<王様と武器屋> 1. 「じゃあフォルテ、私行くね。でもすぐ帰ってくるから、ちょっとだけ、ここで留守番しててね!」 フォルテがコトネの前から永遠に居なくなってからしばらく経った。 あの日コトネが帰宅した時、既にフォルテは息を引き取っていた。 その日のフォルテは朝から少し様子がおかしかった。何かを予感していると言う風でもあり、コトネに買い物を頼むと、少し儚げな微笑で送り出す。 そうして家を出ていたほんの数時間の間に、死んでしまった。 帰ってきた時、もうそこにはフォルテと、それからフォルテの祖国から来たと言う知らない男の遺体があるだけで、正直最初は何がなんだか全然わからない。 ただ、いつも親切にしてくれる若夫婦・・・コトネは知らないが、オニヘイの部下たちがフォルテの祖国から来たと言う密書を見せてくれた。そこには、「オニヘイがフォルテのお姉さんを犯して王様になった」 と言う、事実が簡潔に認められている。 フォルテの遺体とこの密書…。因果関係を掴むのにそう時間はかからず、コトネに、彼女の死を現実のモノとして受け入れさせた。 もう、フォルテは自分に向けて話しかけてくれない。微笑んでくれない。抱きしめてくれない…。 目の前が真っ暗になるのを感じた。 コトネは彼女の遺体を引き取ると、自分の手で手厚く埋葬する。 もしかしたら祖国から誰かが遺体を引き取りに来るかもしれないとも考えたけど、そうだとしても渡したくなかった。もうフォルテには誰にも手を出して欲しく無いし、利用しないで欲しい…。そっとしてあげてほしい…。 多分フォルテは祖国からの密使が来る事をなんとなく予感して、それでこうなる事も予感して、自分を外出させてその間に死んでしまったのだろうと思う。目の前の現実に頭がぐらぐらとするのを感じるけれど、彼女を埋葬しながら、それはなんとか理解できた。 そして、その日から店を閉めた。 一日中部屋の中で、どうしてフォルテは自分の居ない時に、自分を残して死んでしまっただろうかとずっと考えている。 身守るオニヘイの部下たちが哀れに思うくらい落ち込んでいた。 2. 今からほぼ1年前、コトネは子供だったから、オニヘイが少し背中を押すと、自分の武器が悪い連中に使われることを許せないと思い、あの迷宮に飛び込んだ。 そして、そこで出会った3人の年上の女性たち。 特に歳の近いフォルテには最初からリーダー、リーダーと姉のように慕い、賢者であることを尊敬し、とにかく良く懐いた。 フォルテもまたコトネのことを妹のように可愛がってくれた。 そしてオニヘイ的にはとんでもない話なのだが、ファーストキスの相手になり、そうされて二人は互いにかけがえの無い人間になってしまった。 二人の関係は姉妹のようでもあり、恋人のようでもあった…。 その一方で、コトネはオニヘイにも恋をした。 きっかけはわからない。ただあの男は自分を迷宮で何度か襲ったりもした一方で、コトネにメチャクチャ優しかった。 怪我をしたらすぐに花束や薬を持ってお見舞いに来るし、いつも見守り続けてくれていた。 セルビナさんが言っていたけど、ずーっと迷宮の中で自分達をつけている一行がいて、時にはその連中がモンスターを倒したり、罠を外してしまっていたらしい。それがオニヘイの部下だったと言う事に気がついたのはずーっと後だったけれど、嬉しかった。そしてフォルテは、オニヘイがそんなことをする理由はコトネに惚れているからじゃないですか? と言った。 信じられなかったけれど、コトネはそう聞いて、ますます顔を見るとドキドキして、嬉しくなってしまう。 けれどオニヘイは、実は未だにコトネが自分に惚れてしまっていることには気付いていない。 コトネがオニヘイに惚れてしまったことを知っているのも、本人を除けば3人の仲間たちだけだった。 そしてコトネは大好きなフォルテ。恋してしまったならず者。どちらも好きだし、失いたくなかったのに…今は、独り。 3. コトネはフォルテの祖国がオニヘイの手により平和に治められていることを目の当たりにして、驚いた。 その国は往来には笑顔が。商店には活気が溢れ、誰もが王と王妃を愛し、これから生まれてくる子を祝福し、待ち望んでいる。 これがあのオニヘイの手により作られた平和だと言うのが信じられなかったけれど、話を聞いても何一つ悪い噂は聞こえてこない。 天才的な悪党はその頭脳を治世に活かし、僅か半年で完全無欠の平和な国を造りあげた。その事実に心底感心しながら、町で出会ったオニヘイの側近を務める男から、こうなった理由を聞くと同時にフォルテの居場所はもうどこにもないのだなとも感じた。 フォルテはあの密書にあった「姉の陵辱」と言う事実に最もショックを受けていたから、ここがどれだけ平和な国であろうと、自分と姉を犯した男が治める国で生きることを望まないだろう。それはあの「潔癖」な賢者にとっては生き地獄にも等しい精神的な陵辱となるに違いない。 だから、ここはフォルテの望んだ平和な国である一方で、地獄でもある。可愛そうで仕方がない…だけど…。 そこまで考えたコトネは、フォルテが死んだ理由をちゃんと受け入れないといけないと気がついた。同時に、何か吹っ切れた。 4. その日の夜、城下町を出て近くの村に宿を取ると、一人で考えた。 いつも失って良い人など一人もいないと言い、皆に等しく癒しが訪れることを願い、世界が愛で満たされることを望んでいたはずのフォルテは愛する人間を残して自殺すると言う、この世で最も重たい罪を自分で選んだ。 フォルテは自分を殺すことでコトネから愛を奪った。矛盾していると思う。 恐らく、あの密書を読んですぐに死ぬことを考えたのだろう。と言うより、ほとんど衝動的な自殺だったはずだ。 そして死ぬ事を選んだとき、優しいフォルテは死ぬ事を世界に詫びたと思う。いつものように、泣きだしそうな儚い表情で「ごめんなさい」と。 そうして極自然に死ぬ事を選んだ…。そうすることが当然なのだとでも言う風に、自然に自分を殺すことを選んだ…。それは…なぜなら…弱かったから。 どうしても認めたくなくて、目を逸らし続けたけれど、それを受け入れないといけないのだろう…。 生前、フォルテはいつも自分とオニヘイのことを気にかけてくれていた。 「フォルテ! この冒険が終わったら、私と一緒に村に帰ろうね! 約束だよ!」 「はい…コトネさん。とっても…嬉しいです…」 「もう! 泣かなくってもいいじゃない! 大丈夫だって。私がついているから」 「はい…有難うございます。お世話になります」 「うん! お世話しちゃうしちゃう」 二人は、本心からそう願っていた。そうなれたらどれだけ嬉しいかといつも話していた。ただその後で、彼女はいつもこう続ける。 「でも、そうなるとオニヘイさんはどうなるのでしょうか?」 「え!? お、おっちゃん!?」 「はい」 フォルテは、自分とオニヘイの恋を応援してくれていた。 フォルテ自身が不幸な生い立ちで、男女の恋を知らなかったから、殊更自分達のことを眩しく見てくれていた。 「おっちゃんのことなんて放っておけばいいじゃない」 コトネは笑いながらそう言う。けれど、そう言うとフォルテは少し困ったように考えた後に、微笑みながらこう言った。 「でも、コトネさんはオニヘイさんもご一緒の方が嬉しいですよね? ですから、私はオニヘイさんがコトネさんを迎えにいらっしゃる日まで、大切にコトネさんをお守りしています。 でもね、あんまり遅いようならば…取っちゃいます」 冗談混じりにそう微笑みながら、優しくキスをしてくれた。 コトネはオニヘイの奴隷商人と言う、絶対認められない職業のこともあり、フォルテ以上に自分とは住む世界が違い過ぎると諦めていた。奴隷商人はヒトをモノとしてしか扱わない。あのハイウェイマンズギルド以下。クズの中のクズだと思う。 だけどフォルテはそれでも諦めてはいけないと励ましてくれた。オニヘイはコトネに惚れ抜いていると信じていたから、その為なら、真人間になってくれると信じていた。それをお人好しだとは思わなかったし、儚くて、脆い人だと思う一方で、あんな奴ですらそこまで信じられるフォルテをとても強い人だと思っていた…。 「しょうがないなあ、フォルテは」 そして本当にそれが可笑しくって。でも愛おしい。 だから笑顔になれたし、そうなると良いなとも思った。 フォルテは誰のことも大事に想い、明日こそ世界が変ると良いなと祈りながら全てを受け入れて、ひたすら今日を耐える。明日こそ…その次こそと…耐える。自分から自然な流れを変えて、傷つけることを恐れる「優しい」人。 それが間違っているとは思わないし、寧ろ大抵の人間が大なり小なり現実を受け入れ耐えながら生きているのだけど、受け止め続けるには何があっても諦めない、起きた事全てを受け止める揺ぎ無い心の強さが必要で……。 でも本当のフォルテは、不幸な生い立ちの中で醸造された弱い心を持つ弱い人間…。そして、大切にしているものが失われなくても、傷つけられるだけで自身も深く傷つく過度の潔癖症な人間…。そんな彼女がありのままを受け入れ続けるのは、あまりにも困難だったのかもしれない…。 一方でオニヘイの手によって瞬く間に作られた平和を見てコトネは思い知った。 自分たちを陵辱したことは許せないけれど、あいつは「強い」。信じられないほどに「強い」。 あの男には自身やフォルテへの陵辱も含めて色々な目に遭わされたけど、その一方で少しでも世界が自分の望む形に近づけて、そうするためには手段を選ばず、人を傷つけることも厭わずに、何の迷いも無く望みを全て叶えて行くと言う、フォルテとは真逆の人間。 あのハイウェイマンズギルドのボス・ギルドボですら、ワイズマン事件を引き起こしたセニティ王女ですらああ言う末路を迎えたと言うのに、あの男は何一つ失わない所かとうとう王様…。こうなってはもう、誰もオニヘイに手は出せないだろう。 けれど、それは他人を傷つけながら伸し上がっていく強さであって、「優しくない」 二人はあの迷宮で犯され、コトネは目の前でフォルテを堕とされ、それでもなんとか力を合わせて生きてきた。 普通の神経ならあんな風に酷いことをされて、哀れにも奴隷宣言までさせられたら生きていけないと思うけれども、それでも二人だったから頑張ってこれた。 でもフォルテは「潔癖」すぎるから、傷をつけられると、それ以上に酷く心が傷ついてしまう。そして、一度そうなるとそう簡単には立ち直れない。 そしてとうとう耐え切れなくなって…。 コトネは愛していて、尊敬していた人間が、本当は心が弱かったが故にとうとう折れてしまったと言う現実を受け入れたくなくて、そんなありのままのフォルテから目を逸らしてしまった。 だから一生懸命、どうして死んだのだろうと、なんとか他に納得行く理由を考えたのだけど、浮かんでくるどの考えもなんだか違う気がして。 当たり前だ。 それは、弱い自分が無理やり、自分勝手な理屈で目を逸らしているだけだったのだから。 もしかしたら、それでもフォルテは少し悲しく思いながらそんな自分を受け入れてくれるかもしれないけれど、そんな風に思われて、そんな風に受け入れられるのは嫌だ…。例えもうこの世に居ない人であっても、愛する人にそんな風には思われたくない。 だから、そうするためには自分自身がまずフォルテが「弱いから死んだ」と言う、ありのままの彼女を受け入れる「強さ」を持つ必要があった。やっとそれがわかった。 自分の良く知る二人は現実に対して真逆の手段で挑む人達で、それを比べる事でコトネはやっと彼女が死んだ理由と、それを正面から受け入れられなかった自分の弱さを認めた。 だけど思う。 現実を受け入れつつ力で変えてしまうオニヘイと、受け入れて、いつかもっと良くなると変る日を信じて待つフォルテの違い…。 どちらもある意味では正しいんじゃないかと思う。でも、それでもフォルテが死んで悲しい。 フォルテにとってこの国で生きる事は辛い事だったかもしれないけれど、それでも、もう少しだけ強かったら…。一度でも、姉に会ってみようと思い、それを行動に移していたら…。弱いフォルテ…。可愛そうなフォルテ…。 だけどどうして皆、コトネの気持ちを聞いてくれずに最後の瞬間、自分たちだけで遠くへ行ってしまうのだろう? 一方はコトネのためにと思い、王様になってしまった。 一方はその弱さ故に、何も言ってくれずに一人で死んだ。 二人とも確かに自分を愛してくれているのに、二人が今の立場になった時、そこで一番肝心なはずの 「コトネ本人の気持ち」 をわかってくれていなかった気がする。 別にオニヘイが王様になることも、仇を討ってくれることも望んではいなかった。死にかけた時、会いに来てくれるだけで良かった。 弱い心であっても尚ありのままを受け入れ続けたフォルテにとって、ある日ああ言う風に死んでしまうことは"らしい"と言えるけど、それでも死ぬ前に一言相談して欲しかった。 なのに二人とも最後の最後で、愛していた筈の人間が、残された人間がどう思うのかと言う、そんな当たり前のことを無視して、その上で「自分らしい」行動を取った結果、今、コトネに寂しい思いをさせている。 それに自分だってフォルテのことを愛して、誰よりも信じていたのに、最後の最後で彼女の弱さを受け入れずに目を逸らしてしまった…。ダメじゃないか私。 じゃあ一体これからどうすれば良いのだろう…? フォルテの死を恨むのでも悲しむのでもなく…オニヘイのようにただ押し続けるのでもなく…フォルテのように現実が変わるのを待ち続けるのでもなく……………………答えは………………… 5. 「ねえおっちゃん。私の店と契約しよう!」 そして話は今に至る。コトネは、オニヘイに会うことにした。 あの日、あの後オニヘイはすぐにフォルテを解放した。 元々売るつもりなどなかったらしく、オニへイにとってのアレはちょっと「楽しませて」もらった。それだけのことだったらしい。 そうされたフォルテがどれだけ傷つくかと言う事は、考えすらしない。もし何か思うとしたら、それは「別に売り払ったわけでもないし、死んでないんだからいいだろ?」と言う程度。でもそれがありのままのオニヘイと言う人間…。 それにコトネもあの時弱っていたし、オニヘイがフォルテを連れ去ったおかげで他の奴隷商人に売られずに済んだのも、ある意味では事実だったから、呼び出されて会いに行った時、別に暴れる気にもなれなかった。 ただ、愛する少女が惚れた人間に傷つけられたと言う事実は、自分への陵辱以上に悲しかった…。 だけどフォルテはあんな目に遭わされても、それでも何一つオニヘイに対する恨み言を言わない。自分の犯したミスで自分も、仲間も陵辱された。オニヘイのしたことも酷い…。哀しい。何より、なんで自分はこんなにも愚かなのだろうと嘆き続けて、何度も自殺しようとした。 けれど、二人は愛し合っていたから頑張って、乗り越えようとした。とてつもない矛盾がそこにあると言う事を判った上で…明日こそ世界が変ると信じた。ありのまま、受け入れ続けた。 けれど本当のフォルテは弱かったから、あの日とうとう限界が来て折れた。 祖国からの追手によるコトネへの理不尽な暴力。祖国と姉に起きた事件。 事件が起きた理由を考えて、そこには全てそうなる理由があって、それらはどれも決して間違いではないはずで。 だけど、フォルテはたった一つだけ勘違いしている。 それは他ならぬフォルテ本人の気持ち。 フォルテは、全ての原因が自然にコトネを選んだ自分にあると思ってしまい、生きる望みを失ってしまった。 けどそれは絶対に違う。 不幸は別に誰のせいで起きるわけでもない。勿論フォルテのせいで起きるのでもない。 人が生きて誰かと関わり続ける以上、どこかで不幸は起きる。必然なんだと思う。 そしてフォルテが言うように誰もが正しいのであるならば、そこで自分だけを責めてはいけなかった。 何より、フォルテがコトネと居ることを選んだのは、全然自然な流れではない。それをコトネは知っている。 二人は、いつも将来について話し合っていた。 一緒に村に帰って暮らそうとか、いつか一緒にフォルテの祖国に行こうとか。でも今はまだ国へ帰りたいけど、帰れない。だけど追手はきっと来るからそれが怖い…。でも無理矢理連れ戻されて国が乱れるくらいなら…思いきってオニヘイの組織に飛び込んでしまおうか? 幾つもの選択肢があったけど、もし、流れに任せるのであれば、フォルテは内親王として追手に連れ戻されていた筈だ。 だけどそうではなく、コトネを選んだ。 幾つもの選択肢の中から、コトネと一緒にいる道を、ちゃんと自分で選んだ。 二人は生まれも、育ちも、立場も全く違う。一緒に居ても、幸せなだけではいられない。苦労するのはわかりきっている。 だけど、それでもフォルテはコトネを抱きしめて、愛してくれた。それは、ただ運命を受け入れるだけの生き方では決して無かったはずだ。 フォルテ自身が選び取った未来。それは他の人の願いと等価値なのに。 なのに、最後の瞬間そう思えなかったことがフォルテの弱さ…。 でもそれがありのままのフォルテと言う人間なんだから、否定してはいけないのだろう。 だから今までもそうしてきたように、これからも自分は彼女を受け入れて、ずっと好きで居続ける。自分を置いて死んだことも、そう言うことを全て含めてフォルテなんだから…。 そして、かつてコトネは自分が作った武器が知らない間に悪人の手に渡り、人攫いに使われることが許せなくってあの迷宮に挑んだ。だけどそれはコトネが武器と言う物の持つ意味を正しく考えていれば、起き得ない行動で…。 あの頃のコトネはそこから目を逸らしていた。現実ではなく、理想しか見ていなかった。 それでも、あるいはもっと強ければ力技で現実を変えられたのかもしれないけれど、あの頃のコトネは弱かった。 おまけにみんながワイズマンの討伐を目指している中、コトネは目指していなかった。自分の武器を取り戻すことだけを考えて…勝手で…だから最後の最後で、自分も、仲間も傷つけて、それが巡り巡ってフォルテを死なせたのかもしれない。勿論、そうじゃないかもしれないけれど…。 でも、弱かったのは確かだったから今度こそ強くなる。 そしてオニヘイは自分を愛するが故にこの国を手にしたのなら、そこまでしてくれる愛情に応えてやろうと思う。 あれから考えたのだけど、自分一人の方が一国よりも大事だと言い切られて、愛されてしまうと言うのはなんだか物凄く嬉しい。 口先だけで「お前が誰よりも大事」だとか、「世界を敵に回しても〜」とか言う人はいっぱいいるけど、実際その通りに行動してくれる人なんてほとんどいない。でも、目の前のこの男は本当にそうした。そこまで愛されちゃうことってやっぱり凄いと思うし、嬉しい。 酷いこともいっぱいされたし、「優しくない」。正直、陵辱されたことは絶対許せないのだけど、それでもやっぱ自分、この人が好きだ。奴隷商人なんてふざけた仕事ももう辞めているみたいだし、ならほんのちょっとだけ受け入れよう。自分なりのやり方で…。 で、この結論をフォルテが喜ぶとか、悲しむとか、そんなことはもうどうでも良い。 結局どんな結論を出そうともフォルテはありのままのコトネを受け入れるに違いないから、だったら最初から誰の為でもない。自分のために生きれば良い。それが多分一番正しい。 6. 「い、いいのか!?」 オニヘイは突然訪れたコトネに対して、目を白黒させて驚いている。一応来るかもしれないと言う事は部下に伝えてあったがそれでも意外だ。 それがコトネにとっては可笑しかった。多分この男は、フォルテが死んだとことも、別に自分のせいだとかそう言う風には受け取っていないんだろうなあと思う。 無駄に強いから、きっとあのこともコトネよりも遥かに早く「受け入れて」しまったのだろうなと。 …ちょっとムカつくけど。 「まあ、えっちはさせてあげられないけどw」 「えー!?(;´Д`) 俺もっとコトネちゃんの乳揉んだり吸ったり、色々突っ込んだりしたいぜー!?」 「色々!? 突っ込むって何を!?」 「いやいやいや!」 まったく、この男は本当に…。 「あのねえ。それよりさ、契約してよ。私の武器、買ってくれない?」 「あ、ああ、それは全然OKだけどよ…でも、なんだ? なんで急に…俺の事、恨んでないのか!?」 わかってないなあとコトネは言う。恨んだところでどうなるのさ? それだけの話なのに…。 「わかんねえ…」 「おっちゃんはバカだもんね」 「だははははは! 俺にそんな事言えるのはコトネちゃんだけだな!」 心底楽しそうにオニヘイは笑っていた。どうしてコトネがこんなに明るく現れたのはわからないけど、思ったよりも元気そうで良かった。 だから、密かに… <もう一度狙う> …と。 <させないけどね> 何を考えているのか悟ったコトネも心の中で睨み返すと、二人の間に見えない火花が飛び散った。 「じゃ、OKってことで契約書宜しく!」 「お、おう!」 こうして、第2ラウンドは始まった。 8. その後、帰郷したコトネはフォルテの祖国のために武器を作る。武器は多くの人を助ける一方で、時には人を傷つける時もあるのだけれど、その頃のコトネはそれが武器なのだと言う事で受けいれられるようになっていた。 強くならなくてはいけない。 それと同時に優しくなくてもいけない。 だから人を救うことも、傷つけることも出来る武器を作り続ける。 そうしながら、本当に強くて優しいと言うのは、愛とはどう言うことなのかと言う、コトネなりの答えを探し続ける。 王オニヘイはその後も王であり続けた。ただ強いけれど「優しくない」ので、時々とんでもない間違いを犯しそうになるから、その時、コトネは真っ先に、比喩ではなく文字通り殴ってでも道をそれを食い止めた。 別にフォルテのためじゃなくって、自分がそうなって欲しくないと思ったから。 フォルテは魔法が使えるとか、知識があるとかそう言うのではなく、もっと根本的な所で賢者だったから、ひたすらに世の理を解そうとし続けて、世界が変わる日を待った。 けれどコトネは戦士だから待つだけではなく戦う。行動して失敗しても別にいい。傷ついたって乗り越える。 世界の中心は私。世界は自分を中心に動いていて、日々起きることの全てが人生を豊かにするイベントで、それらは自分を成長させて、今日を楽しく生きさせてくれる。明日が来るのを待ち遠しくさせてくれる。だからコトネは全てをありのままに受け入れながら挫けないで、強くなって、ずっと笑顔で生きようと思う。 それがフォルテが命を懸けて自分に教えてくれたことだから。 「ありがとうフォルテ! 頑張るよ、私!」 きっと、今の自分をフォルテは笑顔で見ていてくれている。 心からそう信じて、コトネは元気一杯で生きている。今日も、そして明日も。 |