【僧侶ネージュの多忙な一日 その1】 by
MURASAMA BLADE!
チュンチュン、チチチチ…。
小鳥のさえずり、窓から差し込む朝日。
窓際に置いたハーブの鉢植えから、さわやかな香りが立ち昇る。
「んっ、ふぁ…」
その中で、ネージュは緩やかに瞼を開いた。
しかし瞼は重く、再びネージュを眠りへと誘おうとする。
「んんぅ…」
ゴロンッ…ユッサユッサ…。
まどろみの中でネージュはゆっくりと寝返りを打つ。身体をひねった拍子に、ネグリジェを押し上げる豊かな乳房が波打つように揺れた。
ゴーン…ゴーン…。
再び眠りに落ちかけていたネージュの耳に、教会の鐘が鳴り響く音が届く。
「…っ?!」
…ガバッ!
その鐘の音を聞いて、ネージュはがばりと飛び起きた。
慌てて窓の外を見ると、教会へと向かう人々の流れが見えた。
「もう9時っ?!…急がなきゃっ!?」
9時の教会の鐘は、礼拝の開始を知らせる合図でもある。
僧侶である自分が礼拝を欠席するなど、あってはならないこと。ネージュは慌ててネグリジェを脱ぎ捨て、あられもない全裸姿になると、大急ぎで準備を始めた。
――実際のところ、僧侶一人足りないところで礼拝ができなくなるわけでもないのだが、敬虔な僧侶であるネージュには、礼拝を欠席するのは考えられないことであった。その辺がネージュらしいといえばらしいのだが。
寝ている間に乱れた髪に櫛を入れ、ゆったりとした侍祭服を着る。ソックスを履き、ケープを羽織り、最後にビレッタをかぶれば準備OK。
「行ってきますっ!」
バタンッ!
ブーツの紐を結ぶのもそこそこに、ネージュは飛び出していった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「はぁっ、はぁっ…」
息を切らせて礼拝堂に駆け込むと、幸いにもまだ礼拝は始まっていなかった。多くの人が来てはいるものの礼拝堂の中は雑談や足音などで雑然としており、後数分はかかるだろう。
「ほっ…(良かった、間に合った…)」
ネージュは息を整えながら、僧侶達の列に混ざった。
「ネージュさん、どうしたんですか?…そんなに息を切らせて」
かけられた声にふと振り向くと、すぐ横に知り合いの僧侶、アリエが立っていた。不思議そうな表情で、荒い息をつくネージュを見つめている。
アリエはワイズマン討伐の同志として、また同じ僧侶として交流のある冒険者である。生年からいえばアリエの方がネージュより年上なのだが、アリエは年上ぶったところもなく丁寧にネージュに接してくれる。ネージュもまた生来の性格ゆえアリエに対して礼を尽くすため、傍から見れば二人は仲の良い姉妹に見えなくもなかった。
「あ、アリエさん…その、ちょっと寝坊してしまいまして…」
頬を赤らめながらも正直に話すネージュ。適当に誤魔化せばいいのにと思わなくもないが、嘘のつけない性格のネージュには腹芸は無理だろう。
「まあ。昨日は遅くまで起きていたんですか?」
「そ、それは…その…」
アリエの問いに、ネージュは顔を真っ赤にしてうつむいた。
「…?」
ネージュの態度に怪訝な顔をするアリエだったが、
ゴーン…ゴーン…。
「あっ…」
再び響く鐘の音に、雑談を切り上げた。ネージュも顔を上げ、表情を引き締める。
9時の2度目の鐘の音は、礼拝開始の合図。雑然としていた礼拝堂の空気が、ぴんと張り詰めていく。
「今日も我らがこうして在ることを、龍神様に感謝しましょう」
そして、荘厳な雰囲気の中、礼拝は始まった。
「天にまします我らが父よ…」
龍神への祈りが始まった。司祭が祈祷文を唱え、僧侶と市民が続けて唱和する。
「天にまします我らが父よ…」
ネージュも唱和し、手を胸の前で組み合わせ…
シュッ…。
「っ…!?」
胸に感じる刺激に、息を詰まらせた。
「…?」
隣のアリエが、「どうしたの?」という表情で首をかしげ、ネージュの方を見る。ネージュはそれに、なんでもないという表情で首を横に振った。
しかし、なんでもないわけがなかった。
「(何、今の感じは…?)」
乳首がこすれたような感触を思い出し、ネージュは頬を赤らめながらその原因を考え…
「(…まさか?!)」
…思い出してしまった。
――『侍祭服を着る』『ソックスを履く』『ケープを羽織る』『ビレッタをかぶる』。
先程、大慌てで着替えたネージュがとった行動である。
よく見ると、重要な部分が抜け落ちている。
正解は『下着をつける』。
そう、ネージュは着替えたときに下着を付け忘れていたのだ。
身体が――特にその大きな胸が――締め付けられるのを嫌って、ネージュはネグリジェの下はいつも全裸だった。普段は全く問題なかったのだが、今回はそれが裏目に出てしまったのである。
「(嘘…じゃあ、この下は…)」
ネージュはそっと自分の侍祭服を見た。
下着をつけていないということは、侍祭服の下は一糸纏わぬ姿ということになる。自分がいかに恥ずかしい格好でいるか気づいてしまい、ネージュは顔を真っ赤にした。
ピクッ…。
そして、その羞恥心に感じたかのように、ネージュの乳首が硬さを増し、侍祭服を尖らせる。
普段はあまり意識していないが、胸の前で手を組む祈りのポーズはネージュの胸を必要以上に強調する。そのため、侍祭服の上からでもネージュの乳首が尖っているのが見えてしまっていた。
「我らの日用の糧を今日も与えたまえ…」
「我らの日用の糧を今日も与えたまえ…」
龍神への祈りはまだ続いている。
「(礼拝が終わったら、失礼して部屋に戻らないと…)」
ぎこちない祈り。下着をつけていないのが気になって、礼拝にも身が入らない。
「我らに罪を犯す者を我らが赦す如く、我らの罪をも赦したまえ…」
それでもネージュが祈りを唱えようとしたとき、
ツツ、ツゥッ…。
「我らに罪を犯す者を、っ!?…」
太ももを水滴が流れ落ちる感触に、ネージュは祈りの言葉を途中で途切れさせてしまった。
「…わ、我らが赦す如く、我らの罪をも赦したまえっ…」
すぐに続きを唱えたためさほど不自然にはならなかったものの、アリエを含む近くにいる僧侶には気づかれてしまったかも知れない。
「(…う、嘘っ…なんで、こんな…)」
ネージュが祈りを途切れさせてしまった理由。それは…
ツーッ…。
ネージュの太ももを、彼女の髪と同じ金色の産毛を生やした秘裂から零れた、一筋の透明な蜜が垂れていた。
「(私…濡れてるの?…こんな、人前で…)」
ネージュは自分の身体の変化に、祈りを唱えるのも忘れ、信じられないといった面持ちで立ち尽くす。
「国と力と栄えとは限りなく汝のものなればなり、エイメン」
「国と力と栄えとは限りなく汝のものなればなり、エイメン」
トロッ…ツツーッ…。
祈りの言葉が終わると共に、新たな蜜がネージュの秘所から溢れた。
「ネージュさん、大丈夫ですか?なんだか気分が悪そうでしたけれど…」
礼拝が終わると、隣にいたアリエが心配そうに尋ねてきた。途中でネージュの祈りの言葉が途切れた辺りから、ずっと気にしてくれていたのだろう。
「え、ええ。もう大丈夫です」
ネージュは慌てたように誤魔化す。その様子にアリエは不自然なものを感じたが、それを追求することはしなかった。
「(ごめんなさい、アリエさん…)」
嘘をついていないとはいえ、自分を心配してくれた人に対して真実を誤魔化したことに、ネージュは深い罪悪感を感じた。しかし、本当の事を知れば、アリエは自分を軽蔑するかも知れない。
そして、潔癖なネージュには、性的な事を誰かに相談するのは、不可能とも思えるほど恥ずかしい行為だった。
「(とにかく、早く部屋に戻って下着をっ…)」
足早に礼拝堂を立ち去ろうとするネージュ。
「あ、ネージュさん」
と、そこにマザーが現れ、ネージュを呼び止めた。
「は、はい。何でしょうか、マザー」
ネージュは慌てて立ち止まり、一礼する。
「ちょっと来ていただけるかしら?」
マザーは具体的な用件を示さず、ネージュを別室に入るよう指示する。
「?…は、はい」
ネージュは焦る心を抑えつつ、マザーについていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
マザーに連れられて部屋に入ったネージュは、テーブルの上に何かがいることに気づいた。
それは、産着に包まれたひとつの小さな命。
「これは…赤ちゃん?」
テーブルの上にいるのは、一人の赤ん坊だった。まだ目も開いておらず、生まれてから何日も経っていないことが判る。
「ええ。今朝、教会の前に捨てられていましたの」
マザーの言葉に、ネージュはうつむく。
グラッセンの侵攻、ならず者の跳梁。相次ぐ混乱と不況で、クルルミクの社会格差は増大していた。貴族はますます肥え太り、民衆はやせ細っていく。今日を生きることすらままならぬ者たちが増え、自らが腹を痛めて産んだ赤子をこうして捨てる親すら少なくない。しかも、教会の前に捨てられた赤子はまだ生きることができるだけいいとすら言われる。人の通らぬ裏通りに捨てられそのまま生まれて間もない命を絶えさせる赤子や、親によってならず者に売り渡される赤子の数は、その数倍にも及ぶのだ。
そして、ネージュ自身も、教会の前に捨てられた赤ん坊だった。目も開かないうちに捨てられた彼女は幸運にも教会の司祭に育てられ、こうして僧侶として生きている。
ネージュには、この赤ん坊に自分が重なって見えた。
「マザー、この子は…」
ネージュは顔を上げ、マザーを見る。
「司祭様と相談した結果、孤児院で育ててもらうことにしたのですが…」
マザーはそこで言葉を途切れさせた。
「どうなったのですか?!」
ネージュは強い調子でマザーに迫る。自分が育てると言い出しかねない雰囲気だ。
マザーはたじろぎながらも、言葉を続けた。
「…孤児院側も準備が整っていないため、早くても明日にならないと引き取れないということだったのです」
「じゃあ、私が!」
強い調子で言うネージュに、マザーはにっこりと微笑んだ。
「それをあなたにお願いしようと思っていたのです。頼みましたよ、ネージュさん」
「は、はいっ!」
マザーの言葉に、深く頭を下げるネージュ。
「さあ、行きましょうね…」
マザーが去った後、ネージュは赤子を泣かせないように気をつけながら、丁寧に抱き上げる。
「あ〜、だぁ〜♪」
ネージュの思いが通じたのか、赤子は笑いながら中空に手を彷徨わせ、
ムニュッ…。
ネージュの胸にしがみついた。
「ぁっ…」
乳首にローブが強くこすれ、ネージュは甘い吐息を漏らす。
「(部屋に戻って、着替えなきゃ…)」
今更のように自分が下着をつけていないことを思い出すと、ネージュは誰も見ていないのに頬を赤らめ、足早に自分の部屋へと向かった。
――TO BE CONTINUED.