はじめに このSSは、あくまでMORIGUMAの勝手な妄想において、 竜神の迷宮事件が、20年後に引き起こすIFという事で、 組み立ててみてます。責任は私にあります。 変わる人、変わらない人、時は残酷に過ぎていきます。 勝手に引っ張り出したキャラの親御さんで、 ご不満がおありの方は、遠慮なく申し出てくださいませ。  <壊れた心をひきずって>  その6 −『片目のデュミナス1』−  byMORIGUMA ガシャッ、ガシャッ、ガシャッ、 重い、金属を組み込んだブーツの音、 すねあてを兼ねて、足首を守る重装備の立てる音。 ゴンッ、ゴンッ、 重いノックの音、 皮のこてに、薄い鍛えた鉄を編みこみ、 手首を守る重装備と、 それを、服の一部として気にもとめぬ腕力の音。 「入るぞ。」 国庫の資金を預かる会計所、 分厚い鉄をはさんだドアの向こうで、 おびえる気配が伝わる。 大臣よりもむぞうさに、 その声の主はドアを通り抜けた。 「ですから、国庫も厳しい財政をやりくりせねばならんのですよ。」 太った、色艶の良い肌が、 今日ばかりは青ざめ、 カサカサに乾く唇をぽってりした舌で、 何度も嘗めながら必死に『説得』を試みる。 鋼鉄のような色を帯びた片目が、 わずかに光を増す。 それだけで、国庫管理の長官は、 足がガクガクと萎えていく。 「わ、私たちも、財政をお預かりする身としまして、 引退した騎士に、今さ、いまさら、さほ、さほどは、ハギャッ!」 舌がふるえ、歯が思わず噛み、 血の味が広がる。 『な、なんだって、側近騎士はこんなバケモノばっかりなんだ?!』 先代の早く死んだ女騎士は、 死神そのもののような目をしていて、 そばにいるだけで、胃が縮み上がり、激しく痛んだ。 そいつが死んでほっとしたのもつかの間、 またも女の側近騎士が、それも前にも劣らぬ恐ろしさで、 彼らの前に立ちはだかる。 ギラッ 「え・・・?」 鎖帷子を着込んでいるらしい、 豊かな胸の間にかすかに金属が光る。 だが、相当な装備にも関わらず、 その瞬間の音も気配も何も無かった。 けた外れに長大な、青光りする片歯の刃が、 長官ののど元に光っていた。 「きさまらが、くすねる金額に比べ、 引退した騎士の恩給がどれほどのものだというのだ?。 議会にもかけずに、勝手な理屈をこねる暇はないぞ。」 小さなせせら笑う声と、暴風に等しい殺気。 目が突然かすみ、 毛穴という毛穴が広がり、 膀胱が痙攣を起こし、生温かい尿が足を伝い落ちる。 それも、刃を向けている当人からすれば、冗談のような少量にすぎない。 あとひと言でも、余計なことを言えば、 即座に、首が落ちる。 自分の命など、その程度のものだと、 全身のあらゆる場所に、嫌というほど叩き込まれた。 「す、すぐに全額お持ちいたしますぅぅぅぅ!」 長官の叫びと同時に、 魔術のように刃が消えた。 会計の役人とはいえ、 男二人がかりでよたよたと持ってきたそれを、 彼女は、たくましい片手で軽々とかついだ。 『バケモノ・・・』 長官は、太った首が当てられた殺気でヒリヒリするのを、 何度もさすり、ヒューヒューとあえぎながら、つぶやいた。 かつて、クルルミクをゆるがした竜神の迷宮事件で、 ワイズマン討伐と第一王女救出に活躍した5人の英雄の一人レイラ・シュヴァイツァー。 その隻眼は、事件の折に自らえぐったと噂されている。 彼女は事件の終わりと共に、側近騎士の一人として王のそばに立つことになった。 側近の筆頭騎士であった女騎士が亡くなり、 先ごろ起こった王宮内部での騒動での大功により、 レイラは誰もが認める筆頭騎士となっていた。 巨大な金袋をかつぎ、 悠々と出て行くライラ。 だが、部屋を出た彼女の片目は、とても暗かった。 『この程度の事さえ、自由にならぬ・・・』 竜騎士を引退した者たちの、わずかな恩給、 それすら今のクルルミクは切り捨てようとしている。 いや、正確にはクルルミクの摂政とその取り巻きたち。 至福を肥やすためには、雑草一本でも見逃さず、 幼児の服でも剥ぎかねない守銭奴ども。 運命とは常に皮肉にできている。 先代の筆頭騎士であれば、 ひと言の抵抗すらなく、長官はひれ伏していただろう。 刀などちらつかせるのは、下策とレイラは恥じている。 だがしかし、 先代があまりに強大な存在であったがゆえに、 小悪党どもは恐れをなし、 より狡猾で凶悪な東方の血を引くバダラ侯爵を引き込み、 ついには摂政に押し上げた。 いうなれば、先代の筆頭騎士が、 今の摂政を引き寄せてしまったのである。 『ままならぬものだ・・・』 レイラは、古びた館の扉を開いた。 「あら、レイラじゃない、おひさしぶり。」 やせた背の高い女性が、長い黒髪をひるがえすように歩いてくる。 かつて、白将軍と呼ばれていたその女性は、 48になるが、まだ十分美しかった。 ただ、その目は、どこかさ迷うように頼りない。 「ああ、ひさしぶりだな。」 「ねえ、アレを見なかった?。あのバカ、今朝からいないのよ。」 ふっと優しくレイラが笑った。 「その剣幕だからな、庭の隅にでも隠れてるんじゃないか?。」 笑う目の奥に、痛ましげな光。 「まったくなさけないわねえ、この間なんかね、 『あなたのウ○コください!』なんてバカ言うのよ、 思いっきり踏みつけてやったわ。」 何十回も聞かされた、たわいないバカ話。 ふっと涙が出そうになるのを、笑ってごまかす。 『ほんとに、あのバカがいたら、顔がヘしゃげるぐらい殴ってやりたいよ。』 あのハーフエルフのバカ貴族がいたら、どんな顔をするだろうか。 竜神の迷宮事件で、囚われ、心が折れるまで嬲りつくされた彼女は、 あろうことか敵国の要塞に売り飛ばされた。 恨み重なる白将軍を、肉の奴隷とし、嬲りつくすことで、 下劣な士気をあげる道具として、 彼女は死ぬよりもむごたらしい、 心を削り尽くするような陵辱と暴虐と汚辱に染め抜かれた。 そして、あのバカは、要塞に単身で殴りこんだ。 昔は強力な竜騎士であったそいつは、 信じられぬほどの損害を与え、要塞を混乱におとしいれたあげく、 十数本の槍と、無数の矢に、 服も粉々になるほどの無残な死を迎えて散った。 おびき出すために、広場の真ん中で輪姦される彼女の目の前で。 だが、その混乱が、そいつの後を追う救助の手を、 彼女の元へ導き、救い出した。 救ったのは、まぎれも無くあのバカだった。 だが、彼女の心を闇の中へ連れて行ってしまった。 最高レベルの竜騎士であった彼女は、 救い出された後は、ひっそりと暮らしていた。 武名を失い、名誉を失い、財産すらもいつしか失い、 古びた館に、わずかな老僕と暮らしていた。 彼女の目は、決して現世を見ようとはしない。 いつも、どこかを探し、思い出にひたり、 ただただ、帰らぬ人を待っていた。 「なあ、今日は時間あるんだろ?。剣の稽古つけてくれないか?。」 「ええ、そうねいい天気だし。」 今なお、彼女は恐るべき竜騎士だった。 レイラが本気で稽古をつけてもらうほどの。 どこかで、竜の吼える声がした。  バサッ、バサッ、 巨大な質量が空気を叩く。 先頭の老練な竜騎士ガグナットは、右や左後方の音に、 わずかにこめかみを引きつらせる。 竜は羽ばたきで飛ぶのではなく、精霊を使役し、風に乗って飛ぶ。 むやみにはばたきをさせるのは、騎士がへたくそな証拠だ。 一番後方にいる、副部隊長のヤンが苦笑する。 『おやじさんも苦労するよなあ・・・』 ここ数年、筋目のいい、 つまりは貴族の子弟や名家の竜騎士ばかりが増え、 実力主義のスカウトは、ほとんど行われなくなっている。 竜騎士は、クルルミクの切り札であり、最高の戦力だが、 それだけに、維持には膨大な費用がかかり、 長命な竜は早々は増えてくれない。 つまり定員はかなり少ない。 入団予定者が増えれば、自然スカウトは減る。 そしてだんだんと、竜騎士の名誉と格好良さ、 そして発言権の大きさばかりが注目され、箔付け的な入団が多くなった。 左右を飛んでいるのは、扱いやすいメスの小柄なドラゴンばかりだ。 カグナットやヤンの巨大なオスのドラゴンに比べれば、 戦力も威圧感も数倍違う。 だが、それだけに凶暴で扱いにくい。 カグナットは、かすかにため息をついた。 自分があこがれたあの人は、女性の身でありながら、 『暴竜』とあだ名された、レグガラドスを子馬のように自在に操り、 白い輝く鎧であらゆる戦闘に駆け巡っていた。 今は、だれも、あのような凶暴な竜には近づきすらしない。 メスのドラゴンすら、扱いにくいと文句を言うようなやからばかりだ。 あの人が失われた後、 レグガラドスも竜小屋(と言っても砦並みの代物だが)を、 ぶちやぶって逃げ出した。 カグナットは、竜に同情したくなった。 訓練飛行中の、わずかな時間の間に、 様々な思念がかけめぐっていた。 それでも、老練な竜騎士の感覚は鈍ってはいなかった。 下から、何かが飛んでくる。 竜騎士は、目がけた外れに良い者が多い。 カグナットは、瞬時にそれを見つけた。 白い塊だった。キラッとどこかが輝く。 『水晶・・・?、いや氷か?』 「警戒!」 普通なら、ドラゴンには巨大な弩弓台(バリスタ)から、 特大の矢を射掛けてくるはずだ。 それでも、めったに当たる事は無い。 どんな老練な兵が狙っても、 二階から針に糸を通すようなものだからだ。 ましてや、矢羽も何も無い塊。 まっすぐ飛ばすことすら難しい。 当たる方がどうかしている。 下への注意だけを促した。 はるか下方、 黒いローブ姿の4人が、魔方陣の四隅に立ち、 真ん中のもう一人が、とび行く氷の塊をすさまじい目つきで見つめ、 5人は同時に、低い声で同じリズムで呪文を唱えていた。 『断罪せよ!、闇の王、苛烈なる牙を解き放て!』 物質は「位相」と呼ばれる様々な状態を持つ。 水蒸気となり、水となり、氷となる、それぞれの状態を「位相」という。 水を水蒸気にすれば、体積は1000倍以上になる。 魔方陣周辺の4人がブースターとなり、 真ん中の一人が、200メートル先の目標にそれをかけた。 この魔法は最低100メートル以上離れねば、自分たちも危険だった。 魔力が収束する。 竜騎士の、20メートルわきを通過するはずのそれが、突然光った。 1キロあまりの氷が、突然内部から相転移を起こし、水蒸気と化した。 氷のままの外殻を破砕し、狂い猛る苛烈なる牙が、大気を引き裂いた。 『水蒸気爆発』、 瞬間的な位相の変化により、引き起こされるこの現象は、 マグマと地下水の激突により、巨大な山すら吹き飛ばす。 大気が数トンのハンマーとなって、 音すら切り裂き、鼓膜を突き破り、ドラゴンの分厚い皮膚をずたずたにした。 もっとも近い位置にいたカグナットが、即死で心臓を止めたのは幸運だった。 まだ生きている者は、地上への絶望を味わい、絶叫しながら落ちていった。 「墜落したのを抑えろ。ドラゴンは可能な限り殺すな、生きていさえすればいい。 竜騎士には用は無い、すぐに始末しろ。」 中肉中背の、目立たぬ要望をした若い男が、 てきぱきと指示を出していく。 いや、周りにいる者たちは、全て若く、 男女を問わず、20前後の者ばかりだった。 「マッカート、男はタマを抜いて精を搾り出したい。 生きのいいうちに、使わせてほしい。」 ローブ姿の、ほっそりしたおとなしげな女性が、世にも恐ろしいセリフを吐く。 指揮をするマッカートが、許可をだす。 どちらにしろ同じ事だからなと。 「おい、マッカート。」 マッカートの後ろで、緊張感のないハスキーな女の声がした。 一挙動でマッカートが振り返り、ひざまづく。 「なんでしょう?導師。」 緊張した声と、教えを仰ぐ姿勢が、 指揮者であるマッカートより、はるかに地位が高いことを示す。 そして、紅潮した頬と輝くまなざしが、彼の心情を物語る。 すなわち、『崇拝』。 あめ色をした奇妙な形の容器が、小さな栓を抜かれ、 琥珀色の液体が、赤く妖しい唇に流れ込む。 火酒の強力な香りが、形の良い鼻筋を通る。 アメジストの大きな瞳が、満足げに細められる。 だらしなく片あぐらをかいた太腿はむき出し、 身に着けているのは、赤く短いブーツに、真っ赤な短いジャケットをはおり、 身体を覆うのは、強烈な紫に金糸や銀糸、宝石を散らした下着のみ、 真っ白く熟れた肉体が、ほとんど透けて見えんばかりだ。 凶暴な美貌が、酒にかすかに染まる。 風が豊かな細い白金の髪を、揺らした。 「ぷはっ、今の小隊は警戒のみを行い、散開や回避を行ってねえ。 まだ駆け出しどもの飛行訓練だ。攻撃は50点だな。」 要するに赤点すれすれ。 攻撃したチームはがっくりとうなだれた。 「氷の発射直後から、呪文を唱えてたな。 あれが運よく近かったが、コースがそれていたら、使い物にならねえぞ。」 強力な呪文であるだけに、魔力の回復には時間がかかる。 そして、ドラゴンの飛行速度はあなどれるものではない。 2度目の呪文を唱え終わる前に、黒焦げにされる可能性があった。 氷の発射台は複数用意してあり、 同時に数個発射し、一番近いものに魔力を集中するのがセオリーなのだ。 「この呪文は、対竜騎士の切り札だろうが。絶対確実なものに仕上げろ!。」 で、ジロリと自分の尻の下をみた。 とたんに、イス代わりのそれがびくりとする。 攻撃チームの5人は、『ごめんっ』と思わず拝み倒した。 「マーラ、ぜひ見ていただきたいといって、これか?。」 だらだらだら、 イス代わりにうずくまっていたそいつの、全身から脂汗がにじみ出る。 邪教の軍団の中で、ただ一人のハデス付きの小姓マーラである。 小姓といっても、すでに18歳。 たくましい体つきに、獅子のような風貌の男に育ったのだが、 ハデスの前では、子猫に等しい。 「あたしの気持ちいい眠りを邪魔して、この程度じゃあ、 覚悟は出来てんだろうな?。」 ドスの効いた声に、その場にいた全員が、 氷山の浮かぶ北海にぶち込まれたような感覚を覚えた。 「今日の・・10時、ううっ、 みんなぜひとも、導師に見ていただきたいと・・・ぎっ!」 薄暗い部屋の中で、奇妙な細いベッドが、ぎしぎしときしむ。 「くくく・・・小僧っこたちが、 たいそうな口をきくじゃあないか。ん?どうした?。」 白い清潔なシーツの上で、悪魔的な笑いを浮かべる美貌。 あぐりと、牙のような犬歯をかすかにたて、 血管がぶち切れそうなたくましいペニスに、 ジュルジュルと唾液をからませながら、 ゆっくりと、口を横にスライドさせていく。 男の、獅子のようなたくましい顔つきが、 情けないほど歪み、歯を食いしばり、 今にも爆発しそうな陰嚢を、必死で抑えた。 歯先、舌先をカリ首に食い込ませ、痛みと刺激と快楽の、 混ざり合うポイントで口の中でいたぶり、嬲った。 「ひぎっ、ひぎっ、かかか、かんべんおおっ、」 いつまでたっても起きてこないハデスに、 従者のマーラは、いやな予感を抑えて報告に来たとたん、 ベッドに引きずり込まれて、両手両足を四隅に縛られてしまっていた。 これでも、格闘技では邪神部隊有数の腕前のはずなのでが、 ベッドの上のスキルは、ハデスの足元もおぼつかない。 「ん〜〜、なにをかんべん?ええ??」 ますます、楽しそうに凶悪な笑いをうかべ、 Eサイズの乳房が、陰嚢ごとペニスをはさみつける。 フカリと、張りと柔らかさの蕩けあう乳房が、 ムニュムニュコリコリ、マーラの生殖器全体を刺激し、 最強の口技、舌使いが、口内の蕩ける感覚にすすりこみ、 無理やりに絞り尽くし、吸い上げる逆レイプ。 ペニスが、金玉が、ハデスの肉に熔かされ、粘膜に崩壊させられる。 「あ、だめ、あ、あ、ああ、あがが、あああああああああ!」 のけぞり、口の奥を突き上げてしまう。 ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、 崩壊する自我が、すべてすすりだされ、飲み込まれる。 ぎゅうっ、ぎゅうっ、と乳房が絞りださせ、 ジュルジュル、ジュルジュル、口の淫技が陰嚢すべて飲みつくす。 「んぐ、ん、んぐ、ん〜〜、濃いなああ。」 ハデスが満足げなため息をこぼし、赤い唇をテラテラとぬらす。 ため息のふちから、白い雫が糸を引く。 「ちゃんとSEXしてんのか?。オナニーで済ますような年じゃねえだろ。」 ぎゅっと絞りつつ、無理やり吐かせるサディスト。 いえそれは、とごまかそうとすると、カプリとまたかみついてきた。 「おら、吐けこらあ、何人女泣かせてきたんだ?、黒光りするほど、ええ?。」 恥ずかしい事を、無理やり吐かされながら、 お花畑が見えるまで、搾り取られたのだが・・・今度はそのぐらいではすまないかも。 ブタの屠殺されるような声がした。 不運にも生き残っていた竜騎士の一人が、 生きたまま、玉を引きずり出された。 オスの睾丸は、精力剤や回復剤、魔法の触媒などにも使える。 ただし、対象の種類や強さによって、それなりに効き目も違う。 やせた、年端もいかぬ少女が、 血まみれの指先で、抜き出した睾丸を興味深く観察していた。 「う〜ん、若いくせに、最初の死んでいたおじさんより生きが悪いわ。 ハズレねこれは。」 クシャッ あっさりと、柔らかな肉塊は握りつぶされた。 ------------------------------------------------------------------------- 「何の御用でしょうか?バダラ侯爵どの。」 傲岸不遜なほどの、凛とした態度に、 周りの取り巻きたちの方が、怯えた表情を浮かべる。 分厚い肉の塊のような顔は、いやらしい笑いを浮かべたまま、 わずかも動かなかった。 王がほとんど不在の現在、摂政として最高権力者を握っているバダラ侯爵に、 どんな大貴族ももっと頭が低い。 だが、レイラだけは一度として態度を変えた事は無かった。 また、それだけの実力もあった。 権力を握った者にとって、もっとも恐ろしいのは、 現実的で単純な力『暴力』である。 その『暴力』において、レイラが想定外の力を持っている事は、 先日の第一王子と第一王女の内乱によって、知られていた。 第一王女の強力な布陣を単身で突破し、 敗残兵に近い老兵たちで、腕利きぞろいの反乱軍を撃破した。 最後は王子と王女の決闘で終わったとは言え、 反乱を失敗させた最大の功労者は、レイラだった。 また、アウトロー上がりの彼女は、 意外なところに無数の協力者を持ち、 彼女独自の情報網も持っている。 そして、彼女自身が鍛え上げた『外法軍』という、 少数ながら規格外戦力まである。 本来ならば、そのような戦力を持つこと自体、 国家の組織上、好ましくないはずなのだが、 今のレイラに、それを言える者はハウリ第一王子しかいないのだった。 「ご足労をおかけしましたね、レイラどの。」 極めて優しげな口調で、心からねぎらうような声を発する。 「国庫の者たちは、厳しく言い伝えておきましたので、 これからは、ご面倒をおかけする事は極力無いよう、 気をつけさせましょう。」 レイラはまったく表情を動かさず、 ただ頭脳だけがめまぐるしく回転していた。 『こいつがこんな事を言い出すのは、 何か、厄介な問題を押し付けるつもりだろうな。』 「いざと言うときに、引退したとは言え、 彼らも貴重な戦力になりえます。その点どうか、 お含みおかれますよう、お願いいたします。」 わずかに、わずかに肉の塊のような顔が、動いた。 笑ったのだろうか?。 「そう、いざと言うときは、いつ起こるか分からないもの。 その心得は大事なことですな。 ただ、分からないとはいえ、未然に防ぐ努力は必要でしょう。」 『何だこいつ、諜報活動に金がかかるとでも言うつもりか?。 それとも・・・・?』 「そのために、わが国は忍びを使い、竜騎士を育て、 この国の未来を守っているわけです・・・が、」 針のように細い目が、ぎろりと光った。 「その忍びの組織が、現在ひどく不安定でしてな。 先代の女棟梁が行方不明となり、その二人の子供たちが次いだのですが、 すぐにこれも行方不明になったのですよ。」 「なんだと?」 確かに、忍びの組織がおかしい事は、耳にしていたが、 さすがに諜報組織だけに、内部事情はまったくといいほど漏れてこなかった。 棟梁が二度続けて行方不明になったとは、ただ事ではない。 「それに加えて、先日、訓練飛行中の竜騎士の小部隊が、 二度続けて消失しているのですよ。」 「!」 なぜ、そんな大事な情報を、隠していたのだ?!。 忍びの棟梁の行方不明と、何の関係がある??。 まったく表情を変えぬまま、 摂政はただ、わずかに舌なめずりをするように話した。 「必死の調査の結果、どちらの事件にも、 ある人物が関わっているらしいと、報告があったのです。」 何かが、レイラの周りに急速に迫っている気がした。 「ハデス・ヴェリコ、ご存知ですな。」 なるほど、そういうことか・・・。 「あれ(竜神の迷宮事件)に関わった者が、 知らぬほうがおかしいでしょう。」 「そう、それゆえに、貴方もとても親しいようですな。 先日の原因不明の大きな火災の時も・・・でしたな。」 もう、レイラは驚かなかった。 今のクルルミクは、あらゆるところで密告が行われている。 そう、あの時、レイラはハデスに出会っていた。 先日、王都のはずれで、突然大規模な火災が発生した。 そこらじゅう、手当たり次第に火をつけたような騒ぎで、 消火には一晩かかった。 火をつけた者は、光を恐れる。 様子を見に来たレイラは、カンのおもむくまま、 闇の深い地域へ、棄民地区へ足を踏み入れた。 だが、奇怪な“よじれ”のような感覚に惑わされ、 方向を見失った。 ふと気がつくと、棄民地区の最深部に立っていた。 そして、ほんの20メートル先に、白い何かが立っていた。 裸の身体に、バスタオルを羽織っただけの、放埓な姿、 背中を覆う豊かな白金の髪。 アメジストの瞳が、こちらを見た。 相手も、闇色の片目を見た。 それだけで、相手が誰か分かった。 相手も、自分がだれか分かったらしかった。 ニッと笑うと、 そいつは闇に消えた。 闇の奥に、もう一人、もっと濃い闇の塊のような姿があった。 だが、あまりに闇が深く、レイラの眼力でもそれが誰か分からなかった。 何も言わず、 レイラはバダラ侯爵の部屋を出た。 バダラもいやらしい笑いを浮かべたまま、 何も言わなかった。 いや、言う必要も無い。 諜報機関の長と、竜騎士部隊の消失における、 重要な嫌疑がかけられているのだ。 側近の筆頭騎士であるだけに、 この嫌疑は、王国転覆ともとられかねない。 ハデスを捕えてこない限り、 彼女の嫌疑は、かってに膨らまされる。 そして、逃げれば、 逃げた瞬間から王国のお尋ね者にされるだろう。 『あいつに・・・勝てるのか?』 わずかに目を見交わしただけの数瞬、 まばたきする間ほどの、わずかな時間。 だが、アメジストの目の奥に、 恐ろしいまでの業火があった。 全身のうぶ毛が逆立ち、先陣の先頭に立つような恐怖を感じた。 『あたしに、何かさせたいなら、対価を払いな』 ハデスが何か関わっている、 それはもう、何の根拠も無く納得した。 あの目を見た瞬間に。 彼女を連れて行く、 それは罪人としてしかありえまい。 だが、打ち倒さぬ限り、ハデスは絶対に従わない。 ふっと顔を上げた。 闇色の片目が、曇り空の向こうに、青い青い蒼穹を見た。 続く