かの迷宮で娘を失った時、自分には何もなかった。
 だが、諦めるつもりは更になかった。
 だから、一番簡単な選択をする手段を獲ることにした。

 幸い、自分の持つ技術は彼らにとって有益なものであったので、入り込むのは容易かった。
 しかし、下っ端よりもマシな程度の身では、娘の居場所を知ることは出来なかった。


 った。
 した。
 した。

 数々の女たちをなにより自分自身を自らの意思で要求されるままに造り替えた。


 娘のいる場所に近づくためには、少しでも地位が必要であったから。

 ただの一度も、過ちを犯すことはなかった最初に、過ちを犯していた

 合い競うモノに裏切り者の名を被せられた時には、証を立てるために自ら左目を抉った。

 こんな簡単なこと心の一つも損なわない行為で、自分を信じる彼らが可笑しかった。






 幾年を経て垣間見た彼女は、とても美しかった。

 肌は更に白く、黝々くろぐろとした髪はその艶を増していた。
 整ったかんばせを童子のような綻ばせて、何も映さないビードロの瞳で微笑みかける。
 それなのに、男に媚びる声は凄惨で誘う手管は既に妖女の域に達していた。

 ……悲しくはなかった。
 そして、嬉しくもなかった。
 ただ、漸く目的を果たせたのだと、理解した。






 ……もはや少女とは呼べない女を言い値の倍額で買い取ると、信頼できる者に金子とともに預けて彼女の郷へと送ってもらった。


 古い記憶思い出を徐々に消していく薬を持たせたので、いつかは正気に返るかもしれない。
 そのとき彼女は、新しく積み重ねた記憶思い出ととも生きて行ければ、と──願う。




 自分は地獄に落ちるのだから、二度と再び彼女に会うことはないのだなと、不意に思った。

 ……地獄を信じたことなど、ただの一度もなかったこの世こそが地獄なのではないかとさえ思ったのに、と──自嘲する。

 澱んだ意識が、再び沈み始める。

 これが最期なのだと、自覚する。

 ──ああ、だから、
 二度と彼女が自分に会う地獄に落ちることがないように、と──願った。