世界にはいくつも街道があり、その中には当然山賊が出やすい街道もある。 そうした街道は敬遠され、いつしか人の往来が減るものだがそんな道を平然と行く馬車が一つ。 餅は餅屋。無法者の道を行くのもまた無法者の馬車。 ハイウェインマンズギルドの馬車である。 陵辱し尽くされ堕ちた女達はこれに載せられ,各地に売り飛ばされる。 その馬車の奥に、ハルヒはいた。 足には鉄球、首には首輪をつけられ、衣服を纏うことすら許されず、 まるで畜生のように馬車によりかかるように、ポツンと座っている。 「……ぁ…ぁ、んっ、んぅ……」 眼に正気はない。口からは涎を垂らし、頬は赤く、上気している。 左手で自らの乳房を嬲り、右手はうつろな目で自らの股に入れられた、 陰茎に似た異物を夢中で掻きだすように動かし、自慰に耽っている。 先刻から止まらない媚声と吐息、少女の股間から鳴る水音。 たまらずならず者が身を乗り出して覗きこむと、愉快そうにハルヒに問いかける。 「ハルヒちゃ〜ん。気持ちよさそうだねぇ? 気分はどうだぃ?」 「……ん…ふぅ……あっ、あっ…」 ハルヒは答えない。まるで世界に自分とその異物がもたらす快感しかないかのように無言で身をくねらせている。 男はハルヒの反応に不愉快そうに舌打ちすると、つまらなそうに再び座した。 「つまんね〜なぁ。こないだまでは『勇者様、勇者様」って腕回してしがみついてきやがったのによぉ」 「まぁ、そんなもんだろ。性奴隷にするのに手段は厭わねぇ。正気保ってる奴の方がどうかしてやがる」 「このまま売り飛ばしたら二度と抱けないってのによ。あ〜あ、勇者様ってのもつらいねぇ。クヒヒヒヒ」 男どもの下品な声が耳に響くがハルヒにはもはやどうでもいいことだった。 いまはただ目の前の異物が自らにもたらす快楽に溺れていたかった。しかし。 声には出せない。「勇者様」と音もなく唇だけが動いた。 つられて涙が頬を伝う。火照った肌にかかる冷たさがにわかにハルヒの意識を混濁から元へと戻そうとする。 悲しくてたまらない。その理由すらはっきり分からない自分にさらに悲しさが募る。 ふいにハルヒは意識を落ちた。 それが睡魔によるものか、気を失って悲しみを誤魔化したかったのか。それすらも分からない。 落ちた意識の中、まどろむようにハルヒはクルルミクでの夢を見た。 ――――――――大丈夫です。あなたも勇者なんですから。 不意打ちのように、頭に穏やかな柔らかい声が浮かぶ。 今と同じような状況で。捕縛され、かろうじて難を逃れてディアーナに手を引かれ酒場に戻ってきた時。 最初にそう励ましてくれたのが、あのパーラだった。 曰く死神、曰く疫病神。聞こえてくる風聞はどれもろくでもない物で、 ハルヒも無意識に彼女を見下し、出来るだけ接触を避けるようにしていた。 だが実際の彼女はそんな風聞とは比べ物にならないほど素晴らしい女性だった。 彼女はボロボロのハルヒに以前の自分を重ね、 だからなのか、彼女は出来る限り満面の笑みでハルヒを励まそうと微笑み、そう言った。 彼女の笑顔は生来の愛嬌を備え、見るものを和ませる力を持っている。 加えて、何より本の知識である。生家が本屋を営むというだけあって、 落ち込んでいるハルヒを励まそうとあらん限りの絵本の勇者を例えに、 息つく暇も与えず励ます姿には軽い感動すら覚え、 その姿に次第に恐怖が薄れて、再びハルヒは冒険者として旅立つことが出来た。 ――――――――幸せになるから勇者じゃないんです。誰かの為に戦ったから勇者なんですよ。 パーラの、彼女らしくない、珍しくムキになった声。 その後もハルヒとパーラの親交は続いていた。もっとも、ハルヒが一方的に珍しい絵本の話をせがむだけだったが。 その中で、パーラがハルヒに反論した。 それはパーラが「天地創造」という絵本を聞かせた事に起因する。 ハルヒの中では勇者は常に幸せでなければならなかった。勇者は皆に認められ、最後は幸せに暮らさないと。 だがその話の顛末は違う。 槍を片手に天地創造という大業を成した勇者は、最後に誰にもその偉業を讃えられる事無く、静かに眠りにつき鳥になる夢を見る。 そして勇者は二度と目を覚ますことはない。永遠の眠りの中で静かに意識を閉じ、物語は終わる。 ハルヒは聞き終わってからしばし呆然とした後、涙を浮かべて「そんなの勇者様じゃない!」と怒鳴り散らした。 最初はなんとかなだめようとパーラもあれこれ補足を加えたが、ついムキになってその言葉が出てしまう。 その日はそのまま喧嘩別れしてしまったが、翌日、両者が謝る形で友情は事無きを得た。 以前のハルヒなら受け入れることが出来なかった勇者像。 誰かの為に自らの身を犠牲にしてでも救おうとする勇者。 それは影が重なっていくように、ある女性に重なっていった。 「……ディアーナさん」 ハルヒが目を覚ますと、馬車はいつの間にか停車し、既に外では引き渡しの交渉が行われている。 頬から伝う乾いた涙の跡がかゆく、ゴシゴシとこすると再び股間の異物が鳴動し始めハルヒに快楽を送る。 わずかに残った言葉も夢に消えて、音を立てて鳴る異物に再び心が埋められていく。 ハルヒは誰に言われるでも無く、異物に右手を添えて、それを動かし、再び自慰に耽った。 続