ある奴隷商人の一日

「はあ…参っちゃったなあ、ホント」
薄暗い迷宮の中でコトネは深い溜息をついた。
今彼女たちがいるのは迷宮の6階 ダークゾーン。
本来ならばコトネたちはまだこの階層に踏み込むはずではなかったのだが、
5階でまたも「ギルドスペシャル」に引っかかった一行は6階に落ちてしまった。
幸い今度は麻痺もしていないし、催淫状態でもない。メンバー全員、ほぼ無傷だ。
状況は前回に比べてかなりマシと言える。
…ただ一人、肌着のみと言う格好のリーダー、フォルテを除けば。

「て言うかリーダー、ここ一回引き返しましょうよ。
リーダーが装備をなくしてこの後一体どうやって探索とかするんです?」
最もな提案であるが、フォルテは強硬にも進軍を提案して引かない。
リーダーがそう言う以上、他のメンバーは付き従うのが冒険者のルールなのだが、
やはりこれはどう考えても無謀な進軍ではないだろうか。
だからコトネも食い下がるのだが、フォルテの方も今回は引かなかった。

「コトネさん。私達の目的はこの迷宮の最下層に潜むワイズマンの討伐です。
幸い皆さん無事なのですから、ここはもうしばらくこの階層を調査するべきではないでしょうか?」
「リーダー、それ本気で言って…」
「勿論です」
言葉をさえぎったフォルテは、なぜかいつもよりもきっぱりと、強いまなざしで言い切った。

「そ、そうですか……」
そこまで言われては仕方が無い。後はもう出来る限りのサポートをするしかないなとコトネは腹をくくる。
そうして話している間に少し遅れてしまった二人は、先を行くセレニウスたちに続いた。




オニヘイの裏切りを知ったコトネが怒りに燃えて事務所を襲撃して、表の顔を奪い去ってから数日が経った。
その間再び迷宮に向かったフォルテパーティは、部下の報告によれば今回こそ絶体絶命の危機を迎えたと言う話だ。
なんでも迷宮の5階に到達した一行は、そこで地下の湖を渡るキーアイテムを入手するため、
誰か一人が装備を一式差出し、さらにエロい骸骨の前でストリップショーを行わなくてはいけなかったとのことだが
そう聞いてオニヘイは 「コトネちゃん!? コトネちゃんのストリップ!?」 と期待する。

が、実際に脱いだのはリーダーのフォルテだったと聞いて、ちょっとがっかりした。

とは言え美しい賢者のストリップショーを間近で見てきた部下達は、大変良い物を見させていただきましたと
記録媒体に対して何故か手まで合わせて拝んでいる上、それを見たオニヘイも「なるほど。コレはすごい」とホクホク顔だ。

(「鑑定」発動)


フォルテのストリップ映像 ?記録媒体 <ランクA> 美少女賢者フォルテ・フォルテシモ・アンダンテが、迷宮でエロい骸骨に唆されてストリップを強要された際の映像を残した記録媒体。とっても高く売れる


唯一納得できないのは骸骨がコトネを選ばなかったことで、あいつはつくづく女を見る目の無い奴だと毒づくのだが
仮にそんな映像が記録出来たとしても売るつもりはない。自分だけで楽しむつもりでいる。

またフォルテのストリップ映像も、部下がやめてくれと必死に懇願するため、とりあえずは取っておくことにした。
どうも長く迷宮の中を追跡させている為か、部下たちはパーティメンバーに対してファン的な感情が芽生えてしまったらしい。
これは彼にとっては誤算であったが、それならそれで日頃ムチャばかりさせているのだからと意見を取り入れてやる。
そうしながら、いよいよ絶体絶命の状況に身をおいた一行に関する次の報告を待った。

しかしそうして待つ間もオニヘイは今まで通りに冒険者や町の人間。
貴族や豪商。性奴隷やその候補者の個人情報の売買で利益を得たり、
一奴隷商人として、ワイズナーで堕ちた女冒険者の一部を売り払ったりと仕事に精を出すのは怠らない。

但しこの男は性奴隷の売買の際の相手を選んでおり、自分の商品である以上、
どんなに身を堕とした女であろうと、知性の欠片も感じない者には売らない。
もしそう言う相手が買い付けに現れた時は、すぐに個人情報を集めて憲兵に通報したり、
部下を使って詐欺に引っ掛けて財産を根こそぎ奪いとり、
場合によってはコトネの店で買った武器を持たせた部下に暗殺を命じることも躊躇しない。

特に暗殺向けの武器として、数キロメートル離れた先からも対象を正確に狙撃して、
一撃で殺してしまう素晴らしい破壊力を持つ銃を購入したのだが、
これらを見るたびに、オニヘイはますます武器職人としてのコトネの技量に惚れこんでしまう。

一方で「門番」と名付けた 主に敵対する相手の風評を流し貶めることを目的とした工作員を使って
コトネは勿論、敵対する相手の悪い噂を町中に広めてやったりもする。
既に噂は尾ひれをついて広まり、最近ではハイウェイマンズギルドに武器を横流しして、
冒険者の捕縛や陵辱に手を貸しているのはコトネと言うことにまでなりだした。
同時に彼女と一緒に行動しているパーティのメンバーの悪評まで広まりつつあるのだが、
これはオニヘイにとって全て計算通りの展開ではある。


「そう言えば例の手続きの方、どうなってんよ?」
OKボスと言って部下たちが持ってきたのは、性奴隷としてのコトネの買いつけの手続きが完了したと言う書類。
一行に進まないコトネの捕縛・性奴隷化の計画ではあるが、これで書面の上では彼女はオニヘイのものとなったと言える。
それを確認して、「よし!」とガッツポーズを取るのだが、すぐにハイウェイマンズギルドを立て直すための資金や、
別人の名義で大量に買い取ったコトネの店の武器を横流しの手続きを行ない、戦力の強化を図ってやった。
そうしてちゃくちゃくとギルドの中での自分の影響力を強めていくのだ。

「それで、他の3人については?」
OKボスと言って部下たちは、フォルテPTの他の面々の買いつけに関しても交渉は順調だと報告した。
これは全くの気まぐれなのだが、オニヘイは、もしフォルテPTの面々が堕ちるようなことがあった場合は
後でコトネが悲しまないよう手を回して、他の奴隷商人よりも先に買い取るつもりだった。
その為既に必要な情報を集め、一般的な性奴隷に対する相場の数倍、もしくは数十倍に昇る額を用意もする。
これはその気になれば一国を相手に戦争を起こすことさえ出来るほどの資金でもあるが、オニヘイにとっては
総資産の一部に過ぎない。

但しそうやって連中を買い取ったとしても、とりたててどうこうしてやろうとかは何故か思えない。
せいぜいほとぼりが覚めるまで手元に置いてその後は逃がしてやろう。
部下たちもきっとその方が喜ぶだろうと考える程度で、どうもコトネにも、その知人にも、そして部下にも甘かった。


いずれにせよ、 彼の所持する性奴隷たちの中には結婚詐欺師として一流の女が何人かいて、
現在ターゲットから何億、何十億と言う単位で絶賛財産搾り取り中。
さらに大手の商会を相手に仕掛けた計画倒産が目的の詐欺がほぼ成功の見込みだ。

だからこの仕事が終わったらしばらく休暇をとって、その間、手に入れたコトネを思う存分嬲りつくしてやるのだ。

表向きは冒険者ギルドの管理人。

裏では奴隷商人。

そのさらに奥の顔は、巨大詐欺師グループの総元締め。


男は次の報告を待つ。