<大胆PT全滅>




 「ぼー…」

 ―んっ、あ、あ、あうん!

 ―はっ、はうっ、きゃうう! さ、触るな…んあああ!



 「―ボス、ボス! 聞いてるんですか!?」
 「ん? あ、ああ」
 「ボス、何見てるんですか?」
 「ん?
  おう、お前がこの間裏町で流出してるって持って来た、3月27日に全滅した、エレシュPTの陵辱映像」
 「は、はあ…」

 ワイズマン討伐隊が解散して数日後。
 あの日オニヘイはあらかじめ手を回し、迷宮から帰還したコトネをクルルミクの騎士団よりも早く部下たちによって捕縛させて自分の下へと呼び出した。
 そうして先にフォルテを軟禁していたのと同じ部屋。自分が普段使う高級宿のスイートルームに放り込んで、風呂と清潔な着替え。それに医者を用意してやったのだが、二人は今もその部屋で心と身体の傷を癒しているらしい。

 一方、結局、多くの冒険者は町の人たちに嫌われていたため、時々ハイウェイマンズギルドの下っ端が流出させた陵辱映像が裏町に出周りそれなりの需要を得ているのだが、つい先日もそう言う映像の一つを部下が見つけてきたのであった。

 「困りましたよね。最近こう言うのが町に大量に流出してるんですよ」
 「ふん…」

 オニヘイとしては、この娘たちの多くは望んで迷宮に入った以上、こうなるのも仕方無いよなと思うわけで。

 「(でもコトネちゃんは俺が騙して。
 フォルテちゃんは実家の連中に嵌められて迷宮に放り込まれたんだよな。悪いことしたなあw)」



   ―うあぁぁぁぁっ! 痛いっ! 痛あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

   ―ヒャーッハッハッハッハ! いいねいいねえ、ソソる声だぜ!!
    今回は誰も助けてくれなかったんだ、フレシアも、タンもなっ!
    結局お前は誰かの助けがないと何もできないんだよ、お嬢様? ヒャハァッ!

   ―そ、んなの、別に、期待してない…けど…その二人を、悪く言うな…!

   ―いいねえ、その悔しそうな顔。いつまで続けられるかな?


 「(頑張るなあ、フェリルちゃん。確かコトネちゃんよりも年下だったよな。
  売り払われたって話だけど、今頃名前も知らないヤローの上で腰振ってんのかね…)」
 「ボス、ここでギリギリで救出されたフウマさんは、この後また捕まって売られたそうですね」
 「そう言えばそうだな。
  奴隷商人を探して色々嗅ぎ回っていたようだが…
  うちの連中も何人か殺されちまったけどまあ、運が悪かったつうことで」
 「(酷でえ…)」

 オニヘイはこの四人の売却には全く関わっていない。
 ただ全滅したとしか知らないため、目の前の陵辱映像の果ての末路にほんの少しだけ眉をひそめる。
 確か、フウマとエレシュの二人はコトネと同い年だったし、フェリルと言う娘はさらに幼かった…。
 その娘たちが映像の中で犯されている…。
 さらに早回しの映像の中では、四人を救出するべく何人も冒険者が飛び込んできては、次から次へと敗北してまた別の玄室に連れ去られて行く。

 「うーむ、本当に素晴らしいな、このパーティは。おい、お茶―」
 「り、了解です…」

 オニヘイが命じると、部下はダッシュでお茶と牛乳を持ってくる。それを飲みながらオニヘイはもう一度画面に向き合う。
 画面の中の四人、それは文字通り冒険者ホイホイだった。



   ―はぁ……はぅ……まだ……やるの……?

   ―や…っん…っ……もう…やめ…て…

   ―夢だ…これは…これは悪い夢だ…


 「(だはは、すげえすげえ。
  確かリーダーの『大胆』な方針のせいでパーティを全滅させて、4人まとめて陵辱w
  そんなドジさらしたのはコトネちゃんと、あとはこのエレシュぐらいだったなw)」)」

 オニヘイはこのエレシュと言う少女を良く知らないが、この娘もコトネ同様に傷ついたパーティをムチャに率いて全滅させたのだろうか…。
 だが正直な所、何故そんなことをする人間がリーダーになれるのか、不思議で仕方が無い。
 セルビナが一体何を考えてパーティで最年少かつ、最も経験の浅いコトネにリーダーを引き継いだのかは知らないが、あの娘は自分が作った武器が悪人に使われることを許せないほどの<潔癖>な上に、それを奪い返そうとするほど責任感が強いガチガチのロウだ。
 おまけに何かと抱え込むタイプなので、リーダーのポジションなんて与えられたら、余計なことまで考えて悩んでしまうだろうに。
 事実、フォルテに対して頻繁に弱音を吐いていたと言う報告も部下からあがってきているわけで…。

 「(ったく、俺の可愛いコトネちゃんに余計な苦労を背負い込ませやがって。
  許せんな、あの二六歳処女と大女は…。いや、今は非処女か。だはは)」

 最もそんな弱音を吐いた時、あの娘はコトネを抱きしめたりキスしたり時にはそれ以上のことを……

 「(ムカッ)」

 …思い出して、妙に腹が立ってしまった。
 フォルテに優しくされると、コトネは途端に元気になる。
 自分と会った時、コトネは辛そうに目を逸らすだけなのになんだろうこの差は…と思って、オニヘイはこの場にはいないフォルテへの嫉妬で燃え上がった。

 「(…うちのボスは時々器が小さい……)」

 とは言えコトネは頑張っていたのだろう。
 『大胆』なリーダーは仲間が一人ぐらいいなくなってもそのまま迷宮を進んでしまうようだが、コトネは真面目なので、闇商人にセレニウスが連れて行かれた時は即座に救出に向かうことにした。
 あの時のコトネの判断をフォルテは心底喜び、大賛成で後ろをくっついていったと言う。

 「(さすが俺のコトネちゃん。良い子だよなあ、うんうん。あのPTの他の連中じゃあ、ああは行かないね)」

 …今度は突然機嫌が良くなりニヤニヤ(゚∀゚)し出したボスを、部下は少し気味悪そうに眺めている。



   ―あ? 何ぼそぼそいってやがる。

   ―結局…フレシアみたいになれなかったなぁ。ごめん、フレシア…。
    イルビット、エイン…もう一度、会いたかった、けど…

   ―…壊れたか。急につまらなくなったぜ、適当に売っ払っとけ。


 考え事をしながらぼんやり画面を見ていると、フェリルが丁度奴隷宣言を行なった所だった。
 フェリルは激しい凌辱に耐え切れず、ついに冒険者としての全ての気概を失った。
 そして女である己はしょせん男達の性奴隷に過ぎないことを悟ると、虚ろな目で男達にそう宣言し、男達はそれを聞いて満足げに頷くと、フェリルを連れて玄室を後にした…



  
 ―…はは、私、もう、どうでもいいよ…。でも、タンちゃん…タンちゃんは…。

 「(どうでもいいってことはないだろうに。すっかりひねくれちゃってまあ、可愛いこった)」



   
―…おちんちん、…欲しいの……。…うっ……ううぅ……(こんな身体…いや…)

 「あ、メイタスが堕ちた」
 「素晴らしいおっぱいですね、ボス!」
 「うむ。グッドグッド! だははは」



   
―……あぅ……なに……これ…………私、は……? そう、だ……私、
    は……皆様、の、お世話を、する……下僕……です……


 「あーあ、エレシュちゃんも堕ちちゃったか。頑張ったんだけど助けは間に合わなかったんだな」
 「惜しいですねえ、もう少しだったと言うのに」
 「ふふん、まあ、カップル片堕ちの法則と言うのはほぼ100%の発動率だから仕方あるまい」

 それはコトネとフォルテでさえも例外ではなかった。
 何か神憑かったモノがあるとしか思えない発動率で、あの迷宮に挑んだカップルは全滅している。
 オニヘイはそれを考えると、不幸なカップルたちの運命に同情してしまう。

 映像は、やがて最後に残ったフウマが冒険者たちに救出され、画面が殺されたならず者の血でべっとりと濡れた所で終わった。
 どうもこのB級なラストが一部で受けているらしい。

 「…お、これで終わりか?」
 「ええ」

 よっこらせと言いながら立ち上がった部下が、お茶と記録媒体をさっさと片付け始めるのを見ながら、オニヘイはふと、今この連中が何をしているのか気になり、問いかけてみる。

 「おい、…あの売られていったエレシュちゃんたちは今何やってんだ?」
 「いや、うちから売った娘たちではないので…」
 「…あ、そ」

 ―オニヘイ、ちょっとがっかり。

 「ボス!」
 「なんだ?」
 「ガサ入れです!」
 「またかよ! 最近多くねえか!?(;´Д`)」



 ―まったく。

 最近本当に厳しい。
 ハウリ王子が本気で政治に取り組むようになったせいかなんだか知らないが、どんどん奴隷商人としての仕事がやりにくくなる。

 「とにかく追っ払なくっちゃな。コトネちゃんやフォルテちゃんを捕まえてるなんてバレたらシャレにならん」

 そろそろ奴隷商人の商売は潮時かな…
 そう思いながらもワイズマン事件が終わっても尚、ちっとも落ち着くヒマの無いオニヘイだった…。