『配管工と秘密の部屋』 byウェイン姐さん



「入ってみろよ、近道出来るかも知れないぜ?」


 怪しいヒゲのオヤジが巨体を揺すらせ訊いてくる。

 似合っているのかいないのかよく分からない帽子をかぶったその顔は、実に嫌らしい笑いを浮かべていた。
 純真な乙女が見たら、一生うなされる事間違いない代物だ、だが眼前にいたのは純真とか乙女といった言葉の対極にあるPTだった。


「またか、別に何度聞かれても答えは変わらんぞ」
「というか同一人物なの?こいつら」
「世の中には自分のそっくりさんが三人いるって言いますよ」
「…ま、三人どころか百から先は数えていないってヤツだけどねぇ」
「む、そんなに倒していたか」
「いや、そんなには倒してないから流石に」
「…そこで文字通りとってもらっても困るわけだけどねぇ」


 ヒゲのオヤジを半ば無視して漫才を繰り広げているパーティ。


 異教徒狩りを役とし、神すらも鏖殺する「神殺し」の神官戦士クロジンデ。
 関わるもの全てに等しく破壊と不幸をもたらすと言われた世界唯一の「災害存在」ミラルド。
 そのミラルドの監視役として四六時中一緒にいるも一向に災害の気配もない天然極楽娘「手乗りエルフ」ミューイ。
 そして達成率ほぼ百%として名を馳せる刹那的な快楽主義者「黒い請負人」シャーロウ。


 そう、いわずもがなガチ攻略PTとして名を広めつつあるクロジンデパーティである。

 結成には王国が秘密裏に関わってるだの災害存在を厄介払いする方便だの神殺しが正義の名を以てワイズマン討伐に乗り出しただの請負人と愉快な仲間達だのちっこいのは災害存在所有の生きたヌイグルミだのいろんな噂が飛び交う異色の、ただし構成は正統派なパーティだ。


「…まぁ待ってくれよ、アンタ達が今までどんな土管に入ったか知らねぇが…俺のは間違いねえ、確実に下までいけるぜ!」

 自信ありげにオヤジが土管を叩く。

「いや、悪いけど土管なんて一度も入ってないから」
「クロジンデさんが全部断ったんですよ?」
「当然だ、こんな場所に生えた怪しい土管など入るはずもなかろう」

 一蹴するクロジンデ、するとオヤジはさっきまでの態度から一変し、泣き付いてくる。

「頼むよオイ!俺の自信作なんだよ〜助けると思って飛び込んでくれよ〜」
「私は神官だが救うのは専門外だ、余所を当たれ」

 このクロジンデ容赦せん!とばかりにあっさりとオヤジを蹴り剥がした。


「…まぁ、待ちなよ」

 転がるオヤジをシャーロウが優しく受け止めた。

「…ここまで必死なんだ、少し考えてやってもいいんじゃないかな?」

 シャーロウが慈愛に満ちた表情で語る。

「ほ、本当かい姉ちゃいてぇ」

 感極まり抱き付こうとするオヤジにシャーロウは愛用のナイフを突き付ける、少し刺さったのはスルーらしい。

「…フフッ、僕は女の子も渋いおじさまもかわいい少年も好きだけどキミみたいなオヤジは嫌いなんだ、鬱陶しいから触らないでね」

 さらりと外道な事を言い放つ。

「わ、わかりやした!姐さん!」


 いつの間にか姐さんになっている。


「おい、シャーロウ!勝手に話を進めるな、私はまだ入るとは言ってないぞ」

 クロジンデが前に出る、ミラルドはうさん臭そうな目で傍観している。

「…いやいや、でもこの土管は…下まで通じてるらしいじゃないか」

 そしてチラリとオヤジを見る。


「…案内人もいるしねぇ」

「あ?」



 オヤジが固まる。



「…だからさ、君が一番に飛び込んで僕達を案内するのさ」




 オヤジは固まったままだ。



「…おや?まさか今まで散々確実だのなんだと言っておいて、自分が入るのは嫌だとは…言わないよねぇ?」

 ニィッとシャーロウが嗤う、実に嫌らしくそして実に妖艶に。

「ちょっと待ってくれよ!あんなトコに俺が入れってのか!?殺す気かYO!」

 何か叫ぶ横でミューイが土管を「光源」で照らしてみる、ちなみに土管に届かないのでミラルドに抱えてもらっている。

「うわあ、穴の底が見えませんよ」
「あ〜、こりゃ落ちたら死ぬわね」

 土管からはごぉっーとか音が聞こえる、はっきりいって自殺志願者でも回れ右して引き返しそうな奈落である。
 沈黙、それでもオヤジが食い下がろうとした瞬間…なぜかオヤジの体が宙に浮いた。


「あれ!?」


 それがオヤジの最後の言葉だった、オヤジはそのまま土管の中にダイブしていった。




 …しばしの沈黙の後、スイカを地面に叩き付けたかのような音が土管から聞こえてきた。



生き残った者たちはそれぞれ 15 の経験値を得た




 ミラルドは土管の横のシャーロウを見た、実にいい笑顔を浮かべて手を突き出していた。

 場に微妙な沈黙が流れる。


「…いくぞ、みんな」

 クロジンデが呼び掛ける、どうやらなかった事にするようだ。
 逆らう理由もなく一同は先へと進んで行く。
 そこでシャーロウがふと足を止め、土管を見る。

「シャーロウさん?どうかしましたか?」

 少し先からミューイが問い掛ける。

「…いや、何でもないよ」

 少し首を傾げたミューイはそれでも納得したらしく、先に進んで行く。


「…ま、いいか」


シャーロウはそう呟き、一行の後を追った。



 …ただそれだけのなんでもないイベントだった。





 ――ちなみに、確かにオヤジの土管は地獄逝きの奈落だったが…

 その墜落先は…実は八階宝物庫だった事を誰も知らない。