〜ある門番の日誌
Feb 12. xxxx
昨日の飲みは最悪だった。
今月最後の休暇だってのに、酒場が喧しくて酔えやしねえ。
それもこれも酒場に女ばかり集まってくるようになったせいだ。
俺だってあンの生意気な女冒険者どもの乳を揉み解してやりたいってのに、無駄にガタイのデカいエルフめ。
Feb 13. xxxx
明け方に、レーラって名前の生意気な女冒険者がやってきた。
門を通せなんぞ金切り声でわめきやがるが、冒険者リストに掲載されて無ぇ奴を通すわけにもいかねえ、と、つっぱねてやった。
明け方に来る神経もおかしいが、ただでさえ犯罪者の巣窟になってるってのに頭の悪ぃ奴に増えられてもどうしようもねぇ。
昨日の憂さを晴らせたと思うと、スカっとした、いい気味だ。
Feb 14. xxxx
まただ、またきやがった。
律儀に隣街と往復してやがるらしい、また明け方に着やがったんだ。
「暖かいベッドの無い場所で寝泊りなんて、屈辱的ですわ!」だの、「いいから通しなさい、正義のために急がせなさい!」だの
こっちが悪態がつけないとでも思っているのか、散々罵倒して帰っていきやがった。
身元も図れねぇ冒険者連中を募る上も上だが、あんな自己中心的な女に救国の英雄なんざなられたらと思うと、反吐が出る。
いっそのこと、ハイウェイマンズギルドご用達の娼館に繰り出してやろうか。
Feb 15. xxxx
あのレーラって女傭兵が来る代わりに、わざわざ遠方から行商に来たらしい薬屋が来た。
素朴な田舎娘ってカンジの黒髪の女の子だったんで、通してやったら栄養剤を貰った。
こんなモン貰っても嬉しくもないんだが、目の前で飲み込んでみせてやると、すっげえ嬉しそうに笑われた。
久しぶりに女の笑顔ってヤツを見せられると、けっこうドキドキするモンだな。
Feb 16. xxxx
ナンかすんげえ胃のあたりがカッカする。
風邪でも引いたみたいに声が枯れてて、同僚のスコットに心配された。
医務室に行こうとおもったら、丁度いいところに薬屋と会った、街から帰るところだったらしい。
相談すると、自分の薬が原因なんじゃないか、なーんて心配そうな顔で薬をくれた。
ちょっと不安だったが、飲んでみたらすっきりしてきた。
おかげで今夜はよく眠れそうだぜ。
Feb 17. xxxx
朝起きたら、目が真っ赤になって血走ってやがった。
医務室に行ったら、タダの疲労でしょう、なんざ言って目薬をくれやがった。
ただでさえぷるんぷるんしてる看護婦の巨乳が気になってしょうがねぇってのに、あんのヤブ医者の薬はちっとも効きやしねえ。
なんだか背中とかチンコにあたりがむずむずしてきて、全然眠れやしねえよ。
そういえばあの女傭兵はもう諦めたのか?
Feb 19. xxxx
きのうは気ぜつして、よくねむた、薬やはきうも こない
なんだか 眠いのにカッカして しょうがなぴ
もーれつに ナニしたく て しょうがなぴ
どうたって んだ
Feb 20. xxxx
くすりや きた エラおんな いっしょ。
てはいしょ みたき したかも。
ヤりたかた けど すごくねむい あきらめた。
Fe 2.xxxx
あつい、レーラ、ぜんら、きた、かっかる
すごいおいしそ だった おしたおし
きもちよかっ です。
3
かゆい
うま
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3月未明、門番兵が女性を強姦する事件が発生した。
門番兵は特殊な薬物を投与されており、女性の下半身を万力で押さえつけたまま、全裸で他の番兵の拘束を振りほどくほどのものであった。
被害者の肢体の肉付きから女冒険者と判断されたが、装備は無く、屋外にて強盗に遭遇した後ではないかと推定される。
女冒険者が自失状態であるため事情も聞けず、現在身元を確認している最中であるが、状況が状況であるために絶望的だろう。
現在、投薬に至るルートを調べているが、犯罪者の温床となっているクルルミクにおいては非常に困難であるため、保留とされるだろう。
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酒場『ドワーフの酒蔵亭』――を見下ろせる宿の二階。
決して豪華とは呼べぬ、粗末な壁紙の洋室に二人の女性の姿がある。
片や綿毛布を肢体に絡ませ、窓枠に腰掛ける青髪の女性。 月光を明かりにグラスを傾け、見下ろすように酒場の喧騒を覗き込んでいる。
コンパクトに収まる端整な顔立ちに白く艶を帯びた肌。童顔を意識させる大きな瞳は長いまつげで覆われている。
種族特徴たる青いエラ状の耳は存在を示し、胸部は質感を示すように綿毛布に二つの大きな丘を形作らせていた。
片や書面を手に暖炉の傍らに、席に腰掛ける黒髪の少女。 暖炉の火に揺らめく書面の文字を、暗い朱色の目が覗き込み、一枚一枚丁寧に読み漁っていく。
この少女は凡庸の文字が相応しい程に、平凡然とした顔立ち。 これほど平々凡々を洗練した少女は無い、というほどの容貌の持ち主である。
長く黒い髪は手入れも程ほど、着ている衣装と言えば平民のそれ、童顔に近い表情も、口元を浮かべる三日月の笑みが年齢不相応の邪悪を漂わせる。
その口が、ゆっくりと言の葉を紡ぐ形に変じていった。
「ふむ、なかなか盛況のようじゃのう……お主もああして遊んでくれば良かろうに」
にや、と揶揄するような、老獪な口調の黒髪の少女に、マーメイドハーフの女性はアルコールで唇を濡らした。
視線の先を問われたと気づけば、目を伏せて返答する。
「さて、どう混じるべき、といったところか。 愛着を持つと言う事は自分が傷つきやすくもなるからね、目的を前に騒ぐのは良いけれど、もしもがあれば合わせる顔も無い」
「臆病なコトじゃのう、国を滅ぼす魔性の魚と謳われるそちが」
「臆病なぐらいがいいんだよ、人間強がる部分ばかりで可愛げが無いのは面白く無いからね」
最初からひらかすのは面白く無いのじゃがのう、と。
ぼやく黒髪の少女へ向けて、流し目を向けるマーメイドハーフは口を開いた。
「他の女冒険者を全て蹴落とし、君の目を楽しませる。 そしてボクは正義を騙り、ワイズマンを抹殺する」
謡うような口振りで、高らかに宣言するのは『滅びの魚』の異名を持つ者。
ナガレ・エタブール、そしてレーラの偽名を持つ女。
「それがボクの依頼。 そうだろうメイズス、ボクの可愛い小さな依頼者、さん?」
「まあ、お主が無事に生き残る保障は、この世界には何処にも無いがのう」
「大丈夫さ、最初からそんなものは無いからね」
ふぇふぇふぇ、と。
魔女は楽しげに、暖炉の火を背に嗤った。