「天地のはざまで」 byMORIGUMA  ザッザッザッ 丈夫な皮と金属のブーツが、草を踏みしだく。 疲れを知らぬかのように、高台の台地をめざして。 マリンブルーの髪が、風にサラリとゆれ、 しっかりした首筋が、筋力としなやかさを秘めて動く。 身長は170センチぐらいだろうか?。 さほど大柄ではないが、筋肉質の引き締まった身体に、 満ち満ちた若さと力が、充実して輝いていた。 かなりの距離山道を歩いてきたはずなのに、 戦士の重装と細身の長剣を携えて、汗一つかいていない。 クルルミクへ来て、何度か訪れる訓練と楽しみの場所、 花と草のじゅうたんの台地は、彼女のお気に入りだった。 髪と同じ色の右目が、ふと空を見上げる。 失った左目と、失ったもの、 だが、それも今は、強靭で豊かな肉体を、 イキイキと躍動させる源の一つ。 88はあるバストが、ゆっくりと息をつく。 精悍な美貌が、ふと耳を済ませた。 「うん?」 こんなところで、かすかな、メロディが流れてくる。 キルケーは、驚きながら、メロディの聞こえる方へ、 自分のめざしていた台地へ、進んでいった。  おおらかな微笑み、優しい抱擁、   異国の血を満たした、あなたの肌、    どこか遠く、離れはしても、私はわすれない   風が頬をなでるとき、星が優しくまたたくとき、    この歌が あなたの耳に とどきますように  小柄で、小太りの、緑の帽子の男が、 リュートと呼ばれる、吟遊詩人がよく使う楽器をかき鳴らし、 どこか悲しみを帯びた、美しいよく響く声で、 風に声を乗せるかのように、歌っていた。  耳が羽毛でなでられるかのように、  肌が優しく抱きしめられるかのように、  心がそっと包まれるかのように、 キルケーのきれいな耳が、声に震えた。  その声を聞いたものは、たまらなく人恋しくなるような、 そんな歌だった。  ふと、長いこと忘れていたものが、 片目の奥から盛り上り、次第に熱く、そして甘く、 吹き上げてくるのを、止められなくなった。  真珠のきらめきが、まぶたを濡らし、 ゆっくりと頬を伝い落ちた。  歌の響き、声のきらめきが、 一人の大柄な女性の、おおらかな姿を、 まるで影絵のように、浮かび上がらせ、 そして、失われた事への悲しみがそくそくと伝わってきた。 熱く澄み切った思いに、女性として、うらやましさすら感じた。  パチパチパチ 曲が静かに終わりを告げると、 思わず手を叩いていた。 そうする事が、礼儀のように思えたからだ。 吟遊詩人も、驚いた顔をした。 「こんなところで、こんなすばらしい演奏が聴けるとは思いませんでした。」 「ありがとうございます。」 吟遊詩人は照れた顔をして、深々と頭を下げた。 「お邪魔をしました、誰かに捧げていた曲なのですか。」 貴族の娘として生まれた彼女は、音楽の勉強もさせられている。 曲の秘めた思いぐらいは読み取れた。 「ええ、今日だけはあの人のために・・・。」 かすかに悲しみの風が吹く声。 「私はキルケーと言います、見ての通りの戦士です。」 「ミュー・ラ・フォンと申します。」 ドワーフの酒蔵亭の亭主が、 そういう吟遊詩人の名をちらりと漏らしていたのを、 キルケーは思い出した。 「ぺぺが心配していましたよ、最近姿を見せないと。」 ポロンポロン、ポロン リュートがつまびかれる。 「あなたも、あそこにおいでだったのですか。」 リュートが、何かを告げたそうにしていると思った。 「ここで会ったのも、何かの縁でしょう。」 ふと、空が青いと思った。 「そうですね・・・」 ミューは、同じように青空を見上げた。 そして、一人の女性のことを語った。 竜神の迷宮に挑み、そして消えた一人の女戦士。 記録士として、彼女の話を聞いたミューは、 気に入られ、短い間だが、一緒にすごした。 赤裸々に、おおらかな愛情や、大胆なしぐさ、 激しくも濃密な、甘い時間。 なぜか、メロディを交えながら語られるそれが、 青い空にひどく似合っているような気がした。 「あなたは、怖くは無いのですか?」 全てが、今ならば許されるだろう。 天地が、そう語っているような気がした。 「怖いです。とても怖いです。 でも、怖いからこそ、挑む価値がある。」 宝は、いやそれ以上の何かが、自分を駆り立てて止まない。 それに進まなければ、自分が自分を許せない。 片目も失った、純潔も失った、 だが、それが何だというのか。 自分が生きているという証が、 いま、この肌の下を、脈々と流れている。 「強いのですね。」 「いや、弱いのですよ。弱いから、 必死に求めなければ、ならないのです。」 あの人を、探すのだと、 自分の中の、必死に出口を探してた魂を、教えてくれたあの人を。 戦士と魔法の両方の力を、導き出してくれた人を。 だから、今、一歩、一歩、歩く。 あの人という、目標があるから、歩いていけるのだと。 静かな、花と緑が満ちた台地。 誰もいない、静けさとぬくもりの世界。 「弱い、一人の娘にすぎないのです。」 たぶん、あなたの思う女性も。 「誰かに、覚えていてもらいたいと、求めるのは欲張りでしょうか?」 震える指が、吟遊詩人のソバカスだらけの頬に触れた。 「私は、覚えていたいと、いつも願っています。」 あれほど繊細な曲を導き出すとは、思えない無骨な指が、 そっとキルケーの指を包んだ。 潤んだマリンブルーの瞳が、茶色の大きな目と絡み合った。 薄い唇が、覆いかぶさるように、求めた。 怖い、怖い、怖い、だから、温かさが欲しい 誰かに、覚えていてもらいたい。 甘く、切ないキスが、何度も何度も、絡み合い、求め合う。 大柄はずの自分が、抱きしめられる腕に、ひどく小さく感じる。 『いつか消えるかも知れぬ自分を、誰かに覚えていてもらいたい。』 じっと心の縁に押し隠しながら、 耐えて来た気持ちが、あの曲とメロディにどっと破れていた。 耳に、首筋に、失われた目に、 優しいキスが降り注ぐ。 目を閉じ、感じる全てを、受け入れる。 自分は、こんなにも奔放な娘だったのだろうかと、 驚きながら、その開放に浸る。 ビクッ 皮鎧がはずされる感覚に、肌が震えた。 純潔を失った時の恐怖が、甦ろうとする。 「恐れに、飲まれないで。あなたの嫌がることは、何もしません。」 肌が語る、彼女の痛み。 それをミューは優しく感じ取り、そっと耳にささやき、 甘く耳たぶをかんだ。 上気した頬が、たとえようも無く美しく染まる。 ずっしりとした胸が、指に愛撫され、唇にキスされ、 点々と染まり、喘いでいく。 陽射しが、濃い茂りを輝かせ、膨らみがあふれさせた雫が、 濃い女性の香りを、大気に混ざり合わせた。 豊かで引き締まった身体は、 女性の豊潤と、華麗を存分に描き出し、とても美しかった。 「きれいですよ、キルケー。」 「ああ・・いや・・・いわないで・・・。」 「いいえ、いいます、あなたはとてもきれいで、美しい。」 声が、いかなる美酒よりも甘く、キルケーを酔わせる。 ウソでも、とてもうれしい。 だが、肌は正直だ。ミューは耳に差し込むように言う。 「ウソではありませんよ。あなたは、あなたが思う何百倍も美しいです。」 ジンとしびれる声が、あまりに甘く、切ない響きが、 キルケーを抵抗不能に追い込んでいく。 「さあ、もう、私も我慢できません。」 男のそそり立つ欲望が、とても、ほしくて、たまらなくなっていた。 「んっ・・・あっ、あっ、あああ〜〜〜〜っ!」 草の茂る、花の香る台地に、艶やかな声が響いた。 男の、強く、優しい存在が、 身体を押し分け、のめりこむ。 草のじゅうたんに、白い肢体がのけぞる。 蕩けた肉の襞が、強烈な快感を締め上げ、甘えつくようにからんでくる。 グジュルッ、グジュルッ、 濡れた音が、胎内いっぱいに響き、 それが動くだけで、天地が揺らぐような衝撃となって、 キルケーの身体を犯した。 「ひっ、ひどいっ、こんなっ、こんなにっ、気持ちいいってっ!」 まるで、身体が奴隷になったかのように、 両脚を広げられ、恥ずかしさの極みのように、晒されて、 だのに、突き刺さってくる快感が、何もかも許させてしまう。 「ミューっ!、ミュウウッッ!」 突き出されるそれが、たまらない、感じる、身体中が、感じる。 のしかかる小柄な姿が、とても大きく、巨大に感じた。 うめき、抜こうとするそれを、絶対に許せなかった。 「だめえっ!、抜いちゃっ、だめええええっ!」 しがみつくキルケーに、男の身体がついに咆哮した。 「くううううっ!」 「んはあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 ドビュグッ、ドビュグッ、ドビュグッ、ドビュグッ、 砲撃が胎内を突き上げ、飛び散り、炸裂した。 身体が、裂けて、熔けて、ドロドロになっていく。 こんなに、こんなに、きもちいい・・・・。 切り株にしがみつくようにして、 キルケーは白い尻を激しく動かす。 後ろから突き入れられ、形のいい尻は、大きく広がり、 深々と男を受け入れて、離さない。 風が、肌をなでる。 豊満な乳房が、汗に光り、激しくはずむ。 ぶつかり合う肌の音が、空気を揺らす。 「あんっ、あっ、あんっ、ああんっ、そこっ、いいっいいっ!」 一匹の獣になって、自分の血筋もクラスも忘れ去って、 このまま、狂おしい快感にひたっていたい。 白い背中が、波うち、のけぞり、大きく揺らぐ。 黒い肉柱が、淫靡なクレヴァスを激しく割り、 中からピンクの襞を引き出し、巻き込み、また引きずり出す。 出入りする感覚が、身体を裏返しにしそうに、 カリ首が、激しくこすり、注ぎ込まれた精液を、 掻き回し、掻き出すように、 律動の、強烈なリズムが、深く奥まで女戦士の肉体を蹂躙していく。 唇が、甘いあえぎを漏らし、 走る快感が、何度も絶頂へ追い込み、 膣底をえぐられるたびに、新たな、目くるめく快感に、 我を忘れ、そして、痺れた。 「ああっ、もうっ、もうっ!」 コバルトブルーの髪が、激しく打ち振られ、 唇が雫を滴らせた。 「いくっ、いきますっ!」 叩きつけ、突き刺し、根本までのめりこんだ。 「いくっ、いくっ、いくううううううううううううううううううううっ!!」 ドビュウウウウウウウウウウウッ ガクッ、ガクッ、ガクッ、 喘ぎ、痙攣し、のけぞり、 白い腹が何度も震え、精液のほとばしりが、広がり尽くす。 二人は、獣になったように、夜の星空の下、何度も求め合い、交わりあった。 ザッ、ザッ、ザッ、 朝もやの中、ゆっくりと、二人は山道を降りていく。 何事もなかったかのように、 ただ、時折ミューがふらつく。 「あっ、あ、だ、だいじょ・・・ぶ?」 本気で真っ赤になって、キルケーが可愛らしくたずねる。 昨日の、固い戦士の顔とは別人のような、女の顔で。 「いえ、大丈夫です。」 それが何十倍も、彼女を輝かせているとも知らず。 ミューが手をとると、ますます困ったような、可愛らしい顔になった。 たぶん、帰ったらPTの全員が妙な顔をするに違いないが、 彼女は、とうぶん気づくまい。 「あの、その・・・またドワーフの酒蔵亭にくる・・・よね?。」 「ええ、待ってますよ。」 『だから、生きて帰ってください。』 ミューは、切ない気持ちで、心の中で願った。 吟遊詩人の使命は、人々を勇気づけ、安らぎを与え、 そして希望を燃え立たせる事。 決して、恐れや恐怖を抱かせるような事を、言ってはならない。 それが、言霊という恐ろしい力を、あやつる者の掟だった。 これまでに出会った、大勢の人たちに、願い続ける気持ちを、 痛みを、哀しみを、深く心の底にしまいながら、 ミューは、触れ合った魔法戦士の無事を祈った。 FIN