「…さて、これは…どうしたものだろうね…」 シャーロウ・エクスタは困惑していた。 …冷静に思い出してみる。 たしか一階でクレールパーティと別れて酔っ払い二人を運んで二階に上がった。 …ここまではいい。 その後、とりあえずミューイを部屋のベッドに寝かせてミューイの部屋を出た。 …ここまでもいい。 その後、クロジンデの部屋に行き、同じくベッドに横たわらせる。 泣き顔も新鮮でいいなぁなどと思いながらもグッと自重してシーツをかけて部屋を出た。 …ここまでは間違いない。 んで、添い寝してあげようとミューイの部屋に戻ってみた。 なんかミューイがG・エルフに襲いかかられてるし。 「…もぉここまで唐突だと、いつの間に忍び込んだのかとかどうでもよくなるね」 ふるふると頭を振って誰にともなく一人ごちるシャーロウ。 マウントポジションを取られて足をじたばたさせて必死に抵抗するミューイだが、それこそビグザムにザクマシンガンだ。 「ちょ、ちょっと!冗談厳しいですよ!?フリーデリケさん!!」 いきなりの惨劇に酔いもすっかり飛んでいるようだ。 ガチな表情で、脱がされまいと服をガード。 「フッフフ、騒いでも無駄にょろヨ?こんな時間にこんな場所を通りがかる奇特な御仁なんておりませへんでぇ〜」 手をワキワキと動かしながら笑顔で迫るフリーデリケ。 それでもまわりを誰かいないか見渡す。 と、シャーロウの足が目に入る。 「そこの人!誰かは知りませんがたぁすけてぇぇえ〜〜!!困ったエルフの人に犯されるぅ――!」 なぬ?とフリーデリケ。 幽鬼のごとき謎の迫力で振り返る。 「ウムム…ミューイたんとの逢瀬を邪魔する不届きモノはお〜しおきだべぇ〜」 そんな二人と目が合った。 「シャーロウさーん!」 「あいやシャロ〜ンではあ〜りませんか?」 地獄に仏!とばかりに満面に歓喜の笑みを浮かべるミューイ。 しかし、Gエルフも大して焦った様子も見せない。 それどころかニンマリと笑いながら手招きとかしてくる。 「シャーたんも参加するでごわすかにゃー?」 「…え?」 サッと青ざめるミューイ。 しまった、その可能性を忘れてた!。 「…フフ、そのまま僕もおいしくいただこう…と?」 「モチのロン!ひんにうムスメを両手に花とかばーさんの夢ディスヨ?」 眩しいばかりのいい笑顔でサムズアップのGエルフ。 ソレはソレでどうだろう。 「…クク、花は花でも僕は毒草だよ?」 「なんの!毒を食らわばテーブル丸ごとガブガブガブリンチョとか言うですヨ?ヨ?」 「…流石の物言いだねぇ、ではお言葉に甘えて…」 すたすたと二人に近付いていくシャーロウ。 「はわわっ!シャーロウさん!冗談キツいですよー!?」 再びじたばた暴れ出すミューイ。 ところがシャーロウは、そのまま二人を通り越して窓枠に足を掛ける。 「あれ?」 「ありょ?」 怪訝な声をあげる二人。 「…なんてね、ま…今回は遠慮しておくよ」 そう言って窓から身を乗り出す。 「シャ〜ロ〜ン!カァムバァ〜ック!!」 ノリだけで叫ぶGエルフ。 でも頭をポリポリ掻きながらミューイに視線を戻す。 「…はぅ…シャーたんともエロい事したかったにゃー………でもばーさんくじけない!エルフってなんだ?それは振り返らない事!気を取り直してモッタイナイお化けが出ないようにミューイたんだけでも…」 じゅるりと涎を垂らしてケダモノの目で笑う。 「いやぁ――っ!」 「にゃははは、さぁミューイたん〜おぢさんと気持ちイイ事するヨロシ♪」 左手で服の上からミューイの小振りな胸を揉みしだき。 右手はミューイの少年のような小さな尻を撫でまわす。 「やっ、そこは駄目です〜」 「ナニを言うディスカ?ここは撫でまわすためにあるんでおぶぱァ!!」 唐突に奇声をあげて前方にブッ飛ぶフリーデリケ。 そのすぐ後ろには、ミラルドが蹴りのポーズのまま立っていた。 「はぅ!い、今の前蹴りは古流武術に伝わる幻の奥義『火神』!」 この非常時にも驚愕と説明を忘れないあたり、流石は雷電式アイテム鑑定術の使い手である。 「な、何はともあれ助かりましたミラルドさん!」 身を起こしながら弱々しく微笑むミューイ。 虎口を脱した小兎といった感じだ。 「…………」 ミラルドは顔を伏せたまま沈黙。 よく見ると全身濡れ鼠だ。 「もう大変でしたよ〜目が覚めたらフリーデリケさんに襲いかかられてるし、シャーロウさんはなんだかどこかに行っちゃうし」 しかし、ミューイはそんなことには気付きもせずに喋り続ける。 「私がこんな目にあってるのにクロジンデさんたら全然来る気配ないし、きっとまだ酔い潰れてるんですよ、だらしないですよね〜」 ミラルドは俯いたまま、何かに耐えるように小さく震えているが、喋るのに夢中なミューイは気付かない。 「でもだいた痛ったぁっ!!!」 不意にミラルドがミューイの頭を鷲掴みにする。 「ちょミラルドさん痛い痛い痛いっ!っっっ〜〜〜ッッ!!!やめてとれるもげるいたいやめてもげるとれる〜〜〜ッッ!!!」 じたばた暴れるが、ビクともしない。 「……この時期なぁ」 地獄から響いてくるような恐ろしい声。 玄関に置いておけば犯罪者避けどころか一家揃って家から逃げ出しそうな感じだ。 「冷てぇンだよ、水が…」 自分の頭蓋骨がミシリと音を立てている。 死の危険を感じたミューイは、なんとか説得を試みる。 「つ、つ、冷たいって水浴びでもしたんでででででで!!痛い痛い痛いっ!」 握力が二割増しになった!。 しかもそのまま片手でミューイを持ち上げる。 「ミューイ…まさか自分がナニしたか覚えてないとか言わないよな……?」 自分の目の前まで掴み上げ、問い掛ける。 「え?覚えてって………あ!あぁ――ッッ!!」 何かを思い出し、大声を上げるミューイ。ミラルドも、そんなミューイの態度に満足したのか、掴んでいた手を放す。 「さぁ、なんか私に言うべき事あるよね」 威圧感ばっちりに睨み付ける。 「そーです!そーなんです」 ポンと手を叩くミューイ。 「ま、あたしも鬼じゃないからキチンと謝れば許してやらんでも」 「ミラルドさんも向日葵の揚げチョコおいしいと思いますよね?」 ヒクっとミラルドの表情が引きつる。 だが、ミューイはお構いなしだ。 「クロジンデさんたら向日葵の揚げチョコがダメダメとか言ってたんですよ?ほら、前にミラルドさんにもあげたじゃないですか、アレですよ」 ね?と上目遣いで聞いてくる。 ミラルドは沈黙。 返事はハナから期待してないのかそのまま続ける。 「前から思ってたんですけど、クロジンデさんって食いしん坊さんなのに妙に拘るトコありますよね?」 なんかミラルドの怒気が噴火直前だが、ミューイは気付く気配もない。 「そう!今日だってスイカに塩かけるのは邪道だとか言うんですよ〜…………あの、聞いてます?ミラルドさん」 流石におかしいと思ったか、ミラルドを見、固まる。 「ちょ、ちょっと待ってください!ミラルドさん!落ち着いて話を」 「あんたってヤツはぁ――ッッ!!」 「いひゃァ――――!!!!」 宿屋に響き渡る絶叫。 聞く者全てが顔を背けて聞かなかった事にしそうな悲痛な声だった。 一方窓から飛び降りたシャーロウは、近くの木陰に座り込んで酒を飲んでいた。 「月見酒か?請負人」 見上げると、そこには『背徳の賢者』シャルが立っていた。 「…クク、乙な肴が手に入ったんでね」 そう言って、どこからかグラスを取り出し、酒を注ぎ差し出す。 「ほう、肴か」 不敵な笑みを浮かべつつも素直にグラスを受け取る。 その瞬間、上方から雷でも落ちたかの様な爆音が轟く。 眉を顰めて見上げるシャル。 が、すぐに合点がいったように薄く笑う。 「なるほど…肴ね」 「…いい肴だろ?」 ほどなく響いてくる鬼神の如き怒声と哀れな悲鳴。 それを肴に二人は酒を飲み交わすのであった。 「そういえば、例の『底無し』に引っ掛かったらしいな、請負人」 「…耳が早いね」 「マスターに聞いた……さて、かの黒い請負人も我が傑作を見破る事叶わず…と」 「…その延々と並んだ人名は何なのかな?」 「デッドリスト…という物を知っているか?」 「………なるほど」 「機会があれば他の者にも薦めてもらえればありがたい、その場合は結果の報告も頼む」 「…一つだけ言っておくけど、僕はすぐに仕掛けを見破ったよ?」 「言い訳か?請負人」 「…心外だな、僕は事実を言ってるだけだよ?」 「僅かでも騙されたのだろう?見苦しいぞ」 「…フフ、どうやら君とはじっくり話し合う必要があるみたいだね」 「いいだろう、幸い酒も肴も充分にある…夜明けまでだろうがトコトン付き合おう」 |