『リムカSS?〜Reason why a man came here〜』




その娘は、自然を愛する清楚で美しい娘だった。
人々に平和と安らぎの心を伝え歩く、旅の女神官。
白を基調とした旅の神官着を身に纏った清楚ないで立ちで形の整った薄青色の長い髪は、腰まで伸び、
その美しい顔は、常に慈愛に満ちていた。

だが、今の彼女に、その面影は残っていない。

身に着けていた服は破かれ、獣のように四つんばいの格好で、後ろから犯されている。
彼女を犯しているのは、巨漢の男。
娘の腰を両手で、がっしりと掴み、己の肉棒を激しく突き入れている。

娘が、犯されはじめてから二日になる。
娘の身体のいたる所に白濁液が付着し、口やお尻の穴には、何度も犯された痕跡がくっきりと残っていた。

犯され、喘ぎ鳴くその姿には、もはや清楚の欠片もなかった。
それでもまだ、彼女の瞳には光が宿っていた。

「んあっ! はぁっ、あっ、あぁ!?」

男が、一突きするたびに女の声が上がる。

「さっきまで、四人同時に相手してたんだろ?それなのに、がばがばに緩むどころか、
 ますます締め付けてくる。とことん、いやらしい娘だな」
「はんっ! ち、ちが…んあっ!」

娘は反論しようとするが、一突きされるたびに出てしまう喘ぎ声によって、それが阻まれてしまう。

「何が違うってんだか」

片手を腰から放すと、彼女の秘所に持っていく。
そこには、娘の愛液がべっとりとくっついていた。
それを手にとって、娘の目の前に持っていく。

「これが何だかわかるか?お前のいやらしい汁だよ」

そう言って、ネバーっとしたそれを娘の頬に塗りつける。

「ち、ちがう……、ちがいます……」

娘は、涙を流しながら首を横に振る。

「何が違うって!」

勢いよく、腰を突き入れる。

「んあぁぁっ!!」
「突き入れるたび、こんな、あまったるい声で鳴いて、何が違うって言うんだ?ああん?」

そう言って、ピストン運動のスピードを加速させる。

「んあ!?い、あぁっ!はぁっ!あっ…、いやっ、ま、たっ、んっ、あ、あぁぁぁーっ!!!」

娘の体が、大きく痙攣し。同時に一気に全身の力が抜け落ちた。

「またイッたか。これで、何が違うっていうんだ?ん?」
「はぁ…、はぁ…、…ち、ちが…う…」
「気持ち、良かったんだろ?」

娘の耳元で、甘くささやく。
だが娘は、軽い放心状態の中でなお、否定の言葉を呟く。

男は、正直驚いていた。この凌辱が始まってから、もう二日になる。
その間、何十回も絶頂に導かれ、何十回も膣内に白濁液をぶちまけられただろうか。
口の中やお尻も犯されてまくっているのに、まだ堕ちない。
男を知らない清楚なお嬢様といった感じの娘だったから、簡単に堕ちると思っていたが…。

(だがまあ、そうでないと面白くないよな)

娘の尻をひっぱたくと、再びピストン運動を開始する。

「ああぁっ!」

放心状態から一気に解き放たれた。
再び、快楽の波が押し寄せてきた。

「あぁっ!だめっ、はんっ、ま、まだっ、んあぁっ!」
「だれが休ませるって言った?俺はまだ出していないんだぜ!」
「ひぃあっ!はぁっ、あ、あぁっ」

ピストンするのたびに、娘の快楽の混じった喘ぎ声をだす。
その声は、聞き様によっては、歓喜の声にも聞こえる。
おまけに、膣肉も、緩むどころか、どんどん締め付けてくる。

「淫乱な神官様だぜ」
「はっ、ち、ちが…、あぁっ、ああ」

淫乱という言葉に反応したのか、それを否定するように、必死に首を振る。

「いいかげん認めろよ。お前は、淫乱な情婦なんだよ!」

そう言うや、再び、手を秘所に持っていき、クリトリスを一気につまみあげる。

「んはっ!? あぁぁぁ!!!」

またも絶頂に達し、秘所からは愛液があふれ出す。

「わかるか?今、お前のアソコから、いやらしい汁が、滝のようにあふれ出ているんだぜ」

そう言いながら、秘所に入れた手を思いっきし、かき回す。
ぐちゅっぐちゅっ、と、いやらしい音が大きく響く。

「聞こえるか?このいやらしい汁の音が。無理やり犯されて、こんなに汁を出すなんて、生粋の淫乱娘の証拠だよ」
「あ、あぁ……、あぁっ!!」

必死に首を横に振り、否定するが、ピストン運動は、さらに加速し、尋常でない勢いで腰を打ち付ける。
そのつど、快楽の混じった喘ぎ声を発してしまうのだ。

「気持ちいいんだろ? こんなに乱暴にされて。いいかげん、認めちまえよ」
「あぁっ! んく、うぁっ、あぁっ!」

喘ぎ声で鳴きながらも、必死に首を横に振る。
だが心の中では、男の言うとおり、気持ちよさでいっぱいだった。
乱暴に突き入られるつど、快楽の波が押し寄せる。
このまま、この快楽の波に身をまかせれば、どんなに幸せか。
男の言うとおり、淫乱な今の自分を受け入れれば、どんなに楽か。
だが、それを受け入れてしまったら、今までの自分を全て否定することになる。
敬虔なる神の信者であり、人々に平和と安らぎを伝える使徒として
決して、快楽に流されず、神と人々のために、日々精進してきた。
それを否定して、淫乱な今の自分を受け入れてしまったら、きっと、二度と戻ってこれなくなる。
そんな戒めと、自分を失う恐怖にも似た思いが、かろうじて理性を繋ぎとめていた。

「あぅっ、あっ、んんっ!」

だが、男が一突きするたびに、送られてくる快楽が理性を押し潰していく。
淫乱な自分が、本当の自分を侵食していく恐怖。
淫乱な自分を必死で否定し、侵食を止めようとするが、それも、もう限界だ。

「んあぁ!! あ、ああっ! くぁぁっ!」

男も、娘の理性が限界ぎりぎりまで、近づいている事に感づいていた。
次で確実に堕ちる。
ならば、盛大に堕としてやろうじゃないか。

「出すぞ!」

熱い物が、娘の中に解き放たれると同時に、娘のクリトリスを力いっぱい、潰さんとする勢いで摘みあげた。

「ん!? ぁ、ひぃああぁぁぁ!!!」

解き放たれた白濁の液体は、直ちに快感へと変換された。
そして、クリトリスを潰された痛みと、その数倍の快感と重なり巨大な渦となって、娘の理性へと襲い掛かる。

(あ…、もう…、だ…め…)

残されていた理性の全てが、渦に飲み込まれる。
本当の自分は、淫乱な自分によって、粉々に砕かれ、娘は今まで発した事のない程の大声で、歓喜の悲鳴を上げた。

「…どうだ?気持ちよかっただろ?」

男は、全身の力が抜け、ぐったりとした娘に声をかける。

「ぁ…ぁ……」

娘は、快楽に酔いしれた表情で、力なく頷く。

その瞳からは、光は消えていた。





ここは、クルルミク王国の龍神の迷宮。
王国の重要な儀式が執り行われる神聖なる地下迷宮。
だが、それも昔の話。
今では、邪悪な魔道士ワイズマンの召還した魔物とならず者達の温床と化した魔窟である。
ならず者達は、ハイウェイマンギルドなる組織を結成し、
ワイズマン討伐のために迷宮に足を踏み入れた女冒険者達を次々と捕らえては、凌辱していったのだ。


「ふぅ」

先程まで、娘を凌辱していた男は、椅子に座って一息ついていた。
男の名はバロッグ。
巨漢、筋肉質、粗暴を絵に描いたような男だが、他のならず者とは、少し違った雰囲気を感じられる。

「ア・ニ・キ」

和やかな笑みを浮かた男が、もみ手をしながら寄ってくる。
小柄で腰の低い男だ。人のよい笑みを浮かべているが、バロッグの目から見て、どこか、いかがわしさを感じていた。

「…お前か」
「お前かなんて酷い。ニロンですよ。アニキ」

そっけのない口調で返されたのだが、男――ニロン――は、笑顔を崩さない。

「へへ、いつも通り、見事なお手前で」
「ああ、そうかい」

見え透いたゴマすりだ。
このニロンという男は、大した実力はないくせに、こういったゴマすりは得意ときている。
なんでも、昔は有名な詐欺師だったらしい。
仲間内では、彼の話術にころっと騙されて……、なんて奴もいるという。
もっとも、そういったゴマすりは、バロッグには通じていない。
いつも、そっけなく突き放すが、ニロンはまったく気にした様子をみせず、こうやって毎回のように近づいてくる。

「いえいえ。謙遜しない! アニキが犯る女は、他に比べて、簡単に堕ちるじゃないっすか」
「俺が犯る女が、脆いだけだろ」
「またまたー。アニキ、実は、女を堕とす事になれてるんじゃないっすか? そういったテクを習得しているとか」

バロッグは、大した観察眼の持ち主だと思った。
このニロンという男、こういう面では、侮れない。

「…ちょっと前まで、奴隷関連の仕事もしてたからな」
「へえ。あ、じゃあ、アニキは奴隷商人だったんですかい?」
「いや。俺は商品となる女を攫う仕事をしていた。時には、捕まえた女を順応にするために、色々やったからな」

色々やったというのは、もちろん、さっきのような凌辱も含まれている。
攫った女を犯し、反抗心を削いだり、性奴隷に仕立てるあげるのも、彼の仕事の一つだった。
「へえ。それじゃ、アニキがここに来たのも、奴隷調達のためっすか?」

一瞬、忌まわしい記憶が蘇り、不愉快げな表情になる。

「いや……。俺も他の連中同様さ。龍神の迷宮っていう、逃げ場を知って、逃げてきたのさ」

そう言いながら、半年前の事を思い出す。
あの忌まわしい事件を……





「はぁ、はぁ」

地下迷宮の入り組んだ通路を、一人の若い女が、息を切らせながら走る。
赤いローブを纏い、手には、ルーンの彫られた杖を持っている事から、魔術師だという事が伺える。
そのすぐ後ろから、五人の男達が追いかけてきている。
粗末で、薄汚い身なりからして、一目でならず者の類である事が伺い知れる。

(どうして、こんな事に?)


ここは、学院都市ウィーノルから、まる一日ほど歩いた場所にある古代の地下迷宮。
すでに調査発掘されており、罠や凶悪モンスターの危険はない。
迷宮の外から、モンスターが入り込んでいる事はあるが、このあたりに生息するモンスターは
それほど凶暴ではなく、新米冒険者レベルでも十分対処できる。
そのため、この迷宮には、学院で魔法を学ぶ学生魔術師や僧侶達が、迷宮探索の実践の場としてよく訪れる。
彼女もまた、学院都市ウィーノルにある賢者の学院で魔法を学ぶ若き新米魔術師である。
迷宮探索の実践のために、学院の友人達三人を誘い、この迷宮にやって来たのだ。

探索は順調だった。
この迷宮は少々入り組んでいたが、先に探索した調査隊の描いた地図を持っていたので迷うことなく、奥へと進んでいった。

最下層――と、いっても地下二階だが――に降り、しばらく進んだところで、異変に気付いた。
いつの間にか仲間の一人である僧侶の娘が、姿を消していたのだ。

どこかで、はぐれてしまったのだろう。
はぐれた僧侶も地図を持っていたが、単身でモンスターと遭遇したら危険なので、探す事にした。

しばらくして、今度は魔術師の娘が消えた。
そしてその直後、いかつい男達が現れて、彼女達に襲い掛かってきたのだ。
突然の事に、二人はパニックを起こし、散り散りに逃げてしまった。


「あっ」

女魔術師が角を曲がると、そこは行き止まりだった。
すぐに別の道をと振り返るが、そこには、彼女を追いかけていた男達の立っていた。

「へへ、追い詰めたぜ、お嬢ちゃん」

男達は、下品な笑みを浮かべて女に近づく。
その表情から、明らかによからぬ事を考えているのは、まるわかりだ。

「そ、それ以上近づくと、ただではすみませんわよ!」

女魔術師は気丈な声で威嚇の言葉を発し、魔法を発動させる構えをとる。
だが、その声は震えていた。
実際この状況で、魔法を使ったとしても、倒せるのは一人か二人程度。
その隙に、他の男達が彼女を取り押さえてしまえば、彼女はそれまでだ。

とはいえ、魔法をくらった者はただでは済まない。
男達もその事がわかっているのか、攻めに攻められない状況だ。
しかし、そんな事など気にもしないように、一人の男――バロッグが、進んで一歩前に出た。

「ち、近づいたら、ただでは……」
「声が震えてるぜ? ああん!?」
「ひッ!?」

バロッグは、鬼気迫る怒号で、女魔術師の威嚇を一蹴する。
その怒号を受けた女魔術師は、身すくめてしまう。

バロッグは、その隙を逃さず、女魔術師に詰め寄る。
女魔術師は我に返って、呪文の詠唱をはじめるが、間に合わない。
そのまま押し倒されると、男達が次々と女魔術師に押し寄せた。

「は、はなれなさい!」

数人の男達に押し倒されてなお、気丈に声を震わせ、必死にもがくが、もはやかわいい抵抗でしかない。
バロッグ達は、あらかじめ用意していた縄で女魔術師を縛り上げた。





「これで七人目か」

捕まえた女魔術師を隠し部屋の床に転がす。
周りには、同じく縄で縛らた娘達が六人いた。皆、猿轡をされ、「んーんー」と唸っている。
その中には、女魔術師といっしょに探索に来て、はぐれた友人達の姿もあった。
この娘達は、皆学院に所属する新米の魔術師や僧侶達で、まだ20にも満たない娘達がほとんどだ。

「たったの二日間で、七人も捕まえられるなんて、大収穫だな」
「ああ。さすがボスだぜ。こんないい狩りのポイントを見つけ出すんだからな」

男達は浮かれるように語り合う。

彼らは、奴隷調達集団「女狩り」
村娘から女冒険者、果ては、女兵士や貴族の娘まで、女という女を攫っては、奴隷商人達に売り飛ばす集団である。
奴隷調達集団などと名乗っているが、やっていることは人攫いと変わりない。

彼らは、ウィーノルより南方の地方を主な活動拠点としている。
今回、ある奴隷商人の依頼を受け、――もちろん奴隷の調達――わざわざウィーノルまで出張ってきたのだ。

「だけど、この女達。へへ、こうして見ているだけでも、くるものがあるな」

いやらしい顔で、転がされている女達を眺める。

「ああ。特に右から二番目の魔術師なんて、服越しでも、いい身体してるのがわかって……」
「くー!今すぐにでも犯りたいぜ!」
「ボスには犯るなって言われているけど……、一人くらいなら」

一人が、欲望を押さえられなくなったのか、いそいそとズボンと下げて、下半身を露出させる。
男の肉棒は、すで全開に立っていた。
いきなり汚らしく見苦しい物を見せられ、娘達は一斉に悲鳴を上げた。
中には、これから何をされるのか、想像できた者もいたのかもしれない。
猿轡を噛まされていたため、くぐもった悲鳴ではあったが、それがかえって、男達の欲望を増大させる。

男の一人は、ゆっくり、ゆっくりと、娘達に近づく。
他の男達も、にやにやと下卑た笑みを浮かべるだけで、それを止めようとはしない。

「てめえら、何をやってやがる!」

男達の背後から声が飛んできた。

「ボ、ボス!?」

男達があわてて振り返る。
そこには、彼らのボス、バロッグの姿があった。

「そいつらは大事な商品だって言っただろう! もし傷でもいれたら、一気に価値が下がっちまうだろうが!」

鋭い叱責に男達は、畏縮する。
彼らの受けた依頼、それはウィーノルの賢者の学院に所属する、14歳から20歳くらいの若い女学生を攫ってくる事。
学院の女学生であれば、職種――魔術師・僧侶・賢者他――は問わない。
ただし、男の色を知らない生娘、すなわち処女というのが条件だ。
また捕まえた娘達に対して、一切の手出しも禁じている。
裸にひん剥く事も、羞恥プレイさせる事も駄目。
あくまで「きれいなままの女」を要求しているのだ。

ちなみに、捕まえた娘達が処女であるかどうかは、わからない。
確認は、依頼人が直接おこなうそうだ。
仮に捕まえた娘が全員、処女でなくても、その時はその時で、依頼額の半額で買い取ってくれるというが。

(あくまで、きれいなままでか……。ま、わからないでもない)

ウィーノルの賢者の学院に所属する女学生といえば、
世間では、清楚で可憐、男を知らない純情な乙女というイメージがある。
まあ、実際のところ、学院に所属する女学生が皆、清楚で純情な乙女という事はないのだが、
そういったイメージもあり、女を犯して喜ぶ連中は、一度は学院の生娘を自分の手で汚してみたいと思っている。

だが、賢者の学院のガードは、想像以上に固かい。
以前、学院に所属している新米女魔術師を誘拐した奴らがいたのだが、
半日も経たぬうちに、学院の保安部によって、魔術師は救出され、誘拐団も全員逮捕された。

今現在、賢者の学院の女学生を奴隷にしたという人間は一人もいない。
それが学院に女学生の価値をさらに高めているのだ。
彼女達を抱くためならば、金は惜しまないという輩も多い。

その一度は汚してみたい娘が、今、目の前にいるのだ。
手下達が、欲情するのもわからなくないと、バロッグは思った。
本音のところ、彼自身も、魅力的な生娘達を前にして、男の欲望が、ほとばしっていた。
これが仕事でなければ、今すぐにでも犯していただろう。

だが、仕事は仕事。
この世界、自分の欲望ばかりに捉われているだけでは、大成できない。
そこらのチンピラやならず者程度で満足するのなら、それでよいだろう。
だが、バロッグは、もっと上を目指していた。
上に登るためにも、今は確実に依頼をこなす必要があるのだ。

「そんな事よりも、今夜には、ここを引き払う。準備をしておけ」
「え? もうですかい!?」

突然の命令に手下達は驚く。

「もうしばらく、滞在しましょうや。たったの二日間だけで、七人も手に入ったんですよ。
あと二、三日踏ん張れば、十人くらい……」
「駄目だ」

手下の一人が意見したが、あっさりと切り捨てる。

「二日で七人も捕まえられたのは、運がよかっただけだ。
 この先、ここに踏み止まっても、これ以上、女を捕まえられる保障はない」

バロッグの言うとおりだった。
彼らは、一週間前からこの迷宮に潜伏し、獲物である学院の女がやってくるのを待ち構えていたのだ。
二日で七人と捕まえたといったが、実際には、一週間で七人といった方が正しいだろう。

「それにここは、あの学院都市のお膝元だ。長い期間、踏み止まっているわけにはいかない」

ウィーノルは、他国に比べて、遥かに治安が良い。
ウィーノルの警察機関を、賢者の学院が担っているのが、理由の一つだ。
捜査力も侮れないものがあり、もし事が発覚すれば、たちまち足がついてしまうだろう。
だからバロッグは、女を捕まえたら、三日以内にこの地から離れることにしていた。

学院の学生達は、大体、二、三日かけてこの迷宮を探索するという。
都市から迷宮までの往復期間も計算に入れると、事が発覚するのは、早くて四日後。
その間に隣国にでも逃げ込めば、学院もバロッグ達を追うのは難しくなる。

「わかりました……」

手下達は、しぶしぶとバロッグの命令を承諾する。
ボスである、バロッグの命令は絶対だから。

「けど、これだけの娘を連れて歩くのは、色々と面倒なんじゃありませんかい?」

手下の一人が、素朴な疑問を口にする。
たしかに、縄で縛った女を連れて歩くのは、色々と面倒だし、何よりも目立つ。

「心配ない。最初の娘を捕まえた日に、待機の連中に繋ぎをつけといた。今日の夜には、迎えの馬車が来てるはずだ」

馬車に詰め込めば、面倒もなければ、目立つこともない。
手下達は、その用意の周到さに感心するばかりである。

「おら、感心してないで、引き払う準備をしねえか。」
「ヘイ!」

と、そこへ一人の男があわてた様子で駆け込んできた。

「ボ、ボス! 大変だ! ぼ、冒険者!冒険者が来ました!」

男は、ひどくあわてた様子で、バロッグに報告した。

「冒険者だと?」

バロッグは、驚きを隠せない。
すでに調査し尽くされ、目ぼしい宝も残っていないこの迷宮に冒険者がやってくるとは……
もしかして、事が発覚したのだろうか?
とにかく、詳しい状況を確認する必要がある。
バロッグは、報告に来た手下に詳しい状況を尋ねた。
手下が見た冒険者は三人で、全員女らしい。
だが、よく見ていなかったので、詳しい構成などはわからないという。

「とにかく、現物を見てみるか」

そう呟くと、手下を数人連れ、部屋を出て行った。





この迷宮には、あちこちに隠し部屋と、それを繋ぐ隠し通路が存在する。
彼らは、これらの隠し通路を利用して、やって来た学院の娘達を捕まえていたのだ。
バロッグは、手下に案内され、隠し部屋の一つに訪れる。

「たぶん、ここからなら確認できると思いますぜ」

手下の説明を受け、バロッグは、備え付けの覗き穴に向かう。
この覗き穴、誰が何の目的で備え付けられていたかは知らないが、バロッグにとっては好都合な物だった。

覗き穴を覗くと、そこには三人の女冒険者達の姿があった。

まず目に映ったのは、長い髪を後ろに束ねた女。年の頃は18か19といったところだろうか。
腰には、剣を挿している。身軽な格好を見ると、どうやら軽戦士のようだ。

次に目に入ったのは、小柄な娘だ。軽戦士の女と同じく、身軽な格好をしているが、
身体にピッタリとあった革鎧など、軽戦士と比べて、より機能的な姿から盗賊である事が伺える。

年は、16といったところだろうか。

最後は、若干幼さの残る少女だ。白いブラウスの上に、青のケープを羽織っている。
ツインテールの薄赤色の髪が、特徴的だ。手に持っている杖から見て、魔術師だろうか?
と、胸の中央に輝く宝石が目に入った。
エメラルドグリーン色に輝くそれは、学院に所属する賢者を示すもの。

(すると、あの小娘は賢者なのか?)

賢者の学院では、特に制服が決まっているわけではない。
彼らが身に着けている色の入った魔法石で、学院の人間かどうかを判断しているのだ。
ちなみに、赤の魔法石は、魔術師を。青の魔法石は、僧侶を示している。

そんな事を考えていると、女達の話し声が聞こえてくる。


「えーと、このまま、まっすぐ進むんだっけ?」
地図を見ながら、軽戦士の女が、賢者の少女に尋ねる。

「うん。この道をまっすぐ進んで、次の角を右に曲がって、
 そのまま真っ直ぐ進んで、三つ目のT字路を左に行けば、目的の場所だよ」

尋ねられた少女は、特に地図を見ることなく、すらすらと答えた。

「さっきから地図も見ないで、すらすらと出てくるものだねぇ。……大丈夫なの?」
「はい。地図は、暗記しちゃっていますから、大丈夫です」

女盗賊の疑問に、賢者の少女は明るく答える。
そんな少女に、女盗賊は、本当に大丈夫なの? という顔をした。

「大丈夫。道は間違っていないよ」

地図を確認した軽戦士の女が、すかさずフォローを入れる。

「ふーん。すごいもんだねぇ」

地図を見た女盗賊は、素直に感嘆を口にした。
もちろん、軽戦士のフォローではなく、賢者の少女の記憶力にだ。

「そんなことないですよ。前に一度、ここに来た事がありましたから」

そうは言うが、一度来た事があるだけで、この迷宮の構造を把握するのは難しい。
地図を暗記するにしても、そう簡単に出来る事ではない。

「前に一度って言えば……」

女盗賊が、思い出したかのように続ける。

「たしか、この迷宮って、探索しつくされたんでしょ?なんで今さら、再調査なんてするの?
 それも学院の賢者様が、わざわざさ」

この迷宮は、すでに調査探索しつくされているのだ。そういった疑問が出ても無理はない。
女盗賊は、少女の答えを待つ。

「賢者様だなんて……。わたし、そんなにえらくないですよ」

少女は、困惑した声で、見事にズレた答えを返してきた。

「いや、あのねぇ……」

思わず、コケそうになる。聞きたい事は、そんな事じゃない。
どうやらこの少女は、ちょっとした揶揄を真面目に受け取ってしまったようだ。

「この子は、ちょっとズレてるっていうか、天然が入ってるからね。揶揄とか皮肉とか、鈍いのよ」

再び軽戦士の女がフォローを入れる。

「あー、そんな事ないですよ。たしかに、ちょっと世間の事情には疎いけど……」
「わかっているなら、もう少し聡くなる」

どうやら、軽戦士の女と賢者の少女は、親しい間柄のようだ。
まるで、仲の良い姉妹のように、息が合っている。

「……なるほどね。学院の賢者って、こーいうのが多いのかしらね?」

二人のやり取りを見ていた女盗賊がぼやく。
そのまま、三人は目の前から去っていった。


「どうしやす? あの賢者の小娘は、学院の賢者のようですが」

部屋に戻って、手下の一人がバロッグに尋ねた。

「捕まえた女どもの中には、賢者はいませんでしたし、捕まえれば、報酬も上がりますぜ」
「それに、軽戦士と盗賊の女もいい身体してたし……。ボス、あの三人も狩りましょうよ」

バロッグは悩んだ。手下達の言う通り、捕らえた女達の中には賢者はいない。
あの賢者の小娘は、少しばかり幼い気もするが、高く売れる事には違いないだろう。

だが、問題は軽戦士と盗賊だ。
あの二人は、間違いなくベテランの冒険者であることは見てとれた。

正直、バロッグ達の実力は大した事ない。
新米の冒険者レベルならば、なんとかなるが、そこそこの経験を積んだ相手となると、旗色が悪い。
数で押せば、何とかなるかもしれないが、相手の実力しだいでは、相当のリスクを負うことになる。

普段の彼ならば、そのような危険を冒すことはしない。
依頼は、学院に所属する若い女を攫う事で、別にその職種までは指定されていない。
たしかに、賢者も攫って、報酬アップというのには、心惹かれるものはあるが、すでに目的は達しているのだ。
これ以上の危険を冒す必要はない。

ないのだが……

「それに冒険者の女なら、犯っちまっても関係ないですし」

そう、それなのだ。
この二日間、目の前に上物の女が転がっているにも関わらす、それに手を出せないでいた。
いくら、理性的に振る舞っていても、バロッグも男だ。
たまりにたまったものがある。
それが、バロッグの判断力に、緩みを生じさせた。

「……よし。わかった!あの女どもも、とっ捕まえよう!」

手下達から歓声が上がる。

「だが、相手は冒険者だ。今まで通りだと危険が大きい。そこで、囮作戦でいこうと思う」

バロッグの作戦はこうだ。
まず、正面から囮の連中が三人に襲い掛かり、軽戦士と盗賊を賢者の少女から引き離させる。

囮が二人をを引き付けている隙に、バロッグ達が隠し通路を使って後方から強襲し、賢者の少女を捕まえる。

「あとは、その小娘を人質にして、武器を捨てるよう脅せば、それで終わりさ」

先程見た限り、軽戦士の女と賢者の少女は、親しい間柄だ。
人質は、効果的だろう。

「いくぞ! 野郎ども!!」
「おう!!」





襲撃は開始された。
まずは、囮の手下数人が、正面から三人に襲い掛かる。

バロッグの作戦通りに事は進んでいった。
軽戦士の女と女盗賊は、賢者の少女に後ろに下がるように指示すると、前に出て囮の手下達と戦闘を始める。
女二人と、少女の距離が開いたところで、バロッグ達は、後ろから不意打ちを仕掛けた。

バロッグは、咆哮を上げながら、少女に襲い掛かる。
この咆哮は、気の弱い者なら、怯えて、身をすくめてしまう程のものだが、

「え、えーと。どちらさまですか?」

少女の口からは、なんとも場違いな台詞が、発せられた。
怯えた様子は、全く感じられない。
なんともマイペースな。
手下達は、思わず、ずっこけたり、呆気に取られてして、足を止めてしまった。
バロッグも、内心では呆れていたが、足を止めずに、そのまま少女へと突き進んでいく。

(このまま一気に押し倒す!)

少女まで、あと少しというところで、突然、目の前で眩しい爆発が起きた。
爆発は、掠りもしなかったが、激しい光だったため、思わず足を止めてしまった。
どうやら、目の前の少女が、魔法を使ったようだ。

「目くらましの魔法か? なめやがって!」

バロッグは咆えた。

「ひゃっ!?」

さすがに間近での怒号は、迫力があり、少女は一瞬、身を震わせる。

「リムカ! そいつは、悪い奴だ!」

自分の後ろで起きている異変に感づいた軽戦士が、大声で叫んだ。

「悪い人? じゃあ……」

軽戦士の声を受け、少女はバロッグを見る。
そのバロッグは、目の前まで迫っていた。
少女は、あわてて杖を構える。魔法を発動させるつもりだ。

(遅いぜ)

すでに、少女はバロッグの手の届く範囲にいる。
もはや、突進の勢いに任せて、押し倒すだけ。
魔法を発動させようにも、今から詠唱したのでは間に合うまい。
バロッグは、勝利を確信していた。

だが、それは甘い考えだった。
強烈な光の爆発が、バロッグに直撃する。
爆発の勢いで、バロッグは後ろへと吹き飛んだ。

何が起きたのか? 状況を整理する。
少女の持つ杖が魔法の光を発している。
どうやら、あの爆発は少女の魔法だったようだ。
だが、呪文の詠唱はなかった。

身体を動かそうとするが、痺れと痛みが全身を駆け巡り、動きがとれない。

(この魔法、電光爆発《ライト・ボム》か?)

――電光爆発――電撃をまとった光のエネルギーを爆発させる魔法だ。
殺傷力こそ低いが、直撃すれば、痺れと痛みで、少しの間は動けないだろう。

(だが、たしか、この魔法は……)

電光爆発の魔法は、初歩ではないが、初級の魔法だったはずだ。ダメージも大したは事ない。
一般人なら、倒れてしまうかもしれないが、バロッグ程ならば、よろける程度で済む。
その程度の魔法の筈なのに、バロッグはその魔法の威力によって倒れた。

この威力はありえない。

おそらく、かなりの魔力を持っていたのだろう。
魔法の威力は、使用者の魔力に左右される。
魔力が高ければ高い程、魔法の威力・効果は上昇する。
また、少女は呪文の詠唱を行わずに魔法を行使した。
呪文なしの魔法の発動は、相当経験の積んだ魔術師でなければ難しい。

この時、はじめて自分の浅はかさを呪った。
この賢者の少女の実力も、ベテラン冒険者に匹敵する程だったのだ。

バロッグと共に後方から仕掛けた手下達も、少女の魔法の前に次々と倒れていく。
戦士達を引き付けている手下達も、劣勢のようだ。

まだ、痺れの残る体を無理に起こす。
このままでは、捕まってしまう。なんとかして、逃げなければ。

「あ」

賢者の少女がバロッグに気付いた。すかさず魔法を撃つ構えに入る。
だが、そんな事にかまっていられない。バロッグは、少女に背中を見せると、一目散で走った。

一発二発の魔法は覚悟しなければならない。
だが、このまま戦っても、敗北は目に見えている。
ここは、魔法をくらってでも、逃げるしかないのだ。

すぐに飛んで来るだろう魔法に備える。
備えるといっても、魔法のダメージに耐えられるよう、祈ることくらいなのだが、これに耐えられなければ、そこで終わりだ。

……しかし、いつまで経っても魔法が飛んでくる気配はなかった。
ちらっと、後ろの様子を見る。

少女は、こちらを見ていたが、魔法の構えは解いていた。
どうやら、相手が逃げたので、これ以上の攻撃は必要ないと思ったのだろう。

(情けのつもりか? なめやがって!)

バロックは、角を曲がり姿を消す。
その頃には、戦いは終わっていた。





無事、迷宮を脱出したバロッグは、手配していた馬車に乗り、急ぎアジトへと戻った。
そして、すぐに手下達にアジトの引越しを指示した。
捕まった手下の口から、このアジトがもれるのに、時間の問題だ。
そうなる前に、別のアジトへ移動しなければならない。
万が一、手下が捕まってしまった場合を考えて、バロッグは、いくつかアジトを用意していた。
その場所は手下達には、教えていない。知っているのは、自分だけ。
そこへ移動すれば、とりあえず安心だろう。

だが、失ったものは大きい。
手下達を失ってしまったのはもちろんだが、それ以上に依頼を失敗した事が、大きな痛手だ。
彼の信用は著しく落ちてしまうだろう。
ひとつの判断ミスが、大きな損失を生んでしまったのだ。

このまま引き下がるわけにはいかない。
もはや、依頼を完遂させるのは難しいが、そんな事どうでもいい。
あの三人に落とし前を付けなければ、彼の気が治まらないのだ。
特に、自分に魔法を食らわせ、そして情けをかけた、あの賢者の少女には。

(なんとしてでも、復讐してやる!)

彼の本性、それは人一倍プライドが高く、そして歪んでいるのだ。





彼が、次のアジトに選んだのは、意外にもウィーノルだった。
もちろん、町の中ではない。ウィーノルから少し離れた、深い森の中にある洞窟だ。

彼は、ウィーノルで仕事をする際、下調べを行っており、
仕事が失敗した時、身を隠す場所として、いくつか隠しアジトを用意していた。
この洞窟もその一つで、よほど注意して探索しなければ、見つかることはないだろう。

新アジトへの引越しを終えたバロッグは、手下達に待機を指示すると、変装して、単身ウィーノルへ潜入した。
目的は、迷宮で遭遇した冒険者達の情報を集める事。
その結果、軽戦士の女と女盗賊の二人は、すでに旅立っていることがわかった。
だが、賢者の少女は、この都市に滞在しているという。
まずは、この少女に落とし前を付けさせる事にした。

少女の名はリムカ。リムカ・スターロート。
学院に所属する賢者にして、大賢者ストラー・スターロートの孫娘。

ストラーの名は、この地方の人間ならば、誰もが知っているだろう。
「邪悪なドラゴンを倒した」「失われた古代の超魔法を復元した」「異世界を冒険してきた」等、
様々な伝説を残している。

リムカは、そのストラーの才能を引き継いでいるらしく、天才少女の通り名を持つ。
若干12歳で賢者の資格を習得し、魔法の腕もかなりのものだという。

一通りの情報を集めたところで、適当な酒場に入った。
適当な席に座ると、酒と適当な食事を頼み、遅い昼食を取る。
昼食を取りながら、集めた情報を元に、どうやってリムカを捕まえるかを考える。

(まずは、あの小娘を一人にする必要があるな。それと、町中で襲うのは論外だ)

治安の良い都市の中で、さわぎを起こしたら、すぐに衛兵が飛んでくるだろう。
どこか人気のない場所に誘い出す必要がある。
情報によれば、リムカは、超がつくほどのお人好しだという。
どうやら、周りの人間が善人ばかりで、人を疑うという事を知らないらしい。
それ故におびき出すのは、苦労はしないだろう。

問題は、どうやって大人しくさせるかだ。
あの時は、自分を含め、六人でリムカに挑んだ。
バロッグは、初っ端で脱落したが、リムカは残った五人を同時に相手して、それを難なく撃退していた。
正面から挑むのは、無謀すぎる。

残っている手下は、六人足らず。自分を含めても七人。
あの時の戦闘から考えて、それだけの人数で、リムカを抑えるのは無理だと判断した。
なんとかして、人手を集めなければならない。


「ロンジさん、こんにちわ」
明るく元気のよい、少女の声が店に響く。どこかで聞いた事のある声だった。
バロッグは、あわててその声の主を探す。

それは、すぐに見つかった。
店のカウンター席の前に立つ少女。
見覚えのある青いケープに、薄赤色のツインテールの頭……
間違いない。あの賢者の少女、リムカだった。

内心で、怒りと恨みの嵐が吹き荒れるが、それを気取られるわけにはいかない。
気持ちを落ち着け、様子を伺う。

「リムカの嬢ちゃんかい。こんにちわ。今日は何のようだい?」

ロンジと呼ばれた男――この店の主――は、和やかな笑みを浮かべて出てきた。
別に意識しているわけではない。リムカと話をすると、不思議とそうなるのだ。
「おじいちゃんのお使いで、いつものお酒のおつまみを買いに来ました」
「ああ、ちょっとまってておくれ」

そう言って、店の奥へと入っていく。
しばらくして、小瓶を持って戻ると、それをリムカに見せる。
それを確認したリムカは、腰のポシェットから、お金を取り出し、ロンジに渡す。

「まいど」

ロンジから小瓶を受け取ったリムカは、それをポシェットにしまう。

それから、他愛のない世間話を始める。

こう見ていると、どこにでもいる普通の少女のようだ。

(あんな小娘に、俺は負けたのか)

その光景は、返ってバロッグの怒りに油を注いだ。
「女狩り」として恐れられていた自分が、あんな小娘にやられたのかと思うと、
 不愉快を通り越して、憎悪の念が生まれてくる。

「そういえばリムカ。お前さん、有名な人攫い集団を捕まえたそうじゃないか」

ロンジが、ふと思い出したようにそう言った。
バロッグの眉がピクッと動いた。

「なんでも探索に行った迷宮で、偶然遭遇して返り討ちにしたとか」

バロッグの眉がまた動く。
表情こそ平静を装っているが、内心、穏やかなものではない。
彼にとっては、認めたくない屈辱だからだ。

「はい。と言っても、ほとんどナーシェとミルセさんのおかげですけど」

ナーシェとミルセ。おそらく軽戦士の女と女盗賊の名前だろう。

「ハハ。謙遜するな。だが聞いた話、そいつらのボスは逃げたそうじゃないか」
「はい。捕まえた悪党さんが、そう言っているそうです」
「ふむ……。となると逆恨みして、仕返しをしてくるかもしれないな」

さっきまでとは、うって変わり、店主の表情が暗くなる。

「身の回りには、気をつけるんだぞ」
「大丈夫ですよ。ウィーノルは、治安もいいですし。
それに、もしそのボスさんが来たら、自首するように説得しますから」

ロンジの気遣いを知ってか知らずか、無邪気にそう答える。
ウィーノルの治安の良さは、ロンジも疑っていない。
だが、悪党のボスが、素直に説得に応じるだろうか?
さすがにロンジも困って、ただ苦笑いするしかなかった。

(あいつ馬鹿か? 世間知らずでお人好しっていうのは、噂以上だな)

そんな会話を耳にしながら、バロッグは心の中で笑う。
他の悪党ならばいざ知らず、バロッグのような最低男に、説得など通用する訳がない。
笑い飛ばされるのがオチだろう。

バロッグ「リムカめ、今に見てろよ。ところでカメラさん。俺、写ってないんだけど」


「まあ、なんだ……」

ロンジは、どう言ったものかと悩んだ。
リムカの言っている事は、間違ってはいない。だが世の中には、汚い現実というものが存在する。
それを
目の前の無垢な少女に教える事は、ためらいを覚えるのだ。

「……とにかく、身の回りには気をつけるんだぞ」

そう答えるしか出来なかった。

「はい。それじゃ、ロンジさん。また来ますね」
「おう。ストラーさんによろしくな」
「はい」

元気よく返事をすると、リムカは、そのまま店を出て行った。

「相変わらず、根が優しいっていうか。お人好し過ぎるっていうか……」

悪く言えば世間知らず。だが、それを責める気にはなれなかった。
あの子には、ずっときれいなままで、生きて欲しいと思うから。

「……まあ、あの子の言うとおり、ウィーノルの中でいれば大丈夫か」

と、ため息交じりにカウンターの中に戻っていった。

「オヤジ。ごちそうさん。金はここに置いておくぞ」

バロッグは、カウンターに代金を置くと、足早に店の外に出る。
そして、ついさっき店を出た少女の姿を探す。程なくして、その姿を見つけることが出来た。
気付かれないように尾行を開始する。

尾行して気付いたが、リムカは次々と町の住人から声をかけられていた。
さすがに何をしゃべっているかは、わからないが、皆、和やかな顔で話しかけている。

(そういえば、あの小娘に関する話は、好意的なものばかりだったな……。町の連中には、相当好かれているってことか)

しばらくして、リムカは、人気のない路地に入っていった。
これは、チャンスかもしれない。
人気のない路地ならば、多少、騒ぎを起こしたところで、気付かれる可能性は……。

そこまで考えて、大きく首を振った。

(何を考えている。それじゃ、前回の二の舞になるだけだ)

自分とリムカとでは、あきらかに実力に差がある。
もし、不意打ちに失敗すれば、それで終わりだろうし、
成功したとしても、こんな場所で事を起こすのは、やはりリスクが大きい。

(今はまだ、その時じゃない)

そう自分に言い聞かせると、尾行をやめ、アジトヘと戻っていった。





アジトに戻ったバロッグは、まず、人手を集める事にした。
リムカと戦闘になった場合、30人……、最低でも15人はいないと返り討ちにあってしまうだろう。
自分の裏世界での人脈をフルに活用して、仲間を集める。

幸いというか、リムカに悪事を潰されたのは、バロッグだけではなかったらしい。
リムカに復讐したいという人間は多く、人手は簡単に集まった。

その数、40人。
これならば、たとえ正面からぶつかったとしても、負ける事はないだろう。

リムカをおびき出す目算もついた。
お人よしの彼女なら、偽依頼でも使えば、簡単に一人にすることも出来るだろう。
そのための用意もばっちりだ。

襲う場所は、この隠しアジト。
ここに彼女をおびき出し、徹底的に犯してやろう。
男達の間でいやらしい笑いが漏れ出す。

――その時だった。
武装した一団が乱入してきたのは。





バロッグは、賢者の学院を甘く見すぎていた。
学院には、禁忌とされる呪文書や魔装具が保管・封印されており、それらは常に悪しき者達から狙われている。

当然、それに対する備えも万全である。
一般には知られていないが、学院には、独自の情報収集機関が存在しているのだ。

そして、リムカ・スターロートは、学院でも重要なポストにつく、大賢者ストラーの孫娘である。
同時に、彼女は学院にとって、ある種のアイドル的な存在でもあった。
彼女に危害が加わらぬよう、学院は常に目を光らせていた。

密かに進行していた「リムカ襲撃計画」だが、実はバロッグがリムカの情報を収集している段階で、
すでに学院に察知されていた。
学院は、あえてバロッグを泳がせ、リムカに危害を加えようとしている者達が、一堂に会するのを待っていたのだ。

ならずもの達は、反撃をすることさえ叶わなかった。
選りすぐりの魔術師・賢者達から編成された殲滅部隊。
その中には、学院の精鋭である魔法戦士達の姿もあったという。
炎が、吹雪が、稲妻が、深い森に隠された洞窟内で炸裂する。
死人が出なかったのは、まさに奇跡だった。

後にリムカ襲撃計画に参加していた男は語る。

「今でも、眠ると、あの時の光景が夢に出てくるんだ……」

阿鼻叫喚の地獄絵図。

彼らには、もはやリムカを襲う勇気などない。
それどころか、彼らの口を通して、リムカに危害を加えようとすれば、
恐ろしい制裁が待っているという事が、周辺諸国に広まった。

もはや、この地方にリムカをどうこうしようと考える者はいない。


…一人の男を除いて。


よほど悪運が強いのか、バロッグは、ただ一人、奇跡的に脱出に成功した。
だが、もはや彼に居場所はなかった。
学院は、彼を指名手配し、手配書は周辺諸国にも伝わった。

かくして彼は、学院の追っ手、諸国の衛兵、冒険者、賞金首達から追われる立場となったのだ。


そして、辿り着いた先が、このクルルミクの龍神の迷宮だった。





「アニキ?」
「ん? あぁ、お前か……」
「どうしたんすか? なんか、ボーっとして」
「……なんでもねえよ」

そう言うと、持っていた酒を呷る。
忌まわしい記憶だ。今、思い出しただけでも、はらわたが煮えくりかえる。

「それで、いったい何があったんですか?」
「うるせぇ」

不機嫌そうな声をだす。

「どうやら、あんまり触れられたくないようで……。ま、いいですけどね」

男は、笑みを浮かべたまま立ち上がる。
と、部屋が騒がしくなる。出入り口には、人だかりが出来ている。

「どうやら、新しい女が入ってきたみたいっすね。それじゃアニキ。また」

そういって、ニロンは人だかりの方へ歩き出し、足を止めた。

「そういえばアニキ。この前犯った女盗賊っすけど。アニキの過去とあの娘……、何か関係でも?」

ニロンの何気ない言葉に、眉をひそめる。

「…なんで、そんな事を聞く?」

訝しげに尋ねる。

「いや、他の女冒険者とは違って、アニキ、容赦なく責めてましたからねぇ……。まっ、なんとなくですよ」

そう言って、男は人だかりの輪の中に消えていく。
程なくして、女の悲鳴と、男達の歓声が響き渡った。


ニロンの指摘通り、以前、バロッグが犯した女盗賊は、ウィーノルの迷宮での三人の内の一人だった。

半年前の恨みを晴らすように、あの女盗賊に対しては、容赦なく犯しまくった。
その結果、女は、半ば壊れた状態になってしまい、売り物としての価値も半減したと仲間内から、文句も出た。

だが、それでも、彼の恨みは消えはしない。
なぜなら、彼が本当に復讐したい相手は、女盗賊でもなければ、軽戦士の女でもないからだ。

賢者の少女、リムカ・スターロート。

あの小娘のせいで、全てが狂わされた。
こんな薄暗い迷宮に身を寄せる事になったのも、全てはあの小娘のせいだ。

だが、それ以上に許せないのは「女狩り」と恐れられ、裏世界でも数々の修羅場をくぐり抜けてきた自分が、
たかが小娘によって、この転落人生…、これ以上の屈辱はない。
それが、彼の憎悪をより増大させているのだ。

学院の影響力さえなければ、すぐにさっきの娘のように犯しているだろう。
それが悔しくてたまらなかった。

だが、このままでは終わらない。

まずは、このハイウェイマンギルドの頂点に上り詰める。
そして、その組織力を持って、裏世界の舞台に返り咲くのだ。

そして、いつの日か、あの小娘に自分の恐ろしさを、思い知らせてやる。

あの小娘をとっ捕まえた、その時には、犯して、犯して、犯しまくってやる。

腰が抜けるまで犯しまくり、声がでなくなるまで、泣き叫ばせ、
全ての気概を奪い去って、その心を叩き折り、女として生まれた事を後悔させる。
いや、それだけでは物足りない。
リムカの全てを壊しつくして、二度と立ち直れないよう、徹底的に叩き堕としてやるのだ。

想像しただけで、歪んだ悦びで胸が沸き立つ。

どす黒く歪んだ執念と、狂気を宿す男……

その復讐の機会は、まもなくやって来ようとしているのかもしれない……。







登場人物設定と補足説明

・バロッグ
謎の人攫い集団「女狩り」の首領。
元々は、エロシーンを書くために作ったキャラだが、いつの間にか、話の中心になってしまった。
鋭い観察眼の持ち主で、的確な状況判断・分析をする能力を持つ。
確実かつ安全に物事を進めていくタイプで、村娘から貴族の令嬢まで、幅広く多くの女性達を攫って来た。
奴隷調教の天才で、何百人もの女達を堕としてきた。「女殺し」「絶倫王」等の異名を持つ。
唯一の欠点はプライドが高すぎるところで、それが傷つけられると感情的になってしまう。
復讐など考えずに、早々にウィーノルを離れて、組織を立て直していれば
裏社会でも1,2を争う奴隷調達組織のボスになっていたかもしれない。
現在は、ハイウェイマンズギルドに身を寄せ、典型的なならず者として活躍中。
ちなみに彼がリムカを恨む理由は、完全に逆恨みの八つ当たり。

・ニロン
龍神の迷宮にいるかもしれない、ならず者の一人。
詐欺師。ごますり男で世渡り上手。かなり計算高い男。
バロッグと違って、自尊心は皆無。
たとえギルドが壊滅しても、ならず者達が皆殺しにされても
こいつだけは、したたかに生き残る。そういう奴。

・女神官ティリア
バロッグに犯されていた娘。
二次募集に備えて作成した没キャラの一人。
ロウの僧侶で18歳。
教団の命令で、ワイズマン討伐隊に参加していた。
長い青い髪と清楚な雰囲気が特徴。
オプション:正義 犠牲


・リムカの迷宮再調査のその後
バロッグ騒ぎのせいで、調査は中途半端な所で終了。
隠された階層は、現場検証をしていた学院の保安部が発見する。

・ナーシェのその後
バロッグを捕まえるために旅立つが、結局、見当はずれの所を探し回っていた。

・ミルセのその後
リムカから報酬を貰って、クルルミク王国へ旅立つ。
龍神の迷宮に挑むも、ならず者化したバロッグに徹底的に犯されてしまう。