「ん――っはぁ……っ」
クルルミクに多数ある宿屋の一室、そこでメリッサは眠っていた。
ハズだった。
「く……、そ、どうし……って、う……ぁ…………っ」
薄暗い部屋の中、ベッドの上に出来た膨らみがもぞもぞと何度も形を変える。
時折漏れる声は湿っていて、泣いているかのようだった。
「ひ……、は、ぁあ…………」
メリッサは先日、ならず者たちに浚われ、そして……手酷くその身を汚された。
何百という男たちが寄ってたかって、丸一日休む間もなく。
ほんの二日前まで穢れを知らなかったその身体は、今では男の味を知らない場所はないと言ってもいい。
しかも間が悪いことに、同室にはシュリという竜騎士もおり――ほぼ全て、メリッサが受けた醜態を見られていた。
それでも挫けず、助けてくれたフィアナらとともに地上へと戻ってこれた。
街の人々も、雰囲気を察してくれたのかなにがあったのかは聞かず、ただ優しく受け入れてくれた。
――既に自分は、聖女と呼ばれるに相応しくない身体だというのに。
それは汚されたから、というだけではない。
「んっ、ひぁ……、や……っ!?」
小さく悲鳴を上げ、膨らんだ布団が跳ね上がる。
「こんな……事、してたら……っく、ダメ……だというのにぃ……っ」
メリッサの呟く声の合間、小さく、僅かに聞こえる程度だが、水音が聞こえる。
「んん……っ、く、ふぅぅ……っ!」
再び身体が跳ね、慌ててシーツを噛み締める。
そうしないと、声が収まりきらないから。
「……ぁーっ、はぁー……っ、こ、こんなのぉ…………っ」
うつぶせになり、尻を持ち上げる。
両肩は竦められ、手は……秘部へと伸びている。
そして、下腹部からは水音が。
「どう、して……っ、ん、ひぅっ」
左手でクリトリスを、右手の指を膣に入れ、聖女と呼ばれていた女は一人自慰に耽っていた。
中に沈められた指が出入りする度、音と愛液とが溢れ、ふとももを伝い、そして垂れてシミを作っていく。
「こ……れは、あいつらの、せい……だ……っ」
首を振り、快楽に押し流される自分を正当化しようと呟く。
だが、そんな姿こそ浅ましい事に気づいていない。
負けたくはない、そういう気持ちがあるからであろうが……。
「は、あ、ひ……っ。や、あ……んっ、ふぁ……あ、ぁぁぁ…………っ」
顔を枕に押し付け、瞳は涙で潤み、口は半開きで舌と涎を溢れさせ。
そこには、ただ悦楽を求める、卑しい牝しかいない。
悲劇なのは、その牝にまだすがりつける”なにか”がある事。
信仰か、信念か、それとも……?
「だ、め……なのに……ぃ、指、止まんな……っ」
意識はまだ少しはあるのか、そんな事を口にする。
だがそれは……ただ今己を犯している指だけでは物足りないと認めるようなもの。
膨らみ、皮から覗いたクリトリスは肥大し、それを指に挟み擦り上げ。
数日前まで男どころか自ら触れる事すらなかった膣へ、二本の指を突き入れ掻き混ぜて。
それでもなお、快感が足りないと牝が求める。
「は……ぁ、はー…………っ」
虚ろな視線の先には、昼間新調した武具の一式。
その中に、二振りの短剣があった。
迷宮内は広いとはいえ、状況次第では剣が振れない場面もある。
経験から知っていたメリッサは、いつも短剣を二本、長剣とは別に携えていた。
それは今回も同じ。
「……ぁ、ぁ…………っ」
愛液にまみれた手が、置かれた短剣に伸びる。
その手が震えてるのは、いかなる理由か。
躊躇するかのように、手は何度か空を掴み……そして、鞘を掴む。
一瞬だけ、メリッサの顔に歓喜の色が浮かんだように見えた。


「――っ、んぅ――っ!!」
ぎし、ぎし、
ベッドを軋ませ、女の身体が上下に前後に揺れる。
口には布を含み、一心不乱に腰を振る。
ただその身体の下に愛する男はなく、あるのは二つの突起。
ベッドに突き刺された、短剣の柄。
それらは膣だけではなく、本来ならそういう目的で使われるはずのない、後ろの窄まりにも飲み込まれていた。
常識では、あまり、考えられない。
しかし女は、メリッサは二つの柄を体内に納め、狂っているかのように身を躍らす。
この光景をもし誰かが見たとして、誰が”鋼の聖女”その人だと分かるだろうか。
柄の太さ、長さともによほど丁度いいのか、腰が沈むと鼻から甘く息が漏れるのが分かる。
「ん――っ、んふ、ん……っ、――っ!!」
布を口に含んでいるのは、趣味ではなく、声を聞かれないため。
とはいえ、部屋中に響くほどベッドを軋ませていては、その効果はあるのか疑問が残る。
ぐちゅ、じゅぷ…
卑猥な音を立てて柄が飲み込まれるたび、愛液がとぷ、と溢れる。
それらはシーツに吸い取られ、吸いきれなくなった分は僅かに溜まっていた。
「んっ、んっ、……んくぅぅぅぅ……っ!!」
腕をぎゅぅっと抱きしめて、メリッサの身体が大きく震える。
弓なりに反った身体は強張り、瞼はきつく締められて。
「……ん、ふ……」
大きく揺れた身体は、そのまま力を失い倒れこむ。
「んー……、く、はぁ、はぁ、はぁ…………っ」
のろのろと手を使い口に含んだ布を吐き捨て空気を喘ぐように求める。
呆然とした顔のまま、裸でベッドの上に横たわり――
「私は……なに、を…………っ」
気を取り直したのか、先程より幾分かマシになった顔で呟く。
脳裏には、今までの行為と、そして……男たちに犯された記憶。
「っ!? ち、違う! 私は、私は決して、決して……、く…………っ」
この二日間の記憶を失いたかった。
しかし、深く心に、記憶に刻み込まれた忌まわしい時間はそう簡単に忘れ去る事など出来ず。
「くそ、くそ……っ!!」
八つ当たりなど出来ない。
今起こした行為は、全て自分の弱さが招いた物。
冷静になれば、そんな事分かりきっていて、誰に擦り付ける事も出来ないという事実を思い知る。
「私は……もう、負けない。決して、決して…………っ!!」
ギリ、と歯を噛み締め、血が滲むほど拳を握り。
”元聖女”はそう誓う。


翌日。
「メリッサ、もういるかな?」
バンダナを巻いた少女、スーがそう訊ねる。
「分からない。でも、助けられたっていうのは本当だから……」
その後ろ、童顔に眼鏡をかけたピリオが複雑そうな表情で答えた。
「……とりあえず、入りましょう」
その後ろ、俯き加減で表情の見えないフィオーネが二人を促す。
三人が立っているのは冒険者の酒場、ドワーフの酒蔵亭の前。
ワイズマン討伐に向かう全ての冒険者がここに集い、そして迷宮へと潜っていく。
今ではかなり人数が減ったが、それでもまだ百人に近い冒険者と、彼女らを助けてくれる傭兵たちがいる。
ギィ……
聞き慣れた音を立てて扉が開く。
中は薄暗いが、所々に証明や明り取りの小窓があるため、視界が遮られる事なく中を見渡すことが出来る。
「……いる?」
「うぅん……、メリッサっぽい人影は見えないよ。座ってるだけで存在感があ――」
ピリオの問いにそう答えかけたスーが言葉を切る。
いや、切らされたというべきか。
「っ! スー!?」
フィオーネがスーの異変に気づき剣を抜こうとして……。
「……まったく、スーの軽口は変わらないな」
入り口の脇に立っていた人影が口を開く。
「あ……」
「「メリッサ!!」」
「すまないな、皆。またもや迷惑をかけた」
スーの喉元に突きつけていたフォークを降ろし、メリッサが頭を下げる。
「そんな事ありません。……帰ってきてくれて、本当に……」
フィオーネがそう言って、メリッサの頭を上げさせる。
「う〜……ほ、本気で殺られるかと思った……」
嫌な汗でもかいたのか、額を拭いながらスーが呟く。
「で、でもでも。本当によかったよぉ……」
泣きそうな顔でピリオが抱きつく。
ガンッ
「い、痛い……」
「そりゃね、ピリオ。メリッサはもうフル装備だし」
胸甲に思いっきりおでこをぶつけて、ピリオが泣き言をいう。
「ピリオらしくないな、私の格好に気付かないなんて」
「それほど皆が心配したんですよ、メリッサ。――ところで」
メリッサの軽口にフィオーネが応え、さらに言葉を紡ぐ。
「……Cコインと渡航券はどうしました?」
「…………」
探るようなフィオーネの視線に合わそうとせず、メリッサの視線は泳ぎまくっていた。
さっ
さっ
ささっ
さささっ
視線を泳がす先にフィオーネが回りこみ、さらに逸らそうとメリッサの視線が動き……。
「二人とも、なに静かに熱い戦い繰り広げてるのかな?」
スーの冷静なツッコミが入った。
「遊んでいる訳ではないぞ」
「そうです。死活問題ですから」
「きゃっ!?……あ、メリッサが沈んじゃいました」
抱きついていたピリオは、急に高度が下がったので悲鳴を上げてしまう。
「はぁ。まあ、仕方がありません。私たちも装備の一切を失くしてしまいましたし」
よく見ると、フィオーネたちの防具も真新しい輝きを放っていた。
こういうのは、ある程度の経験を積んだ冒険者にとってはあまり喜ばしい事ではない。
とはいえ、奪われた装備を求めて裸同然の格好で迷宮に行くのは命を捨てに行くようなもの。
背に腹は変えられない、そういう割り切りをするしかない。
「さて、それじゃどうする?」
「どうするって言っても……」
「メリッサが動けるというなら、また迷宮に戻りますが?」
「当然だろう。今こうしている間も、どこかで誰かが涙を流しているのだからな」
その一言で方針が決まった。
再会の感動もそこそこに、一同は迷宮の入り口へ向けて移動する。
「しかしメリッサ。本当に大丈夫なのですか?」
小声でフィオーネが心配そうに声をかける。
「うん? ……正直身体が辛いところはあるな。しかし、動けないほどではない。完調ではないのに行くのは気が進まないが……だからといって、休んでいる場合でもないからな」
「そう……ですか。分かりました。ですが、無茶はしないでくださいね」
「無論、そのつもりだ」
釘を刺すフィオーネに、苦笑を浮かべてメリッサが返す。
「だが……ありがとう、フィオーネ」
「……? なにが、です?」
いきなりの感謝の言葉に、フィオーネが歩みを止めた。
「いや。今私がここにいられる事に感謝したのさ」
「ますます分かりません。メリッサ、頭でも打ったのですか?」
「……だんだん、発言がスーらしくなってきたぞ」
「若いですから」
「ぐっ」
返し手をまんまと絡み取られて、メリッサが呻く。
「なにしてるのー、置いてくよー?」
先行したスーが手を振って呼びかける。
その隣にはピリオが。
「とりあえず、戻ってきてから決着をつけるか」
「望むところです。私が勝ったら、また一晩メイド服ですよ」
「な、なんだと!?」
喚くメリッサを置いて、フィオーネは一足先に駆け出す。
「わ、私が勝ったら……聖典丸暗記だ!」
「それ、なんて拷問!?」
メリッサの叫び声に、フィオーネではなくスーが反応して叫んだ。
そうして今日もまた、一向は迷宮へと潜っていく……。


To Be continued …?