「ここが問題の洞窟なんだがな」
 案内を買って出た村の若者こと村人Aが指さす先に、その洞窟はあった。洞窟と言うにはやや狭い、崖下にぽっかりと空いた空洞。ここに、世にも恐ろしい怪物が住み着いてしまったというのだ。洞窟は山間の村から里へと出て行く道の脇にあり、ここを通行する者にとって大きな障害となっているのだ。
「真っ暗だね。奥がぜーんぜん見えないし、じめじめしてそう…」
 村人の後ろからひょこりと顔を出す、赤毛の少女、サフィア。プレートアーマーにタワーシールド、そして両刃のフェリングアックス。まるでブリキの兵隊である。
「ま、俺たちが来たからには安心しな!」
「触手の化け物なんかこま結びにしてやるぜ!」
 と、サフィアとともに村人Aに雇われた玄田哲章声のカオス傭兵Aと大塚明夫声のカオス傭兵B。HAHAHA!と高らかに笑う二人の背後に忍び寄る、怪しすぎる影。志村、後ろ、後ろー!
「そうさ、俺たちにかかれば…ぎゃー!」
と、突然の洞窟の奥から青白い色をした無数の触手が恐るべき速度で飛び出し、
傭兵Aの足首に絡みついた!
「!?」
触手はそのまま物凄い勢いでカオス傭兵Aの身体を中空高く抱え上げ、その全身をまさぐり始めた。
カオス傭兵Aには為す術が無かった・・・
柔らかく生臭い無数の触手がカオス傭兵Aの身体の穴と言う穴に侵入して来る!
カオス傭兵Aは無数の触手に散々に凌辱された・・・
「あ…あいるびーばっく…」
カオス傭兵Aは嬲られながら、己の傭兵としての自負が徐々に削り取られてゆくのを感じた・・・
(実力レベル 8→0)
「ど、どうした傭兵A! ぎゃー!」
と、突z(略
「ああ、おらが村で集めたなげなしのお金で雇った屈強な傭兵A、傭兵Bが簡単に!ぎゃー!」
t(略
「えええ、村人Aまで!? 嘘でしょ!? 有無を言わさずアタシ一人触手の相手なんてそんなエロ展開…きゃー! こ、こらっ、はなせー!」
 しゅるりと素早く触手がサフィアの足を絡め取る。反射的に斧を振り上げ…
「…きゃぅっ!」
 地面に強い力で引き倒される。ごちんと頭を強くぶつけ、目の前に火花が散った。
「う、くっそぉ…ひゃあ!」
 朦朧とする意識を一息に覚醒させるおぞましい感触。鎧の隙間から這い入る、細い触手。ぬめぬめとした粘液で包まれているくせに、表面に無数にある吸盤のおかげで鎧をつかんでもほとんど滑る様子を見せなかった。
「や、やだっ、入ってくるなぁっ!」
 ありとあらゆる鎧の隙間から入り込んでくる、触手。触手。触手。
 脇の部分から入り込んできたそれは窮屈に収められた胸の上でとぐろを巻き、腰の部分から入り込んできたそれは、そこを目指すのが当然とばかりに、サフィアの火所へと殺到する。挙げ句、そうしたメインディッシュにありつけなかった無数の触手どもはガントレットやブーツの隙間にすら入り込み、粘液と吸盤で彼女の肌を侵略していった…






「ん、んむぅ…っ…」
 生臭い粘液を口の中にまで塗り込められながら、サフィアはぼうっとした頭で考える。
 何日経ったんだろ…もう、頭の中までぐちゃぐちゃで、何も…そーいえばお腹空いたなぁ…あぁ、このぬめぬめの臭い、海沿いの町で食べたイカってのに似てるような…まさか、ね。

がぶり。

「ゥ ン ま あ あ 〜 い っ!
こっこれはああ〜〜〜っ この味わあぁ〜っ!
サッパリとした触手に粘液のジューシー部分がからみつくうまさだ!
触手が粘液を! 粘液が触手を引き立てるッ!
『ハーモニー』っつーんですかあ〜 『味の調和』っつーんですかあ〜っ!
たとえるならサイモンとガーファンクルのデュエット!
ウッチャンに対するナンチャン!
高森朝雄の原作に対するちばてつやの『あしたのジョー』!
…つうーっ感じっスよお〜っ」
 ぴぎゃー、と珍妙な叫びを上げ、サフィアに群がっていた触手が逃げようとする。しかし、もう遅い。形成は完全に逆転したのだ。食欲という魔物に取り憑かれた今のサフィアにではない。
「そ…そうなんだよな… 食えるはずがねえーんだよなこんなキモいの! でも思わず食っちまった…
クセになるっつーかいったん味わうとひきずり込まれるキモさっつーか…
たとえると『豆まきの節分』の時に年齢の数だけ豆を食おうとして
大して好きでもねぇ豆をフト気づいてみたら一袋食ってたッツー感じかよぉ〜〜〜〜〜っ!
うわああああ はっ 腹がすいていくうよぉ〜〜〜っ! 食えば食うほどもっと食いたくなるぞッ! こりゃあよお―――ッ!!
ン ま あ ー ー い っ !! 味に目醒めたァーっ!」



「と、まぁこれがアタシがモンスター食を追求し始めたきっかけなの!」
 胸を張り、えへんと威張るサフィアを前に廬山とサラは顔を引きつらせる。
「そりゃまた」
「ずいぶんと苦労なさってきたのですね」
「美味しい食材を手に入れるには苦労はつきものなのよ」
 そういう意味で言ったんじゃないと二人は心の中でツッコミを入れる。が、ここでサフィアに同調してしまう世間知らずが一人。ディンブラである。
「ふむ、機会があれば食べてみたいものだな」
「「!?」」
「でしょ? この迷宮にも触手湧くみたいだから、その時は腕によりをかけてさばいてあげるわよ」
「うむ、楽しみにしている」
 それ、私らも食べなきゃダメなんだろうな、とうんざりして顔を見合わせる廬山とサラであった。