はじめに このSSは、あくまでMORIGUMAの勝手な妄想において、 竜神の迷宮事件が、20年後に引き起こすIFという事で、 組み立ててみてます。責任は私にあります。 変わる人、変わらない人、時は残酷に過ぎていきます。 勝手に引っ張り出したキャラの親御さんで、 ご不満がおありの方は、遠慮なく申し出てくださいませ。 <壊れた心を引きずって>その14『心置きなく・・・』 byMORIGUMA 心置きなく泣かれよと 年増婦(としま)の低い声もする (アルチュール・ランボー) そこは、奇妙な部屋だった。 落ち着いた風格と、柔らかな輝きをもつ皮のソファ。 沈み込んだ身体が、動くことに必死で抵抗しかねないほどの快感で包まれる。 どっしりしたテーブルは、3メートルを超える巨大な黒檀の一枚板で、 顔が映るほど磨き抜かれたそれは、目が吸い込まれそうな漆黒。 黒が純粋であればあるほど、その価値は天井知らずになる。 敷物は、足首まで音もなく埋まり、 巨大な竜を模した絵柄は渋く時に染まり、 200年はたつと思われる柔らかさと手入れの良さを感じさせる。 漂う酒の香りは、酒飲みならば生唾を飲まずにはいられない、 鼻孔をくすぐり、脳髄を蕩かせ、香りだけで酔いしれる名酒の数々。 家具も、敷物も、並ぶ酒も最高級。 壁を飾る妖しい女性の姿は、200年前に奇跡とうたわれた画家の失われた逸品。 並みの者ならば、部屋に入るだけで身の置き所もなくなるだろう。 ただ、窓がどこにもない。 光は入ってくる。 だがそれは、鏡をつかい、どことも知れぬ天窓から、 光だけを入れる仕掛けで、やわらかい光を導いていた。 何者も、決してこの部屋の中を覗けぬよう、 驚くべき技法と、芸術的な装飾を駆使してある。 ここに入れる者は極めて限られるのは、当然の事だろう。 だが、長いソファの一つを占領している、 彼女の傍若無人ぶりは、そんなもの見事に破壊していた。 宝石とレースをちりばめた、ど派手な紫の下着に、 今にもはみ出さんばかりの張りのある胸と尻、 白い肌に、いやらしさを強調するような黒のガーターとストッキング。 燃えるような赤い皮のジャケットとハーフブーツ。 若々しい小づくりの顔に、妖艶な長いまつげと潤んだアメジストの瞳、 男を吸い尽くすというサキュバスを連想しそうな、 若さと色欲を溶け合わせたような美貌。 長いプラチナの髪は、瞳と同じアメジストの髪留めで止められ、 輝きながら波打っている。 『史上最悪の賢者』の二つ名を持つ女性は、 裸と変わらぬ格好で、堂々とソファに横たわり、 生唾を飲むような、色っぽい手足を投げ出し、 淫靡な笑いを浮かべながら、ご満悦でぐいぐいグラスを空けている。 「よくまあ、すぐここがわかりましたね。」 向かいに座るフードをかぶった体格のいい男が、 とりあえず話を始める。 どういう魔法なのか、顔が全く分からない。 ここは極秘に、誰にも知れぬよう会わねばならぬ者たちの場所。 当然、すぐ分かるような場所ではない。 ちろっ、とアメジストの大きな目が動く。 「ここの歴史は、お前さんが思ってるより、はるかになげーよ。  第一次レストア大戦と終結、ギネシアの団結といわれた対異民族大談合、  第三次キスリト教遠征、みなここでの会談で詰められた。  あたしも、60年前に何度か来たことがある。」 つまり、知っている者は知っていると言う意味。 『超中立地帯』と呼ばれる場所。 三つの国の国境点にあり、どの国、どの組織も、非武装で話し合うための、 暗黙の了解を結んでいる、特殊な場所なのだ。 ふう、と表情の見えない男が息をついた。 てっきりハデスが遅くなるか、入口でもめているだろうと思っていたのだが、 『顔パス』で先に飲んだくれているのには驚いた。 『いったいこの女、どれだけのつてやコネがあるのだろうか?』 とりあえず、見もせずに手招きをすると、 バーテンダーらしい少年が、見事な手つきで赤く燃えるような色合いのカクテルを、 小ぶりなグラスに入れた。 軽くステアすると、かすかに泡がたつのは、 特殊な鉱泉の水を使っているからだろう。 ハデスが飲んでいるのは“赤竜舌”の名をもつ、 クルルミク北部山脈で作られる最高級の酒。 度数が55度を超える強力なやつだが、彼女は喉を鳴らすように、 うまそうに飲みほす。 男は、慣れぬ手つきで空のグラスに注いでやった。 「ほほぅ、あんたの酌たあ豪勢だねえ、ハウリ王子。」 一瞬、注ぐ手が止まる。 いつ分かった?などと問うのは愚かだろう。 相手は『史上最悪の賢者』なのである。 フードの下から現れたのは、 肩までのざっくりした金髪に、鼻の高い、端正な顔立ちの男性。 ひげはなく、細い顎が少しやせた感じを与える。 クルルミク現国王にして、『竜王』とまで呼ばれるハウリ王子である。 そして、『史上最悪の賢者』の二つ名を持つ、ハデス・ヴェリコ。 20年前の『竜神の迷宮事件』において、 様々な噂や悪名を轟かし、一時はかなり名を上げたが、 運が尽き、途中で消えた一介の冒険者に過ぎない。 だが、最近になって彼女は、 20年前と少しも変わらぬ姿で、クルルミクにふらりと現れた。 そして、王都周辺で次々と起こる騒動、 そのほとんどに、彼女が関わっていると噂されている。 見方によっては、天敵同士とすら考えられる組合わせだった。 だが、ハウリは渋く笑い、側近が聞けば目をむくような言葉を述べた。 「まあ、謝罪のつもりですから・・・」  ギャッハハハハハ ゲタゲタと下品に笑うハデスは、生命力にあふれ、 強烈なインパクトで見る者を戸惑わせる。 「そんなに可笑しかったですか?」 目じりをぬぐいながら、ハデスが身を起こす。 「部下の尻拭いも大変だな、オイ。」 ハウリ王子は、王家の忍びの他に、独自の情報網を持っている。 といっても、これは諜報組織ではなく、 流通や噂話など、多元的な広域の情報収集によるものだ。 だが、拾い方さえ間違えなければ、 これは意外なほどの精度と、広がりがある。 現代社会で言えば、プロであるはずのマスコミを、 ネット情報が駆逐しつつあるのに似ているだろう。 そして、重点ポイントだけに絞って調査を行えば、情報精度は一気に跳ね上がる。 ハウリは将来的には、情報収集をこの方針で行い、 忍びの情報収集は、他国の機密情報などのピンポイントに絞ってゆくつもりだ。 その結果、確認が取れたハデスがらみの事件は全て、 ハウリのあずかり知らぬ所で、 クルルミク側から、一方的に突っかかった形で起こっている。 中には、ハウリの意志すら裏切って起こった事件もある。 『部下の尻拭い』とは、それをちゃかしてハデスが言っている。 同時に、ハデスがハウリの調査を知っているとも取れた。 だが、いったいどこから?。 もちろん、こんなことにハウリ自身が出向く必要性は無い。 結果的にハデスが起こした被害はとてつもない。 だが、彼はどうしてもハデスに会わずにはいられなかった。 自分のあずかり知らぬ所で、何が起こっているのか?。 そして同時に、ハデスという存在そのものへの、 突き動かされるような衝動が湧いた。 理由など無い、ただ会わねばならないという、 背中を火にあぶられるような焦燥感だった。 だから、彼女を招いた。 ハデスは臆面もなく承知、 ここのうまい酒を思い出し、舌舐めずりをした。 ハデスの言葉に、笑って返そうと思いながら、 秀麗な顔は、さびしげに微笑んだだけだった。 ふっと、ため息がもれた。 「なんだなんだ、しんきくせえ顔しやがって。  しかも、あのガキンチョが、絵になるような美男子になってんだから、  それが似合ってるときやがる。」 ククククと、ハデスは笑った。 どう見ても、いじめっ子のガキ大将だ。 磨きぬいたクリスタルのグラスが、空になる。      タンッ 「てめえなんざ、不幸な笑顔がお似合いだよ。」 グラスを置いたとたん、表情を一変させた。 ギラつく視線、つりあがった眉、笑いはすべて消え、 ドスの効いた声が、室内に響いた。 ハウリが無理に浮かべようとする笑顔に、 −−−−怒りすら感じる声。 そして、真実を見通す賢者の声。 その声の中に、強烈な光があった。 『お前はなぜここへきた?』 クルルミクの王にふさわしい若者に成長し、国民の憧憬を一身に集める『竜王』。 だが、気がつけば日々の煩雑な仕事に振り回され、 あるいは、そう仕向けられた仕掛けに気づかないまま、 時間が飛ぶように過ぎて行った。 いかに卓越した能力があろうと、人ひとりにできることには、限りがある。 王一人では、何もできないのが当たり前なのだが、 自負のある人間ほど、『繁忙』という名の罠にはまりやすい。 目や耳を塞がれたまま、事態は最悪の段階にまで進行していた。 そしてある日、城内に大混乱がおこった。 混乱のさなか、ようやくたどり着いたクリスタルの間で、 最愛のわが子二人が、血まみれで戦っていた。 そして、化石と化したような彼の前で、 小さな首が、落ちた。 なぜか、その光景が浮かんだ。 「ひ、ひどい、ひどいですよ。」 笑おうとした、いや笑えるわけがなかった。 だが、笑おうとした。 なぜだろう・・・?。 今、ようやく、そう考えられた。 『見ザル』『聞かザル』『言わザル』の醜い彫像が、 彼の周りであざ笑っていた。 全てをふたをして、目を、耳を、口を閉じていたから。 アメジストの目が、ハデスの凶暴な瞳が、怒りで赤く染まる。 「不幸のどん底に落ちたくせして、何をきどってやがる。」 細く鋭い眉を怒らせ、鋭い犬歯がギラッと光った。 魂の何かを引きむしる、凄まじいハデスの声。 虎が咆哮するかのごとく、あるいは竜が雲を引き裂くがごとく、 凄まじい『力の声』に、部屋の調度がゆれ、グラスがピシリと割れた。 バーテンダーの少年が、へたりこんで小便を漏らした。 全身が打ちすえられたように震えた。 ハウリの赤裸にされた心が、むき出しになる。 ヒック しゃっくりが、こみあげてくる。 身体が、これまで感じたことのない何かに、突き動かされている。 「おめえは、あの時のガキのままなんだよ、ハウリ。」 王妃は、あまりの事態に気が狂ってしまった。 あわてた周囲が、急病ということで押し込め、 後宮の女たちは、目をぎらつかせて、 己の家系の一族と、事態を収拾させるために策動した。 もちろん、その後釜を狙うために。 そして、息子は・・・。 毎日、毎夜、激しい胸の痛みに苦しみ、 見るも無残にやせ細り、明日おも知れぬ身体になった。 あの一刀、 竜神の血の奇跡ドラゴン・バーストにより、姉の首を打ち落とした刃は、 同時に、彼自身の心臓に、苦しみと後悔と絶望の刃を突き刺していた。 だが、その刃こそ彼の命をつないでいるという皮肉。 一度だけ、特殊な麻薬で無理やり痛みを止めたことがあった。 そして痛みが消えたとたん、彼は暴れ出し、 死んだ姉の名を叫びながら、4階の窓をぶち破って飛び出した。 死ねなかったのは、幸運なのか、不幸なのか。 「ガキが泣いて、どこが悪いんだよ。」 無骨で、無法で、優しい言葉。 『竜王』の殻が抜け落ち、そこには幼いハウリがいた。 小さな体と、幼い表情と、周りが怖くておびえていたハウリ。 小さな口が、思いっきり広がる。 『う、う、う、うあああああああああああああんっ』 必死に歯を食いしばっても、 血管が浮き上がるほど、力を入れても、 とめどなく吹き出してくる。 ボタッ、ボタッ、ボタッ、 視界がゆがむ、鼻がきな臭く、 破れた心の中身が、あふれ出るかのように、 激しい涙が零れ落ちた。 「う、う、う、」 ハデスの顔が、酒とは別にちょっと赤くなる。 『うっ、なんか、ちょっと可愛いじゃねえか。』 「あーっもう、しゃあねえな。」 身を起こすと、右手でハウリの襟首を掴み、 190を越す肉体を、軽々とテーブル越しに引きずり寄せた。 バリッ、 ブラを引きちぎり、美麗で大きな乳房がむき出しになる。 それに、ハウリを抱きしめてやった。 「おら、ガキ、泣けや。今だけは、いいからよ・・・。」 どんな優しい声よりも、泣きたくなるような声。 「う、うああああああああああああああっ」 もう、竜王もへったくれも無かった。 男は、ただの一人の子供となって胸の中に泣き叫んだ。 涙も、鼻水もぐちゃぐちゃになり、 豊かな温かさの中で、ただひたすら子供と化して泣いた。 頬を染めたまま、ハデスは仕方無さそうに、 でも、ゆっくりと優しく、泣く子を抱きしめて、 背をさすってやった。 ふっと、以前一緒に酒を飲んだ女冒険者を思い出す。 『こんなになっちまったが、  一つぐらいはいいこともあるもんさ。』 あいつは、そんな風に言っていたな。 大柄で、褐色の豪快な女戦士。 性奴隷に身を落として、東の小さな島国へ売られた。 『男ってのはさ、どこでも泣けねえんだよ。  戦場でも、家でも、女房子供の前でもな。  ただ『おんな(娼婦)』のヒザや胸の中だけなんだ、  男がほんとに泣けるのはよ。  まあ・・・なんだ、そういう時は、意外に可愛いもんだぜ。』 そう言って、照れた顔をした元女戦士は、 結局娼婦のまま、その地に根を下ろした。 いい男の一人や二人、いやもっとか?、出来ていたのだろう。 『ああ、たしかに、けっこうおつなもんだな・・・。』 バーテンダーは腰を抜かして逃げ出し、 二人きりの室内で、ハウリは身をもむようにして泣き続けた。 どれほど時間がたったのか、部屋に赤い穏やかな光が満ちている。 外が夕暮れなのだろう。 いまだに、ハデスはハウリのくしゃくしゃの頭を抱いたままだ。 ハウリは、泣きつくした精神的なショックから、 いまだ温かい胸の抱擁を抜け出せず、 ハデスは、奇妙に満たされた感覚と、 かすかにもぞつく頭を抱きしめる味にたわむれ、 とろとろとした時間が、二人の間を流れていく。 男としての克己心が、頭を持ち上げようとしても、 まだだ〜め、と言わんばかりのなでまわしと、抱きしめられる感覚に、 逆らうことすらできず、撃沈される。 女体の豊かな女性も、美貌の輝くばかりの女も、いくらでもいる。 だが、それは『竜王』に抱かれたい、その精をさずかりたい女ばかり。 ハウリを、一番奥底の泣き虫の少年を、抱きしめて離さない女性など、 どこにもいなかった。 『泣き虫ハウリ、弱虫ハウリ』 おねえちゃんがいじめる声、 泣きたくないから、悔しいから、無理やり大人になった子供。 ハデスの抱擁に、ハウリが勝てるわけがない。 あきらめるハウリに、うふと笑い、 ぎゅっと抱きしめられ、またなんとも照れくさい。 が・・・、ちょっと、これは・・・・。 「んう・・・ん、ん〜〜っ」 急に顔が赤くなり、次第に青ざめ、ジタバタもがきだす。 「お・・・?、おっと、わりいわりい。」 「ぷはああああっ」 完全に極まった乳呼吸バスター、危うく巨乳の中に溺れ死ぬところだった。 「ぜっ、ぜっ、い、いまのは本気で、危なかった・・・」 「ケケケ、死に方としちゃあ、そう悪くねえんじゃねえか?。腹上死の次ぐらいによぉ。」 暗くなっていく部屋の中で、大きなアメジストの瞳は、 悪戯っぽい光に輝き、美貌がさらに妖艶さを増す。 手をあげて、わざと伸びをするようにして、 無毛の脇の下と、大きく揺れる乳房を見せつける。 顔に焼きついた張りのある巨乳の感触に、唾液がのどを鳴らした。 密着した身体に、下着一枚の下半身の柔らかさ、 なにより、キュッと、長い足が、強く絡み付いていた。 「なあおい、あんだけ抱き合って、匂い嗅ぎ合って、  いまさら『ハイさよなら』なんて言わないよなぁ?」 元々けた外れの男好き、可愛がるのはイコール性欲に直結してしまう。 じっくり楽しんで待ち構えていたのだから、もはや視線は肉食獣、 下手な事を言ったら、マジで命が危ない。 もともと鷹揚なハウリ王子、意地も張りも今更ばかばかしい。 そして、不思議とこの女が欲しくなった。 そう考えると現金なもので、同時に分身も素直に膨らんできた。 かなりの膨張率で、おっという顔をするハデス。 「おおっ、こりゃあなかなか。」 爪の長い指で、細い皮のズボンの上から、きつきつの盛り上がりをわしづかみ。 「くっ・・・」 唇を濡れた赤い唇に押し当て、反撃するように絡み合わせる。 かすかに、酒の香りが漂い、 甘く痺れるような、熱い舌先と舌先が絡みあう。 「んっ・・ん・・・ん・・・」 酒の毒のような甘さと痺れ、 滑らかな歯の感触、柔らかな唇の感覚、 ぬめりあう唇と舌、 抱きしめる身体は、意外なほど小さく、 ふくよかで柔らかい。 赤く染まった頬が、甘えるように笑いを浮かべ、 悪魔のように細く長い舌先が、幾度も絡み合い、むさぼりあう。 細い首も、白い肌も、酒の匂いと女の香り。 白い肌に繰り返すキス、指先が吸い付く細やかな肌、 あれほど顔をうめ、泣いた胸が、 温かく、優しく、男の弱いところを全て包み込むように、 唇にも、指先にも、吸い付いてくる。 細い指先が、彼の男をなでさすり、刺激し、 這いこんだ指先が、亀頭をもてあそぶように撫でまわす。 プツリ、プツリ、 ボタンが外され、きつい下着から伸び上がった逸物が、 手の中で暴れるように動いた。 抱きしめ、絡み合う肉体が、 夜の暗がりの中、ほのかな月と星の明かりの中に浮かびあがる。 青白い肌に、ずきりとする脇の下に、 やわらかな盛り上がりに、赤く隆起する乳頭のふくらみに、 指がはいまわり、唇が咥えこみ、舌先がなでまわす。 「ん・・・あん・・・は・・・あ・・・」 たくましい背中を、白い蛇のような手がはいずり、 乳首を軽く噛まれる刺激に、びくり、びくりと、わななき、あえいだ。 チリッ、チリッ、 ピアスをつけた左乳首が、何度も引っ張られ、軽い音を立てる。 「んっ、はっ、あんっ・・・、ああっ、」 そのたびに、声をあげ、身をくねらせ、肌が徐々に染まっていく。 震える髪が、月光をはじく。 やわらかくしまったウェストが、かわいらしいヘソが、 息づくたびに大きく動き、妖しい影と肌の白さが、さらに撫でまわさせ、 うごめきを、目に焼きつけさせる。 ふさふさとした茂り、その下部が濡れてキラキラと光っていた。 紫の下着の中は、ぬめるほどの洪水で、 酔いそうなほどの、女と酒の匂いが立ち上る。 「やああん」 その口調は、はすっぱな場末の娼婦のように、すれてなじみやすい。 「ここまで酒の匂いだよ、酒が湧いてるんじゃないか?」 思わず、ハウリも軽口がでる。 「さあ、どうかな〜?」 白い歯をきらめかせて笑うハデス。 女と酒の香りの中に、ハウリは顔をうずめた。 白い肌合いの中の、芳醇な泉、 銘酒のような香りと、蕩けるような女の匂い。 混ざり合った割れ目に、舌を滑らせ、 ふっくらした膨らみの、弾力をもてあそぶ。 「んんっ、はっ、んっ、じらすな・・・よっ・・・」 髪の一筋を咥え、頬を染めてあえぎながら、 じらしの舌先に、次第に震えすら帯びてくる。 舌に広がる銘酒の味、 指先がそっと肉の扉を広げると、 蜜が滴り落ちてくる。 チュ、チャプ、チュチュ、チュルッ、チャプ、 指が優しくぬめり入り、 舌先が割れ目の先端を探り出し、 ハデスの女を刺激して、のたうたせる。 「んはっ、だっ、だめっ、そんなにっ、優しくすんなっ、」 ピュッ、ピュッ、と、女の雫が飛び散り、 夢中になってしゃぶり、探り出し、ちゅうっと吸い上げる。 「んあああっ!」 痙攣するハデスの、放心した表情に、 もう我慢が限界だった。 ぬめるような肌をつかみ、長い脚を抱え上げ、 無我夢中でのしかかった。 「んっ、あ、あ、うああっ、おっきいっ!」 経験豊富な肉洞も、これだけの巨竜はめったに感じない。 恐ろしく深くまで、ぎしぎしと濡れそぼった中を押し進み、 一杯に入っても、なおあまりがあった。 「うあっ、まっ、まだあるのっ、かよおっ、」 蠢きが、突き刺さり、 のたうつ大蛇の感覚に串刺しにされ、 広がる腿が、激しく震える。 ズッ、ズッ、ズッ、ズッ、 次第に、動きがリズミカルになり、 ハデスの中を突き上げるそれも、激しくなる。 「うあっ、あっ、ああっ、ひっ、ひっ、ああっ、」 ソファを掴み、身体をのけぞらせ、 締め上げる中を、荒れ狂い、突きまくる。 白金の髪が光り、閃き、 燃え盛る欲情の色香が、肌を炎のように染める。 蠢きが乳房を跳ね上げ、のけぞる顎が濡れて閃く、 かすかなあばらの動き、大きく喘ぐ乳房、 動きにくねる細いウェスト、 女の胎内は、燃えるように熱く、痺れるように吸いついてくる。 「うぐおっ、なっ、なんだっ、くおっ、」 「あっあがっ、当たるっ、うあっ、子宮が潰れそうっ」 がくっ、とくねる首筋、 胎内につきあがり、押しつぶさんばかりの動き、 めり込む感覚に舌が震え、淫らなしずくを跳ね散らし、 長い脚先を、男の背中に絡ませ、くねり、つっぱり、痙攣する。 痺れが、太腿を震わせ、ハデスの目をくらませ、長い爪を突き立てる。 血が、幾筋も流れ、その痛みは勃起をさらに膨らませ、 白い歯が、男も、女も、くいしばり、 お互いを喰らい合い、むさぼり合い、絡ませ合った。 「あがっ、がっ、あっ、おうっ、おっ、ああっ、」 「ぎっ、ぐあっ、あぐっぐっうっ、うおおおっ、」 獣と獣、魔獣と幻獣、雄叫びと絶叫が骨と骨を砕きあうばかりにぶつかり、 のけぞり合った。 「−−−−−−−−−−−−−−−−−−!!」 「うあおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 ブゴオオオオオオオオオオッ 巨竜の咆哮が、炎のブレスとなり、 ほとばしる奔流が、肉の胎内を割り拡げた。 硬直し、痙攣する二つの肉体。 汗に光り、歓喜に染まり、赤く滴り合う女体と肉体。 絶頂はあまりに強烈で、女の眼は白く飛び、男の意識は白く砕け、 明滅を繰り返す。 しかし、獣たちは、再び、動き出す。 あまりにも、甘美だから。 どれほどの時間が過ぎたのか、誰にもわからない。 闇の中で、ほのかな月明かりが、 どこからか青ざめた光を、そっと投げかけている。 動くことすら、身体があえぐ。 二人の中心を、数知れず駆け抜けた、絶頂と歓喜の余韻が、 未だに、そこに残滓をたっぷりと残し、 ぶり返す快感が、脳すらもおかしくする。 抱き合ったまま、つながり合ったまま、 柔らかく熱い女を、下に抱き込み、 固くしなやかな男を、上に抱きしめ、 ただ、呼吸だけが、静かに熱を放出していく。 硬直してしまったかの様な、身体。 何もかも忘れ去ったような、白い脳髄。 女の中は溢れ、ぬめり。 まだ名残を残す男は、かすかに脈打ち。 次第に、余熱の減少を、名残惜しくなめ合う。 それでも、動くのは男から。 古来から、そう決まっているから。 引き剥がすような痛みが、 手を放し、身を起し、そして、引き抜くおぞましい空虚にまといつく。 「おい」 声がした。 男の目が、金色の輝きを、竜の目の色を帯びる。 女は、男を抱いた形のまま、横たわっていた。 だらしなく足を開き、おびただしい白濁をあふれさせ、 汗にまみれた体を投げ出し、 淫らに、そしてこの上なく淫媚に、『右手を差し伸べた』。 『戻れ』と。 『我の胸に戻れ』と。 目の金色の輝きが強くなる。 泣きたいほどの喜悦、喚きだしたいほどの熱情。 この女をして、我に手を差し伸べたのだと。 それゆえに、一度しか許されぬ選択であると。 彼の全能力、感覚が告げている。 巨大なる扉があるだろう。 その手の奥には、はるかな蒼天に続く扉が。 見知らぬ世界、目もくらむ歓喜、どこまでも続く天地のはざま、 嵐を超え、太陽を背負い、迷宮の闇を踏破し、戦いの狂乱に咆え猛る。 この女に背を任せ、一心に勝利を狙い、剣を振い、 寒い星空の下、熱く甘く底なしに抱き合い、 酒と肉を貪り合い、酔い痴れて暴れまわり、 終わりなき旅路と、終わりなき夢がそこにあるだろう。 ゆえにこそ・・・・。 彼は、背を向けた。 己がどれほどちっぽけであることか。 国という檻がどれほどみじめであることか。 しかも、その檻は、静かに崩れ始めていた。 それを残酷に理解し、引き裂かれるような痛みとともに、背を向けた。 そっと、白い手がソファに落ちた。 わずかな、皮を打つ音。 『わかっているな?』 問わぬ声に、かすかにうなづく。 『二度目は無えぞ』 つまらなそうな、笑い顔が男を見ていた。 分かってはいた。 捨てれば、決して満たされぬ後悔があると。 破滅があるだけであっても、 『男であるなら』、それだけが全ての理由だった。 胎の底までザーメンにまみれ、だらしない姿で、 ただ、捨てられた女は、売女に似合った笑いを浮かべ、 胸の上に残された涙の跡を、少年の最後の名残をみていた。 ハウリは、その少年期をハデスの胸の上に置き去りにした。 ハデスは、胸の奥の空虚が形を変えるまで、じっと、動かなかった。 FIN