リラ・ライラック period


「いらっしゃいませーっ、今ちょうど焼きたてのメロンパンが並びました!」
 クルルミク城下町では今日も彼女の笑顔からこぼれる元気な声が響いていた。半年前に彼女が失踪してから、パン屋の売り上げは目に見えて落ちていた。だがそれもリラが戻ってきてからは、以前のように売り上げが戻っていた。
 結局の所、ちょっとした好奇心や冒険心などから冒険者となり、龍騎士となるまで希有な才能を見せた彼女であったが。一番似合う戦場は、パン屋であったという。
 彼女が助けられたのは、偶然にも彼女を買い取った貴族が告発された事により解放されたという流れである。これを運が良かったと言えるかどうかは、わからないのだが……。
 


『焼きたてのパンが食べたい』
 そう注文されれば、彼女は昼夜構わずにパンを作っては届けに行く。それが生粋のパン屋としての彼女であり、矜持であった。
 だからその日も、いつものように夕方から夜にかけて酒場で焼きたてパンが食べたいという客の注文を受けて配達に行く。そんな日常の中、パンを届けてはいつもより多目の代金を押しつけられるように受け取った後の事。
 お得意様の宿屋からパン屋のある大通りに向かう途中での小道に入った時、そこで幾人もの男達がたむろっていた。
「な、なんでしょうか……あなた方は」
 その下卑た視線は、かつてリラが玄室の中で幾度も向けられた物とまったく同質の代物だった。頭の上から胸をなぞり、股間のあたりで止められる視線。ただ相手を物として考え、それを味わう事を当然としている男達。
「連れ戻しに来た。と、言いたい所だが、お前さんを買った貴族さんも首を刎ねられたんでな。だからさしあたって、抱きに来た」
 男達の言葉に対してリラは息を飲む。いくら滅ぼされたとはいえ、その残党すべてがいなくなるはずもない。そして男達はグルリとリラの事を取り囲んでは、その輪をジリジリと縮めていく。
「いや、来ないでっ、来ないで下さい……っ。もう、あの迷宮も玄室も無いのに、どこに連れ込もうって言うんです……か」
「別にこの場で抱いてやるってだけだ。なに、ちょっと観客が少ないが、代わりにここならお月様が見てやがるからな」
 必死になって男達の手を振り払おうとするリラだが、路地を塞ぐだけの男達の手をふりほどける訳でもなく。なによりここには、迷宮に潜っていた時のように武器を持っていた訳でも無かった。
「そんなの、いやです……っ、こないで、やだ、やめ……んむぐうッ!!」
 口元を塞がれ、玄室で行われた出来事が城下町という場所で再現されていく。その現実を前に彼女が出来たささやかな抵抗は、あまりに儚く悲しい物だった……。


 夜が明ける手前、東の空がうっすらと茜色に輝き始めた頃。全身を精液にまみれさせたリラは涙を流しながら、ゆっくりと起きあがる。数ヶ月ぶりにこじあけられた性器は痛々しく広がったまま、激しく貫かれた肛門からは漏らした便の臭気がかすかに残されているようだった。
「こんな……のっ、ひど……ひどすぎます……っ、うあ……ぅ……ぁぁ……」
 泣きじゃくりながら精液をつたわせ、リラは他の家族に見つからないようにパン屋への帰り道を辿る。
 これから先の日々、リラはこうして月に一度から二度、男達に襲われるようになる。いつ犯されるかわからない、いつ孕まされるのかわからない、そんな恐怖の影が常に彼女の足元につきまとう。だがそれでも彼女は健気に笑顔を浮かべ、昼は看板娘として相変わらずの日々を送り続けていた。
 時々その笑顔を曇らせながらも、日常は続いていくのである。

 その足元に、白く濁った影をまとわりつかせながら……。


<おしまい>