深夜。大部屋に四つ並んだベッドの右端から、その少女はするりと身を起こした。 耳を澄ますと、残った三つの寝台から仲間たちの安らかな寝息が聞こえてくる。 三者三様の健やかな寝息は、まだ成長期の、いくら寝ても寝たりない年頃の少女たちだった。 彼女の愛すべき仲間たち。 いつもは一緒にじめじめとしたうす暗い迷宮の片隅で、浅い眠りを交互に取る生活を続ける彼女たちだっ たが、年頃の少女たちにとってそんな生活が辛くないわけがない。 久しぶりに戻ってきた地上の宿の安全な夜。柔らかな寝台の上で、彼女たちは今、ぐっすりと寝入って いるはずだった。 「それじゃあ、いってくるね……」 切ない表情で三人の幸せそうな寝顔を順に見やってから、少女――ウィノナは、彼女たち宛ての置手紙 だけをその場に残して、こっそりと宿を去ったのだった。 ウィノナがその情報を得たのはその日の夕方。いつもの酒場でのことだった。 賞金首のヒネモスを捕えて帰還した昼間のドンチキ騒ぎも終わり、仲間たちとささやかな慰労パーティ をあげていた時、追加の注文を取りにカウンターに寄ったところで、酒場のマスターに声をかけられた。 「例の件な……居所がつかめたぞ」 グラスを拭きながら、ペペはウィノナにだけ聞こえる声でそう言った。 「え――」 ウィノナはすぐさま、カウンターに身を乗り出すようにしてペペに詰め寄った。 「どこ!?」 ――例の件。このクルルミクに来てからずっと、彼女が探り続けていた件だ。 この地で消息を絶ったかつての冒険者仲間の行方。 彼女自身が龍神の迷宮を探索している間、情報通のペペには街の情報を集めてもらっていたのだ。 「――無事なの? 生きてる?」 ウィノナの口から矢継ぎ早に疑問が溢れた。 「まあ落ち着け。――話はそれからだ」 ヒゲのマスターはそう言って、水の入ったグラスを差し出してくれた。 それを素直に受け取って、ウィノナが杯の水を飲み干すのを見届けると、ぺぺは静かに語り始めた。 「……生きておるそうじゃよ。まあ……あまり無事とは言えんかもしれんがな――」 そんな前置きの後、彼は抑揚のない声で続けた。 彼女の敬愛する先輩冒険者の末路を。 ペペの入手した情報によると、彼女のお姉さま――もとい――かつての冒険者仲間であるシェラは今、 クルルミク市の南に広がる暗黒街の、建物の一室で性奴として飼われているという。 龍神の迷宮内部でならず者たちに捕えられた彼女は、その場で性奴としての調教を受けた後、暗黒街 のボスに売り払われてしまったのだ。 シェラを買い取った男の名はギース。暗黒街――『サウスタウン』でも最強と噂される男だった。 「かなり高位の魔法戦士だそうだ。気をつけろよ」 最後にペペはそんな助言をくれた。 「ありがとう」 最後まで聞き終えると、ウィノナはペペに礼を言ってカウンターを離れた。 仲間のもとに戻るとき、ウィノナは自分の身体が震えているのを自覚した。 複雑すぎて、何の感情によるものかはわからなかったが。 席に戻った彼女を、気遣わしそうな仲間たちの視線が迎えた。 「なんの話だったんですか? ずいぶんと深刻そうな顔をされてましたけれど」 仲間の一人、リムカがそう尋ねてきた。 「……ううん、なんでもないよ。ちょっとしたヤボ用」 下手な嘘で誤魔化すと、リムカは少し傷ついたような顔をした。 「……そうですか」と呟くように答えた顔はけっして納得はしていなかった。 「ホントだって! ボクはウソなんてついてないよ」 これほどわかりやすい嘘もなかったが、彼女に自覚はなかった。 心から信頼する仲間に向かって嘘をついてしまったことに、胸を痛めていた。 無理に作った笑顔が引き攣っている。 ――でも。 ウィノナとしては、彼女たちを巻き込むわけにはいかないのだ。 事情を話せば気のいい仲間たちは必ず同行を申し出てくれるだろう。 だけどこれは、彼女自身の個人的な要件だ。大切な仲間を巻き添えにするわけにはいかない。 ウィノナはなんとかその場を誤魔化して、決行の時に備えた。 そして深夜。ウィノナの姿はサウスタウンの高層建築の最上階にあった。 彼女の目の前には、裸の女にかしずかれた大柄な男のシルエット。 「こんな夜更けにとんだ珍客だな」 ウィノナを出迎えて男が言った。 男は、階下に控えていた百人を下らない手下たちをなぎ倒してやってきた彼女を見ても、落 ち着いた態度を崩さなかった。その気配から、男の高い実力が知れた。 凶悪な気配を湛える男と対峙して、だが、ウィノナは男を見てはいなかった。 彼女の視線は男の股間に跪いた裸の女に釘付けになっていた。 その綺麗な背中に見覚えがあった。 「……お姉様」 つぶやく声に反応して、女はビクリと肩を震わせた。 ゆっくりと振り返る。 「ウナ……ちゃん」 目が合うと、シェラは――かつてウィノナが敬愛していた先輩冒険者は、弱々しく呟いた。 怯えた表情。ぽってりとした唇が男の放った汚液で穢れていた。 犬の首輪をかせられ、裸の乳房の先端にピアスが通されていた。 変わり果てた姿だった。 少女は弱々しく頭を振った。 ここに来るまでに覚悟は済ませてあるつもりだった。 だけど実際にみせつけられた堕ちたシェラの姿に、少女は打ちのめされた。 「なんだ……この雌犬の知り合いか?」 やり取りをみていた男が、面白そうにいった。 「雌犬……だって?」 ――お姉様を、そう呼ぶのか。 ――そんな名で呼んでいるというのか。 ウィノナの瞳に怒りの炎が宿った。 それを見て、男はさらに興を乗せた。 男は足元に跪いたシェラに向かって尋ねた。 「貴様は俺の飼い犬だ。――そうだな、シェラ?」 男の鋭い眼光に射すくめられて、シェラは眼に見えて怯んだ。 彼女はすぐに答えた。 「はい……わたしはギース様の犬です。卑しい雌犬です」 「……そんな……お姉様……」 「クックック……聞いただろう? 雌犬で間違いないそうだ」 男がウィノナを嘲笑う。 「……なんてことを……」 「おっと、勘違いするな……この雌犬を調教したのは俺ではない。俺は犬として売られていた こいつを暇つぶしに買い取って嬲っているだけだ。これは、売られてきた時からこのように躾 けられてあったぞ」 「……ボクのお姉様を……これ以上侮辱するなァ!!」 言葉と同時にウィノナが動いた。3メートル以上あった間合いを瞬時に詰めて、ウィノナの拳 が唸りをあげて男を襲った。 ――だが。 パシ 男は突き出されたウィノナの拳を、座ったままで難なく受け止めた。 「なっ――」 驚愕するウィノナの身体が宙を舞った。気がついた時には、少女は思い切り床に叩きつけられ ていた。 「く……は!」 背中を強打して息が詰まったところで、少女の腹を猛烈な衝撃が襲った。 ズドン、と床を震わせるような打撃の直撃を腹に受けて、ウィノナの身体が「V」の字に曲がっ た。 「は……ぐ」 それはウィノナでなければ一撃で絶命しているほどの強烈な打撃だった。 呼吸が失われた。 ――つ……強い 涙目で見上げて、いまさらながらにウィノナは男の実力に驚愕する。 最初の一撃。男はウィノナを挑発して、誘っていたのだ。不覚にも、彼女はそれに乗ってしまっ た。その時点で勝負はついてしまっていたのだ。 男が使ったのは『当身投げ』と呼ばれる東洋の技術だった。 「もう終いか。つまらんな……。――だが、まあいい。本当の余興はここからだ」 男はそう言うと、動けないウィノナの服に手をかけた。 「な……なにを……」 「ふん、阿呆でもなければ、これからその身に起こることぐらいわかるだろう」 ギースはそう言ってウィノナの服を剥いでいった。 「や……やだ……」 ウィノナは必死に抵抗しようとするが、打撃を受けた身体は麻痺したように動かなかった。 「ふふ、たっぷりと躾をくれて、仲良く二匹で飼ってやろう。我ながら優しいことではないか」 ウィノナのうえで、男が酷薄な笑みを浮かべた。 組み敷かれた男の下で、ウィノナは男の圧倒的な力を感じていた。 ねじ伏せられてしまう。女の本能がそう告げていた。 「……やめて……。お願い……許して」 股間を割り開かれ、男の凶器が少女の下腹に触れると、ウィノナは弱々しく泣き声を漏らした。 「貫通式だ。女になる瞬間を、貴様のお姉様とやらに見せつけてやるがいい……!」 「……いやァ……!!」 男の剛直が少女の秘唇にまさに突き入ろうとしたその瞬間――男が弾かれたように身を仰け反らせた。 「むおっ……!?」 一瞬前まで男の顔があったその場所を、クナイ――忍者の投擲武器が風を切って通り過ぎていた。 「――むむ、あのタイミングで避けますか。……やりますね」 広大な部屋の隅の暗がりから、そう呟いて一人の少女が姿を現した。 その場所に居るはずのない仲間の姿を見つけて、ウィノナが呆然と呟いた。 「チェリア……どうして」 「水臭いですよ、ウィノナ」 仲間の女忍者はそう言ってウィンクを返してきた。 「一人で特攻なんて……まあ、あなたらしいけどね」 別の声が聞こえた。ローブ姿の女魔術師。セララだった。 「あ、この人、賞金首のギースさんじゃないですか? レベル28の魔法戦士。――こんな人に一人 で立ち向かうなんて、無謀もいいところですよ」 「……リムカまで……」 三人はウィノナの嘘に騙されてなどいなかったのだ。 心強い援軍だったが、ウィノナは言った。 「ダメ……逃げて! ボクのことはいいから! この男は強すぎる……危険すぎるよ!」 先ほどの恐怖と絶望が数倍になってウィノナを襲った。 先ほど自らが味わったあの恐怖。それが彼女たちの身にも降り注ぐことを想像してしまってウィノナ は絶叫していた。 ――だが。 「あなたを置いてなんて……いけるわけないでしょう」 選んだ言葉はそれぞれ違っていたが、三人が返した返答は同じだった。 三人はフォーメーションを組んでギースに対峙した。 「……今夜は千客万来だな」 新たに三人の女達を迎えても、ギースは動じなかった。 組み敷いたウィノナをその場に残して、ゆっくりと立ち上がった。 「遊んでやろう。かかってくるがいい……」 その言葉を待たずに、チェリアはすでに動いていた。 ポニーテールの少女はウィノナでさえ追いきれないほどの高速のステップを踏んで男に肉迫し、そこ で三人の幻影に分裂してみせた。 「……ふっ!」 どういう原理なのか、次の瞬間。男の視界から姿を消したチェリアが男の背後に現れた。そのまま、 男の首筋めがけて短刀を振り下ろす。 ――だが。 パシ ギースは正面を見据えたまま、背後からのチェリアの短刀を受けた。 「――な」 ブン チェリアの身体が宙を舞って地面に叩きつけられる。 「……くうっ」 チェリアはとっさに身を翻して受身を成功させた。だが、その目が驚愕に見開かれていた。 「なかなかやるようだが……まだ甘い――」 チェリアに向かってそう言いながら、ギースはちらりとウィノナを見た。 「――あの時もそうだ。俺がこの女を犯すのを待ってから仕掛ければ、あるいは俺を殺せたかもしれ ん。だが貴様にはそれができなかった。……暗殺者としては失格だな」 「……親友の貞操を守れなくて友達失格になるよりはマシですよ」 そう言ったチェリアの額に冷や汗が浮いていた。実際に仕掛けて男の実力を実感したようだった。 「リムカ、セララ。くやしいけどあたしではこの男に勝てません。時間を稼いでみせるから、魔法で 決めちゃってください」 「うん」 「わかった」 チェリアが決死の覚悟を決めて言うと、二人は頷いた。二人はすぐに魔法の詠唱に入った。 だが。 「だから――甘いというのだ!!」 そう言ったギースの交差された両手が地面に叩きつけられた。 その瞬間、三人の足元を無数の刃の形をした魔力の奔流が襲った。 「レイジング・ス○ーム!!」 『きゃああぁ……!!?』 ドサササ。 ギースの魔力の直撃を受けて、三人がぼろ布のように倒れた。 男は魔法戦士――剣力と魔力を同時に扱うことができる稀有の存在だったのだ。 「あ……」 臥して動かなくなった仲間たちをみて、ウィノナが弱々しく声を漏らした。 「ククク、今夜は楽しめそうだな……」 斃れた少女たちを睥睨して、ギースが嘲笑った。 ギースの意図を悟ってウィノナが叫んだ。 「やめろ……! リムカたちには手をだすな!」 「……煩い」 ギースが片腕を振るうと、烈風の拳が少女を打ち据えた。そのままウィノナは部屋の壁まで吹き飛ば されてしまった。 「……ぐ!」 「まずは貴様の前で、この女どもをたっぷりと可愛がってやろう。貴様の大切な仲間とやらが俺の手 で女になっていく様を、そこで指を咥えてみているがいい……」 ギースはそう言って、倒れた女たちの服を剥いでいった。 「な……なにをするつもりですか……」 「イヤ……ハウリ様……!」 「汚らわしい……! 男の手で……触らないで!」 リムカが、チェリアが、セララが。彼女の大切な仲間たちが裸に剥かれて縛り上げられていく。 ギースは抵抗する三人を難なく押さえつけて四つんばいにさせると、剥き出しにされた少女たちの秘 唇を見比べていった。 「さて……まずはどれからいただくとするかな……」 ギースがそう言うと、 「わたしが相手をします。だから、その代わり、他の娘たちには手を出さないで!」 三人は口々に同じようなことを言った。 「ふん。見上げた仲間意識だな。……ではよかろう、三人同時に女にしてくれる」 ギースはそう言うと、真ん中に這わせたチェリアの秘唇に剛直をあてがい、左右のリムカとセララの そこに両手を窄めてあてがっていった。 「な……」 フィスト・ファック。 そんな忌まわしいものが存在することなど、男性経験のない少女たちには知るよしもない。 だが、ギースは容赦しなかった。 『い……痛……! イヤああぁ……ッ!!』 閉じた秘唇を押し開かれると、少女たちの唇から悲鳴が零れた。 ウィノナは呆然と、その光景を見ていた。 彼女の目の前で、大切な仲間達が穢されようとしている。取り返しのつかないほどに。 シェラが性奴になってしまったのも、元はといえば彼女のせいだ。あの時、彼女が失敗しなければ。 そして今、新たに三人の大切な存在が、彼女のせいで失われようとしている。 処女を散らし、性奴への道を歩まされようとしている。 そんな そんなこと―― 「……さっせるもんかぁああ!!」 ウィノナの中で何かが弾けた。 雄叫びと共に、ウィノナは身を起こした。 彼女の身体の周囲を圧倒的な魔力が取り巻いていた。それが――彼女の中に眠っていた魔法戦士の 素養が目覚めた瞬間だった。 ウィノナは燃え盛る魔力を拳にこめて、弾丸のようにギースに突進した。 「バーン・ナッ○ル!」 「ぐお……ッ!?」 ウィノナの拳が背中を向けていたギースを反対側の壁まで弾き飛ばした。 「ウィノナ……!?」 三人の少女たちが驚いたように彼女を見上げる。だが、ウィノナはしっかりとギースを見据えて視線 を逸らさなかった。 吹き飛ばされて瓦礫に埋もれていたギースが身を起こした。 唇の端から血を流しながら、ギースは凶悪な笑みを浮かべていた。 「……ほう、貴様も魔法戦士だったとはな。だが、貴様の打撃は俺には通じん。――わかっているだ ろう」 そう言うとギースは当て身投げの構えをとった。 本気を出したギースに彼女が見出せる隙はなかった。どこに打ち込んでも必ず捕らわれる。そう確信 させられた。 「ウィノナ……ここは一旦引いて」 相手の実力を冷静に判断して、チェリアが言った。 「ええ。チェリアさんの言うとおりです。ここは一旦引いて、助けを呼んできてください」 とリムカも言った。 「わたしたちなら、大丈夫だから」 そしてセララも安心させるように笑った。 男嫌いの彼女が、陵辱者を前にして平気でいられるわけがないのに。 仲間たちの気遣いに胸が熱くなる。この大切な仲間達を失うわけにはいかなかった。 ウィノナは、三人に向かって言った。 「だいじょうぶ。……ボクが守るから」 もう二度と、大切なものを失わないために。ウィノナは決然とギースを見据えた。 「……大言を吐く……。だが、貴様に何ができる?」 当身の構えのままギースが挑発すると、ウィノナは全身の魔力を昂ぶらせて応えた。 「みんなを守るためなら――ボクはこんなことだってできるんだ!」 ――湧き起これ、魔力の間欠泉! 「パワー・ゲ○ザー!!」 ウィノナの拳が地面を叩くと、直後。ギースの足元から圧倒的な魔力が迸り、男を吹き飛ばした。 「グアアアああぁぁぁぁぁぁ……」 ギースは建物の外まで吹き飛ばされ、その叫びは夜の静寂に消えていった。 ウィノナはギースの必殺技をヒントに、彼女なりにアレンジをして返したのだった。 「……すごい」 「いつのまに、そんな魔法を……」 「やっるー」 驚く三人に向かって、ウィノナは照れたように笑った。 捕らわれていたシェラを救出すると、四人はサウスタウンを後にした。 自由の身になったシェラは、冒険者を引退して故郷の村に帰るのだと言った。 安全な街外れまで見送ると、別れ際にシェラは言った。 「助けてくれてありがとう。強くなったわね……ウナ。立派なリーダーになった」 「ありがとう……お姉様」 シェラを見送ると、四人は足を揃えていつもの宿に向かった。 「ふああ、今日はいろいろあったから……寝不足だね」 とチェリアが言った。 「迷宮に戻るのは、明日にしましょうか」 リムカも応える。 疲れた様子の三人に向かってウィノナはしおらしく言った。 「ごめんね、みんな。迷惑かけて……」 ウィノナが謝ると、三人は目を見交わして含み笑いを漏らした。 「……?」 「気にすることなんてないですよ、ウィノナ」 「そうそう。困った時はお互い様です」 「それに……こんな可愛い置手紙を残していかれたら、追いかけないわけにはいかないって」 セララが懐から一枚の紙切れを取り出したのを見て、ウィルカは慌てた。 「……あ」 すっかり忘れていたのだが、彼女は宿に、みんなに宛てた置手紙を置いてきたのだった。 もし無事に帰れたら朝までに回収するつもりで、今生の別れのような、かなりこっ恥ずかしい ことを書いてしまったような気がする。 「『親愛なるみんなへ……』」 セララが読み始めると、ウィノナは慌てて止めに入った。 「ちょ……待っ!」 だがウィノナは背後から忍び寄った忍者少女に羽交い絞めにされてしまった。 「は……離して、チェリア! 後生よっ」 「ふふふ。ダメー」 じゃれあう二人をみて、リムカがくすくすと可笑しそうに笑っていた。 その傍らで、セララが朗々とした声でウィノナの手紙を読みあげる。 「『リムカ、チェリア、セララ。勝手なことばかりするリーダーでごめんね。こんなボクだか ら、みんなはもう愛想が尽きちゃったかもしれないけれど、でも、どうしても伝えておきたい んだ。……ボクは今でも……みんなのことが大好きだよ。それだけはわかってほしい――』」 「わーー!?」 ウィノナは真っ赤になって両手で目の前の空間をカキカキした。 そんなウィノナを無視して、セララが朗読を続ける。 「『……あの時。思えばあの時から、ボクたちの絆は深まっていったと思うんだ。気のせいか な? ううん、きっとそうじゃないよね――』」 「いやーーーーー!? もう許してーーーーーっ!!」 こうして、新たに魔法戦士になったウィノナの絶叫が、明け方の夜空に長々とこだまし続けた。 戯れあう四人の無邪気な姿を、暁の空に沈みかけた月が優しく見下ろしているのだった。                                                                                 完