次にハルヒの意識が目覚めた時には既に薄暗い、監禁部屋の中だった。 閉じられた扉。外の光は遮断され、室内は完全な暗闇に包まれている。 暗闇は、悪くない。何も見なくて済む。咎める者もいない。ただ快楽にのみ耽っていられる。 だが、それすらも許さないかのように扉が音を立てて開いた。 差し込む光の先に目をやると誰か、女性が1人入ってきたようだが目が眩んで見えない。 だが、その姿はハルヒにある女性を思い起こさせる。 霞んだ意識の中で、まるですがりつくようにその名前が口に出た。 「……ディアー、ナ…さ…」 「誰、それ?」 女はそう、冷たい声で答えた。 そこにいたのは壮年に差し掛かったばかりと思われる美しい女性だった。 肌に十代の張りはないものの、腰まで伸びた黒髪に引き締まった全身。特に豊かな胸部が目を引く。年のわりに、美しい女性であった。 ハルヒは問いを無視するように女から視線を戻し、再び股間の異物を動かす自慰に戻った。 女は静かに扉を閉めると室内のロウソクに灯を灯してからゆっくりとハルヒの前へ歩み出て微笑む。 「こんばんわ。私ね、あなたの調教を仰せつかってきたんだけど……」 「…………んぅ、ふぅ…あぁ…」 「あ〜あ、ダメね。完璧壊れてるわ。」 女は半ば呆れたようにハルヒの頭を撫でるがハルヒは意に介さない。 更にかがみ込んで顔を覗き込むがハルヒは焦点の合わぬ目を宙に浮かせるだけで視線は合わない。 女は一つため息をついて1人ごちた。 「ギルドも仕事増やしてくれるのは良いけど限度って物を知らないねぇ。ここまで壊れてちゃ使いもんにならないよ。  ……しょうがないわね。まずは意識を戻してそこから再調教し直さないと。」 女は苛立った様子で舌を打ったがそれも意味がない。やむをえずハルヒの前で腕を組んでしばし思案に暮れた。 壁にもたれかかり、先ほどハルヒの口から出た名を思い返し、「ディアーナ…ディアーナ」とブツブツと念仏のように唱える。 と、女は何か閃いたらしく、ハルヒの耳元に寄り、そっと「ディアーナ」と囁いた。 ハルヒはあからさまにその言葉に反応し、異物を動かす手も止めて、にわかにその表情が曇った。 女は「成る程」と口を歪め、まるで公状でも読み上げるかのように鷹揚の効いた口調で続けた。 「白竜将・ディアーナ。元竜騎士。調教日数1日。売却日4/11…」 「……嘘だ」 羅列された情報に何かを察したかのようにハルヒは女の声を遮った。 女はその反応に嬉しそうに答える。 「なんだ、喋れるんじゃないの。」 「……うるさ……」 「知らなかったのかしら? 白竜将があなたより先に陵辱されて性奴隷に堕ちてたこと」 「…うるさい……嘘、ディアーナさんがあんなやつらなんかに……」 「嘘じゃないわよ。ギルドが奴隷オークションの為に配布してるリストに記されてたんだもの。  あなたの一週間くらい前だったかしら。高値で取引されたんでよく覚えてるわ。  今頃どこかの変態の上で腰振ってよがり狂ってるんじゃないかしら。あなたも早く見習わなきゃね」 「……嘘だ……そんなの…嘘……!」 女は手際よくハルヒの口に布を含ませた。 布から広がる臭いはハルヒの口から鼻に広がり、徐々に酩酊させて意識を奪っていく。 「初日だし,今日はこの辺にしときましょ。暴れて舌でも噛まれたら困るしね。おやすみ、ハルヒちゃん」 △△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△ ―――――――――逃げて臆病者になるより、戦い死んでも残るのは勇敢な騎士の骸。悔いはありません。 ハルヒはまたクルルミクの夢を見た。 はっきりとした、毅然として冷めた鉄のようなのにどこか優しい声。 ハルヒが大量のならず者に陵辱されかけた時、ディアーナは一番に助けに現れ、 危うく自らも陵辱の危機に曝されながらも救い出してくれた。 帰りの道で、なぜそんな無茶をしたのか聞いてみると返ってきたのはこの答えだった。 更にディアーナは続ける。 ―――――――――人間は長く生きても数十年。すぐに消えてゆくものです。しかし、人の口伝に残ればその名は生き続けます。 人はそれを覚悟と呼ぶ。 ハルヒはディアーナの言葉に魅入り、言葉を返すことが出来ない。 潔さと美しさ、同時にそれを自身に言い聞かしているような危うさも感じ取れる。 ディアーナは硬い表情を崩してハルヒを撫でた。 ―――――――――ハルヒさんの好きな勇者様もそうして名が残った人たちなのでしょうね。 ディアーナの鉄で出来た手甲に髪が絡まり、やや痛みが走る。 だがその手に撫でられているのは心地良い。なんとも言えぬ暖かみに身を委ねたくなる。 ハルヒが無言でディアーナの腕にしがみつくと、彼女もやや困った顔を浮かべながらもそのまま歩き出した。 それから少し後、ディアーナは戦場へ赴き、二度と2人が出会うことはなかった。 △△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△ ハルヒの重い瞼がようやく開く。相も変わらずの闇である。 不幸中の幸いか、眠らされてから動かされた、あるいは何かされた形跡はない。 女は言葉通りにハルヒをそのまま寝かせ置いたようである。 ハルヒの目に、ここに運び込まれた時には消えていた光が戻りつつあった。 続