竜王(ドラゴン・ロード)・大冒険はサンドイッチと byMORIGUMA  「うふふふ・・・」 優しい顔立ちの少年が、嬉しそうに笑いながら歩いていた。 まだ10歳になるやならずやの、小柄な体つきと、 愛玩動物そのもののような、罪のない笑顔。 王宮では、本気で愛玩動物あつかいで、 彼に何かあった日には(ころぶ、ぶつかる、何か当たる)、 溺愛メロメロの姉や、 用も無いのに周りに集まってくる女官たちが、 悲鳴を上げて大騒ぎする。 いい加減、男の子としての自覚を持ち始めた彼としては、 この上無いほどうっとおしい。 だがしかし、そんなことを口に出したら最後、 姉を筆頭に自殺しかねない女性たち、 幼い彼には、どうしていいかも分からない。 だから今日は、ほんとに嬉しい。  簡素な皮鎧に、彼の身体に少し大きめの剣、 粗末に見えるよう、少しだけ泥をつけたそれは、 見る者が見れば、卒倒するだろう。 竜の皮をなめし上げ、幾重にも重ね合わせた重鎧に匹敵する鎧。 ドラゴンの牙をとぎ上げ、魔力で鍛えぬいた刃。 大国の王といえど、めったに持てぬ名品を、 軽々しく子供用にまとう彼こそ、 竜神の王国クルルミクの第一王子、ハウリだった。 パタパタと走っていく少年の姿に、 街の人たちは、まれに目をとめ、微笑んでいく。 元気な子供の姿は、 誰もが嬉しく思うものだ。 そして、誰も、彼がハウリ王子だとは思いもしなかった。 『今日は冒険にいくんだ!』 小さなリュックには、大好きなエッグサンドイッチがいっぱい。 少年の目は青く澄んで、輝いていた。 クルルミクには、竜神の迷宮と呼ばれる洞窟がある。 そこは、王子が王位を継ぐ儀式を行う場所で、 王家の所有する地所である。 入り口の歩哨の間をこっそりと抜け、 王子は、ワクワクしながら迷宮へと入っていった。 王子には、二人の教育係がいる。 一人は、ベン・フット・ルビナウスといい、 元竜騎士の軍団長もつとめた武人。 もう一人は、フォン・ラビウスという、 宮廷魔術師だった男だが、 なぜか執事としての才能も並外れていて、 王子付きになると、ローブを燕尾服に変え、 王子の周り一切を、見事に取り仕切っている。 そしてこの二人が、奇妙にも無二の親友であったりする。 それにしても、王子のうわさたるや、 『平々凡々』『おとなしい』『気概が無い』 『力はおろか、魔力すら無い』 などなど、好ましからぬ評判ばかりだった。 だが、その評判を流しているのが、 他ならぬルビナウスとラビウスであることには、 意外なほど誰も気づいていなかった。  ゴワアアアッ 闇の中で、巨大な吼え声が響いた。 身長は2メートルを超え、長い腕に人間より巨大な棍棒を振り回し、 地響きを立てながら、血走った目に、よだれをこぼしつつ、 トロールが現れた。 恐ろしく生命力が強いこのモンスターは、 片腕がちぎれても、気にも留めずに戦う。 これだけ巨大なトロールになると、 生半可な冒険者たちでは手に負えない。 ましてや、普通の人間なら、 戦う以前に、意識を混乱させ、 逃げ惑うばかりであろう。 『普通の人間』ならば。 王子は、唇を大きく吊り上げ、 世にも嬉しそうに笑った。 「うわああ、おっきい。これなら楽しめそうだ!。」 抜き放った竜の牙の剣が、魔力の輝きとうなりを上げた。 だが、そのサイズは、トロールの巨躯に比べると、 悲しいほど小さく見えた。 「思いっきり、いくよ!。」 王子の声と共に、竜の牙が激しく輝き、 ドラゴンの咆哮のような、凄まじい音を立てた。 突進するトロールが、思わず足を止める。 次の瞬間、王子の姿は、 何者にも見えなくなった。 王宮、王子の塔は、 平穏な時間を過ごしていた。 姉君のセニティ王女は、ラドランへ留学中であり、 『のんびりとした時を過ごしているであろう』王子の事を、 気にする人間は、誰もいなかった。 王子は現在、剣と魔術の修行と、その後の休憩ということになっている。 主のいない部屋で、ルビナウスが、ラビウスの入れてくれた紅茶を、 優雅に楽しんでいた。 「王子は、今頃楽しんでおられるかな?」 ラビウスは自分のティーカップにも、きれいな雫を注ぎいれる。 「ああ、ひさしぶりの自由を、楽しんでおられるだろう。」 ハウリ王子が、竜神の迷宮を見てきたいと言い出したとき、 二人は、何のためらいもなく送り出した。 なぜかは、二人にすら分からない。 だが、ルビナウスの、おびただしい戦場を生き延びたカンが、 ラビウスの、魔術師としての占星術の力が、 同時にそれを行うべしと告げたのだった。 「それに、お疲れになれば、さっさと戻れるしな。」 その言葉は、王子が高度な帰還の呪文を使えるということを意味している。 「むしろ、楽しくて楽しくて、思わず最下層まで行ってしまわれるかも知れんぞ。」 動かない左腕を見ながら、ルビナウスも楽しげに笑った。 半年前、王子の全力を盾で受け止めた左腕は、見るも無残に粉砕された。 わずか8歳の子供が、である。 以来、ハウリ王子は、人に向けて剣を振るったことが無い。 「お土産はDコイン(迷宮制覇の証)かもしれんな。」 ラビウスは、天気の話でもするように、言ってのけた。 王子の一番の好物は、 ルビナウスの妻メニテがこっそり作ってくれる、エッグサンドイッチ。 ぱくっ 「ん〜、おいしいいっ。さすがメニテだ、とってもおいしいや。」 口いっぱいに広がる、お日様のような、 卵とレタス、そしてメニテの手作りマヨネーズの味は、 どんな手の込んだ宮廷料理より、 ハウリの舌と心を満たしてくれる。 5匹の大蛇を、バラバラのぶつ切りにして、 周りは血の海だが、豪胆極まりない王子は、 気にも留めずに、大好きなエッグサンドイッチをぱくついていた。 『竜神の迷宮には、モンスターはいない』といううわさがあるが、 そんなことは無く、実に多くのモンスターが徘徊している。 だが、王子にとっては最高の遊び相手が、いっぱいいるようなものだった。 ぱくついている王子の後ろから、 スラッグコングの巨体が襲いかかる。 が、王子がひょいと剣を後ろに振ると、 闘気が数メートルの炎の刃となり、 あっさりとぶった切ってしまった。 口もとをマヨネーズで汚しながら、 ニコニコ食べている姿は、 無邪気な少年でしかない。 切れ端を口に放り込むと、 マントをひるがえして、王子は走り出す。 全力で走る王子の姿を、どんなモンスターも捉えることができない。 走りながら、足元に仕掛けるマジックマイン(罠魔法)に、 ドリームファクトリーズが4人まとめて吹っ飛ばされた。 「あはははは、あはははははは、」 可愛らしい笑い声が、暗い迷宮に響き渡り、 血と、破壊の音が、次々と炸裂していく。 頬のマヨネーズをぺろりとなめ、 おいしそうに目を細める。 吹き上がる血しぶきのにおいに、 湧き上がる快感が背筋をぞくぞくと震わせる。 「うふふふふ・・・」 巨大なトカゲをなますのように刻み、 ヒュドラの4つの首をなぎ倒す。 肉のつぶれる音、 切り殺されるモンスターの絶叫、 吹き出す血しぶきの生温かい感触、 血まみれの竜の牙は、恍惚のうなりを上げ、 鉄さびのような、血のほとばしる匂いが、 細い鼻筋をくすぐり、王子の喜悦を深く、おぞましく高めていく。 「やっときたか、ぼうず」 ふっと、モンスターの気配が消えたかと思うと、 すさまじい圧力が、地響きのような声と共に現れた。 磨きぬいたルビーのようなウロコ、 ぬめぬめと輝く肌、 圧倒的な胴は、火山のような鳴動を起こし、 絶対に止まらぬという竜の心臓の鼓動が聞こえてくる。 ずらりと並ぶ牙は、磨きぬいた象牙よりも白く、 白い輝くひげが、深く長い歴史を物語る。 ドラゴン・ルーラー『竜神』 「おおっと、堅苦しい挨拶は抜きだ。いい加減挨拶や言上は聞き飽きてる。」 意外に砕けた口調で、 『竜神』は“にまあっ”と笑った。 普通の人間ならば、その笑いと巨大な牙の並ぶ光景に、 魂を飛ばしてしまっただろう。 だが、王子は“ニッ”と猫のように笑った。 「お前のおやじのビルゴは、やたら堅苦しくてな、 聞いてるこっちがくたびれそうだったぞ。」 まあたしかに、ビルゴ王子は、苦労症で有名で、 さほどの年でもないのに、心労からひどく老け込んでいる。 「あははは、ボクも時々お小言で居眠りしちゃいますから。」 こまっしゃくれた口調に、『竜神』がくすりと笑った。 だが、『竜神』が何を言いたいのか、ハウリには不思議に理解できた。 青い目が爛々と輝き、闘気が竜の牙をこれまでに無いほど吼えさせる。 「お前はどうだ?、少しは楽しませてくれるか??。」 楽しげに、『竜神』の月ほどもある目玉が光った。 長い長い無限の時間、退屈と無聊、 その中で『竜神』は、一人の男と一つの契約を結ぶ。 その男は、『第一子に男の子を授かる』。 男の子に、『竜神』は力の一部を授ける。 『竜の試練』を経たあと、竜紋を授かった男の子は、 ふたたび成長した後、『第一子に男の子を授かる』。 『竜神』は、無限の時間の中、 無数にして無意味な有象無象の出来事の中に、 自分の関わりと意味を楽しみ、 成長する者たちの訪れを楽しみ、 時の移り変わりの節目を楽しむ。 『竜神』といえど、星の流れを変える事は出来ぬ。 青く、強く輝く星が生まれたとき、『竜神』はその子に己の力を分け与えた。 その星は、人の星でありながら、不思議なほどの輝きに満ちていた。 やがて『竜王』と呼ばれるであろうその子を、 『竜神』は1千年ぶりに待ち焦がれていた。 『来るが良い、竜王!』 巨大な火炎が、ハウリを襲った。 ハウリは真正面に飛び込んでいった。 『なにっ?!』 巨大な『竜神』が吐き出す炎と、自分の身長から、 ギリギリ炎が当たらぬ角度を見出し、 死角になる、真正面へ飛び込んだのだった。 それは同時にハウリの姿も、『竜神』の視線から隠す。 竜の牙がうなりを上げ、巨大な胴体へ襲い掛かった。 ガキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン どれほどの時間がたったのだろう。 それとも、一瞬だっただろうか?。 くすぶるにおい、 自分の血のにおいと痛み、 ぱらぱらと崩れる岩の音。 4メートルの高みで、岩壁にめり込んだハウリは、 ようやく目を覚ました。 ぐらりと、身体が倒れると、まっさかさまに落ちた。 金色の光が、幾重にも集まり、 その身体をふわりと支え、ゆっくりと優しく下ろした。 頑丈極まりない岩盤の部屋に、無数の亀裂や熔けた炎の後が残り、 熱気は息も苦しいほどだった。 やわらかい、ひんやりしたものが、 ハウリの頭を優しく支えていた。 「竜神の試練、よくがんばったわ。」 黄金色に輝く薄物をまとった女性が、 金の冠を傾け、ハスキーな声で、優しくささやく。 シャラシャラ・・・ 無数の飾り、竜のウロコのような装飾、 それらが、軽やかな響きを立てる。 流れるような黄金の髪、 真紅のルビーのような瞳、 切れ長の大きな目に、長いまつげがきらめき、 細く高い鼻梁から、ぬめるような唇の艶やかさが、 生唾を飲むような色気を滴らせる。 柔らかなヒザが、傷だらけのハウリの頭を乗せ、 立ち上る甘い香りに、意識が引き込まれそうになる。 だが、そうしているだけで、ハウリの全身の傷ややけどは、 見る見る治癒していく。 「うっふふふ・・・わらわが膝枕をしてやるなど、 何千年ぶりのことかのう。」 「あ・・あなたは・・・もしや?」 その言葉から、ハウリのたぐいまれな頭脳は、 真実を手繰り寄せた。 「そうじゃ、そなたたちがあがめておる『竜神』、 その本体はわらわであるぞよ。」 そこに鎮座している巨大な竜の身体は、 『竜神』が神界からこの世界に現れるための、 『よりしろ(器)』に過ぎないのだった。 あわてて飛び起きようとして、 「ひいんっ!」 全身の痛みに涙が出そうになる。 「これ、子供のくせに気遣いなどするでない。 ましてや、アバラや腕に足、背骨、 骨折だけで15箇所もあるのじゃ、治癒にももう少しかかるわえ。」 外側の傷はすぐふさげても、 内臓に達するダメージや、肉や筋の断裂、 骨折などは、時間がかかるものだ。 『それにしても・・・』 チロッと、『竜神』は赤い瞳を動かす。 『なんとも愛らしい表情よな』 それでなくても王宮で『愛玩動物』あつかいだった王子が、 涙を浮かべてあえいでいる様子は、 母性本能直撃の可愛らしさがある。 無機質無表情なはずの、神の美貌に、 ほんのりと赤みと笑みが浮かぶ。 元来、竜は幻獣と呼ばれ、精霊に近い存在でありながら、 人にかかわりを持つ『さだめ』を持っている。 それゆえに、『竜神』もまた人とかかわりを持ったのであった。 そして、 >『第一子に男の子を授かる』。 >その男の子に、『竜神』は力の一部を授ける。 >『竜の試練』を経たあと、竜紋を授かった男の子は、 >ふたたび成長した後、『第一子に男の子を授かる』。 男子のみにしか、関わりを持たぬ『竜神』は、 女性の性質を持つ存在なのだ。 ゆるゆると、白く細い手が、 ハウリの小さな身体を撫で回していく。 「おうおう、可愛そうにのう。 どうれ、ゆっくりと身体をのばすがよい。」 温かい光が、身体に染みとおっていく。 ピキピキと、骨が音を立ててつながり、 切れた筋や肉も、赤く生命の力を帯びて、繋がり、結び合わされていく。 「う・・・あ・・・あ・・・」 白い肌が汗に光り、身体を駆け巡る奇妙な感覚に、 ハウリは、『竜神』の白いひざの上で、何度も身を震わせる。 必死に耐え、あえぐ表情が、女の快感を刺激する。 赤い唇の間から、鋭い牙と赤い舌がチラリとひらめく。 やわらかい唇を、赤い濡れたような唇がとらえ、 ねっとりと、甘く、包み込んでいく。 竜の息吹が、唇から喉へ入り込み、 強烈な熱となって、ダメージを帯びた内臓を癒していく。 長い舌が、蛇のようにくねり、 小さな震える舌を捕まえ、からめとる。 唾液が激しく流れ、少年のあえぎと、 竜の息吹が絡み合い、 トロトロと流れ、意識が激しく明滅する。 ハウリの金髪が、思いもよらぬ感覚に逆立ち、 おびえる身体を、『竜神』のしなやかな身体が優しく抱きしめる。 まだ筋肉をさほど帯びぬ少年の足、 それを撫で回し、快感におびえ、すりあわされるそれに、 クスリと笑う。 鎧がはずれ、肌着がずれ、 若木のような肢体が、白く鮮やかに浮き上がる。 細く痛々しいような喉、 おびえる大きな青い目、 華奢な体つきは、少女のそれよりもなお、はかなげで、 それを写す赤い瞳が、燃えるように輝いてくる。  はあああぁぁぁ・・・・ ようやく唇をはずし、銀の糸を幾重にも引きながら、 闇に向けて、『竜神』は熱い吐息を吐いた。  もう、がまんできぬな。 蛇のように、するりと右腕が伸びる。 「ひ・・・っ!」 少年が悲鳴を上げ、それを押しとどめようと、 無駄なあがきをした。 冷たい指先が、 長くのびた爪が、 少年の幼い陰茎を捕え、陰嚢をさすりあげた。 「やっ・・やめ・・・って・・・ひいっ!」 無垢で、無防備な肉体は、 弱々しくあらがい、無駄に逃れようと蠢く。 それが、むしろ、見るものを刺激するとも知らず。 「どおした?。何をそんなに怯えておる?。」 赤い瞳を、濡れたように輝かせ、 弱々しくあえぐ姿に、湧き上がる唾液を飲み込み、 白い胸元を、身動き一つではだけた。 蛇のような蠢きが、ブルリと芳醇な果実をむき出しにし、 真っ白いふくらみと、あえやかなピンクの色合いが、 少年の青い目を、激しく射た。 「あ・・・あ・・・」 怯え、恐れ、握られる感覚に縛られ、 自分がどうなってしまうのかも分からぬ恐怖、 そして、 「はぁっ、はぁっ、ああっ!、だめえっ!、」 吹き込まれた竜の息吹が、肉体を回復させ、さらに強く高ぶりを引き起こす。 青ざめていた白い肌は、赤く羞恥の色を帯び、 涙に濡れた瞳が、哀願するように激しく揺れる。 キュッ、 「ひぐうっ!」 握られる、感覚。 女性の、女の、メスの、 異様なまでの艶かしい感覚。 いとおしさと、羞恥と、 奔放さと、嗜虐と、 爪のかすかな痛みと、柔らかな肌のさすり上げる感覚、 「うっふふふ・・・・」 淫靡な笑い声に、闇に堕ちるように感じた。 「ひ・・・・・っ!」 温かく、おぞましく、 絡みつく、包み込む、 巻きつくように絡み、包み込むようにはいずる。 赤い唇の中に、吸い込まれたハウリは、 引き出される痛みと、晒される羞恥に引き裂かれた。 「い・・・っ!、あああっ!」 泣きながら、ただ無力に、 女という、夢幻の世界に取り込まれ、 垢にまみれ、無垢だった自分が、 外界の痛みに、むき出しにされていた。 チュブッ、チュブッ、チュルルッ、 『いやだあっ、音を、音を立てないでえっ!』 音が、自分のすべてを、引きずり出してしまう。 恥ずかしい自分を、全部さらし者にしてしまう。 泣きながら、のたうつ少年を、 容赦なくすすり上げ、陰嚢をこりこりと転がし、 唾液にまぶしぬいて、深く飲み込み、 喉に、舌に、唇に、 悲鳴を上げさせた。 「ひいいっ、いやだああっ、いやだあああっ!、壊れるううううっ!」 何かが、無理やり、少年と言う完全な世界から、 持ち上がり、伸び上がり、無理やりに破壊する。 チュバッ、チュバッ、チュルッチュルルッ 少年の悲鳴は、容赦なく、無理やりに、 引き裂かれた。 「あ・・・あ・・・・あぁぁぁぁぁぁ!!」 悲鳴を上げ、のけぞる。 少年の何かが、壊れる。 中にうずくまっていた何かが、 容赦なく雄叫びを上げた。 ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、 鼓動が、耳から脳へと突き上げ、 何かの堰が決壊した。 「うぐうっ!」 歯が鳴る、恐怖と、破壊と、絶望と、 何かが終わる、その瞬間が。 自分が、別のものへと変わった。 ゴウッ 少年と言う何かが、終わった。 うめく『竜神』の喉に、とてつもないほとばしりが、 突き上げた。 ドビュグウウウウッ 口に、喉に、鼻にまで、 灼熱の感覚が走り抜け、 強烈な酒のように、焼いた。 『これは・・・すごい・・・』 『竜神』ですらも、酔いしれながら、 細い喉を何度も鳴らし、少年から容赦なく、 子供の時代を奪い去っていった。 細く嗚咽する少年を、 『竜神』は優しく、裸の胸で抱きしめてやった。 温かく、甘い果実に顔をうずめ、 ハウリは、自分の少年が終わったことを知った。 ハウリの手に、竜紋を焼きつけ、 一枚のコインを渡した。 Dコインと呼ばれる、この迷宮の最下層へ、自在に出入りできる証だった。 光の扉が、『竜神』の背後に現れる。 次の王子の出現まで、『竜神』の本体は、現れることは無い。 いや、『竜神』の本体に会えるかどうかすら分からない。 竜紋はそのすべてを教え、 なお何かのつながりを、王子に渡していた。 それを言葉にするすべすら、王子には分からない。 ただ、思いのたけをこめて、じっと『竜神』を見ていた。 『そうじゃ、おぬしはワシのものじゃ。 ワシの魂の一部は、おぬしと共にある。 おぬしのすべては、ワシの一部となる。 楽しみじゃのう・・・。』 何も言わぬまま、『竜神』は優しく笑った。 ハウリは、いつかその全てを理解するだろう。 激しい光と、無数の輝く花びらを残して、『竜神』の本体は消えた。 よりしろである、巨大な竜の姿は、 眠っているように、静かに、何も言わなかった。 FIN