「最悪で最愛の女」

 

ワイズナー序盤で脱落した彼女は性奴として
疫病の蔓延する土地に住む病弱な富豪の下へと売られていった。
しかし、この悲惨な状況が逆に彼女の運命を好転させるきっかけとなる。

ユリーを買い取った富豪は
もし体が強ければ山を越えてこの街を出るだけの財力を持っていた。
しかし元々体が弱いことに加えて彼もまた疫病に侵されており、
それが出来ない状況にあったのである。
死期が近いせいか性奴隷であるユリーを欲望のままに
抱くこともなければとても優しくしてくれた。

おかげでユリーは正常な精神状態を取り戻すことができたが、
それが功を奏して富豪自身の命を救うこととなるのである。

本編ではまったく役に立たなかったユリーだが、
この地域で不治の病と恐れられていた病を
治療する魔法を偶然に習得していたのである。

富豪は数年ぶりに病床を離れ健康な体を喜んだが、
治療後しばらくすると、また必ず同じ病に感染するのである。

つまり富豪の命の手綱はユリーの手中にあり、
かかる理由からユリーは日に日に発言力を持つようになった。
そして、それに便乗してどんどんワガママにもなって行った。

「なんでお風呂にバラが浮いてないのよ?」
「ほら、そこ、もっとキビキビ働きなさいよ」
「こら、ご主人様、紅茶がぬるいわよ!!」
「鏡よ、鏡よ、鏡さん、世界で一番の巨乳は・・・ヴァイオラ?うん、ま、まぁ、そこは仕方ないな」

屋敷の使用人を私物化し、
屋敷の主である富豪までもパシる始末。
性奴隷の癖に元気になった富豪には
髪の毛一本触らせない。
この女正直サイアクである。 

ユリーがこの屋敷に来てから二度目の春が来た。
彼女を屋敷に招き入れた男は
乗馬を嗜んでいる最中に、
突然心臓麻痺を起こし二度と帰らぬ人となった。
とても日差しの暖かいのどかな日のことだった。

屋敷で働く周りの人たちはユリーのワガママのせいで
ご主人様が死んだのだと陰口を叩いたが、
このとき一番涙したのは他ならぬユリーだった。

主を失った彼女は奴隷の身分を解放され、また旅へ出ることにしたが、
亡き主との契約の証である首輪を以後片時も離すことはなかった。

【完】