宵の口、

ハウリ王子は、突然に響いた異音、

何かが粉となって崩れるような音ともに、目が覚めた

 

「………?」

 

《王子》の部屋の床には、灰まみれの、全裸の女が身体を丸めて這いつくばっている

 

「う……
ハ…ハウリ……王子殿…下?」

 

現れたのは、セニティによって転送された、ラシャだった

ここは・・・まさか、ハウリ王子の私室?

 

「あれ?キミは……
確か姉上の従者騎士だった、ラシャだね。
久しぶりだなあ。もう何年も会わなかったけど、
姉上の密命か何かで遠くに行ってたのかしら?」
「……」

 

ラシャには、少しの違和感があった

常識的に考えて、"己の部屋に突如裸の女が現れた"

そんな《王子》にとってはとんでもない異変であるにも関わらず、

まるで世間話をするかの様に軽い口調で《王子》はラシャに話し掛けてきたのだ

その時、ラシャの頭の中に、何かが閃いた

 

ラシャは、一瞬だけ逡巡し、

そして────

《王子》に"全て"を話す事に決めた

長い話が終わった

《王子》はほとんど相槌も打たずに、ただ黙って聞きいっていた

 

そしてしばしの沈黙があった

ラシャは《王子》の前で片膝をつく格好で灰溜りの上で畏まり、

王子の次なる言葉を待ち続けていた

すると、

 

「早く、言ってくれれば良かったのに」

 

《王子》は、にこやかな笑みを浮かべ、

その手をラシャに触れようと延ばしてきた

 

「殿下ッ……
いけません、私に触れられては、お召し物が……!」

 

しかし《王子》は何言かを唱えながらラシャの頭上にその手の平を乗せ、

呪文を詠唱し始めた

やがてその手の平から淡い燐光が発せられたと思うと、

ラシャの全身の表面を、シナプスの様に駆け巡った

 

と、《王子》は、突如、ラシャに抱きついてきた!

「きゃあっ!?」

不意を打たれ、されるがままに慌てたラシャだったが、

抱きついてきた王子の、衣服が灰になる様子がない

「ほら、もう平気だよ」
「え……」
「国主継承者にのみ口伝される、《龍の灰》の秘術、
姉上が独力で物にしていたとは、驚いたなあ。流石姉上だなー。
でも、解呪の方法も当然あるんだ。
昔父上に習ったんだよ。忘れてなくて、良かったあー」
「そ、そんな、まさか……
こんな…簡単に……」

 

驚き呆けているラシャを尻目に、《王子》はその肩をポンポンと叩くと、

ベッドから毛布を引っ張り、ラシャにかけてやった

 

「さてラシャ。教えてくれてありがとう。
真相がそういうことだと判った以上、このままにはしておけない。
でも、本当の事は、とても皆には言えないよ。わかるよね?」
「は…はいっ」
「どうするのが一番良いかなぁ…
国民や冒険者達にショックを与えず、他国に付け入らせず、なおかつ姉上の名誉も最低限守れる方法…
うーん……」

 

ラシャは思った

国民の誰もが、ラシャも、セニティでさえも凡庸と思っていたこの王子は、

もしや・・・

翌朝、現国主ビルゴ王子の名の元に、

ワイズマン討伐よりも優先されると言う新たなふれが発表され、

国民と《冒険者》達を驚かせた・・・

 

† 使命 †

< 『龍神の迷宮』最下層にて捕らえられたセニティ王女を救出せよ >

 


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