はじめに このSSは、あくまでMORIGUMAの勝手な妄想において、 竜神の迷宮事件が、20年後に引き起こすIFという事で、 組み立ててみてます。責任は私にあります。 変わる人、変わらない人、時は残酷に過ぎていきます。 勝手に引っ張り出したキャラの親御さんで、 ご不満がおありの方は、遠慮なく申し出てくださいませ。 <壊れた心をひきずって> その10  −『暗黒騎士』−  byMORIGUMA そいつは、白く長い、足まであるマントをまとっていた。 ストレートの長い漆黒の黒髪に、広い額、 身長は190近いだろうか。 整った優美な顔つきに、にこやかな笑みを浮かべ、 小さな丸い鼻メガネをちょんとおき、 ちょっと見には、学者か神父のようにすら見えた。 だが、背は高く190を超え、 まるで、忍びのように、 鋼のブーツは、足音一つ立てなかった。 「このたびは、お招きいただき、 ありがとうございます、バタラ侯爵様。」 声は聞きほれるようなテノール、 優雅な礼は、王宮の作法にも通じるほど見事だった。 だが、見る者が見れば、その男、 一国を預かる摂政の前で、毛ほども動じていないのが分かる。 「主のお招きに参上いただき、感謝いたしますインペ・・・」 声が途中で止まる。 氷のような視線が、オレンジの髪の女性を、圧殺する。 「口を閉じろメス、俺は依頼人以外と話す口は持たぬ。」 轟然と言い放つ言葉は、暴力そのもの、 殴りつけられたように、彼女の舌は凍った。 気まずい雰囲気をなだめるように、 バタラが口を開いたが・・・。 「よくぞこられたな『暗黒騎士(ザ・ダークインダーク)』。」 筆頭秘書は表情こそ変えなかったが、さっと青ざめる。 他の5人の男女、バタラの選び抜いた秘書官たちも、 らしからぬ動揺を見せた。 『暗黒騎士』 聖なる騎士の対極にして極限、 騎士の中の騎士であり、闇の頂点にただ一人立つ者。 「侯爵様、インベラドとお呼びください。」 にこやかな表情のまま、 「騎士の名は、神聖なる戦いの場において名乗るもの、」 穏やかな口調が激変、額に青黒い筋が沸きあがる。 「このようなゲスな場所で、気安く呼ばないでもらおう。」 氷山のような冷たさと持ち、 恐るべき圧力と化して押し寄せる。 静かな声でありながら、 水晶の窓がビリビリと震えた。 豪奢な王宮の一室は、荒涼とした荒地のようにおしひしがれ、 秘書たち全員が、凄まじいプレッシャーに金縛りになる。 「・・・・これは、失礼した。インペラド殿。」 ただ一人、バタラだけが、渋い顔をして訂正した。 「分かっていただければよろしいのです。」 とたんに消えたプレッシャーに、秘書たちはへたりこんだ。 あのプレッシャーがもう一段強くなれば、間違いなく心臓は止まっていた。 『間違いなく、この男はにらむだけで人を殺せる。』 全員、化け物を見るような、目をしていた。 狂乱の魔法使い、メピリディア 闘神のハンマー、ガイデン 聖王の手、ヒーエル ロキ神の直弟子、カミニティ 暗黒騎士とその一党は、恐怖の二つ名を持つものばかり。 だが、彼らが歴史の表に出る事は、 これまでほとんど無かった。 いや、出せなかったというべきか。 暗黒騎士がいると分かれば、どこの聖騎士も黙ってはいない。 無意味な『宗教戦争』を起こされて、 喜ぶ国はどこにも無いからである。 竜騎士と暗黒騎士は、敵対関係に無い事も幸いだった。 インペラドは、バダラのある申し出を、二つ返事で了解した。 「なかなか、面白そうな話だな。」 石臼をこすり合わせるような声が、 ガイデンの巨大な身体から響いた。 「ああ、やっと俺たちの夢を始められる。 しかも竜の国なら、居心地も良さそうだ。」 短い金髪がきらめき、薄いグレイのシックなドレスが揺れた。 柔らかい肉体が、インペラドの鎧にしがみつく。 「うれしい、うれしいわ。困難な夢だと、何回も思ったけど、 今度こそかなうのね。」 濡れたような長いまつげに、大きな金色の瞳が潤んでいた。 物陰から、ズボンを結びながら、 若い神官が、出てきた。 銀髪に灰色の目で、まだ幼さすら感じられる顔つきだが、 装備は、恐ろしく重厚でガイデンにも見劣りしない。 その左手には、小柄で服の乱れた女性を引っ掛けて、 すたすた歩いてくる。 「油断は禁物ですよ、相手が相手です。」 ヒーエルにぶら下がったまま、猫のようにじゃれつき、 豊かな胸元を止めつつ、キンキンする声をあげる。 「盗賊ギルドでも、かなりの話の種になってるわね。 なめてかかれる相手じゃないわよ〜。」 カミニティは、ふっくらした身体に、猫のようにかわいらしい顔だが、 その目は油断のならない光を秘めたグリーンだった。 ぽんと飛び降りても、何の気配も無く、 気がつくとどこにいるか分からない、 「俺を誰だと思ってる。」 全員が苦笑した。 「そうね、さっさとハデスとか言う連中の首を、集めましょう。」 to be continue