少女の憂鬱 (キャラ紹介SS)


“ラファエル”という名は、あまり好きじゃない。

だけどそれが私を形作っているもの。

――だから。



  1


  薄闇の中に、赤い星が散りばめられていてた。

  そこに時折フラッシュする流星。

  金属音が激しく鳴り響く。

  映し出される2つの影は、互いに対峙していた。

  一方は、男としては平均的。しかし頑健さが見え隠れする体躯を持つ影。

  もう一方は、小柄で髪の長い少女のような影。

  2つの影の間で幾度か流星が閃き、そして激突した。

  徐々に、少女の影が後ろへと下がっていく。

  手にした剣だけで、相手の激しい斬撃を受け止めきれずに後退しながら、少女は隙を窺っていた。

  しかし少女の意図に反し、剣戟は激しさを増す。

  まるで竜巻の最中に身を置いているかのような、気を抜けば吹き飛ばされてしまうであろう打ち込みを受けきるのは容易ではなかった。

  打ち込みの速度、角度、打ち込み後の予測をこなしつつ、それぞれに合わせて剣で受け、流し、弾く。

  腕の力だけでなく体全体をバネとして自らの持つ剣を支え、防御後の隙を最大限に無くさなければ、次の攻撃を防ぎきれるものではない。

  しかも受けているだけでは、剣の重みで反撃もままならない。俊敏にステップを踏んで回避できるものは紙一重で交わし、時として 上体を振って的を散らす。

 必死の形相で攻撃をかわしていく少女の息が、太鼓をかき鳴らすように強く短くリズムを刻み、額から滲んだ玉のような汗が弾け飛んで周囲の赤い光に反射する様は、さながらルビーが削れ落とされていくかのようだ。

  恐ろしく集中力を要求される作業の中、同時に反撃の隙も窺わなければならず、そして早めに反撃できなければいたずらに体力を消耗するだけとなる。

  何十回目になるだろうか、結構な回数を受け流した時、少女の中で不安が苛立ちとなり、そして焦りを生んだ。

  均衡が崩れる時は、あっけないものである。

「しまっ……!?」

  受け流そうとした剣が逆に弾かれる様子は、まるで煌めく陽炎のようだった。

「攻撃の直後の隙を狙っていたのだろうが」

  降伏するように両手を広げた少女の眼前に、刃の切っ先を突きつけた男は言った。

「その為には、攻撃を阻止した時点で攻撃できる態勢になっていなければ同じ事だ」

「うっ、うるさい! 分かってるわよそんなこと」

  薄闇の洞窟の中、韮を噛むような気持ちで少女は男を睨み付ける。

 辺りに煌めく光が反射して赤く染まる瞳は、まるで炎のようだと感じたが、男はそれをすすきで切ったような瞳で涼しげに返す。相手の実力も性格も熟知しているが故に、寧ろ滑稽にすら思えてきた。

「どうだかな。頭で分かっているだけでは分かっているとは言えんよ。お前は考えすぎだ」

  断言され、少女は明らかに不機嫌さを増す。周囲の壁面から顔をのぞかせる宝石が放つ、赤い光に照らされていることを差し引いても、さぞや顔を赤くしていることだろう。

  ざまあみろだ。と男は思ったが、それを口に出して烈しい心の飛沫を身に受けるのも面倒な話だった。もっとも、それはそれで面白いかも知れないと、僅かでも思っていないと言えば嘘になるが。

「なによ、じゃあ考えるなって言うの」

「考えないヤツは、ただの阿呆だ」

  僅かな間をおいて少女は漸く口を開いた。しかし酷く通俗的な返し方で、男からすれば道ばたの雑草ほどに意識を向ける気も起きない。口だけは達者だが、口だけで怪物との戦いに勝てるものでもない。

  少女からしてみれば、考えすぎるな、考えるなと、相反することを言われたも同然。言いたいことはなんとなく分かるものの、奥歯に物が詰まったような言い回しをされてもハリネズミのように棘が張るだけ。ついつい言い返してやりたくなる。

「バランス良くとでもいうつもり? それとも『考えるな、感じるんだ』とでも言いたいわけ?」

「考えないのは、ただの阿呆だと言っている。だが感じるなとも言わん。局面毎に考えを巡らせ、時として体に覚え込ませた動きで考えるよりも早く動くこととが必要だ。それを昇華させたものが技であり、生き残る術だ」

「……………………」

「お前はそれなりに頭が回る。腕もそれなりに優秀だ。だがそれ故に肝心なところでも考え、動きを鈍らせる。鋭さが微塵もないから怖さもない。受けに回ったらそれで手一杯になるから容赦なく打ち込めもする。俺からすればいいカモだ」

  拗れた反抗や敵愾心を満足させるだけのものがまるで含まれぬ口調は、いつも少女を苛立たせる。自分の力のなさが嫌でも分かってしまうから。

  突きつけられたままの剣を手で払いのけた少女は、心が激して溢れる言葉をとどめることが出来ずに叫んだ。

「うるさいうるさいっ! だいたい力も技も経験も違うんだから、アンタみたく出来ないのは当たり前じゃないのよ」

  この里の最高の戦士、“血に染まる紅蓮の剣”の名を持つ戦闘狂、そんな相手と駆け出しの自分とが戦いになるはずもない、と少女は言う。

  男からすればそれはごく当たり前のことで、虎には虎の、鷹には鷹の戦い方というものがあり、少女には少女の戦い方というものが存在する。しかし自身のことだからこそ他者が答えを出せるものではない。他者に出来ることは、きっかけを与えることだけ。しかし頭に血を上らせている相手に説明してやるなど、こびりついた返り血を全て拭うほどに煩わしい。

 少女にしても、その意味を霧の先にながらも理解していなかったわけではない。だが、なまじシルエットが分かってしまうからこその苛立ちとも言えた。自分で霧が払えないのなら、それを教えるべき者が、せめて払うやり方だけでも教えてくれてもいいだろうという甘えも確かに存在したのだが。

 だが、男はそんな甘えを許さなかった。それは常に強者と戦い、自らを全て駆使することで得られる勝利の美酒の味を知っていたから。他者から得られる美酒の、なんと醒めやすいものかを知っていたから。心の内に染み込まぬ美酒などに、意味はない。

「当たり前のことを当然のように言うヤツだな。だが、格上の敵なら俺と同じ事を考えるだろうよ」

「くっ」

「その意味も分からんなら勝手に死ね。俺もお前に教えることが無くなってせいせいする」

  そう言葉を吐き捨てると男は踵を返し、揺るがぬ歩調で洞内から去っていく。その確固たる後ろ姿を、少女はただ視線で射るしかできなかった。

「…………どうせ“お前”だもの」

  やがて男の足音が聞こえなくなり、洞内に籠もった空気の重さが音を封じ込めると、少女はポツリと漏らした。絡め取る空気に気怠げに剣を鞘に収め、重い足取りで男の後を追う。ここの出口は一つしかない。

  なによりも訓練の後は、この重い空気と、炎のような殺気が体にまとわりついて気持ち悪かったから。

  訓練用に使われている、赤い光を灯す宝石が無数に埋め込まれているこの洞窟は、長く居るだけで気が狂いそうになる。心の鍛錬も同時に行う目的も、少女には実感のないことだった。

 洞窟を出ると外は冷たく爽やかな空気に満ち、傾いた太陽が山並みに沈みかけていた。柔らかいその日差しと広大な風景は、かさついた心を撫でるように潤してくれる。

 それだけでどこか安心できる気がして、少女はほっと胸をなで下ろした。




  2


  この里には名前はない。

  名称をつけることで生まれる意味は、この里の者にとっては不都合だったからだ。強いて言うならば「里」が名称なのだろう。

  この地は、鳳凰剣という名の剣術の発祥の地。そして今は、それを受け継ぐ一族の者達が細々と暮らしている、山と谷に囲まれた辺境。隠れ住むにはもってこいの場所といえた。

  彼らの一族はいくつかの家に別れている、それを統括するのが各家の長達が開く評議会であり、それが里そのものと言っても過言ではない。もっとも、少女に言わせれば、人の少ない村みたいな場所でのことなのに仰々しすぎるということだが。

  ともあれこの里で生まれた男女問わず全ての人間は、幼少の頃よりこの鳳凰剣の修行を受けさせられることとなる。その中で優秀な者が技を受け継いでいくこととなり、そうすることでより優秀な者と、血を残そうというのだ。

  この、何百年も前に作られた前時代的なシステムのおかげなのかどうか、鳳凰剣の使い手はそれなりに名を上げている者が多い。

  少女は、そんなシステムの中で才能を認められた者であるが、それは少女にとっては迷惑この上ない話だった。敢えて利点を挙げるならば、与えられる特権を、それなりの範囲で自由に使えると言うことだろうか。

  訓練後に温泉を貸し切って汗を流せるのもそんな利点の一つであり、少女の日課の一つとなっていた。

 


 訓練用の防具を床に落とすように外し、晒された柔らかさのある素足で隅に追いやる。汗の染み込んだチュニックに手をかけると、一気に上へと捲り上げ、さっさと脱衣用の籠へと投げ捨てた。

  貸し切りのために誰も居ない脱衣所は、草の芽の伸びる音さえも聞き取れそうなほどに静かだった。その中で少女の立てる衣擦れの音だけが響いている。

 両手を腰に当たるようにして下着に手をかけると、するりとそれを下ろし、あっという間に全裸になる。

  少女らしいほっそりとした肢体は、大人になりきれていない子鹿のように、戦士として最低限の肉付きとなだらかな丸みを帯びていた。

「う〜……痣になってるじゃない」

  誰も見ていないこともあり、それなりに広い脱衣場で開放感を感じながら、少女は腕を上げたり、腰を捻って訓練で痛みを受けた柔肌をチェックした。白雪のように匂やかに艶を見せて光る肌は、瑞々しく柔らかい。その肌に、刃を削った訓練用の剣の後がブロンズを擦りつけたようにくっきりと残っていた。

「これじゃあすぐボロボロになりそう……」

 白く尾を引く吐息混じりに呟いた少女は、ふと小さな胸の小さな乳房を見る。ふっくりと柔らかい、白い盃のような一双の貧しい膨らみ両手を重ねると、脱衣所が揺れるような太い溜息を漏らした。これは、少女にとってコンプレックスの一つでもある。

 気を取り直すように大股でスタスタと温泉へと向かうと、脱衣所から仕切りとなっている板戸を開く。

「ハァイ、調子はどう?」

  貸し切りの筈なのに、先客が居た。

  腹立たしいことに、入ってくることを知っていたとしか思えない絶妙のタイミングでひらり手を挙げる女性は、少女と同じく黒髪に黒い瞳を持つ、大人の女性だった。似たような髪型をしているせいもあるだろう、まるで親子のようにそっくりな顔立ちは、少女の将来の姿とも錯覚させる。

 ただ成熟した山百合のような大人の色香は、少女には絶対に真似が出来そうにない。くびれた腰つきに、湯に僅かに浮かぶ大きな椀のような乳房は、少女のコンプレックスをちくちくと刺激するものだった

  “ラファエル” と、その女性は呼ばれていた。

  湯の中に盆を浮かべてその上に置かれた酒を愉しんでいる “ラファエル” に、少女はむっとした顔を露わにし、蜂が低く唸るような声を出した。

「……たった今、とても悪くなったわ」

「あら、さっきから悪かったように見えたけど、ますます悪くしちゃったかしら?」

「いったい何の用? アタシ、疲れてるんだけど」

  取り合う気などまるでなく、とっとと出て行けと言わんばかりだ。

  しかし相手に取り合わないのは “ラファエル” も同じ。持ち込んだお猪口にとくとくと酒を注ぐと、風に揺れる凪のような様子でお猪口掲げた。

「つれないわねぇ。せっかく様子見に来てあげたのに。ほらほら、そんなところで突っ立ってると風邪引くわよ」

  むすりと唇を尖らせながら、湯に体を沈めた少女は、まるで丸くなる子猫のように膝を抱えるようにして首まで湯につかる。

  少女は、この“ラファエル”はあまり好きではない。似たような顔立ちというのもさることながら、人を食った態度にイライラするからだ。

  大人の余裕とも言うべきものが、少女には分からなかったからだろう。湯の温かさに一息つくこともなく、少女はそっぽを向いた。

「頼んでないわよ」

「頼まれてないもの」

「じゃあ――」

  相手の意図が掴めぬまま、えも知れぬ腹立たしさにイライラしたて口を開く少女を制するように、“ラファエル”はその言葉を遮る。

「なんで来るのかって? そりゃ、貴女は私の後釜だし? 心配するのは当然っしょ」

「心配なんてして欲しくないし、後釜にだって――」

「なりたくなぁい? ま、そりゃそうよねぇ。私だってそうだったし。けどその為に師までつけて……てぇ、アイツじゃ無理か。我が弟ながら、他人のことはどうでもいいってカンジだからねぇ」

「それ関係ないし、アタシだって好きでこの一族に生まれたんじゃないわ!」

「人間なんてね――」

  ざばっと顔を上げて叫ぶ少女に、“ラファエル”はお猪口を軽く傾けた。

「――人間なんて、生まれたときから不自由なものよ。その程度をどう感じるかは当人次第だけど。こうも思わないかしら? 正義のために戦うなんて、カッコよくない?」

「別にカッコよくない」

  即答であった。“ラファエル”は軽く首を振ると、唇を尖らせる少女の姿を映し出すお猪口の中身を飲み干す。

「今時の子はダメねぇ。そこでカッコイイかもって言ってくれれば説得のしがいもあるのに。ちょーっとイイカンジで話し始めてみたから、ノるのが礼儀ってものよ?」

「いったい何の用?」

  “ラファエル”の言葉を完璧に無視して二度目となる質問を投げかける少女に、“ラファエル”はどこかの近所のおばさんのように手を前後させる。

「まーまー、用事なきゃ会いに来ちゃダメって事はないっしょ? たまには女同士で裸の付き合いとかもいいんじゃないの〜?」

「遠慮する」

  “ラファエル”は、とりつくしまのない少女に振った手をひらりと天に翳して降参の意を示したが、それは形だけのものだった。

「悩み多き年頃なんだから、たまにはぶち撒けちゃってもいいと思うわよ。そうねぇ、おっぱいが大きくなる方法、教えてあげましょうか?」

「……いらないっ」

  足を抱えた腕にぎゅっと力を入れると、静かだがはっきりとした声。完全な拒絶モードに入る少女に、“ラファエル”は一切の手を緩める気はないようだった。

「ん〜、じゃあ下の毛が生えてくるようなお薬の在りかとか?」

「うるさいうるさいっ! そんなのぜんぜん興味ないし、聞きたくないっ!」

「って、ムキになると、興味ありまーすって言ってるようなものなのよ?」

「んなこと言ってないわよっ!」

「あっははは、そんな風に片意地張らずに、興味ありまーすって言っちゃえばいいのに?」

「本気で怒るわよ!」

  本当に頭に来たのだろう、少女は湯の中から勢いよく立ち上がると、“ラファエル”の前で仁王立ちになって睨み付けた。立ち上がった弾みに、湯に浮かんだ盆がひっくり返り、徳利と共に沈む。

  沈んでいく徳利を勿体なさそうに眺めた“ラファエル”は、次に眼前に立ちはだかるような少女に顔を上げた。

  そして溜息混じりに口にする。

「つるつるなの見せびらかされ――っとぉ!?」

  羞恥が裏返しの怒りへと変わり、言い終わる前に少女の蹴りが“ラファエル”を襲う。

  身を引いて間一髪でかわしたものの、手にしていたお猪口がいい音を鳴らして飛び去っていく。

「ホントに何しに来たのよ! この……」

  怒りのままに言いかけた『オバサン』という単語を辛うじて飲み込み、少女は三度目の問いを発した。

  ぽちゃんと、いい音で水没したお猪口を見やると、“ラファエル”はふぅと肩を竦めた。そして顔を上げると、三流役者のようなわざとらしさで、少女を宥める魔法の言葉を紡ぐことにした。

「あ、そうそう。アナタの修行の一環としてね、里を出る許可が出てるの」

「ウソっ!?」

  どうやら、本題を言う気になったらしい“ラファエル”だが、少女はまるで信用しない驚きを持って応えた。

  そんな少女にそれこそ疑念のガラスを曇らせていくような、爽やかすぎる微笑を向ける“ラファエル”は、その条件を持ち出してきた。

「ホントホント、評議会の許可入り。そんで私ゃ暫くここで静養するから、“ラファエル”の名前持ってっちゃっていいわよ。いずれアナタのものになるんだし」

「うっ…………イヤよ、そんなの」

「じゃ、外でなんて名乗る? 適当な偽名でもいいと思うけどね〜。けど、その名前もってかないと、多分出してくれないと思うわよ」

「………………」

  うう、と少女は悩む。名を継ぐのは正直お断りでも、この息苦しい里から出られるというのはもっとも魅力的なことだったから。しかしそれをしてしまった時点で名を借りるのではなく、受け継ぐことになるのではないか。という危惧が少女を悩ませていた。

  悩める少女を眺めながら、“ラファエル”は呆れた顔をする。

「持ってくって言うだけじゃない。ウソでいいのよ、そんなもん」

「う〜〜〜」

「まったく、フリーデルのお嬢さんは真面目なんだから」

「……うるさいっ!」

「はいはい、これ以上は言わないわ。けど外に出るなら、女としてもーちょっと自信持つと、いろいろ楽しいと思うのよねぇ」

「そんなの別に、楽しくないわよ」

  むすっとした顔を作りつつも、どこか表情が緩んでいることを“ラファエル”は見逃さなかったが、敢えて何も言わなかった。これ以上からかっても、宥めるネタの持ち合わせがなかったからだ。

 


  3


  数日の後、少女は里を旅立っていった。

  意気揚々、というよりも籠から逃げ出し、自由な大空に初めて飛び立っていく小鳥のようなその姿を、少し離れた崖の上から眺めている影があった。少女の師である。

  その背後に、もう一つの影。気が付いた男が軽く首を巡らせると、そこには“ラファエル”が居た。

「珍しいことするのね」

「なんだ、お前か」

  子供が楽しげな芝居を見るような面白いものを見る視線に鋭い眼を向けた男だが、すぐに興味なさそうに視線を外す。

  それはいつもの態度。姉弟というには、あまりにもらしからぬそれに、“ラファエル”は肩を竦めた。

「相変わらずの口の利き方で。それで、お見送り?」

「そんなところだ」

「おおっと、ロリコンのケがあった?」

「……殺すぞ」

  どちらも他人に不器用でからかいがいがある師弟だこと、などと思いつつも“ラファエル”は話題を変える。

「ま、冗談はともかくとして。あんなのまで渡しちゃって、どういうつもりなのよ?」

「鬱陶しいのを二つ同時に始末できて、一石二鳥だ。煩いのは一つでいい」

「ああ……そ」

「それを使うかどうかはアイツ次第だな」

  それは、旅立つときに男が少女に与えたもの。それをどう使うかは、確かに少女次第だ。

  失敗するのももいいだろうと思いながらも、男のした事を肯定するように“ラファエル”は吐息を吐きだした。

「しかしよく、名を持たせることを納得させたな」

「あら、納得なんてさせてないわよ。こう言っただけ『“ラファエル”って偽名を使って、自分にあった名前を探して来なさいな』ってね」

「里に伝わる名を、偽名ときたか!」

  男はひとしきり大声で笑うと、面白そうに踵を返した。旅立ちを最後まで見送る必要はない。

  その背には遙か、街道までの小道を行く少女の姿。

  鬱屈した里に背を向ける歩調は軽く、ただ前だけへと進む。

  その行く先がいかなるものか、少女はまだ知らない。



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――次回予告――
 
  抜いた剣を太陽の光に翳しながら、少女はさも名案であるかのように言った。

「じゃ、『まけんちゃん』で決定ね!」

「おまっ! ネーミングセンス最低だな、オイ!」

「こういうのは分かりやすい方がいいのよ」

「わかりやすいどころか、まんまじゃねーか!」

  だが、そんなツッコミなどどこ吹く風の少女だった。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

「“龍神の迷宮”?」

  そう問いを返した少女に、もう一人の少女はコクッと小さく頷いた。

「ふ〜ん……その中にいるワイズマンとかいうのを倒せばいいみたいね。ま、ラクショーじゃない?」

「ん〜………………」

  どうだろうと小首を傾げる金髪の少女だったが、告知の内容を読み終えた少女は言った。

「なにはともあれ、冒険者の酒場に行って討伐隊の登録すればいいみたいね」

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

「あたくしの行軍に付いて来れるのでしょうか?」

  柔らかい口調でそう言ったのは、口調通りの雰囲気を持つ神官戦士だった。

  ひらりと掌を払った少女は、自信満々という様子で言う。

「そんなの当然じゃない。どうせ雑魚ばっかなんでしょ」

「ふふ、そうしていると足下を掬われますわよ。ところで、お名前をうかがっておりませんでしたわね」

「アタシの名前はラファ。ま、それなりによろしくね」


  →ラファ<L−軽戦士> がメンバーに加わった
 

「あっはっはっは! 駆け出しのくせに態度だけは一人前だな、オイ!」

「うっさいわね。アンタ邪魔だから置いてくわ」

「マジでぇーー!?」

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旅立った少女には様々な出会いが。

多くの人々に触れあうことで、人は変わっていく。

そして別れの中で様々なものを知り、そして成長する。

いよいよ舞台はクルルミクへ!

だが続かない!

Written by 安芸