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〜プロローグ 〜
「……父上、何故、私なのですか?」
「お前が一番の適任だろう。実力の上でも、容姿の上でもな」
父は自分では上品だと思っているらしい口髭をなでながら、下品に口を歪めて笑った。
胸糞が悪くなる。
「しかし、私は男です」
「負けなければ何の問題もない。それとも、自信が無いか?」
「お戯れを……」
俺を誰だと思っている。
貴様たちに仕立て上げられた、ディー家最高の実力を持つ魔法使い、それが俺だ。
口には出さなかったが、父は俺の表情で悟ったようだった。
俺の持つテレパス能力は、うちの家系では他の誰にも無い。
「そうだ、お前になら安心して任せられる。ディー家の信用のかかった、大きな仕事だ」
「わざわざ参加者になどならずとも、護衛だけならできますでしょうに」
「あちらたっての希望なのだ。いつ現れるか解らない暗殺者に対する護衛を常に付けるより、来ることが解っている暗殺者達を全て消した方が都合がよい。お前が優勝すれば、自動的に表彰式の場であちらを狙おうと企む輩共は現れないこととなる」
サプリーム・ソーサレス。腐った貴族共の大宴会。
有りとあらゆる快楽に飽きた外道共が、最後の楽しみとして行う一大イベント。
その大会と主催者達に恨みを持つ者達が、数人の暗殺者達を雇い、この度の大会に参加させるという情報があった。
その護衛として、ディー家に依頼が来た、と言うわけだ。
「無論私も最初はその方式に難色を示した。しかし、『噂に名高いディー家の人間も、サプリームソーサレスに優勝する自信はありませんかな?』などと言われてしまえば、こちらも黙っておれん。無論、私としても何の問題ないと思ったからこそ引き受けたのだがな?」
「問題など在りません」
プライドだけは高いクズが。
この俺の体にもこいつの血が入っているのだと思うと怖気が走る。
女装、変装し、仮名を使うとは言え、衆目の前に姿をさらすのだ。今後の裏の仕事に、どれだけ影響が出ることか。
一族最高の才能の持ち主であると言われる俺を、その程度の任務に使い捨てにするつもりか。
……だが、面白い。
3年前に兄上が家から去り、一族の責任は全て俺に押しつけられた。
ディー家の家督を継ぐ資格を持つ18歳の誕生日まで、あとたったの半月。
そのあとならば、この腐った家をどのようにしようが俺の勝手だ。
信用を左右する仕事、その依頼者の絶対的安全を保障するはずの護衛者が、実は暗殺者だったらどうだ?
ディー家の繁栄も崩壊も、全て俺の意志一つだと言うことだ。
「必ずやご期待に応えましょう、父上」
満足そうに笑う父を見て、俺は内心ほくそ笑んだ。
(テレパスを使えずに残念でしたね、父上……)
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そして、誰の趣味だか見当も着かない用意された衣装を着せられ、俺は女装して大会へと参加した。
予選など、当然のように通過する。
ここでうち負かした連中達の中にも、暗殺者共は居たのだろうか。
決勝トーナメントが発表された。俺はBブロックの一番最後の試合らしい。
他の出場選手の名など、確かめもしなかった。他人の試合を見る気もなかった。
誰が来ようと、同じ事だ。ディー家の魔力に、敵は無い。
それに、俺はそんなことはどうでも良かったし、それどころでも無かった。
個室となっている控え室で、自分の試合の時間だけを、じっと待った。
これから始まる、17年間の生涯で最高の復讐劇の結末を思い、子供のように胸を躍らせながら。
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