「セレニウスのぼやき」―二度あることは三度ある― 頭の中がすっきりしない。 焦点の定まらない眼でわたしは"ここ"を見る。 龍神の迷宮の玄室の一つで、わたしの手足は拘束されている。 そうか、わたしは"また"捕まったのだな。 わたしは苦笑する。 本来、助けるべき側の人間が、何度もこうして 誰かの助けを待つ事になろうとは誰が予想したか。 わたしは嘲笑した。 自らを、そして自らの運命とやらを嘲笑した。 頭がくらくらする。 この部屋に漂っている匂いの所為か? 何の匂いだと、ぼんやりと見ていたそれに焦点が会う。 どうやら、わたしの装備を外そうと躍起になっている男達が よく切れそうな剣を一振り持ってきたようだ。 だがその程度では傷の一つも付くわけが無い。 「ふん」と思わずせせら笑ってしまう。 それでようやくわたしに起きた事に気付いたならず者達。 何やら卑猥な言葉や侮辱的な言葉を浴びせているようだが、 頭の回らないわたしにはそれが何か聞こえてこない。 あまりに反応が無いわたしをつまらないと感じたのか、 ならず者の一人がわたしの顔を小突いたり軽く引っぱたいたりした。 少しは痛かったぞ…生きてここから出られたら必ず探し出して 必ずこのお礼はさせてもらおうか。 苦痛に歪んだわたしの顔を見て、それを楽しそうに見ているならず者達。 見てるだけ気持ち悪くなってくる。 こんなわたしよりもフォルテ達の事が気掛かりだ。 彼女達は無事に逃げられたのだろうか? 動かない身体を無理矢理動かして ならず者達の密集しているところに体当たりをしたところまでは 覚えているのだが、それからの記憶が全く無い。 コトネの姿はこの玄室には居ないようだ。 先に逃がしたフォルテとセルビナは、 コトネと無事合流出来たのだろうか? 例え無事だとしてもあの麻痺は強烈だったから―― わたしは溜息をついた。 そう。これは三度目だ。 彼らにとっては三度目の正直か。 他の冒険者からの助けがすぐには来ないという事が分かっているのか ならず者達の表情に余裕さえ見て伺える。 やはり迷宮内の情報伝達は彼等のほうが一枚も二枚も上手のようだ。 一度目と二度目の異なる点はコトネも一緒では無い事。 過去二回においてコトネはその都度身包み全てを剥がされて この冷たい玄室に裸を晒していたから、 今回捕まらなかったのは不幸中の幸いだったのかもしれない。 拘束されているのは手と足。 少し動くだけにジャラジャラと音がするが、 その度に激痛が襲ってくるため、ほとんど動かせない。 あのカラスとの戦闘で受けた致命傷足りうる傷は既に ―死なない程度には―治療されているようではあるが、 この不潔な玄室内、この不潔なならず者達に囲まれていては その治りも遅いように感じる。 寧ろ、わざとそういう状態にしてあるのかもしれないが―― この状態では隙をついて逃げ出す事など到底構わぬ話だ。 今はまだ体力を温存しておく事が先決だろうか―― 馬鹿なならず者が必死にわたしの装備を剥がそうとしているが、 馬鹿なならず者にはすぐには剥がせないだろうとわたしは確信している。 あれだけしっかりと固定をしたのだから。 あれだけしっかりと確認をしたのだから。 とりあえず、眠っておく事としようか―― ――だから、静かにしてくれないか?お馬鹿なならず者達よ。 ・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・ 後書き: 三度目というわけで、なんとなく書いてみたもの。 セレニウスの心のぼやき。 相手によって口調の変わるセレニウス=セレニア。 思考の中ではその中間とも思える言葉を使っている。 HP0を意識して書くとこうなるかな、というテスト。 最後の言葉は勿論声として出してないが、 その後、強制思考停止状態、つまり気絶しているわけでして―― 文責:織月