咎人は罪悪感と呼ぶ十字架を背負い続けなければならないという
 それは、良心の呵責という猛毒が常に命を蝕むように
 それは、敵意の視線という真綿に締め付けられるように息を詰まらせるように
 生ある限り、目に見えぬ十字架は背負う者へと罪悪を刻み続ける
 では無実の罪を与えられた者は、どんな十字架を背負わねばならないのだろう


 水の都アクアパレスは、国土全土を浅瀬の湖畔に沈めたマーメイド達の故郷の一つ。
 近海に住まうマーフォークやセイレーン族と協調し、選りすぐりのマーメイド戦士達を有する集落。
 集落と呼ぶには不相応の規模は、事実上の海底国家と呼ぶ事に何ら問題は無かった。
 この海に近い湖畔近隣の海流は暖流と寒流が入り混じり、様々な熱帯魚から遠洋の巨大魚も時折顔を見せていた。
 警戒心のとりわけ強く、高い知能を備える海豚の大家族が一度にやって来る時すらあった。
 それ故に古い時代は魚類の行き交う海流の経路故に人間の漁獲からの諍いは絶えず、
 和議を結んではいたが名目上の効力を為さぬ条約を結んでいることも背景にあった。
 ……ただの数夜にして、静かな海を漂う屍骸だらけの亡霊都市となるまでの話。


 澱んだ水底より、意識だけが朦朧とした回廊を迷い出る。
 昼とも夜とも時刻の分からぬないまぜの不快感、浅い眠りの繰り返しに幼い肉体は追いつかず、
 まるで男に組み伏せられたような身体は、身動ぎすら取れない。
 酷い疲労感が意識を再び叩き落そうとするが、眠ることすら苦痛に等しいほどの凍える寒さが強引に覚醒を促す。
 意識が眠りに陥る前と同じ、地下牢の冷たい床が視界一杯に広がった。
(……ぁ……)
 とうに枯れた掠れる声を上げながら、今更のように己を確認する。
 極寒の牢獄生活において、少女には一切の着衣を許されておらず、齢10歳前後といった少女は人魚との混血を示す幼いエラごと裸身を晒させられていた。
 しかも単に獄中に投獄されたわけではない。
(苦、し……)
 圧迫感が呼吸に混ざって、苦しい声音が上がってしまう。 全身に圧が掛かったような感触から助けを求めようとする、毎日繰り返される無意識からの行為。
 だが指先は虚しく宙を掻き、ギシ……と軋む革の捻る音が自由を束縛する存在を誇示するように返し、少女の行為を徒労と思い知らせる。
 床しか見えない姿勢、つまり両手を羽根のように広げる拘束からの変則的な前屈姿勢は力むことすら許されず、
 同じく革質の拘束具によって牢の鉄格子に括り付けられている己の足と、鉄格子の向こう側へ用意された排泄受けが視界に収まるのみ。
(さむ……い…)
 覚醒が温度という存在をようやく思い出す頃になると、腹部を挟む酷く冷たい一対の金属の存在も思い出させられた。
 そう、幼い自身の身体は鉄格子の間に挟むことで束縛され、一切の挙動すら許されないように全身を黒い革紐による拘束処置を受けている事実を、今更のように。
 手足の束縛は痙攣を起こしそうなほどに鬱血を与えられ、意識的に動かそうとしても神経が繋がっているかどうかすら疑わしい。
 性的趣味から生まれる恥辱を計算された束縛そのものが少女から意味を為す挙動すべてを奪っている状態だということをも、
 さらには魅力の足りぬ胸部からぷっくらとした未発達の女性器までもが拘束具による束縛を受けさせられるといった、
 あからさまな変態的な嗜虐趣味の処置までは把握できるものではなかったが。
(……こわ…いっ……)
 爪先が硬い床の感触を掻いたが、それが冷たいのか暖かいのかも分からない。
 元より投獄された者が他に居ないのだろう、落ちる水滴が彼方より聞こえるほどに静けさに満ちており、人気の無い地下牢の静けさは気が狂わんばかりに耳に鈍痛に苛まれる。
 いかな静かな海に住まう水の眷属たる少女とて、呼びかけにも答えぬ水滴への距離は身を焦がすような絶望感を与え続けていた。


 アクアパレス、壊滅。
 事は、海岸に打ち寄せられた大量の魚の屍骸や、マーメイド達の亡骸によって発覚した。
 領民達は恐ろしいものを感じ、山と朽ちていく大量の魚の屍骸を海の悪魔の仕業と脅威に怯え。
 愚かなならずもの達はこれ幸いと小躍りし、生け捕りも難しく妖艶な美を死してなお保つマーメイドらを剥製にしていく。
 兵士達は何事かとせわしなく海岸を乗り出し漁師達の尻を叩き、浅く穏やかな海原へと小さな冒険心と武器を手に乗り出していった。
 七つほど夜が過ぎる頃まで見つかった生存者はただの一人、兵士に抱え上げられた華奢な肢体。
 ナガレ=エタブール、齢9歳の半人魚にして国家滅亡罪という、前代未聞の罪を背負った死刑囚。
 その生命は何処とも知らぬ国の地下牢で、ただ悪戯に生き永らえさせられていた。
 彼女が背負った罪の本当の理由、一握りの人間達による悪魔のような策謀の渦によって。


「おぉ〜う、”調理の時間”だあ」
 不気味な快音と共に、重々しく錆びた鉄扉が開かれる。
 まどろみ気味だった少女の思考が急速に引き締まり、衝撃的な話でも聞いたように剥き出しの感情を顔に出した。
 ヒッ……と、喉の奥が絞りあがるようなか細い悲鳴も、身体を束縛されては何の意味も為さない。
(ああ、あの時間だ、やめて、もうやめて、ごはんなんかいらない、いらない、いらない……!)
 瞳孔が広がりきらんばかりに怯えの表情を浮かべる少女に、冷たい声をかけた兵士はにやりと頬を歪める。
「ほぅら、ダメだろぅがぁ……ぁぁん。 死刑っつってもちゃんとメシを喰わなきゃああなあ?」
(いや、いや、ちゃんとしたごはんが……ちゃんとしたごはんがたべたいのっ……!)
 半狂乱になって言葉にもならない声で泣き叫ぶが、悪魔のように冷酷で淡々とした行為に移る兵士には通じない。
 だが拘束具を揺らし怯える半人魚の少女の哀れな様に、むしろかえって加虐心をそそる興奮に煽られたのだろう、白桃のような小ぶりの尻を前に、兵士は涎を垂らしそうないやらしい笑みへと変貌していく。
 幼い開かれきった股座をさらに割るように、熱と汚臭が篭った兵士の毒蛇が秘裂へと、宛がわれる。
「こっちの口もすっかりに喜んじまってなあ、こぉんなにも吸い付きやがってぇ、ついぞ前までおぼこだあったのにぃ……よぉぉっ!」
(やめて、やめてやめて、やめてやめてやめて、もう蛇いや……蛇はやぁ……ッ!)
 悲鳴を迸らせ、精一杯抵抗を試みるが、入念かつ扇情的に束縛された身ではどうにもならなかった、
 おぞましい蛇頭が媚肉を擦り抉るたび、刃物に擦り付けられる恐怖を煽られたように身が竦む。
 がっちりとつかまれた太股が今にもボキリと折れそうなほど苦痛を覚え、一度目ではない衝撃に目をぎゅうと瞑った、力を込めて閉じられた瞳から、早くも熱いものが毀れた。
「ぐひひひぃ……ほうれえっ!」
(ひぎっ! ひぃっ! あ、あ、ああぁぁぁっ!)
 押し込まれた毒蛇は幼い膣肉から四肢の先まで張り詰めさせ、幾度の挿入に慣れぬはずのサイズの違いは強引な拡張を強要する。
 声など上げられる筈もなく、限界まで引き伸ばされた女陰は苦しげに痙攣することで声ならぬ悲鳴を同様に上げていた。
 肉を裂く痛みはとうに感じられなくなっているが、腹の中を掻き回す圧迫感は息も困難になるほど、幼い半人魚の少女を苦しめる。
 幼女特有の限界を与える締め付けと幾度犯しぬいた柔軟な膣肉を同時に味わうことで込みあがる快感に、兵士は下卑た笑い声を上げずにはいられなかった。
 殆どだだもれに近い早漏液をぶちまけながら、それでもなお収まらぬ射精感に促されるままに、じっくりと蛇頭を沈めることでさらなる欲求を満たしていく。
「ふひひぃぃ……こおんなにケツ振って締め付けやがって、将来があればたのしみだったなあ? 今たっっぷり特製スープを作ってやるからなぁッ!」
 事実兵士の言う通り、半人魚の少女は誘うように尻を突き出し、拘束を受けているにも関らず、うねるようにグラインドさせて幾重にも毒蛇を離そうとしない。
 とうに意識を失ってなお、粘膜をぴったりと密着させて幼い快楽を無意識に貪るのは種族の性か、
 灼熱が渦巻くような収まりきれない白濁を受け止められ、なお溢れる白濁が叩きつけられる肉に粟立ち毀れていく。
 膣内で毒蛇がビクビクと痙攣するたび、とろけるような口にくわえ込まれ、感電したような快感が兵士と半人魚の少女を一気に貫ききった。
(ン、ああああああぁぁっ! あ、あぐッ、あぐっ!!)
 とうに半人魚の少女は、限界を超える行為に瞳を見開いて咽び泣いている。
「んおおっ、お、おっ、おおおぉぉぉぉっ!!!」
 ビュルッ! ビュルッ! ビュルルルルッッ!
 毒蛇は断末魔の毒を吐き出すように形成も不完全な少女の最奥まで汚染しきると、絶頂に上り詰めた快感に腰砕けになりながら少女の身体を強引に揺さぶる。
 律動を受けるたびパンッパンッ、と肉を打つ痛々しい打音が響く。
 ヒキガエルのように枯らせた声から辛うじてあがる悲鳴を音楽にして、愁眉な外見に反した人魚族特有の強靭な精神がまだまだ屈しきっていない様子を確認する。
「ふ、ふぃぃ……さい、こぉッ、まだ壊れてないなんて、ながれちゃんはいいこ、でちゅねええっ」
 腹を妊婦のように膨らませられながら、なおも波打つように揺らされ、汗と精液にぬめり光る少女は自分の名前を告げられることで覚醒を促される。
 人間の幼女には無い半人魚の妖艶な魅力が混じる淫靡な光景に、兵士は再び脂ぎった笑みを浮かべた。
 だが不足だ、下賎な民から特別徴用された名も無き兵士の異常な性欲を満たすにはまだまだまだまだ足りないのだ。
(おわって……おわって、……おわって、おわって……嫌、嫌……もう、たべたくないの……たべたくないの……)
「ひ、ひひ……今日はな、今日はな? しょーぐんがいーいものをくれたんだあ、なんだと、おもううう?」
 絶頂の余韻に灼熱をなおも迸らせながら、興奮を台詞から隠せようも無い様を見せ付けて疑問を兵士は投げかける。
 俯くことで精魂が尽きた様を見せる少女の髪を乱暴に掴み、ぐいと引き上げながら臭い息と共に豚のような舌で少女の頬を嘗め回す。
 少女の眼前に突き出されるは、銀の光沢を放つ刃物とは違う針。 それが尻に怪しい液体をなみなみと溜めたガラスの容器に繋がっていた。
 注射器。 不幸にも、少女はその存在を知っていた。 その横に書かれた文字の意味には深い絶望から思考までも引き絞られるような錯覚に陥った。
(ひ―――――イッ、あ、あ、あ……)
「わかんねえかあ? 『ぜったい だれでも 孕んじゃう お薬』って意味だぜえ、わかるよなあ、これでもうわかんよなああああああ!?」
 酷く醜いわざと荒げて脅す声は、少女をおとがいが落ちたように震え上がらせるには十分な効果を発揮させた。
 接合を怯えた膣肉により一層引き締められ、思わず舌なめずりをしてしまうほど具合の大変良い女陰の締りに、兵士の満足感は大きくなる。
 兵士の腕が白濁が飛び散った二の腕をぐいと掴み、的確な処置とも思えぬ無作法さで注射針が柔肌の上を滑る。
 それまでなされるがままに従っていた少女の頭が激しい拒絶を断末魔のような悲鳴を吹き零し、おとがいが激しく突き上がった。
 この日初めて少女が上げる声は、聞くに耐えない金属質の酷い金切り声であった。
「ぎ、ひいいいっっ! やめれやめれやめれやめでえええええええっっ! こどもなんて、やら、やら、やだあああああ!」
「あはっ、いーい声がまあだ出やがるじゃねえのよおお♪ でも、だーめ、だぜええええええ!!」
 恐ろしい拒絶の声にも健気に力無く首を振る半人魚の少女、こんな悲鳴にすら喜悦を浮かべる兵士に恐怖以上のものを感じてしまうのも束の間。
 柔肌を抉り、細く鋭い痛みが二の腕を落雷のように貫き、少女の美唇が再び悲鳴を発するものへと形作った。
「ぎゃあああああああああああああああ、ぎあ、ぎああああああーあああ!!!」
 緩んだ膀胱から弱々しい放物線を描く液体を放っていることにすら気づけない。
 かつてない恐怖を刻まれ、堪え切れず涙が雨粒のように零れ落ちる。
 興奮に歪む兵士の顔はサディスティックな興奮に毒蛇をさらに抉るように少女の中で屹立させ、毒液を溢れんばかりに吐き出していく。
「ぜったい……孕ましてやるからなッ……覚悟、しておけよおおっ……! 孕んだら、子供は、雌豚ッ、お前は、処刑ッ……だからなあああッ……!」
 ”調理の時間”は、まだまだ終わりを見せない。
 悪魔のような人間との性交にすら、悲しいことに少女の血は僅かに沸きあがる快感を隠せずにいた。


 グラッセンを初めとした各国の軍事行動が多発する事は軍備を急かした。
 そういった経緯から始まる各都市国家での金属鋳造や鉱脈採掘が活性化する時代は不幸を生む。
 全ての原因は鉱脈から引かれた水路からの鉱毒にあった、何も知らぬ工夫、そして洗い流される鉱石によって。
 水路は猛毒を近隣へ様々な澱みを与え、やがて海へと流れ出してしまった。
 浅く穏やかな湖畔へと、魚と人魚達が住まう海の楽園へ、そして湖畔に続く海へと。
 見えない敵に襲われた人魚達は死に絶えてしまった水の精霊の加護を受ける間も無く、無数の魚の屍骸と一つになっていった。
 果敢に立ち向かうべき矛先を失ったマーメイドの戦士は槍を振るうことなく死に絶え、
 女子供問わず鉱毒という名の悪魔は死を撒き散らし、容赦無く湖畔に住まう者たちを死滅していく。
 唯一の生存者であるナガレ=エタブールが難を逃れたのは、マーメイドハーフ故に陸に上がっていただけ。
 事実を知る一握りの人間達、王族を中心とした者達は考えた。
 アクアパレスは近隣諸国にも接した海洋とも交友を結ぶ国。
 もし自分達の鉱脈から流出した毒と暴かれれば大なり小なり不利益が生じてしまう。
 そして一握りの人間達は、安直にも唯一の生存者を悪魔と蔑むことで責任を押し付けることにした。
 国家滅亡罪。
 それは悪魔のような者たちの偽善と謀略から作られた、ナガレ=エタブールを襲った二度目の災厄。


 少女は冷え切った石床に膝をつき、与えられた皿へ頬から顔を埋め、中身をじゅるる……と惨めに音を立てて啜っていた。
 兵士はもういない、ひとしきり少女を犯しぬいた後、少女の”作りたての食事”を皿にのせて、少女の顔を思い切り皿に埋めた。
 さらに少女の後ろの穴を指でほじくりかえした後、悪巧みを思いついたような下卑た笑い声を上げて去っていった。
 だが兵士はもういないというのに、彼女の唯一動かせる腰は失ったものを求めるように空へ律動を続けている。
「う、うう……ううふ……ふぅ、ふぅっ……」
 円を描き、突き上げ、幼い女陰より白い毒液が下品に音を漏らして空気と共に吐き出される。
 もうその行為に意味がないと分かっていた。しかしそれだけに限らず、生々しい注射痕が脳裏に焼印を押されたように清明に映る。
 美唇にぬるりと滑り込んだ半溶解の塊を、意図せぬ悔しさから噛んでしまう。
 何も考えずに噛み潰した途端――生臭さと受け入れられない苦さが舌から広がって、胃を強く刺激した。
 喉の奥から込みあがる拒絶を、幼いナガレには抑え込む力すら残されていない。
「ん、んむ、ぅ……ぇええッ、……」
 美唇と咽喉が悶え、呻く間に気を一瞬でも失えたのは天のお陰かもしれない。
 吐き出されたのは白い毒液、鼻腔より垂れ下がるのも白い毒液、そして皿一杯に満たされたのも白い毒液。
 水の眷属たる彼女に一切の水分は与えられない、人あらざる彼女に一切の価値あるものは与えられない。
 胃液の混ざった猛烈な汚臭に鼻を背けられず、行き場の無い生理的な拒絶との戦いが地獄のように継続される。
 しかし粘性の汚物を飲み込まなければ、裸身を晒す幼い自分はたちまち死んでしまうだろう。
(でも……でも……)
 自分が貪るものが男の発した汚い体液だろうと、毒蛇の発した毒液だろうと、それが穢れた行為であったとしても。
 半人魚の少女の瞳は彩度を増して、泥を啜るよりも酷い味を吸い込み、再び頬張っていく。
 傍目に見るそれはまるで好き物に目覚めるような様子も、汚辱からの屈辱感に辛酸を舐めさせられる当人にはやはり地獄の心地だ。
 それでも、彼女は生を渇望する。
(生きないと……生きないと……)
 生きなければ何も出来ない。
 ハーフの自分にも優しかった家族や友達の埋葬も、誰にでも公平に接した女王様や勝気なマーメイドの戦乙女達の仇討ちも。
 散々に痛めつけ自分を嬲り者にしたあの兵士への、そして自分を悪魔呼ばわりした人間達への復讐も。
 生きなければ何も出来ない、死んでしまっては何も為せない。
 ただ只管に生を渇望しつづける、下腹がギュルル……と不快な音を立てるのにも構わず、冷たく静かな牢獄でただ一人。
 鼻腔を突き抜ける生臭い味を溜飲と共に、一気に飲み込んだ。
 ただ只管幼い胸中に憎悪のふいごを踏み込む、屈服からの脱却を心に誓って、
 この水底より深い奥底より勝ち上がることを夢見て。


「げぼ……ッ……」