混沌の新人歓迎会が終わりを告げられた直後の事。  一通り片付けられた広間の隅で、未だ目を回しているシュリの姿があった。  酔いが覚めていれば良いのだが、まだ酒が残っていれば近付くのは危険である。  片付けを済ませた騎士達は、近付く事も出来ず、かといって放っておくわけにもいかず、 困り顔で遠巻きに見詰めていた。  これがそこいらの荒くれ者なら、縛り上げて嬲り尽くす流れなのだろうが、なんだかん だで彼らも騎士である。  どちらかといえば、寝室まで送り届けて静かに去りたいという意気込みなのだが、先程 の説教大攻勢からやや怯みがちな様子が見て取れる。 「あの……シュリ殿をこのままにしていくわけにもいきませんよね?」  そう声を上げたのは、歓迎会の表向きの主賓だった新人騎士の一人である、最年少の少 年だった。 「そうね。それじゃあ、彼女を宿舎まで送ってくれるかしら?」  少年の言葉に、後片付けの様子を確認していたディアーナが、さらりと告げる。 「新人のあなたなら、シュリが途中で目を覚ましても説教される要素は少ないでしょう?  私が運んでもいいのだけれど……私もそれなりに付き合いが長いから、絡まれるとやや こしい事になりかねないし」 (それ以上に、次に何か言ったらシュリ殿の命が危ういです)  周囲にいた騎士達は、心の中で総ツッコミだった。  もっとも、間違ってもそれを口に出せる者などはいなかったが。  その空気を読んだ少年騎士は、いそいそとシュリを背負い広間を後にしたのだった。 「……想像以上に軽いなぁ。小柄だし」  あまり揺らさないようにと、気を遣いながら静かに宿舎の廊下を歩いていく。  小柄なシュリよりやや小さい少年とはいえ、それなりに身体を鍛えている。  女性の一人ぐらい背負って歩くぐらいは苦にもならないのだが。  慎重に踏み出す一歩毎に軽く揺れるシュリの身体、そして背中に押し付けられる柔らか い感触。 「他の方々と比べると、あんまり目立ってなかったけど……密着すると流石に」  最初こそ意識していなかったものの、静かで暗い廊下を歩いているうちに、背中に感じ る柔らかい感触や体温、首筋をくすぐる吐息などが、妙な意識がむずむずと湧き上がって くる。  快感に耐える苦行に、どれだけの時間が費やされただろうか。  シュリの私室に辿り付いた時には、思わず安堵の溜息が漏れた程だった。  少年はシュリをベッドに下ろして寝かせると、そのままベッドの縁に座って少しだけ休 憩する事にした。  月明かりの中、部屋の中をぐるりと見回してみると、個室という事を除けば新人である 少年の部屋と大差のない造りだった。  クローゼットこそ少し大きなものではあるが、それ以外はほとんど飾り気がない。  なんとなく女性らしい部屋を想像してた事もあって、やや拍子抜けという気がしないで もない。 「それにしても、お酒って怖いなぁ。初顔合わせの時は真面目で優しそうな印象だったのに」  少年は呟きながら、ベッドで寝息を立てているシュリの顔を見詰める。 「寝顔だって、綺麗というか可愛いというか。僕が今年で14だから……12も年上には 見えないよなぁ」  ベッドに片手をついて、シュリの寝顔をまじまじと見詰める少年。  微かに上下する胸と、果実酒の甘い匂いが漏れる艶やかな唇、そして無防備な寝顔。  少年の顔や手が自然と、その寝顔や肢体に近付いて――寸前で止まる。 (いや待て流石にまずいというかやばいというかダメだろ寝込みをどうこうっていうのは)  若い性の滾りと男としての尊厳と騎士としての誇りが、少年の胸の内でせめぎ合う。 (まず落ち着こうこの女性は上官で同僚で長年この王国に仕えてきた竜騎士で僕達の憧れ る存在の一人で) 「……んっ……」  その時、シュリが小さく声を上げて、うっすらと目を開けた。 「あ、その、僕は、部屋までお送りしただけで、ベッドまで運んだからそろそろ戻ろうかと!?」  慌てて身を離し、弁明の言葉を並べようとする少年。  シュリはその腕をきゅっと掴むと――そのままベッドに引き倒し、少年の顔を胸に埋め るように抱き締めて、また目を閉じると寝息を立て始めてしまった。 (ちょ、ちょっと待ってこの状況はかなりまずいというか、誰かに見られたら弁明のしよ うもなく!?)  ソフトに抱いてくる腕をなんとか外そうと、身を捩ろうとしたが。 「ふぁ……あんっ……」  谷間に抱かれるようになった顔が乳房を刺激して、やけに色っぽい声が漏れる。 (まずい、このままじゃ色々と限界が!?)  だがそう思った時には既に脱出の機会は失われていた。  刺激を受けて腕がきゅっと締まり、それどころか足までもが絡みついてきて、完全に抱 き枕状態にされてしまった。 (せ、背中ならまだしも正面からはまずい!?)  少年の片足はシュリの両足で絡め取られ、顔に押し付けられる双丘の谷間の感触によっ て、若く健康的な反応を抑えられなくなった股間のものが、シュリの太股にぐいぐいと押 し付けられている状態である。 (起こさないと! 早くシュリ殿を起こさないと!?)  色んな意味で危機的状況に陥った少年だが、結局のところ気持ちよさそうに寝ている シュリを起こす事もできず、色々な意味で気持ちいい感触に抗う事もできず、考えるのを 止めて結論を導き出した。 (……僕も寝よう)  良い手が思い浮かばなかったせいもあるが、もっとも単純な逃げに走った結果として、 少年は一つの代償を支払う事になる。  結局のところ少年は、顔に触れる胸の感触と股間に触れる太股の感触、そして少年自身 の身動ぎからの刺激で漏れる悩ましい声に、朝まで一睡も出来なかったのだった。  シュリが目を覚ましたのは、日が昇るよりも幾分か前。  夜空が薄っすらと白み始めるほどの時間だった。  とりあえず昨晩の記憶を思い出し、軽い自己嫌悪に浸る。  酒の席での失敗は、古くは十年以上も前の祝いの席での事だった。  その時は、割と遠慮のない友人が総掛かりで押さえ込んでくれて事無きを得たのだが。 「やはり、酒は駄目だな……今後は一口でも避けるようにしよう」 「あ、お目覚めですか。おはようございます」  独り言を呟いたつもりでいたところに、胸元から声が聞こえてきた。  丸めた布団にしては妙に抱き心地が良いな、という的外れな感想が頭を過ぎった、次の 瞬間。 「あの……そろそろ離していただけると有り難いんですが」  困りたてた顔の少年の、苦笑混じりの赤い顔を見て、シュリは跳ねるように飛び退り、 ベッドから転げ落ちてしまった。 「な、え、あ……そ、その……一応、酔っていても記憶はあるはずなのだが……まさか ……その……」 「い、いやいやいや、僕は何もされてませんし、何もしてませんよ!? 抱き枕にされは しましたけど、むしろそれはご褒美みた……いやいやいやいや!」  ベッドの下で耳まで真っ赤にしているシュリに、慌てて跳ね起きてぶんぶんと首を振る 少年。 「あ、そ、それじゃあ僕は、自分の部屋に戻りますね!? もうすぐ朝ですけど、訓練の 準備とかが……」  そう言って立ち上がろうとした少年は、膝立ちにまでなった後に――やや前屈みになっ て、ベッドに座り直す。 「えーと……その、申し訳ありませんが、少しだけ休んでいってよろしいでしょうか。 色々とのっぴきならない事情がありまして」  不自然にならないように股間を隠しつつ、愛想笑いを浮かべる少年の顔を、シュリはま だ赤い顔で見詰めてくる。 「あ……そういえば、少し目が赤いな。私が抱きついていたせいで、よく眠れなかったのか?」 「えーと、その、それは、どう答えていいのやら」  ベッドの上に座ったまま返答に詰まる少年に、シュリはベッドの下から上目遣いに見詰 めてくる。 「いや、いくら私が異性からの好意に疎いとはいえ……知識としては、それなりに、色々 と……長年の積み重ねで、な?」  しどろもどろになりながら、視線を外しつつ、ぼそぼそと誤魔化すように喋るシュリ。 「詰まるところ……君の状態についてもそれなりに察しがついていて、責任も感じている わけで……その……た、大した事ができるわけじゃないが……いや、私みたいな女がそう いう事をしたところで、責任を取る事になるのかという……」  恥ずかしそうに語るシュリの姿に、少年の喉がぐびりと鳴る。 「えっ、と……詰まるところ……どういうお話なんで、しょうか」  期待の篭った確認の言葉に、シュリは真っ赤な顔でぷるぷると震えながら、消え入るよ うな声で答えた。 「のっぴきならない状態に関して……処理を、手伝うべきか……と……思うんだが…… いや、その……すぐ収まるなら問題はないだろうし、私みたいな女が……その、そういう 事をした所で……役に立つかどうか……」 「……お願いしたら……その……どういう風に処理してくれるんでしょうか」  恥ずかしそうにもじもじとしているシュリの姿に、少年の背筋にぞくりとした感覚が走る。 「流石に……本格的には、流石に……だから、あの……手と口でなら……」 「あの……シュリ殿」  真っ赤になって俯いてしまったシュリに、少年が声を掛ける。 「あ、ああ、なん……っ……ぁ……」  返事をしようと顔を上げた、その目の前に。  少年の幼い容貌に相応のモノが、苦しそうなまでに張り詰めて屹立していた。 「あの……先に言ったのは……シュリ殿ですよね? 僕……我慢してたんですよ?」  ぐいと頬に押し付けられるように突きつけられたそれを、シュリは恐る恐る手を伸ばし、 そっと触れる。 「知識だけで、その……経験は無いから、上手く出来るかは……期待しないでくれ……」  半開きになった口から遠慮がちに伸びた舌先が、少年の先端に触れる。  我慢しきれずに先端から漏れていた露が唾液と混じり、少年の身体がびくんと震えた。 「だ、大丈夫か? 何か拙い事でも――んぷっ!?」 「申し訳ありません、もう我慢が……僕のが、シュリ殿の口にっ……」  少年の両手がシュリの頭を押さえ付けて、その口に無理矢理捻じ込んだ。 「ふっ……う……んぐっ……」 「シュリ殿の口の中……気持ちよくて……すぐ……っ……!」  乱暴に挿入される少年のものを、それでも傷つけないために歯をたてないように口を窄 め、舌を使って包み込むように舐り上げる。  呼吸を乱されて涙目になりながら、必死に少年の腰に縋りつく。 「出っ、あっ……うっ!」 「んぐぅっ!? ふ、う……んっ、ぐ……」  口の中に注ぎ込まれる、精液の熱く粘りつくような感触。  口腔一杯に注ぎ込まれ、飲み干す余裕もなく口から溢れさせながら、呼吸のために本能 的に顔を背けてしまう。  口から離れた少年のものにはまだ余力があり、溢れるものがシュリの顔を汚していく。 「げほっ……うっ……は……ぁ……」  口元から一杯の精液を溢れさせ、息を荒げながら呆然とした表情で座り込んでいるシュリ。  同じように息を荒げながらへたり込む少年だが、その股間のものはまだ勢いを衰えさせ る様子はなく、その先端はびくびくと脈打ちながらシュリを睨み付けるようにそそり勃っ ている。 「まだ……元気なのだな……」  ぼんやりとした瞳で少年のものを見詰めるシュリ。  先程よりは慣れた様子でゆっくりと口に含むと、改めて丁寧な愛撫を始めた。  精液と唾液が入り混じった口腔が、淫靡な音を立てて動いている。 「は……あっ……シュリ殿……またすぐ出そう……ですっ……」 「大丈夫……そのために……しているのだから……遠慮はしなくていい……」  今度は逆に、ベッドに押し倒すようにしてシュリが主導権を握る。  少年は身を捩じらせながら、大した抵抗もできずに二度目の射精をむかえ、またシュリ の口腔と顔をどろどろに汚していく。 「んっ……ぷは……粘りがあって、飲み込むのも辛いな……こういうものなのか……」  流石に三度目の勢いもないようで、シュリは口からあふれた精液を手のひらに落とし、 汚れた服の裾で拭い取る。 「どうだろう……静まっただろうか……幸い、時間もそれほどは経っていないだろうし……」  少年が惚けた表情で頷くのを確認して、顔を汚す精液を拭い取りながら、シュリは大き く息を吐いた。 「君の方は落ち着いたようだが……私の方をどうするのかを考えていなかった。ここまで 汚れるとは、流石に想定外だったな……」  机の上に残っていた水差しの水で手拭を湿らせ、顔や髪を拭っていくシュリ。 「服の方は、洗濯するとして……あまり目立つ時間には出来ないな。乾くとどうなるのだ ろう……早めに済ませないとまずいだろうか」  少年がまだベッドに寝転んでいるのかと思っていたシュリは、慣れない行為の後で完全 に油断し切っていた。  汚れた私服を脱いで、洗濯に行くために着替えようとしていたのだが、そこへベッドで 寝ていたはずの少年が覆い被さってきたのだ。 「なっ……!? ど、どうしたんだ……そろそろ部屋に戻った方が……」 「治まったと思ったんですけど……やっぱりまだ」  ぼうっと熱っぽい表情でシュリの背後から抱きついている少年。  シュリの背中に押し付けられる熱い感触は、それがどうなっているか容易に想像できる。 「ダメだって言われそうだけど……僕、やっぱり……」  するりと姿勢を崩した少年の腕が、腰の辺りを回ってシュリの股間に伸びる。 「やっ……そこは、ダメっ……だ……」  少年の指が触れたところは、下着越しにも判るほどにじっとりと湿っていた。  形に沿って指の腹でなぞると、薄手の水袋にでも触れたような柔らかく濡れた感触が伝 わってくる。 「ダメっ……ダメぇ……」 「僕……シュリ殿にも気持ちよくなって貰いたいですよ……女の人も……ここ、良いんで すよね?」  こう見えて、シュリはそういう目的でそこに触れた事が一度もなく、触れさせたことも ない。  初めてとも言える快感が全身を駆け抜け、それだけで頭の中が真っ白になりかける。 「すいません、僕もまた……こっちは我慢しますから……口でお願いできますか?」  屈み込んでいたシュリを仰向けに転がし、太股を両手で抱えてシュリの股間に顔を埋め る少年。  落ち着いたはずのものはまた仰々しく聳え立ち、先端で探るようにシュリの顔を嬲ると 探し当てた唇にぐいぐいと押し付けられ、捻じ込まれる。 「んぐっ……ひ、うぅんっ……」  少年はすぐにシュリの下着をずらし、まだ誰にも晒した事のない花弁を押し広げ、指と 舌で丹念に責め上げる。 「ひゃめ……はめら……」  口に捻じ込まれたものが、シュリの言葉をまともに言葉にしてくれず、音と一緒に口腔 を蹂躙する。 「気持ち良いですか? シュリ殿のここ……綺麗で、甘くて、いい匂いがします……一杯 溢れてきて、それも美味しいですよ?」  両手で左右に押し広げられたところを、包むように唇が覆い、溢れてくる蜜を音を立て て吸う。 「ひうっ、んっ……ふ、ふぅ……ひゃめ……」  シュリの身体がびくびくと跳ね、呆気なく二、三度の短い放出の後、少年の眼前で勢い 良く潮を吹いて、ぐったりと果ててしまった。  その直後に少年も身体を震わせると、だらしなく惚け切った表情のシュリの口へ、三度 目の射精となる精液をたっぷりと注ぎ込んでいた。  ごづん――と凄まじく鈍い音と共に、シュリの拳が少年の脳天に叩き落された。  頭蓋骨が粉砕されるかという痛みに悶えのた打ち回る少年に、真っ赤になったシュリが、 ばつが悪そうに語りかける。 「やり過ぎだ。お互いがそういった経験が薄いとはいえ、前後不覚に陥ってどうする」  あれからしばらくの後。  足腰が立たなかったシュリの代わりに少年が水桶を取りにいき、とりあえず身支度だけ は整えたところでの一撃である。 「ぼ、僕だけじゃ悪いかなって思ったもので……調子に乗り過ぎました、申し訳ありませ ん」  頭を押さえ、今にも死にそうな声で呻く少年に、シュリは顔を赤くしたまま、ぎりぎり で毅然とした態度を繕いながら告げる。 「……元はと言えば、酒で前後不覚になった私の責任でもある。とりあえず、今の一発で 今回の件は不問にする……当然ながら、誰にも喋らないように。私も胸の内に秘めておく」 「でも、僕として……成り行きで済し崩しでしたけど、シュリ殿は魅力的な女性だと思い ます。僕はまだ未熟ですけど、いつか」  その言葉を、鼻先に突きつけられたシュリの指先が封じる。 「私は、このクルルミク王国を守護するために竜騎士になった。ビルゴ王子を、セニティ 王女を……ハウリ王子を。そしてこの国の全てを、手の届く限り全て護りたいと思ってい るし、全てに手が届くようにと日々鍛錬を積んでいる。私が誰かの妻となり子を為し家庭 に納まる時があるとすれば……今の私の全てを譲れるだけの者が現れるか、クルルミク王 国を脅かす存在が全て潰えた時だけだ」  シュリは少年の頭をくしゃりと撫でる。 「共に未来を切り開くにせよ、後を任せてただの女となるにせよ、相応の力を持つ者が必 要になる。それだけの力を持ったとすれば、わざわざ私などを意に介す必要はないだろう。 力をつけて……その時にもう一度考えてみろ。それでも……というのなら、な」  少年は頷きこそしなかったものの、脳天の痛みを堪えて力強い瞳でシュリを見詰めてきた。  シュリは優しく微笑むと、少年の背中を軽く叩いた。 「竜騎士として一人前になる道は遠く険しいぞ。さあ、訓練初日は私が相手になってやろう」 「はい、宜しくお願いします!」  その気合の入った返事を後悔する事になるのは、その数時間後。  才能の欠片もなかったシュリを列強に比類するまで育て上げた地獄の訓練メニューの内容 を知った時だったという。