紫の賢者と爆弾娘。そして奴隷商人のとある1日

1.
「ねえ、フォルテ。本当に私がリーダーでいいの?」
コトネたちが迷宮に潜りだしてそろそろ一月半。
いよいよクエストも終盤に差し掛かっているのだが、コトネは未だに迷宮の中で活躍していた。
活躍している所か、最近は迷宮内の軽戦士たちの中でもかなり上位の実力レベルに育った上に、なんとセルビナからリーダーを引き継げと言われている。
ただ、さすがにこの展開はどうなのだろうと疑問に思い、今はPTの三人に抗議の真っ最中。
天気が良いので、四人は通りのパーラーで冷たいドリンクを飲みながら、これからの方針について会議しているのだが、
コトネは、自分がリーダー…正直器じゃあないと思っている。
「別にサポートしないと言うわけじゃない。ただ、決定権をお前に譲る。そう言っているんだ」
いい加減に腹をくくれとセルビナは言う。
「もう少し、自分の実力を信じてみてはどうですか? 充分、強くなっていますよ貴女は」
セレニウスも後押しをした。
「…良くわかんない」
「何事も経験だよ」
そう言うと、彼女はこれまでに手に入れたアイテムと地図を渡して、そして今後の大雑把な方針を説明すると後は任せたと、セレニウスを連れて飲みにいってしまう。
「あ、ちょ、ちょっと! なんでセレニウスさんも行っちゃうのー!?」
どうもこのように、ある程度放任するのが彼女の人の育て方らしいのだが、唐突にリーダーを任されたコトネとしては、とまどうしかない。凄く困った。

二人が立ち去るとそれまで黙って聞いていたフォルテは、ニコニコとしながら、「大丈夫ですよ」と話しかけてくる。
「大丈夫って、フォルテぇ…。それ私の台詞だよ」
「そうですか?」
フォルテはきゅっとコトネの手を握ると、自分たちもサポートするからと言い、すぅっと顔を近づけて、もうすっかり自然に行なうようになったキスをした。
「ん…」
「うん…ん…」
コトネも、それを自然に受け入れる。唇同士が軽く触れ合う浅いキスだが、それだけで何だかとても励まされるような気がする。
「一緒に、頑張りましょう?」
「う、うん…」
「私だって、セルビナさんたちに助けて貰いながら、一時期とは言え、リーダーを務められたのですし…」
確かに、フォルテはその細い両肩で、かなり長期に渡って自分たちのリーダーを務めてきた。
相当にプレッシャーだっただろうにと思う。だから、もう1度彼女にリーダーを任せると言うのも、なんだか悪い気はする…
「うん、それじゃあやってみるよ」
「はい、宜しくお願いしますね。リーダー」
ニコリと、フォルテは満面の微笑みを浮かべた。
「任せてよ」
そして、コトネも同じくらい明るい笑顔でそれに応えた。



2.
「(…な、なんかすげー入りにくい(;´Д`))」
通りの向こうで、オニヘイはコトネたちを見つけた。
今日は先日、迷宮の中で捕らえた人妻エルフの調教に加わっていた部下が、逆に精を吸い尽くされそうになりながらも最後まで仕事を成し遂げた。
ところがその死闘の果てに再起不能になったと言う事で、様子見がてら解雇通知を出してきた帰りだった。
たまたま見かけたコトネたちに話かけようと思うのだが、タイプの違う美少女同士が、なにやらピンク色のオーラを漂わせて楽しそうにしているのを見ると、
どうも間に入って行き辛いなあと思ってしまう。それでも、すぐに前から用意させていたプレゼントを持ってこさせると、部下を率いて二人に近づき、声をかけてみる。
「コトネちゃん、久しぶり!」
「へ? っておっちゃん!?」
振り向いた先に見知った男を見つけると、コトネは途端に顔が赤くなり、なにやら胸の奥からドキドキしてくるものが湧き上がってくるのを感じた。
「コトネちゃん、これプレゼントだぜ」
オニヘイは真っ赤な薔薇の花束と、先日戦場で部下が見つけてきた「ドラゴンの鱗」を手渡す。
「うわー! 凄いおっちゃん! 私がこれ欲しいって言ってたの、覚えていてくれたんだ!」
ちなみに喜んでいるのは薔薇ではなく、ドラゴンの鱗の方。
コトネは前からレアな素材であるドラゴンの鱗が欲しくて、密かに竜神の迷宮の九階にいると言う龍神に遭遇できたら、そいつの鱗を剥いでやろうと思っていたのだが
気を利かせてオニヘイが先にプレゼントしてくれた。それが嬉しくてたまらない。
ついでに最近迷宮の中に憧れの緑色の服の勇者に良く似たモンスターが現れて、しかもそいつもレアな武器を持っているらしいと酒場のパーラに聞いたので、
その武器も狙っているのだとフォルテに話したことがあるのだが、迷宮の九階はあまりにも遠い。
果たしてその願いが叶うかどうか…と笑われてしまった。
「(うーん…花束よりもゲテモノの方に反応するコトネちゃんか…可愛いなあ(^-^))」
オニヘイは、そんな彼女を下心でギラついた視線で見つめている。

「あれ? どうしたの?」
ふと、コトネは顔を真っ赤にして俯いているフォルテの様子に只ならぬ雰囲気を感じた。
「何? 何?」
そうしてオニヘイの顔と、フォルテの顔と、交互に眺めて一体何がと考えてみるけど、オニヘイはニヤニヤしているだけで、特別いつもと変わりがあるようには見えない。
「あ、あの…コトネさん、もう行きましょう…?」
そうしているうちに、フォルテはコトネの手を取り、そそくさとその場を立去ろうと急かすのだが、その様子にふと、先日オニヘイとフォルテが二人で会っていたあの時、
彼女が真っ赤になって涙ぐんでいたのを思い出して、ぽんっと手をうち、そおいうことかと納得した。
「フォルテ、おっちゃんに何かされたんでしょ。それとも、・・・何かしたの?」
!?
コトネを除く、その場にいた全員が硬直した。
さらに思い出して、羞恥心でたまらなくなったフォルテは、とうとう泣きだしてしまう。
「フォルテ!? ええ!? おっちゃんフォルテに一体何したのさーー!!」
「俺かよ!Σ(´Д`;)」
オニヘイは全く身に覚えが無いのだが、突然責められてうろたえた。
否、現実にはあの程度の事件などいちいち記憶しておくほどのものでは無いと言う話なのだが、おかげで何故フォルテが自分を見て泣きだしたのか全然わからない。
しかも陵辱して、調教している時ならともかく、こう言う場面で素で女の子に泣かれるのは、実は思いっきり苦手だったりもする。
「いや、あの、ホント知らないんだって。覚えが無いんだって」
「ううう…う…あああ…」
「だからなんで泣いてるんだよ! 俺が一体何をしたと!?」
「おっちゃんまさか私にしたようなことをフォルテにもしたの!? そんなの絶対許さないからね!」

なんだかコトネはめちゃくちゃ怒り出した。いつもニコニコしているくせに、こうなるともう手がつけられない。
彼女が一度本気で怒るとどうなるのかは、以前事務所を破壊された時に心の底から思い知ったのだが、
おまけに、最近はその嵐のように吹き荒れる怒りの力に、戦士としての実力が上乗せされてきたからたまらない。
つい先日も怒りに任せて町を半壊させた彼女のために、オニヘイは復興用に私財を幾らか町に提供したばかりである。
部下たちは、「なんだろう、この女房に亭主の浮気がバレました、みたいな情況は・・・」と思いながらも、いつコトネがボスに爆弾を投げつけるかと警戒してはらはらしている。
「だ、だから本当に何もしてな・・・あ!Σ(゚Д゚;)」
焦って色々と考えを巡らせるオニヘイは、漸くあの時のフォルテのことを思い出した。
「(まさかアレか!? で、でもスカートの中見られたことがそんなにトラウマになるのか!? 大体アレは俺のコトネちゃんのファーストキスを奪ったこの娘が悪いんであって、俺悪くないじゃん!?
それに幾ら処女で、潔癖とは言え。 …それとも男に見られたことがまずかったのか?)」
わからなくもないのだが、オニヘイは、それでよく火中の栗を拾いに竜神の迷宮に潜れるものだとも思う。
しかしそんなフォルテを面白いと思って、もう少しだけからかってみることにした。

「実はな、コトネちゃん」
背後に竜巻のように吹き荒れるオーラを漂わせ、すぐにでも爆弾を投げつけてきそうなコトネにビクビクしながら、オニヘイはすいっとフォルテの真後ろに立つ。
フォルテは何をされるのかと思い、「ひっ」と泣きながら身を硬くするが、それには一切構わず、彼女をさっと後ろから抱きしめた。
「い、いやああっ!」
「(うーん、柔らかいなあ( ´∀`))」
抱きしめた賢者の身体はとても柔らかく、立ち上る花のような香りがなかなかに良い感じだ。
思わずそのまま白昼堂々と彼女を拉致してしまいたくなったが、そこはぐっとこらえて、真面目な顔で次の言葉を放つ。
「…実はコトネちゃん、俺達、今度、付き会うことにしたんだ」
「ええええーーーーーーっ!!!!」
衝撃的な告白に街中だと言うのにコトネは思わず大声をあげて、そうしてオニヘイと、フォルテと。交互に見ながら口をぱくぱくさせて絶句した。
「ほ、本当なの!? ねえ、フォルテ、フォルテってばーっ!」
「う、うう…うあああああああああ……」
フォルテは、とうとう本気で泣きだした。
オニヘイはそんな二人の反応に気を良くして、たまにはこう言う初心な女の子をからかうのも良いなと思い、ニヤニヤと言う笑いが止まらない。
なかなかに良い気分だ。
寧ろ最高かもしれない。
「ち、違います! 違うんです! ううううう・・・」
魔法を使うことも忘れて、いやいやとオニヘイの手から逃れようとするのだが、しっかりと両肩をホールドされた上に胸にまで手を回されると力が抜けてしまう。
「(うむ、柔らかい! グッドな手触りだ。つっかコトネちゃんのファーストキスを奪ったんだから、代わりにこれぐらいはしてもいいんじゃねえ?(´∀`))」
オニヘイはふにふにとフォルテの両胸を揉みこんだり、服の上から胸の頂点の辺りを指腹でさすりながら、まだ触ったことのないコトネの胸はどんな具合だろうと想像してワクワクする。

一方で、これまでどのような男にも許したことのない場所を弄られ、冷静な思考を封じられたフォルテは、はかなげに抵抗をしてみるが
女を抱き、堕とす事にかけては百戦錬磨のならず者による熟達した愛撫は、そんな彼女から一気に抵抗力を削いで行き、
さらにギャラリーの視線が二人に集中すると、それがますます彼女を追い込む。
「あ…あぁ…」
「(お姫さまのムネ! 高貴な乳! つまり姫乳! うはwww ヽ(´∀`*)ノ)」
周りにいる部下たちは、美しい賢者が思わぬセクハラをされている光景に、嬉しくなるやら気まずくなるやら。
だが、そんな情況でも撮影を続けるところは、さすがにプロのならず者たちだった。
そして、指先で胸の先端をとんとんと刺激していくオニヘイは、そこに触れる気配を敏感に感じ取る。
「お、なんか先っちょが固くなってきたような?」
「う、嘘です!」
思わず口をついて否定の言葉が飛び出したが、男の言葉が何を意味するのかわからない。ただ、ただ、うろたえるだけ。
「うーん・・・それじゃあ、だんだん気分も乗ってきたようだし、そろそろ宿へ行こうか? おい、部下たち、ちょっと部屋取って来い」
「あぁ…」
―助けて…
涙で潤む黒曜の瞳で、目の前の少女に救いを求めたその時、
「なーんて、ウ・ソ」
オニヘイは頃合かと思いぱっと手を離す。すると次の瞬間、爆風で焦げた姿で倒れ、ぴくぴくと痙攣していた。


「コ、コトネさん!」
「さいってー! 行こっ、フォルテ!」
電光石火。
たった今、コトネが凄まじい早業で取り出した小型の爆弾を、オニヘイの足元で爆発させたところだった。
コトネはさっと自分の背中に逃げ込んできたフォルテの手をとり、ぷいっと怒りながらすたすたと、一緒に宿へと引き上げて、
歩きながら、ショックを受けているフォルテを一生懸命慰めた。
「うう…コトネさん…違うの…違うの・・・」
「うんうん、わかっているよ。フォルテがおっちゃんなんかと付き会うわけないじゃない」
そうやって泣いている賢者の背中をさすったり、優しく抱きしめたりしながら、「良かった・・・」と、色々な意味で思うのだった。



3.
「いてててえ・・・・ほ、ホントに強くなったんだなコトネちゃん…。今の全然見えなかった…」
そらあボスが油断していたからですよ、と。一部始終を見ていた部下たちは小さくつぶやくが、それは聞こえない振りをした。
「(それにしてもあの紫の賢者…思っていたより面白い娘だなぁ)」
ふとそんなことを思う。
「元々俺が売ってやろうとは思っているけど、コトネちゃんとも仲が良いみたいだし、二人とも並べて仲良く調教してやるのもいいなあ」

昔出会ったとある魔女が言っていた。綺麗な物と、可愛い者は、2つ並べておくのが基本だと。
「(なんて言ったっけな、あの魔女)」
とにかく目的は達した。コトネもリーダーになれば今までよりももっと目立つだろうし、それなら今度こそ手にいれることが出来るに違いない。
二人とも強くなってきたため、最早正攻法で捕らえるのは難しいかもしれないが、確立で計算したオニヘイは、その日はそれで満足するのだった。


そして、そんな事件があった翌日、大胆にも新リーダーコトネに率いられた一向は再び迷宮に踏み込んだ。