爆弾女


前回の冒険で、なんとか迷宮の4階へと足を踏み入れたフォルテパーティ。
しかし、一行は4階に踏み込んだ途端、
偶然にも「ギルドスペシャル」と言う、最悪の罠に引っかかってしまい、
ここから決死の脱出口が始まった。

罠により麻痺させられた上、一気に5階の玄室に落とされたコトネたち。
その場はなんとか逃げ切ったものの、続けて現れたモンスターの催淫ガスをまともに吸い込み、
なんとパーティ全員がえっちな気分になってしまい、戦闘力を失ってしまう。

3/18 フォルテパーティ
攻撃力 0
防御力 0
体力 満タン


とにかく地上への帰還を試みた一行は、最大の難関と思われた地底湖は
幸運にもキーアイテムを手に入れたことで、先に突破したパーティに続く事ができた。
そうしてなんとか迷宮の2階まで戻ってきたが、そこで今度はシャッターのトラップに遭い、
退路を塞がれてしまう。 そして現れたモンスターによって、全滅。

3/19 フォルテパーティ
攻撃力 0
防御力 0
体力 0

そしてすかさず襲い掛かってきたハイウェイマンズギルドたちに
あわやパーティ全員が捕縛されそうになったその時、
逃げようとしたコトネは急に気が変わったかのように、ならず者たちに向かっていくと、
リーダーのフォルテとセルビナを逃がすために、セレニウスと一緒に盾となり…また捕まった。

聞けば聞くほど何かの冗談のような話だが、そこまでの報告を部下から聞いたオニヘイは、
ついに出番が来たかとばかりに、大張り切りで迷宮の2階の玄室に迎いコトネを襲う。
迷宮の玄室で捕われの身となったコトネに遅いかかるオニヘイ。

「うははは、コトネちゃん、覚悟しな!」
「お、おっちゃん!? なんで!?」
「こう言うことだー!」
「や、やだ! 離せ、離せってば! なんでこんなことするのさー!」
「大人しく俺の女になるんだな!」

あわやコトネの貞操が…となったその時、飛び込んできた冒険者達によりコトネは救出されるのだった。



―さ、最悪だ…。

コトネを手に入れ、彼女の店ごと商売ルートを奪い、伸し上がる。
この計画は最も重要な段階でコケてしまった。
失敗すれば身の破滅。ハイリスク、ハイリターンの賭けに負けてしまった。
裏切りを知ったコトネは怒りに燃え、地上に到達したならばすぐさま回復を行ない復讐に現れるだろう。
逃げなくてはならない。

幸いコトネが自由の身となるまでに丸一日あったために、なんとか身を隠せたし
現金を一つの口座にのみ預けて置くようなこともしていない。
自分以外の者には知らせていない幾つもの口座に分割した貯金があるので、
生き延びさえすれば再起は図れる。
が、もうコトネに手を出すのは無理かもしれない。
ハイウェイマンズギルドに逃げ込むことも考えたが、今、ギルドはランキング上位の冒険者たちを捕らえた際に
他の冒険者の度重なる襲撃を受けた結果、壊滅寸前。安全な逃げ場とは言い難い。
そこで知り合いの魔術師にかけあい、何か都合よく数日間の記憶だけ飛ぶような薬でもないかと聞いてはみるが

「そんなものあるわけなかろう、たわけ」

…orz


「こら出てこーい! このアホー!!」

その頃、怒りに燃えるコトネはまだ完全に回復もしていないのにと止める仲間の静止を振りきり
雇った傭兵達と共にオニヘイの事務所を襲撃していた。
部屋を片っ端から爆弾で吹き飛ばしながら男を探すその怒りの表情に
普段のお人よしなコトネでの姿はなく、さながら破壊の魔女のようでもあり。部下から報告を聞いた時には心底震え上がった。

「これはもうだめかもしれんね」

魔術師にまでつっこまれてしまう。

「お、俺は〜〜」
「て言うかさ、謝っちゃえばいいじゃない。
未遂だったんでしょう、えっち。なら真心こめて心の底から謝って
もう二度とこんなことしませんごめんなさいって。
それであのコの喜びそうなレアな武器の3つ4つもプレゼントして上げれば…機嫌直るんじゃないかなー」

だがオニヘイが襲ったり姓奴隷として買った女性は何もコトネが初めてではない。
奴隷商人としての顔を知られてしまった以上、そんなことで許して貰えるとは思わないが
他にすがる手段も無いのが事実だった。






その頃、散々破壊活動の限りをつくし、それなりにすっきりしたコトネは漸く落ち着きを取り戻して
仲間達の下に戻っていた。
フォルテパーティにとって今回はこれまでにないほどハードな探索となったが
なんとか全員が再び揃ったことを喜びあう。
そうして宿屋の大浴場で、今回の冒険の疲れをゆっくりと癒すことにしたのだが、
他の宿泊客たちはみんな出払っているのか、まるで貸切状態であるのが嬉しかった。

「―んっ、んっ、ふう〜〜っと」

大きな浴槽にたっぷりとはられたお湯に身を沈めて、フォルテは息を付いた。
コトネたちがハイウェイマンたちに捕まった時にはどうなることかと思ったが、
とにかくメンバー全員が最悪の情況から帰還して、再び合流できて本当に良かった。
また装備を失ってしまったが、流石に命には変えられないと思う。

「リーダー、どうしたの? ぼうっとして」

浴槽のふちに腰掛けて足だけ泳がせていたコトネが、フォルテを見下ろしながら話かけていた。




「なーに恥かしがって隠してるんですかー。女同士じゃないですか」

―むう

「コ、コトネさん…幾ら私たちだけとは言え、前ぐらい隠してください…その…」
「いやだなあ、リーダー。別に誰も見てないんだし、平気ですよー、これくらいw」

ぐっと胸をそらすと、フォルテの目の前で自慢のDカップのバストがたゆんと揺れる。
ハリのあるつややかな胸や腰、健康的で伸びやかな手足。
美しい肢体の少女がにこやかに笑いかけているのを見ていると、
本当にさっきまで爆弾を抱えて暴れ回っていた少女と同一人物なのかと思わず考えてしまう。
人の良さそうな笑顔もひとたび怒りに燃えるとなれば、人はああまで変るのか。
そんな考えをふと抱くが、仲間に対して失礼かもしれないと思いなおして、コトネに反論した。

「そういう問題じゃありません!」
「むう。って、ちょっと思ったんですけど、私たちの探索って、基本的にリーダーが罠を探して
リーダーが地図を書いて、リーダーがアイテム探してって、全部リーダー任せなんですよねえ」
「ええ、至らないところもあるとは思いますが…」
「それです!」

え? と思わず目を丸くするフォルテ。構わずコトネは言葉を続けた。

「前から思ってたんですけど、リーダーってば、ここは外せない! って所で、ちょっとドジ踏みません?」

―ぐさっ!

何かがフォルテの心に刺さった。

「そ、そうでしょうか…」

ふるふると震えながら、それでも一応平静を保とうとするが、そこにセルビナが会話に加わってくる。

「確かにそうだねえ。まあ、探索がヘタなあたしたちが言えたことじゃあないけれど、
今回の「ギルドスペシャル」だって、いつもどおりのフォルテなら、かわせたんじゃないかい?」
「そ、そんな…」
「ねえリーダー・・・。もしかして…リーダーって本番に弱いタイプ…だったりしますか?」

―ぐさっ! ぐさっ!

何かが2つ、フォルテの心に刺さった。
実は、フォルテ自身そう言われることには覚えがあった。
仲間たちには伏せているが、彼女の本来の素性は某国の内親王殿下だ。
しかし、宮廷内の陰謀によりダンジョンに放り込まれてしまったのだが、そうなったのも…

「が、頑張らせていただきます。はい…。
経験不足ですけれども、みなさまの足は引っ張らないように頑張りたいと思います」

ちょっとどんよりしながらそう宣言する。

「あ! いや別にそういう意味で言ったんじゃあ! ホント頼りにしているんですから!」
「良いのです…慰めてくださらなくても別に・・・」
「リーーダーー!」

二人のやりとりに、やれやれと言った風に肩をすくめてあきれると、セルビナはざっぷりと湯船につかった。
ふと見ると先ほどからセレニウスは丹念に身体を洗っているが、ちょっと長いような気がする…

「どうしたんだい、セレニウス?」
「あ、いえ…今回の探索はこれまででも最もハードで長期間迷宮にいましたので、それで…」
「アンタ、冒険者なら迷宮で風呂に入れないことなんて慣れっこだろ…」
「そうかもしれませんが、その…」
「……ふーん?」


―お!? おおお!?

コトネたちがきゃいきゃいと風呂を楽しんでいたその頃、
謝ろうと思って部下を連れて宿を訪れたオニヘイだったが、
彼女たちを探しているうちにふと迷い込んだ風呂場の光景を前に、今は神に感謝していた。

―ふ、風呂に入ってる!? コトネちゃんが風呂に!

そりゃ入るだろう、風呂ぐらいと突っ込みを入れる部下。

―乳でかっ!

いきなりそこか!とまたしても突っ込まれるが、オニヘイは全く気にしていない。

―おおおお、来て良かったなー。まさかこんな良いところに出くわすなんて…

オニヘイの位置からはコトネたちの姿は遠く、はっきりとは見えないが
それでも湯気の向こうにいる全裸のフォルテパーティを食い入るように見つめる。
既に初期の目的は忘れたようだ。

―うんうん、さすが俺が目をつけた女だけあって、コトネちゃんスタイルいいなあ。
あ、あの賢者さんも、着やせするタイプだったのか。
それに他の二人もこうして見るとなかなか……。

先ほどからコトネは拗ねてしまったフォルテをなだめるのに一所懸命だし、
セルビナはセレニウスをからかうことを楽しんでいる風で、オニヘイたちの気配には
気づいていないようだった。

「お前らこの光景をちゃんと記録媒体に保存しておけよ! 後で高く売る!」

言われなくてもと、いつの間にか横に控えた部下の記録係りが熱心に撮影を行なっている。
カメラと呼ばれる魔法の機械はズームでコトネの裸身を下から上へと嘗め回すように撮影して行き、
同時にまた美しい賢者や戦士たちの裸身も記録していく。

「くっそー・・・けどここからじゃ会話の様子が良く聞こえないな…もうちょっと…こう…」

もう少しだけ、とさらに前に身体を乗り出そうとするオニヘイ。
古い木で作られた窓枠がみしみしと音を立て始めた。
…この時点で元冒険者としての経験からか。
部下たちはオチの時間が近づいてきた事をすばやく悟り撤退しているのだが、
覗きに夢中になっているオニヘイはそれに全く気づいた様子は無い。

「うーむ…こうして見るとコトネちゃんは勿論だが他の3人もなかなか…
そう言えばあまり無いことだが、もしパーティ4人をまとめて売りに出したらどんな具合になるのかね…」

フォルテパーティの面々はリーダーのフォルテを除くと様々な事情から名声が低いため
通常のルートで性奴隷として売却しても、それほど高い値はつかないと思われる。
だがセットで売った場合はどうだろう? 早速商売人らしい算段を始めるオニヘイ。

コトネのことは既にハイウェイマンズギルドに捕縛、調教代込みでの前金を払い、
他の奴隷商人に買われないよう手を打っているのだが、他の3人は…どうしてくれよう。

―まあさすがに俺一人で4人は無理だし、なら知った中の連中と共同出資と言うのも…。

都合の良い妄想に頭を働かせていると、ボロくなった木枠を掴む手がますます強くなる。

「もう、知りません! 慰めてくださらなくても―
「だからリーダー! そういうことじゃなくって…ひゃあっ!?」

気がつくとパタパタを風呂場の中を走り回っていたコトネたちだが、つるりと足を滑らせて転んだ。

―おおっ!?

転んだコトネは、なんとそのままフォルテを押し倒す形になってしまった上に、胸まで掴んでいる。

「コ、コトネさん…何を…!? ちょ、手、離してください!」
「う、うわっ!? ご、ごめんリーダー!」

―ジ、GJだ…

最早当初の目的を完全に忘れて、覗き行為に没頭するオニヘイ。
窓枠を握る手はますます力がこもって行き、…そして崩壊した。
ぐしゃ!と大きな音を立てて窓枠が落ち、と同時に異変に気がついたコトネたちが振り向く。

「げーーっ!?('A`)」
「お、おっちゃん…?」

ひくひくと引きつった表情で倒れているオニヘイを見下ろすコトネ。
その顔が徐々に怒りで真っ赤になって行くところが恐ろしい…。

「ち、違うんだコトネちゃん! これはその…そう、俺謝りに来た! 反省したんだよ!
だからほら、喜んでくれると思ってここに珍しい武器とか一杯…ってあれ!?」

そこで漸くオニヘイは部下達がとっくに逃走したことに気付いた。

「………へー。 …で、おっちゃん、それはどこにあるのさ?」
「え、えーっと…」
「て言うかそんなことで許されると思っているのかコンチクショー!!!」
「う、うわわわわわわわわわ!!!」

どこから取り出したのか、いつの間にかコトネの手に爆弾が握られていることに気付いて青ざめる。
慌てて逃げようとするが、遅い! とばかりに逃げる背中に投げつけられる爆弾。
どごん!と轟音を立てて、風呂場は崩壊した。

「あ!?」

無論、入浴中だったコトネたちは全員全裸だ。崩れさる壁の向こうは、人通りの多い街の大通り。
突然目の前で壁が崩れ去るのと、そこから出てきた4人の裸の女たちを見て、思わず通行人達は立ち止る。

「コ、コトネ!? 貴方は一体なんと言う事を!?」
「…おいおい。ありえないだろうこれは…」
「え!? セ、セレニウスさん、セルビナさん!? 違うんです、これは!わざとじゃないって言うか…」
「と、とにかく皆さん早く奥に行って何か着るものを…」

おろおろとするフォルテだが、リーダーらしく? 的確な指示をメンバーに出すと、慌ててその場を離れる。
幸い宿の主人にはワイズマン討伐の冒険者を支援すると言うことで保険が降りたため、
破壊した風呂場の弁償をさせられることにはならなかったが、その後、コトネは街中で爆弾は使うなと
フォルテたちにきつく言い渡されることになる。

ともあれクエスト開始から3週間。序盤の大きな山場を乗り切ったパーティは、いよいよ中盤戦に突入する事となる。
…ただし、装備レベルが極端に低い一行が次の冒険を乗り切れる可能性は…極めて低いと言えそうだ。

そしてなんとか逃げ切ったオニヘイは再びコトネを狙う。
城下町の片隅に仮事務所を借りると、再び部下に命じて迷宮へと向かうコトネたちを追跡させる。

冒険は次の局面を迎えた。