ドキガムネムネ


 4月某日

 迷宮の4階から無事帰還した4人はコトネたちその日一日、休暇を取る事にした。

 実は今回、もしハイウェイマンのランカーに登録されてしまった
 不幸な女性の監禁されている玄室に遭遇していたら 危ないところだったのだが、
 上手いことスルーできたのは彼女たちにとって幸運だったと言える。



オニヘイ:「またしくじったのかよ…」

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 …一人の男を除いては。

オニヘイ:「け、けど障害は多いほうが燃えるよな!」



 …なんだかんだで一ヶ月。コトネは当初のオニヘイの予想を大きく裏切って迷宮に潜り続けていた。












コトネ:「ん、しょっと」

 大きな荷物を抱えて町の武器屋に向かうコトネの後ろをフォルテがてくてくとついてきた。

 戦時中では、例えの街中でも女一人でいるのは危険なので、最近はどんな時でも最低二人以上で行動している。
 その場合、行動範囲の問題から大抵は年長組みと年少組でわかれているが、
 フォルテは今回の冒険で珍しく大怪我を負ってしまったために、その足取りはややおぼつかない。


コトネ:「ねー、大丈夫? やっぱセレニウスさんたちと一緒だった方が良かったんじゃないの?」

フォルテ:「いえ、お気になさらず…それよりコトネさん? それが今回回収出来た武器ですか?」

コトネ:「そだよ。最近フォ、フォルテさんを襲う人が多いから、回収も順調なんだ。これからも期待しているからね」

フォルテ:「…それは、誉められているのでしょうか」

コトネ:「も、勿論だよ! 超勿論!
 それにフォルテさんが危ない時は、ちゃんと私とセレニウスさんで守るから、バッチリ! ね?(ニコッ」

フォルテ:「あ、有難うございます…」

コトネ:「んふー。
「失われて良い方など一人としていません。明日は我が身・・・行きましょう」 だっけ? 
 くーっ、カッコいいこと言うよねえ。惚れちゃいそー」

フォルテ:「あ、有難うございます。わ、私も、その…あな―」

コトネ:「…いや、あの…何その反応…」

 コトネは少し顔を赤くしているフォルテに困ったようにうろたえる。
 つい最近、一行はリーダーのポジションが変ったため、コトネはフォルテのことをそれまでと違い名前で呼ぶように
 していたが、慣れないと言うのとなんとなくの気恥ずかしさが先にたってしまい、まだ少しぎこちない。

 そして通りの真中で意味不明な会話をしている二人を、通行人がくすくすと笑いながら通り過ぎていくが、
 そこにセルビナとセレニウスがやってきた。



セルビナ:「なんだいそれ? ゴミ袋?」

コトネ:「あ、酷いなー、セルビナさん!」

セルビナ:「はは、冗談冗談。ったく、毎回危険な目に遭ってばかりだって言うのに、それは止めないんだね」

コトネ:「だってこの為に私は迷宮に潜っているんだもん」
 後は誰がハイウェイマンに武器を横流しているのかわかればなあ。何か確実な証拠さえあれば…」

セルビナ:「何か心当たりはないの?」

コトネ:「うん、全然…。はぁ…」

セルビナ:「ふーん、アンタもその若さで苦労してんだ。まだ17だろ?」

コトネ:「うん・・・って、何かオバサンみたいな事言っちゃうんだね」

フォルテ:「…ですね。って、ち、違うんです、これは!」

セルビナ:「ア、アンタたちー!」

フォルテ:「す、すみません!」

コトネ:「若さ…若さって何!><」

フォルテ:「ひ、酷いですよコトネさん!」

 がっくりと肩を落としているコトネを見て、セルビナは少し哀れに思いガラにもなく同情してみたのだが、
 どうやらこれは慣れないことをするとこうなると言う、お手本だったかもしれない。



セレニウス:「コトネ? ダメではありませんか。こんな所で大声で騒ぎを起こしては」

コトネ:「わ、私だけ!? フォルテさんも騒いでいるよ!?」

フォルテ:「な!?」

セレニウス:「フォルテ…貴女もです。ただでさえ怪我をしたのですから少しは自重しませんと」

コトネ:「だってさ。大人しくしていないとダメだよ?」

フォルテ:「う、うう…」

コトネ:「でも疲れてるって言うなら、ついこの間まで捕まっていたセレニウスさんだってそうじゃない。
 折角今日は休みなんだし、もっとゆっくりしたら?」

セレニウス:「ありがとう、コトネ。けど、私なら大丈夫ですから」

コトネ:「ふうん?」

そう言いながら、コトネはフォルテの長い髪をくるくる弄りながら、本当に? と言う風に返事を返した。


フォルテ:「あ、あの、コトネさん? 何故私の髪を…」

コトネ:「ほら、髪、綺麗だったのに、最近ちょっと痛んでいるよね…」

フォルテ:「迷宮の中では、手入れなど出来ませんからね…」

コトネ:「あ、枝毛

フォルテ:「ええ!? そんな!

コトネ:「あはははw ねー、フォルテさん。お風呂入ろうよ、お風呂。疲れている時はそれがいいよ。ほら、元気出して。ね?」

フォルテ:「はぁ…わかりました…」

コトネ:「あのね、この間おっちゃんが送ってきた、傷に効くって言う珍しい入浴剤があるんだ。使ってみようよ」



 !?



セレニウス:「貴女、まだあの男と…! あんな目に遭わされたと言うのに!」

フォルテ:「ああ、そう言えばセレニウスさんはその時、捕まっていたから知らないのですね。
 この間帰還した時に、宿にコトネさん宛に抱え切れないほどの薔薇の花束と、それから
前に奪われた武器
 それに謝罪の手紙などを送ってこられまして…」

セレニウス:「そ、それで許したと!? そう言う問題ではないでしょう!?」

 それは、セレニウスには信じられないことだった。



コトネ:「んー、でもあそこまで謝られちゃうと、それはそれってことにしようと思えちゃって。
 それにあの後も結構色々良くしてくれるしーみたいな」

セレニウス:「それで良いのですか? また同じ目に遭うかもしれませんよ?」

 特に自分たちの場合は…と言いかけて口を噤むが、コトネはそれには気付かず、
 少し顔を赤らめながら言葉を続ける。



コトネ:「それはそうなんだけど、うーん…なんかさ、よくわかんないんだよね。おっちゃんのこと」
 考え出すとなんかこう、この辺がやもやしてくるって言うか…。
ドキがムネムネするって言うか…
 それに、昔から結構優しいトコあったし、あんなことしたのも何かわけがあったんじゃないかなあとか…」

フォルテ:「待ってくださいコトネさん、その感情はさすがにその…騙されていると思います!

コトネ:「え? なんのこと?」

セルビナ:「(…き、気付いてないのかいこのコは) はあ…」

 コトネはきょとんとフォルテの方を見つめ返している。
 その様子を見るセルビナは、猫じゃあるまいしあれだけ怒っていた相手にこれとは。 
 貰えるものなら貰っておけば良いが、そこまで言うのは気分屋にもほどがあるだろうと呆れた。



コトネ:「ね、早く行こ」

フォルテ:「え、ええ…。でも、本当に気をつけてくださいよ。あんな男に気を許してはいけませんよ?」

コトネ:「だからそんなんじゃないってばー」

セルビナ:「あ、おい! あんた武器は!? また持ってっちゃうのかい!?」

 コトネは慌てる二人を置いてまた後でねーと、フォルテと一緒に荷物を抱えて行ってしまい、
 後に残された二人は予想外の展開に絶句。 しばらくその場に固まっている。


 ………まさかこう言う展開になるとは思わなかった。
 どうやらコトネはオニヘイのことをそれなりに受けいれるつもりでいるらしい。
 それ所かあの様子はまるで…





セルビナ:「………………セレニウス。 コトネが…早まったことしないように、あたし達で注意しよう」

セレニウス:「…ですね」



 とんでもないことになったとセルビナは思う。


 セレニウスも頭を抱えた。



 だが、こうして年長組は余計な心配を抱えつつも新リーダーの統率の下、翌朝一行は再び迷宮へと赴いた。