『いねむりクォー』 by MORIGUMA 「クォー、クォー、もう行くよ、早く起きなってば!」 ガチャッ 「ふあああい、もういくの〜ぉ?」 ドアが開くと、ぬっと顔を出したのは、 180センチ近い長身に、ぼさぼさの鈍い金髪の女性。 寝ぼけ顔なのはとにかく、 嫁入り前の娘が乳放り出してまあ・・・。 89センチのバストがモロに、ユサッと。 下は白パンツ一枚。白い尻をぼりぼりかいてる。 「あんたはもう・・・ちょっとは女の子らしくしなさああいっ!」 大きなメガネで優等生風の賢者エメラーダは、 青筋立てて激怒した。 寝ぼけまなこの、半裸で尻をかいてる女性は、 クォーツ・アルミラージュ、クォーと名乗ってる神官戦士である。 これでも由緒正しき首都の『聖堂騎士団』の一員だったりする。 クルルミクの竜神の迷宮騒動に、 たまたま同時期に冒険者登録をしたクォーとエメラーダ。 元々、努力家で苦労症のエメラーダ、 なぜか、クォーの世話を焼く事になってしまい、 PTも一緒になったのだった。 『よくまあ、聖堂騎士団に入れたものよね』 エメラーダの疑問はごもっとも。 何しろ、クォーはよく寝る。 どこでも寝てしまうのは、特技に近い。 いつも眠いので、面倒くさがり、 上司がたまりかねて、武者修行として旅に出させたのだった。 ただ、彼女が聖堂騎士団へ推薦されたのも、 居眠りと無関係とはいえなかった。 話は数年前にさかのぼる。 「あー、おいらクォー。よろしくね。」 水害の多い川の護岸工事、それを監督する人間が足りないという事で、 とにかく『猫の手も欲しい』と引っ張り出されたのが、 大きな商家の娘、クォーだったりする。 きつい仕事だし、工期も長くはかけられない。 しかし、そういう仕事ほどはかどらないもの。 当然、監督する側と、作業に狩りだされる地元の農民たちとは、 かなり感情的に険悪になっていた。 クォーは身体がでかい上に、地元では『居眠り娘』としては有名で、 地元の人たちは、知らない人は一人もいない。 みんな可笑しそうな顔をしていた。 「え〜とね、ブッチさん、マーズさん、コッパさん、トレさん、 五人ずつ組つくって。あと土嚢はブリタさん、ティジおばさんお願いします。」 あとはふああっとあくびをすると、 木陰に入って寝てしまった。 でかい麦わら帽子に、薄いシャツ、短く切った荒い綿のパンツから、 にゅっと足が伸びて、何とも野放図なかっこうだった。 みんな苦笑しながら、のんきな顔になり、 言われた者が人を分けて、作業を始めた。 昨日今日始めた仕事ではないので、 みんな迷うような事は無い。 むしろ、監督する方がいらだって追い立てると、 かえって混乱したり、嫌になるものだ。 「クォーちゃん、クォーちゃん、終わったよ」 「ん〜、あふ、もうおわったん?ティジおばさん。」 終わってみれば、クォーの担当のところが、 一番進んでいたりする。 クォーは無欲な娘で、自分に出る日当は、 全部食べ物や安い酒にして、がんばった人にあげたりした。 また、ごろごろ寝てる姿を見るのが、 みんな楽しいらしく、笑いながらよく動き回る。 そのくせ、仕事で怪我をした人がでると、 途端に起き上がって、その代わりをしっかりやっていた。 クォーの担当箇所は、他よりずいぶん早く進んでいった。 「モッチじいちゃん、あれ何?」 手に怪我をしたモッチじいさんに、案内だけお願いして、 大量の土嚢を入れたかごを背負っていたクォーは、首をかしげた。 下流の一番大きな工事場の真ん中に、 かなりでかい岩が、座ったようにあった。 縦横5メートルはある。 「ありゃあ、昔の大水害で運ばれて来たんだろうな。 みんな、工事のじゃまでこまっとるよ。」 「そっかあ、ありゃあこまるよねえ。」 じーっとみていたクォーが、 「じいちゃん、みんな呼んで来てくれる?」 呼んできた仲間に、こぶし大かそれ以上ぐらいの石を持たせ、 クォーは、突き出した岩の端に飛びついた。 わずかに動くのを確かめる。 見かけより、かなり重心が上にあって、意外に不安定。 ひょいと身体を引き上げると、岩の端で飛び上がり、 思いっきりふんづけた。 グラッ 岩が揺らぐのに合わせ、石が隙間に放り込まれ、 さらに何度か、クォーが踏みつけると、次第に岩が安定を失い出す。 「せぇーのぉーっ!」 踏みつけると同時に、後ろに大きく跳ぶと、ゴロッと岩が転がった。 見ていた周りの人たちが、大きくどよめく。 飛び降りたクォーが、岩の動きにあわせて、蹴っ飛ばすと、 安定を失っていた岩は、さらにゴロンと転がり出した。 みんなが歓声をあげて、丸太や石を持ってきて押し始めると、 ゴロンゴロンと岩は川まで動いていった。 みんなが彼女を『いねむりクォー』と、 親しみを込めて呼ぶようになったのは、それからだった。 たまたま大岩を動かした時、 元聖堂騎士団の団長が見ていて、彼女を騎士団に推薦した。 それを聞いた地元からも、推薦状が何通も届いたそうである。 「ほらっ、クォー、早く食べて。今日から迷宮に入るんだからね!」 「ふあああい、わかった分かった・・・zzz」 「ねるなああああっ!」 はてさて、クォーは大物なのか、単なる怠け者なのか、 それは、これからの冒険次第だろう。 FIN