垢なる身体であったのが、今やそれも見る影も無い。
 全身穴と言う穴を貫かれ、白濁液に塗れ、そして、動かない右腕。

「んぐっ…げほ…」

 吐き出されるのは白濁液。忌わしいならず者達の精液。

「出て行って…ください…わたしの中から…」

 儚い願い。既にどうしようもないほど蹂躙されたセレニウスの身体には
 隅々まで男達の精液に侵されている。
 体内に注がれ続け心無しか膨らんだお腹を横になったまま押すようにして、
動かす事の出来る左手で必死にならず者達の出した精液を外に出そうと試みるも
手やお腹にうまく力が入らず一向にそれを外に出す事が出来ない。

「ん……いやぁ…」

 突如そんな声が聞こえてくる。
 その声を聞いたセレニウスは左手で身体の上体を起こし、声の主の元へ向う。
 ところどころ男達の死体が転がっている。コトネ達を散々犯しまくった男達の哀れなる末路。
 それは、"死"だった。

 ズル ピチャ ズル ピチャ

 セレニウスはゆっくりとゆっくりと身体を引き摺ってゆく。
 そして、自分と似たような姿になって白濁の海に沈んでいる、
かわり果てた少女―コトネの姿を見止める。

「コト…ネ…」

 セレニウスがコトネの元に辿り付くと、
やや離れたところにセルビナの姿も見えた。

 セレニウスはコトネの腕を引っ張り、身体を引き摺り、セルビナのいるところまで移動する。
 二人の手が届くくらいまで移動したセレニウスはそこに座り、互いの手をつなげる。

「フォ…ルテ…
 護れなくて…ごめん…なさい――」

 セレニウスの口からは今ここに居ない女性に向けての謝罪の言葉、
 目からは大粒の涙が自然と零れてくる。

「ごめんなさい…皆…コトネ、セルビナ…
 弱くて…弱くて…」

 それ以上は言葉にならない。
 動かない右手を添え、左に人差し指に右腕から出血している自分の血を付け、
左手だけでコトネとセルビナの手の平に"ルーン文字"を描こうと試みる。

「…駄目…ですね…」

 震えて文字にならない。
 魔力が、集中力が充実している時なら宙に描いても文字となり、ルーン魔法として
為すことは出来るが、今の状態のでのセレニウスにはそれが出来そうにも無かった。

「……vidz allir(みんなと)♪Vidz skulum koma aftur(帰りましょう〜〜)♪」

 自然とセレニウスの口から古ノルド語の言葉が、詩が紡がれていく。
 故郷を募る想いを綴り、皆を癒し、穢れを浄化する魔力の秘めた唄…呪歌《ガルドル》。
 そのメロディは何処となく儚げで、何処となく悲しげで、何処となく懐かしさを思い起こす。

 三人の周りに小さな光の粉が舞い、幻想的に照らし出す。

 てらてらと耀く白い肌に纏わりつく白濁液すら、その光景の一部となって映える。

 先ほどまで唸っていたコトネとセルビナは安らいだ顔になっていく。

 少しずつ、その声は掠れ、少しずつ、声は溶け、

 そして、




 消えた――










【??/??・??:??―追懐】


 ――魔道王国の一室。
 親族以外はみだりに入ることが出来ない《魔道王》の寝室。
 "セレニウス"とわたしはそこにいた。

「姉様、姉様。こうやって話すのも久しぶりだね」

 少年"セレニウス"はわたしの胸に向ってポンと飛んでくる。
 多少成長したのか、"セレニウス"の頭の毛がわたしの鼻を擽っている。

「《魔道王》たる者がそのようでどうします。"セレニウス"」
「こんなの姉様の前だけだって」
「お父様とお母様の前でも同じようにするでしょう?」
「うん。そうだね」

 悪びれもせず答える"セレニウス"。

「ボロは出さないように注意なさい」

 いつでもこの小さな魔道王を見る家臣の目は光っている。
 無論、失脚させるためのアラ探しのために。

「今日もグレゴリーのやつが五月蝿くてさ――」

 グレゴリーとは王国議会の有力者の一人。
 事あるごとに幼き少年王と衝突を繰り返す権力に狂った妖怪と称される者で、
権力のみならず、同国魔道学院を主席で卒業したというそちらの力にも秀でし者である。
 数年前の"力比べ"で突如"王"として認められたこの少年"セレニウス"と
何かにつけて衝突を繰り返す一派の代表格がその者であった。

「知っています。わたしもその場に居たでしょう?」
「そうだっけ?
 それよりも…僕の頼んでおいた物手に入れてくれた?」
「当然です。
 はい、お母様からです」

 お母様と言ってもこの少年"セレニウス"とは血の繋がりは無い。何故なら"セレニウス"は
孤児であったからだ。
 セレニアの母親は拾われた子供に"セレニウス"と名を付けた。わたしがセレニアだから弟は"セレニウス"。
安着だとその時は思ったけれど、その日からわたしは姉となった。
 年の離れたわたしをこうして慕ってくれるのは嬉しいのだが、こう見えても"成人"であると思うと
甘えが過ぎるのが気掛かりだった。

 でも、わたしはそれが好きだった――

「お母様の手料理〜〜♪」
「まったく…手料理ならわたしが――」
「姉様はお母様の味にはまだまだだよ」
「"セレニウス"、あなた、わたしに喧嘩売ってる?」

 わたしが睨みつけると少年王はびくっと一瞬震え、
しかし、すぐにいつもの悪戯っこのような笑顔をわたしに向けて、

「ほんとの事だよ。姉様のもおいしいけど――やっぱり違うんだよね」
「口だけは達者になって――」
「口だけじゃないよ。身長だって伸びたんだよ」
「知っています」
「姉様――」
「でも、もっと大きくならないといい娘も寄って来ないと思いますよ」
「姉様――それは…」
「本当の事です。女性より小さい男性は――」

 いつもの会話。
 何もかもが懐かしく、そして、色褪せてきている事にわたしは動揺を隠せない。
 同時に、これらの情景が未だ"わたしの中"に残っている事に驚いている。

 何故ならあの日わたしは――






 その身を焼かれながら、"禁忌"と呼ばれる遥か古の彼方に失われしルーンの一つ、
《復活》のルーンを発動させていた。
 いや、発動してしまっていた。恐らくは本能のような物で身を護るために。

 本来膨大な魔力を必要とする《それ》は、容量の足りないわたしには必要となる魔力を
何かで補う必要があった。

 "それ"がわたしの場合、神槍であった。

 しかし、"それ"を失ったわたしは"それ"無しで《それ》を使っていた。

 鎧に施された《保護》のルーンで軽減出来ているとは言え、かの者の扱った《炎》の術は
非常に強力でわたしの身を確実に焦がし、苦痛を与え、そして焼いてゆく。
 ほぼ同じ状態で身体の維持を出来たわたしは、その《復活》のルーンの発動と引き換えに、
その身を焼かれる苦痛と大部分の記憶とわたしの力の大半を奪ってしまった。

 それが禁忌の力と言われる《復活》のルーン。
――誰かが言ってたかな。大きすぎる力にはそれに見合う代償が必要であると。
 それがわたし自身の記憶や力であったらしい――

 そう、完全に失ったと思われる記憶の断片がここにあることは奇跡に近かった。






 今にして思えば、記憶の断片に残った"弟"の記憶、"セレニウス"の記憶が、
フォルテやコトネを今のわたしにとっての弟のようなものとして認識させていたのかもしれない。

 年下の彼女達を叱責したり、一緒に笑ったり、泣いたり、この身を呈して護ったり――
 そして、それはわたしの魂の拠り所。それがわたしの居場所であったと思う。



「ごめんなさい…"セレニウス"――



 ――"わたし"は帰れなさそうです」




 そして、




 セレニウスの歌声と共に彼女の想いは、




 消えてしまった――












【05/01・20:00―『王家の聖櫃』竜騎士の救助隊】

「三班、十階の制圧完了致しました」
「よし」
「二班。十階玄室の制圧完了致しました」
「ご苦労。二班三班は待機して次の命令を待て!」

 本日正午から制圧に入った竜騎士達は、騎竜と共であればこれだけの時間は要さなかったわけであるが、
ようやくこの最下層の"王家の聖櫃"のあるフロアにたどり着いた。

「隊長。残りは"ここ"だけです」
「"王家の聖櫃"だな」
「はい。王族でもない我々が入ってもよろしいのでしょうか?」
「ハウリ王子直々のご命令だ。"聖櫃"への突撃許可は出ている」
「ハ、ハイ」
「ギルドの人間は見つけ次第捕まえよ!
 抵抗するなら殺しても構わん!
 行けっ!!」

 本来、王家の人間以外の血で神聖な"聖櫃"内を汚す事は許されないのではあるが、
事が事だけに特例も出ていた。

「はっ!」

 部隊長に敬礼をする竜騎士達。
 ガチャガチャと音を立て、"聖櫃"の制圧に入った。






 "聖櫃"の制圧はあっという間に済んだ。
 既に《王女》を救助したレイラ達とすれ違った時に聞いた報告通り、
生き残ったギルドの人間はこの部屋から全て逃走しているようであった。

「生存者は?」

 そう言った部隊長の足元には無数のギルドのならず者達の死体。
 そして、中央よりやや離れたところに、彼等に陵辱されたと思われる女冒険者達が
 寄り添うようにして倒れていた。

「…三名…いや、二名のようです」
「二名か…」
「冒険者登録されているコトネとセルビナ。
 そして、セレニウスは死亡を確認」

 カンテラの明かりを彼女達に向ける。
 その三人は手を合わせて、そして、何処か安らいだ表情である事が印象的だ。
 二人は胸を上下させて呼吸しているのは確認出来るが、
 一人は微動だにしなかった。

「死因は恐らく出血多量によるものかと――」

 見ると、セレニウスの右腕には古傷以外に複数の酷い裂傷があり、
新たに巻かれていた包帯までもが黒ずんでいた。

「ふむ…四人で組んでいるとなると…もう一人は?」
「登録名簿によりますと彼女達は第六パーティ所属。
フォルテなる者が居ません」
「そうか。遅かったと言うわけか――」

 既に制圧した階層にてフォルテという人物が保護されたという報告は受けていない。
 となると制圧以前に何らかの方法で逃げ出した、また連れ出されたのか、
 既に売り払われてしまったと考えてもおかしくないだろう。

「フォルテという女冒険者の捜索も開始しろ、
 確認せねばならぬ事もある」

 ハウリ王子の言では、この玄室に居合わせた者達、つまり、レイラ達同様、彼女等は
《王女》やギルドについて何か詳しい事を知っている可能性があるとの事であった。
 そのためには居なくなったと言う冒険者も一度捕獲する必要があったのだ。

「しかし、可哀相にな――こんな目にあって、まだ責め苦を与えると言うのだからな」

 しかし、その責め苦を強いるのは我々竜騎士である事を思うと、
 何の因果かと呪いの言葉を吐きそうになった。





【05/02・08:00―クルルミク城下町『診療所』】

 コトネが目が覚めるとベッドに寝かされていた。

「ここは――」
「クルルミクの診療所です。コトネさん」
「わたし…助かったんだぁ――」

 意識を取り戻したコトネに向って魔法をかけている治療師は
ニコっと笑いながら治療を続ける。
 安心出来る笑顔だな、とぼんやり天井を眺めていたコトネははっと何かを思い出した。
 いつも一生懸命で、いつも儚げな紫の賢者の事を――

「ねぇ?フォルテは?フォルテは何処?
 何処なの?教えてよぅ…何処なの……」

 コトネは治療を続ける治療師に食って掛かる。
 無論治療師は知るわけも無く、彼女から目を背けただ無言であった。
 コトネは紫の賢者の《あの言葉》を、最後に聞いた忌わしき《あの言葉》を思い出し、項垂れた。

『…はい。私は哀れな奴隷でございます…。どうか…どうか、優しく扱ってください…』

「フォルテ…そんなの無いよ…そんなの嘘だよ…ねぇ…」

 コトネの声は部屋の中に空しく響いたのだった。








「ところで、セレニウスは何処なんだい?」

 同じように診療所に運ばれ、そしてコトネとは対称的に平静を取り戻しているセルビナ。
 彼女もまた、ギルドボとの戦闘で受けた傷を癒すためにこの診療所に運ばれている。
 傭兵ともなれば"ああいう目"に会う可能性を一番知っていただけに、
それほど大きなショックは感じられなかったのだ。
 そのためか、コトネと違って精神的に安定していたため、
個室ではなく複数の女冒険者との相部屋であった。

「こっちには運ばれていない」
「そうなのか?なら、いいけど――」

 あたしは妙な胸騒ぎがしていた。
 あの日の記憶。彼女はあたし達に向って何かをしていたような気がした。
 あまりに曖昧な記憶で正直それが幻かどうかと問われると自信は無かった。

「でも、良かったねぇ?
 処置が遅かったら、死んでいたかも知れないんだからね」

 人の気も知らないで物騒な話をころっと言うものだ。
 だが、命の取り合いをしていたのだからその可能性も有り得たことを否定出来なかった。

「処置?誰かが治療をやってくれたって事かい?」
「みたいだよ?竜騎士様方かもねぇ?」

 竜騎士に助けられたのは、その日の十九時だったという事だったが、
 セルビナにはもっと長く時間が感じられた。
 二日後にも、三日後にも――

 診療所ではセルビナ達以外にも大勢の女冒険者達が運び込まれていた。
 皆竜騎士や身内によって保護された娘達だということだが、
 それ以上に見舞いに来たというパーティメンバーや関係者が多かった。
 その一人にアベルも居たわけだが、見舞いに来た彼にお腹が減ったとセルビナが言うと
何処かに行ったっきりであった。

「何処まで行ってるんだか――」

 自然に溜息が出てくる。
 今のこの場を賑わしてる話題はセニティ王女が救出されたという話であった。
 セニティ王女を救い出した女冒険者達が居たという事だが、彼等の話しを聞いていると
その特異な風体からそれがセルビナを解放してくれた人達であったことを思い出す。

「………ん?」

 ボーっとそんなふうに他の女冒険者達を見ていると、衛兵達がセルビナの方に向ってきた。

「セルビナ殿、ですな?」
「あ、ああ。何の用だい?城の衛兵が」
「《王子》の命により、貴女には王城に出頭してもらいます」

 と、衛兵は指令書を見せる。

「何?あたしらは何もやっちゃいないよ」

 何もやっちゃいない。
寧ろ、何も出来なかった自身の無力さに怒りが込み上げてくる。

「確認したい事、があるそうです。
 嫌でしたら力づくでも、と――」
「分かった分かった。あたしは怪我人なんだ。優しくしてくれよ」

 力づくで来られたら怪我をしているセルビナには勝ち目が無い。
 別に負い目があるわけでも無く、彼等の用件に従う事にした。

「ご理解頂き感謝します」

 と衛兵は馬鹿正直に礼をする。
 城の衛兵で無ければその背中にどついてやるところであるがそれは我慢し、
セルビナはその男の後についていくことにした。

「姐さん?」

 とアベルの声。
 その手には見舞いの品だろうか、たくさんの果物が入ったバスケットがあった。

「アベル。ちょっと野暮用があってさ」
「野暮用なら俺が――」
「コトネも心配だから、そっちに行っててくれよ」

 セルビナは衛兵について診療所を出て行ってしまった。












 それから暫く経ってセレニウスが死んでいたとセルビナは聞かされた。














































【??:??―クルルミク城下町―ばいばい】

 ――数年後――


「これが《英雄の像》…ねぇ」

 背の高い長い金髪をポニーテールに纏め上げた女性はそれを見て微笑んだ。

「そう。《英雄の像》。
 僕には嫌がらせにしか見えないよ。
『そうは言いつつ何度も見に来てるじゃないか?実は気に入ってるんじゃないのか?』
 そんな事は無い!たまたま仕事のついでに、だから――」

 背後から少女が語りかけてきた。
 あの時同様に一人で"騒がしい"のが印象はそのままのようであった。

「今や観光名所の一つになってるわけですよね」
「まあね。でもこんなの見て本人喜ぶとでも思ってるのかね?
『内心嬉しいくせに――』
 黙れ!」
「さあ、お偉いさんの考える事は分かりませんから」

 金髪の女性は少女の一人でのやり取りを見ながらクスクスと笑った。

「あんたの身内も例の事件の関係者かい?」

 例の事件。
 真相を巧妙に隠されたあの忌わしい事件。
 あの忌わしい龍神の迷宮での出来事を今でも少女は覚えている。
 心の大きな傷として――

 あの事件に関係した金髪の知り合いなど何人もいたが――

「そうですね。なんとか持ち直しましたよ」
「持ち直した?あんたも…その…被害者なのか?」

「風の噂で聞きました。
 フォルテは残念ですが…コトネとセルビナは逞しく生きているようで――」

「フォルテ?コトネ…まさかアンタは――
 いや、そんなはずは――」

 フラッシュバックしたのは、一人の死体となって冷たくなっていた女性の身体――
 あの時、《聖櫃》に駆け込んだ時はまだ生きていたあの女性の事。

「お久しぶりです。数字の人」
「―――セレニウス、か?」

 そういって、振り返る女性。
 あのハイウェイマンズギルドの"ボス・ギルドボ"との死闘。
 あの日に亡くなった女性―神官戦士のセレニウス。
 少女はあの時の自身の判断の誤りをどんなに呪った事か。
 彼女の顔はその女性と瓜二つであった。

「はい。でもハズレです」
「違う、と?」
「初めまして、です。
 今は、わたしはルーン騎士のセレニア・アールストレームと申します」

 そう言って柔らかな物腰で深々と"セレニア"は頭を下げた。

「ルーン騎士?
『失われた古代ルーン文字を扱う騎士か』」
「失われては居ませんが…」

 "セレニア"は遠い目をする。

「しかし、僕はあんたが死んだと聞いたし、実際に死体も――」
「偽装です。わたしが頼んだわけでも無いですが――
 わたしはあの後、これを得て《復活》のルーンより全ての記憶を取り戻しました」
「何?
『《復活》のルーン?これ?』
 一体何の事を――」

 ヒュンと"セレニア"が一振りして見せたのは穂先が三叉に分かれた槍―三叉戟。
 何の変哲もない槍に見えるのだが、それに秘められた力はかなりのものに見える。

「それは――」
「レプリカですけどね。大地の精霊武器…"アース・ディザスター"の名を与えられた槍です。
 大仰な名前ですよね。わたしが付けた名前では無いのですが」
「団長!セレニア団長!」

 遠くからそう女性の声が聞こえてくる。

「ん?団長?アンタがか?」
「ええ、20人ばかりの小さな傭兵団の団長をしています。
 ご用向きがあれば、是非」

 と小さな書状を手渡す。

「アールストレーム傭兵団?
『ほう』」

 アズライトなる者がその傭兵団の長だとそれには書いてある。
 傭兵団の本部らしい住所も書かれてはいるが、クルルミクからは
大分離れたところにあるようであった。

「わたしが言うのも何ですが、粒揃いのいい傭兵団ですよ。
 ――こちらです。ヤーウェ」

 "セレ二ア"は《英雄の像》を走って横切ろうとしていた女性に手を振る。
 栗毛色に丸く大きな茶色の瞳が特徴な、年のころは十五くらいの幼さの残る
顔立ちの可愛らしい少女だ。その手にはその少女には似つかわしくない
長剣と言えるほどの大ぶりの小剣を抜き身で持っていた。

「"このようなところ"におられましたか。アズライト様がそろそろご出発を、と」
「お祖母様が?分かりました」

 "セレニア"は像の前で会った少女との話を止め、"セレニア"を呼んだヤーウェ
と言う女性の方に足を向ける。

「久しぶりに楽しめました」

「今度、今度来た時に飯食っていかないか?
『安くするぜ?』」

 くいっと自分の定食屋の方角を指差す風変わりな少女。

「今度…そうね。考えておきます」

 "セレ二ア"はクスっと笑う。
 振り向きもせず、金のポニーテールを揺らしながら、

「Funfzehn.. Auf Wiedersehen」

 と、最後に"セレニア"は言った。


























-F.I.N-
:欄外:

※お詫び
まずお詫びを。
実際のキャラの口調や性格と異なる表記をしているかもしれないので
それについて最初にお詫び申し上げます。


※エピローグ
・セレニウス 王家の聖櫃での陵辱。そして、救助――


ノーマルエンド陵辱編
他キャラとの整合性無視の最初に準備していた結末。
最後まで守り通せなかった彼女の思いと共に――

セイル&アーリアを入れないようにした話なので途中がすっぽ抜けていますが、
それほど無理は無いでしょう…最終話の「ばいばい」を除けばですが。
少しずつコンプしていくレポートにてその辺の話も書ければとは思いますが。

※セレニウスのルーン魔法・最終話っぽく複数存在を明らかに
《勝利》のルーン。言葉はteiwaz(ティワズ)。
 武器に魔(神)力を帯びさせ攻撃力アップ。ぶっちゃけ、
 セレニウスが今回したような素手にこのルーンは意味が無い。
 つまり"死闘1"時は"気持ち"強くなったような気がするだけだったりする。
《保護》のルーン。言葉はalgiz(アルジズ)
 魔(神)力による物理・魔法ダメージ軽減。
 本来、可視化しないで身体中に覆う程度だったりする。可視化してしまった
 理由は全員を護るため。勿論可視化した分魔力消費も早くなった。
《捕縛》のルーン。言葉はstodva(ストゥーヴァ)
 場にかけるルーン魔法。場全体に"捕縛"の効果を付加させる。
 またの名を《停滞》のルーン。対象は自分以外全てになるので、実際に発動させていても
 "貫かれた状態"から脱出出来たかどうか不明だったりする。
《復活》のルーン。禁忌のルーンとされる強力な回復系ルーン。
 とはいえ定義により"死者"の蘇生は出来ない。復活は同時に浄化の力でもある。

※呪歌《ガルドル》
魔法と少し違った系統に属す、魔法の歌。
ルーン魔法文字が"古の魔法文字"であるなら"古の魔法言語"で行使される歌。
歌そのものに意味を持ち、力を持ち、聞き手に様々な"効果"を得る。
が、歌い手自身はその効果の影響を受けない。
※古ノルド語
ルーン魔法起動、呪歌等で使われる言語。
であるが、ここでは《古ノルド語》ではなく近いと言われる"アイスランド語"を
使用しています。文法とか詳しい人はスルーを(ぉ

※レイラPT
カオスなのでセニティはともかくコトネ達を救助していかない
を前提にしました。一応辻褄はあってるとは思いますが――

※陵辱表現について
ぶっちゃけ自分の稚拙な表現に頭を傾けています。

イメージとしましては、行為に拒絶し、よく叫ぶ娘。
罵声・威圧→丁寧 な言葉に変わって行くという感じか
しかし、敢えて省略。

※飛ばす↓
作中のテキストをほとんど引用しているため
あえてショートカットをつけました。
飛ばせない部分からがエピローグなのです。




・最後に…

コトネ嬢
うちの中では最終的に「N-盗賊」であると思っていますヽ(´ー`)ノ

フォルテ嬢
姫と言うことで壮絶に散ってしまった事を残念に思います。
セレニウスとしましては、最後まで守りきれなくてごめんなさい、と。

セルビナ嬢
頼れる人として、いつも居なくなるセレニウスの代わりに
彼女等を引っ張っていってくれた事に感謝。
"常に"フォルテの傍に居たのは、"常に"フォルテを支え続けたのは、
コトネでもセレニウスでも無く"売渡"持ちの彼女
だったりするのは実に面白かったです。


セレニウス

セレニウスという女性について。

超潔癖で真面目で融通の効かない女騎士。
女性らしい側面を持つ物の、表の顔は極力
厳しいキャリアウーマン的なイメージ。
性的な事には疎く、落ちやすいのが弱点と言えば弱点。

人が周りにいるときは毅然、気丈であるが、
一人になった途端弱気も見せる。
他人に弱気、涙を見せる事が恥かしい。
そういうタイプ。

カオスの面々から見れば、反吐の出るような良い子ちゃんキャラ
というのも意識していました。

ワイズナーな中ではそれをイメージしやすい行動、
傾向な事柄ばかりだったのが良かったなぁと。

最後にネタバレの一つ「追懐」


元々、ここまで粘るのは予想にもしておらず(もっと早いペースで女性達が落ちていくと
予想していた所為もあり)名声1はやり過ぎたなと中盤以降反省していた毎日で――

最後の最後でおいしい役回りに為れた事を神のダイスことDPC様に感謝(゜▽゜)





オニヘイ

一言:自重(笑


アベル

一言:ガンバレ(何







整合性をあわせた話も作ってあります。それはこちらへ

※アズライト・アールストレーム
アズライト様。とヤーウェに呼ばれる老婆。
非常に強かった聖騎士で、セレニア以外では団員で彼女に勝てる者は居ない。
レポート飛ばしまくってるため説明が為されていないが、
"セレニア"を治療介護した老夫妻の一人。
※セレニア・アールストレーム ― Serenia Ahlstrom
アズライト、トーマスのアールストレーム老夫妻の孫として
彼らの最後を看取るために養子として活動する事に決めた時の名前。
養子であるが、老夫妻にとっては孫としての認識され、
まるで孫娘を可愛がるように扱われる。
この時点でセレニアは30歳は越えているようだが、10〜20代くらいの容姿で
ワイズナー事件の時よりも若返って見える。
※アース・ディザスター
"大地の災害"の名を与えられた槍状の武器。
地の精霊武器「土の神槍」のレプリカ武器。所謂劣化コピーであるが、
成長させれば魔法武器としてはかなりの強さを誇るようになる。
この武器にこの名前を与えたのは別の人。



なんとなく"来る"ものがあったので封印しようとしていたバージョンを
敢えて前に押し出す形にしました。
心中お察しくださいませ。





文責:織月

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