『おおっと、ミューイが湖に落ちてしまった!』 byウェイン姐さん



 その時、不思議な事が起こった!

 突然湖から神々しい光が伸びたかと思うと中から人影が現れたのだ


「…やあ、君達が落としたのはこのとても優秀でとても賢者らしくとても落ち着いたとてもきれいなミューイかい?
 それとも光源くらいしか能がなくてしょっちゅうヘマばかりしてるダメダメなドジっ娘魔術師なミューイかい?
 あるいは賢者とは名ばかりの本の虫でSランクアイテムの鑑定も出来ないなんとも微妙なかわいいミューイかもしれないね?」
 
 湖から出てくるなり問い掛けるシャーロウ、小脇に濡れ鼠なミューイを抱えて何故か薄い羽衣のような物を纏っている、胸はないが露出はばっちりだ

「なにをしている?シャーロウ」
「新手のコスプレ?」

 その格好に動じる事なく問い掛けるクロジンデと何か可哀相なモノを見るようなミラルド

「…フフ、何を言ってるのかわからないけど…僕は湖の精霊だよ?」
「む、そうだったか…これは失礼」
「あ、納得しちゃうんだ」

 素直に頭を下げるクロジンデ、いろんな意味でタダ者ではない

「…納得してもらえて幸いだね、さて再び本題だけど君達が落としたのはきれいなミューイとドジっ娘ミューイと微妙なミューイ…どれかな?」

 と、その時脇に抱えていたミューイがじたばた騒ぎ出した

「わ、私は微妙じゃありません!一人前の賢者です〜!」
「…ふむ、ならこのSランク地図を鑑定してもらおうかな?」

 抗議を聞き流しつつ何処からか一枚の地図を突き出す

「え…っと…これは…これは……え〜っと……………うぅ…」

 しばらく地図とにらみ合うものの、すぐに俯き泣き出してしまうミューイ

「…泣いてる顔も実にかわいいね?さてお二人さん、答えは決まったかい?」

 泣いてるミューイを放置しつつ再度尋ねるシャーロウ

「待て、ここにはいないがもう一人メンバーがいるのだ、そいつにも相談せねば」
「いやいるから、私達の目の前にいるから」

 真顔でボケをかますクロジンデと即座に突っ込むミラルド

「…大丈夫だよ、彼女は君達の判断に任せると言ってたから」
「む、そうか…シャーロウには悪い事をしたな…」

 本人を目の前にしてすまなそうな顔のクロジンデ、さすがは神殺しの威名を誇る不遜なる神官戦士…と言ってもいいのだろうか

「…フフ、ちなみに質問は受け付けるよ?」



 しばしの沈黙、そしてミラルドが問う


「選ばなかったミューイはどうするの?」
「…僕が責任持って引き取るよ」


 ミラルドはしばしの沈黙の後、再度問い掛ける


「………仮にきれいなミューイを選んだとして、この迷宮の探索が終わったらどうなるの?」
「…まぁ、優秀な賢者なんだし協会に帰るんじゃないかな」

(………OK!I`m freedam!!)

 なにやら密かにガッツポーズのミラルド、そして次にクロジンデが問う

「ちなみに仮にきれいなミューイを選んだとして、協会に帰る途中でスカウトなど出来るだろうか」
「…まぁ、交渉次第じゃないかな、理を説けば納得するかもね」

(……有能な駒ゲット!)

 同じく密かにニヤリと黒く笑うクロジンデ

「あの…なんだかイヤな予感がひしひしとするんですけど…」

 不安げにミューイが聞いてくる、妙な気配でも感じたのか冷や汗を流している

「…きっと気のせいだよ?……さあお二人さん、決まったかい?」

「うむ」
「ああ」

 同時に頷く二人、何故かとてもさっぱりした表情だ

「…フフ、じゃどっちかな?」

「「きれいなミューイ」」

 まさに即答、二人は一片の曇りもない笑顔で答える


「ああっ!やっぱり!!」

「…それではご進呈を…」

 頭を抱えるミューイをよそに、シャーロウはどこからか大人びたミューイを二人に渡す


「池に落ちたのを助けていただきありがとうございます」

 丁寧に一礼するきれいなミューイ、気のせいか背景がキラキラと輝いて見える

「いやいや、礼を言うほどの事じゃないさ」
「うむ、仲間だからな」

 そんなきれいなミューイを二人はとてつもなく暖かい笑顔で迎える

「そう言ってもらえて…私、うれしいです!それじゃそろそろ帰りましょう」
「そうだな、明日の探索に備えるとしよう」
「ああシャーロウ、晩ご飯までには帰ってきなさいよ」

 各々言う事を言って去っていく





 三人が去っていくと、陸に降ろされたミューイががっくりと肩を落とす
 憐れ、信じていた仲間に裏切られた手乗りエルフは呆然と立ち尽くすのみだ、よく見ると少し涙ぐんでいる

「あぁ…行っちゃっいました…」
「…じゃ、僕らも逝こうか…」

 いつの間にか背後に立っていたシャーロウが慰めるようにミューイの肩に手を置く

「ってどこにですか?」
「…フフフ、深く昏い水の底…愉快で楽しい僕らの柩、背徳と快楽に満ちた二人の揺籠だよ?」

 シャーロウはニヤリと嗤う、その瞳は光って唸り、オマエを食べると輝き叫んでいた、その問答無用に妖しい様にミューイは思わず半歩下がる

「はわわ、そういうのは少し遠慮したいなぁとか思ったりするんですけど…」
「…なに、堕ちれば楽になるよ?自分の新たな一面を発見するのもいいかもしれないねぇ」

 笑顔のままじりじりと近付くシャーロウ、冗談か本気か手をワキワキさせていたりする

「…あ、いや……は、はじめてだからやさしく…」

 もはや観念したのか顔を真っ赤にして囁くミューイ

「…はっはっは、実にいい反応だねぇ…怯えた子犬みたいでかわいいよ?」

 ならば、とばかりにシャーロウは大胆にミューイを抱き寄せる


「あ……」

「…ああ、キミのこの綺麗な肌も愛らしくも慎ましい胸もほっそりとたおやかな肢も華奢な腕も一対の宝石のような瞳も麗しい指先もなだらかな曲線を描く耳も緑宝石を溶いたような髪も少し低いがそれすらも魅惑的な鼻筋もその瞼も睫毛も頬も唇もうなじも鎖骨も肩も脇も肘も背中も腰も太股も踝もふくらはぎも膝も爪先も眉も舌も歯の一本もその鼓動すらも全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部………………………………………」


 …とそこでシャーロウは電池が切れた様に俯き押し黙る、はっきり言って怖いというか不気味な静けさがあたりを包む



 「………あの…シ、シャーロウさん?」

 心配そうに声を掛けた瞬間シャーロウの顔が跳ね上がり、ミューイの眼前にきた、とろけるような笑顔だ

 「…………全部、今ここで僕に汚されるためにあったんだね……」


 とびっきり甘く囁くと同時にミューイの肌に指を這わせる


「ひぁぁぁぁ!違います違います違いますぅぅぅ!」

 もはや半泣きのミューイだが、シャーロウはその涙さえぺろりと舐め取り、淫蕩に嗤う

「…ああ!キミの泣き顔がより一層僕を駆り立てるよ、かわいいミューイ!」

 なにかスイッチが入ったらしく、もはや止まりそうもない

「ああああっ、初めてなのに!初めてなのにぃぃぃぃ!!」
「…あっはっは!折角クロジンデもミラルドもいないのにこんなにかわいいミューイを食べてしまわないなんて、その方がおかしいねぇ!」

「たぁぁぁぁすけてぇぇぇ……」





 …そして、ミューイは激しく跳ね起きた


「…はうっ!………うみゅ?………夢…ですか………?」

 呆然とするミューイ、ここはどう見ても宿屋のベッドだ

「はうぅ〜…夢とはいえシャーロウさんと最後までイっちゃうなんて………その、気持ちよかったけど」

 顔を火照らせ呟き布団に顔を埋めるミューイ


 と、その瞬間


「…そんなによかったかい?…光栄だねぇ」

 そんな声が聞こえてくる、ミューイが声の方を向くとミューイのすぐ横に全裸でベッドに気怠げに寝そべるシャーロウの姿があった

「シ、シャーロウさん!?なんでここに!?」

「…なぜ、と聞かれても……昨日はあれだけ熱く愛を語り合ったのに…冷たいものだね?」


 不思議そうに笑うシャーロウ

「昨日ってあれは夢の話で…あれ?」

 混乱し、頭を抱えるミューイ
 だがそんなミューイを見てシャーロウがニィと邪悪に嗤う

「…思い出せないならもう一度愛を語り合うのも一興だねぇ」

 そう言ってミューイに向かって手を伸ばす
 ミューイは抵抗らしい抵抗もせずに大人しく押し倒される

「…フフ、素直だねぇ…それじゃ昨日の続きといこ」


 そこまで言った瞬間、部屋の扉がいきなり開かれた


「シャーロウ、そろそろ食事の時間だ、降りてこい」
「ねえ、シャーロウ…ミューイが見当たらないんだけど、どこに行ったか知らない?」

 そこにはミラルドとクロジンデがいた、思わず固まるミューイ

「うむ、そうか…邪魔をしたな、だが早く降りてこないと飯が冷えるぞ?」

 そう言ってドアを閉めようとするクロジンデ

 だが次の瞬間


「そうじゃないでしょ!!シャーロウ!アンタ何してるんだ!」

 物凄い剣幕のミラルド、よく見るとドアのノブを握り潰している

「…別に?単にミューイをおいしく召し上がろうとしてただけなんだけど?」

 シャーロウは臆すことなく言い放つ
 あんまり堂々と言われてミラルドも二の句が継げない

「ならば続きは食事が終わってからにしろ」

 そう言って踵を返すクロジンデにシャーロウは肩を竦めて頷くと服を着ていく
 憮然とした表情のミラルドも、さすがにここでこれ以上言い合うのもどうかと思ったのかさっさと部屋を出て行く

「…さて、じゃ行こうか」

 のろのろと服を着終わったミューイにシャーロウが手を差し出す、珍しく裏のなさそうな薄い笑顔だ
 しばしの逡巡の後、ミューイはシャーロウの手を取る

「もう、朝からあんな事しちゃだめですよ」
「…昼以降なら構わないんだね?」
「そんなの……状況次第です」

 その答えが余程意外だったのかシャーロウは目を丸くする
 その顔をみてミューイはクスリと笑う

「あ、今の顔…ちょっと面白いです」

 言われて思わずシャーロウは苦笑

「…やれやれ……釣った魚は存外な大魚だったね、まぁ楽しませてもらうとしよう」

 そう嘯くシャーロウはどことなく愉快そうである
 そうして二人は階段を降りていく、その足取りは軽く楽しげであった


―――幕