『傭兵たちの挽歌』 byMORIGUMA  さまざまな情報が錯綜する、 ワイズマン討伐の最前線『ドワーフの酒蔵亭』。 毎日、悲喜こもごもの騒ぎが巻き起こるが、 その日の連絡ほど、彼らを激怒させた情報は初めてだった。 「なにいいいいっ?!、スピリアさんがあああっ!!!」 「スピリア嬢がつかまった??」 「本当か?、間違いないのかその情報は!」 酒場の一角には、常時十数名の傭兵たちがたむろしている。 善悪いろいろ混ざってはいるが、いざ雇われれば、 身体を張って戦うことが、何より好きな男たち。 だが、その情報は彼ら全員を激震させた。 「すっ、スピリアどのっ・・・!」 「くそおおっ、ギルドのやつらめっ、うらやまし・・いやなんと非道な!」 「あなたのいない毎日なんてっ!」 兜の向こうで、血涙を流す者、 激怒のあまりテーブルを真っ二つにする者、 つっぷして泣き伏す者、 全員共通するのが、 怒り以上に恐ろしい『嫉妬』のオーラ。 中でも、最高に切れまくっていたのが、 『白銀の狼』のあだ名を持つ、88歳現役バリバリの猛者、 XXX(トリプルエックス)という最年長傭兵。 「我、愛するスピリア嬢にこの命ささげん!」 剣を抜き放ち、研ぎ上げられた白刃を天に掲げた。 シュワッ、キュラッ、キュイッ、 傭兵たち全員、その場で抜刀して立ち上がった。 『『『オオーーーーーーーーーーーッ!』』』 完全に臨戦態勢。 「おっ、おいっ、おまえらっ!。みんな止めろ、連中を止めろおおっ!」 異常な興奮と雄叫びが、ドワーフの酒蔵亭に充満した。 もし、幸運な偶然がなかったら、 傭兵たちは、竜神の迷宮へ突撃をかけていただろう。 「ハデス、今日ばかりは感謝するぞ。」 15分後、ようやく落ち着いた酒場で、 ペペはハデスに礼を言った。 「こっちは疲れてるってのに、まったくもう・・・。」 スツールに身体を投げ出すようにして、ハデスがぼやく。 たまたま、迷宮から戻ったハデスたちと、 出ようとした傭兵たちが鉢合わせした。 何しろ、殺気立って、抜刀した十数名の重戦士たち、 その迫力は、背筋が凍るほどのものがある。 ハデスが瞬時に作り出した、分厚い白熱の爆炎壁が、 ようやく彼らを止めたのだった。 入り口周辺がかなり焦げたが、文句の言える筋合いではない。 「じじい、ちったあ頭冷えたか?」 「冷えたか?、何を抜かすか小娘が!、 ワシの煮えたぎるハートが、冷えるわけがあるまいが!!。」 まあ、普通ならハデスが激怒するところだが、 あまりにアホらしいので、怒る気にもなれない。 「いい年こいて、その小娘と同世代の女にのぼせて、 恥ずかしくねえのか?」 つるっぱげで、ぴんと鼻ひげを尖らせたジジイは胸を張った。 「いいや、わが愛に一片の恥もないいっ!」 「だめだコリャ。」 天を仰ぐハデスに、頭の痛そうな顔のペペ。 「お前らが、スピリア嬢と親しげなのは知ってたが、 まさか全員、彼女と姦ったのか?」 「ぶっ、無礼者っ!、あの方の慈悲と慈愛に何たることを言うかっ!」 見かけによらず、俊敏に飛び下がるペペ。 抜き打ちの一撃に、白いひげが数本舞った。 「落ち着け、コラ」 ハデスが、足元のバケツを勢い良くかぶせ、アチャチャがハンマーで一撃。 見事な連係プレーで、XXXはひっくり返った。 「こいつが『いあい』の名手だってこと、すっかり忘れてたぜ。」 「よくかわしたな〜ペペ、今のてっきり首が飛んだと思ったよ。」 「いや、こいつが激怒しすぎてなけりゃ、本気で首は飛んでた。」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− そのやさしい微笑みに囚われたのは、いつからだろうか?。 冒険者と傭兵、 似ているようで、埋まりようの無い巨大な溝を持つ両者。 どこか怯えながら、傭兵の殺気と残酷さに、白い目を向ける冒険者。 腰が抜けたように見える冒険者に、軽蔑とせせら笑いを向ける傭兵。 だが、たった一人、 冒険者として、女として、堂々と接する女性がいた。 「私は、あなたに命を預けます。手伝っていただけますか?。」 まぶしいほどの笑顔と、澄み切った翠の深い瞳、 あでやかな白い肌と、女性として完成した美の結晶。 なぜだろう?、自分がとても小さく見えた。 「命を預ける?、口先だけで、そんな言葉が信じられるか?」 今思えば、ひどく恥ずかしい。 小さく見えた自分が腹立たしく、 女として迫力のある胸や、腰つきに負けまいとした。 思わず、グイと抱き寄せてしまった。 悲鳴をあげ、逃げることすら期待して。 だが、スピリアは逃げようとしなかった。 「信じていただけるように、全力を尽くします。」 深く広がる、翠の瞳に、彼は吸い込まれていた。 とろけるような白い肌に、 温かで豊かな胸のふくらみに、 彼の顔は包み込まれ、その甘い香りは、忘れていた青春を思い出させた。 白い首筋に、点々と散るキスの痕、 あでやかな微笑が、妖しく形を変え、そのバラのつぼみの様な唇は、 何度も彼の口を吸い、交わし、甘い唾液をすすりあう。 腕の中の細く折れそうな身体、 すべり、汗ばむ、真っ白い肌、 指に絡みつき、腕を捕らえ、その抱きしめた身体は、 彼を吸い込んでしまうかのように、どこまでも柔らかい。 くびれきった腰の、曲線の美、 腰から沸き立つ女のにおい、 二つの丘のように、ふくらみと輝きを持つ尻の肉の弾力、 恥じらいの喘ぎが、耳に痺れるほどの響き、 それに支配され、いや屈服して、 己の何たるかすら忘れ、 しなやかな、流麗な、女の脂をまとう腿を、 狂おしいまでに、開き、探り、求め、 輝きと香りのたつ谷間へ、狂おしくおぼれていった。 「ああ・・・」 金の髪が振り、ゆれる。 白い背筋が、反り、くねる。 舌先が痺れ、震える温かい肌に、もぐり、開き、その香りの中へ、 涙すら流しながら、味わい、かぎ、その鼻をうずめてもだえた。 細くしなやかな腿が、震え、くねる。 あえぐ動きが、目の前の光景を揺らがせ、潤いに満ちていく。 指に、舌に、女のすべてがまといつき、はじけ散った。 恥じらいと、快感、 染まる頬のなんと不思議で美しいことか。 もだえ、あえぐ裸身の、息づく輝きのすさまじさ、 その豊かで深い、肌の中に、何一つ、とめることすら出来なかった。 「ああ・・・・ああ・・・・」 耳に、その声がする。 聞きたい、どこまでも聞きたい、 腕に、息づく肌が感じる、 抱きしめたい、いつまでも抱きしめたい、 腿が、腕が、温かい潤いが、 もう、それを意味する言葉など存在しない。 泣きながら、おぼれる子供となり、 猛り狂う、雄となり、 しとやかに乱れる姿の、胎内の、粘膜の、 ただ従い、突き上げ、求め狂う奴隷となり、 あえぎながら、聞こえる銀の鈴の響き、 肌に感じ、男根を包み込む鼓動の響き、 自分が、男根が、すべてが、その中に包まれ、消えてしまう。 「はあっ、はあっ、はあっ、ああっ、あっ、あっぁ、あっ」 声が、抱きしめられる腕が、細い指先が、 背中に傷つける痛みが、いとおしい、いとおしい、いとおしい、 己のすべてを、焼付け、撃ち込み、刻み付けて、 広がる美しい裸身の震央へ、 淫らに悲鳴を上げる唇の源へ、 絡みつく四肢の、胎内の底へ、 「いきますっ、いきますうっ、きてええええええええええっ!!」 ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、 涙が、美しく散った。 震える腰の中に、熱く注がれるそれが、何度も音を立てた。 抱きしめられることを、初めて知ったような気すらした。 何度、乱れたことだろう。 何度、悶えさせ、また求め狂っただろう。 濡れた肌の潤いが、枯れ果てたはずの自分を蘇らせる。 息づく肌の温かさが、忘れていた遠い夢を思い出させる。 腕の中のぬくもりが、すべてに変えてもよいと思えた。 朝の、光が、これほど憎く、つらいことを、初めて知った。 静かに、恥じらいを秘めて、 スピリアの潤んだ翠の瞳が、強く光を宿していた。 「私は、無力な一人の女です。それでも、立たねばなりません。 どうか、お力をお貸しくださいませ。」 彼女が、命より愛した娘を、教会に託して来たことを知った。 どれほどの決意が、そこにあったのだろう。 すべてを賭けて、彼女はここにいる。 ただ、一つ未来のために。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 夢から覚めたXXXは、 夜明けの酒場で、目を覚ました。 うたたねをしていたペペも、気配に目を覚ました。 「ようやく、目が覚めたようだな。」 ペペは、彼の目の中の狂気が、消えたことを読んでいた。 「ああ、自分が、恥ずかしいワイ。」 「しかたがあるまい、あれはいい女だ。」 「ああ、最高の女だ。」 白いひげがふっと笑った。 「ワイズマンは無理でも、 ギルドボぐらいは、刀のさびにしてくれるわ。」 チンッ そばの空瓶の首が、静かに落ちた。 動いたとすら見えぬのに、その刃は恐ろしい切れ味である。 「期待してるぜ、 どうせ王族崩れか、竜騎士のなりそこない程度の野郎だ。」 「竜神が黙認しているのだから、そんなとこだろうな。」 力強い笑いが、夜明けの酒蔵亭を盛大に震わせた。 何事も無いように、再び一日が始まる。 だが静かに、また一つの力が、そこに集まっていく。 傭兵たちの刃は、凄愴な力を帯び、 その力は、冒険者たちを守り、静かにまた一歩、深く闇を制していく。 FIN