はじめに このSSは、あくまでMORIGUMAの勝手な妄想において、 竜神の迷宮事件が、20年後に引き起こすIFという事で、 組み立ててみてます。責任は私にあります。 変わる人、変わらない人、時は残酷に過ぎていきます。 勝手に引っ張り出したキャラの親御さんで、 ご不満がおありの方は、遠慮なく申し出てくださいませ。  <壊れた心をひきずって>  その4 −『人の姿をした者たち』−  byMORIGUMA 「お母さん、あの星は?」 満天、星が降るような夜、 白い息を上げながら、丸い目をした子供が、 目に映る無数の星のひとつを指差す。 特に際立つ青い星。 「あれはね、シリウスという、冬を告げる狼の瞳なの。 狼の瞳が出ても寒くなければ、その年は冬が暖かいわ。 逆に、狼の瞳より先に霜が降りたら、 とても寒い冬になるの、しっかり麦を踏まないといけないのよ」 ふっくらとした女性は、優しい声で教える。 女性は大きな優しい目と、 突き出した鼻筋と、毛の生えたとがった耳をしていた。 「じゃあね、あれは、あれは?」 「あの赤いのはなあに?」 他の二人も、一生けんめい聞いてくる。 たわいも無い会話のように聞こえるが、 幼子にも分かるように、生きた知識を織り込み、 柔らかい頭脳がすなおに伸びるような知恵を働かせてある。 聞くものが聞けば、その学識に驚倒するだろう。 『星の賢者』と呼ばれ、 小国の指導者や大臣たちが、 何度もその家に馬車をつなぐという女性。 だが、普段の彼女は、 夫と3人の子供たちを愛する、 優しい一人の母親だった。 「おーい、帰ったぞ〜。」 大柄な角ばった影が、星明りの中を歩いてくる。 背中に大きな荷物を背負っているようだった。 駆け出す子供たちに、 ゆっくりと歩み寄る夫人、 腕利きの料理人である夫は、 また料理の残りをもらってきてくれたのだろう。 「あなた、おかえりなさい。」 「すまん、おそくなっちまったな、タン。 宴が長引いて、なかなか返してもらえなかったんだ。」 食通の主は、彼女の夫をことのほか信頼していた。 そして、彼女の名前は『タン』。 かつて竜神の迷宮事件で、最後まで戦い抜いた賢者の一人。 温かいシチューと、 小さいがぬくもりのある家へ、 家族はにぎやかに帰っていく。 タンは子供たちに見えないように、そっと星を見上げた。 その目が、強く光を帯び、 星々の間に現れた、禍々しい気配をにらみ、 そして、何事も無かったかのように家へと入っていった。 『不吉なる兆し』 読み解いた天の言葉を、ゆっくりと考えながら。 翌日、おだやかな午後に、 彼女は奥の引き出しを開けた。 「何年ぶりかな、これを着るのは。」 見た目は何の変哲も無い、フードのついた長いローブ。 だが、それをまとった彼女は、 不思議な力と威厳をあらわにしていた。 彼女が『賢者のローブ』をまとった事が伝わったらしく、 ブロド町長があわてて馬を飛ばしてきた。 「な、何事かありましたか、タンどの?!」 これまで、色々な災害や襲撃、戦争など、 何度も町の危機を救い、あるいは助言してくれたタンに、 町長は特別な敬意を払っている。 おだやかな笑みを浮かべ、彼女は静かに首を振る。 「まだ、予兆にすぎません。 町の人たちに動揺を与えたくありませんから、 今は、何も言わないでおいてください。 ただ、西の峠には、しばらく近づかない方がいいでしょう。」 町長は静かに頭を下げた。 西の峠道は、比較的人の少ない道だが、 その日は特に日差しも温かく、風も少なく、 昼寝をしたくなるような午後だった。 ただ、風の精が、不思議そうな顔をしていた。 森の木々が、誰か来るよとささやいていた。 コツ、コツ、コツ、 女性の高いヒールの音がした。 タンは、陽だまりにのんびりたたずみながら、 その音に、顔を向けた。 茶色の目が見開かれた。 強烈な酒の味、にぎやかで騒々しい酒場、 苦く、つらい思い出と、 懐かしい、切なく甘い思い出と、 失った友、激しい戦い、戦友たち、 さまざまな記憶が一気に噴出した。 「は・・・ハデス?!」 流れる豊かな白金の髪、 強烈なアメジストの瞳、 白く伸びた艶かしい肢体を、 あの頃のままの、どぎつい紫の下着姿に、 短いブーツと赤い皮のジャケット。 「ん??、ん〜〜??、」 じっと見るアメジストの瞳、 ふっくらとした獣人の夫人は、 その鼻筋と目の色が、もっと小さく幼い姿にぴたりとはまった。 「なんでえタンじゃないか!。 えらくふっくらなりやがったな。」 あゆみより、お互いをしげしげと見る二人。 変わらぬハデスと、成長と落ち着きをまとったタン。 だが、ハデスから見るタンはとにかく、 タンから見たハデスも、何かが変わったと思えた。 「こんなところで、どうした。誰か待ち合わせか?。」 ふっと、かすかに悲しげな色を交えて、タンは首をふった。 「たぶん・・・、ハデスを待っていたのだと思う。」 あの頃の、冒険者だった頃の口調。 ちりちりと、毛が逆立つような緊張、 命がけで、迷宮に挑んだ時のような。 カオスとロウ、正反対とはいえ同じ賢者である、 それだけでほぼ意味は通じた。 星が告げた不吉な予兆、 それは間違いなく、ここに今現れた者にある。 ハデスも、自分が予兆をまとっていることを、 知らぬはずは無かった。 タンの輝く黒い目には、 戦いも恐れぬ激しい決意がみなぎっている。 ハデスは、かすかに笑った。 目が不思議な色をたたえて。 懐かしさ、喜び、静けさ、そして深いマグマのような輝き。 「まあ、そう気負うなって。そこ座れや。」 あごをしゃくると、 ぽかぽか陽だまりの、浅い草むら。 可憐な野花が、風に柔らかにゆれていた。 気がつくと、目の前に野花があった。 『え・・・??』 そして、ぞっとする。 一般人ならまだしも、賢者の自分が、 それも戦闘状態にまで気を高めていながら、 全く無防備をさらして、座ってしまっていた。 今のタンは、子供でも殺せるだろう。 魔力も使わずに、相手の『気』を盗む技があるという。 盗まれた相手は一瞬無防備となり、 致命的な一撃を受けてしまう。 そういう必殺の技が、東洋の武道にあることは聞いていたが、 今の自分の状態は、それ以外考えられなかった。 ハデスの視線、言葉、動作、気配、 それが一体となって、タンを無造作に座らせてしまっていた。 もちろん、どんな技も絶対ではない。 この技もひとつ対処法はある。 それは、『相手と実力が同じかそれ以上』であること。 恐れを帯びた視線を知ってか知らずか、 ハデスも野放図に身体を投げ出した。 シミひとつ無い艶やかな頬、 細く伸びた首筋から、白いぬめるような肌がひろがり、 砲弾のように突き出した胸が、薄く透ける紫のレースに包まれ、 大きく息づく動きは、弾力と量感をずっしりと感じさせる。 その下にわずかにアバラの動きが見え、 くびれたウェストは、蜂のように細く、 可愛らしいへそのずっと下から、 また薄い透ける紫のレースが、 申しわけ程度に腰を飾っていた。 薄く、金や宝石をちりばめたそれは、 柔らかいウェーブをくっきりとあらわにし、 わずかな蠢きも、薄いシルクは克明に伝える。 柔らかくからみつく肉と、 よく蠢く粘膜を感じさせるその姿は、 大抵の男を獣に変えるだろう。 長くムチムチした太腿が、 女の脂をしっかり乗せた肌で、 見事な脚線美で描き出し、 大胆にからみ合わされる動きが、 ぐっと引き締まる内股の筋肉を感じさせ、 その内側にはさまれた時、 どれほどの悦楽が得られるのだろうと、 見る者に、激しい想像を沸かせてしまう。 見事な肉体美は、未だ20前後のあの頃のまま、 タンは、ちょっとうらやましそうな目で見た。 『だけど、自分には耐えられないだろう・・・』 すぎる事を忘れた時は、人の身にはあまりに重い。 「ちょっち前の話なんだが・・・3年前かな?」 腕の枕で、ハデスが話し出した。 話す赤い唇の艶かしさよ!。 彼女は、謎に満ちた東方大陸へ渡った。 さまざまな宗教や種族が、 こちらよりはるかにややこしく混ざり合い、 混沌として、危険で、そして謎に満ちた世界。 だが、ついた港町は、 聞いていたうわさより、はるかに静かで落ち着いていた。 「そのかわり、見覚えのある印が、 やたらあちこちに見かけるんだぜ。」 つまりその地域の混沌を、 まとめあげた勢力があるということ。 しかも、『見覚えがある』?。 この話しぶりは、タンも知っているという意味。 ピクッ、 タンの耳が、急に震えた。 背中に冷たい汗が流れた。 「ま・・・まさか?!」 仲間と共に東方大陸に渡ったという、 竜神の迷宮に挑んだ冒険者がいる。 しかも、ハデスとつるんで暴れまくった神官戦士。 ハデスが、人の悪そうな笑いを浮かべた。 そう、そのとおりだと。 『アルム・ウト=ウィタル』 敬虔な神官戦士である、 ただし、『凶悪な邪神』の。 隣の町も、その先も、 およそ30あまりの町や地域が、 みなその印の元に、統一され、静かに祈りをささげていた。 ただし、これが一朝事あると、 それこそ発狂状態の大暴徒になるのだから、 この手の連中は恐ろしい。 だが、アルムの動きは容易には捕まらなかった。 アルムの友人という事を聞くだけで、 浅黒い住人たちは、必死に親切にしようとするが、 なにやらヒミツの教義があるらしく、 信徒たちですら、彼女の正確な居場所が分からないのだ。 人々の動きや、信徒の情報から、 ようやく割り出したのが、 幾重にも重なる奥深い山脈の谷間。 「ところがなぁ、そこについたとたん、 囲まれちまったんだな、これが。」 カサッ、カサカサ・・・ サササ・・・ シュッ、シュッ、 かすかな葉ずれ、わずかな土を踏む音、 気配と、足音の殺し方から、相当な手だれと分かる。 それが、幾重にも周りを取り巻いていた。 『ちっ・・・やっかいそうだな。』 だが、服の大粒の宝石が、 斜め後ろからのぞいている顔を映し出した。 『え?、ガキ??』 12〜3の、あどけない顔。 そういえば、周りの気配はやたら小さい。 『こまったなぁ・・・、ガキ相手に全力じゃあ、 あたしのこけんにかかわるし、 しかし、こいつら殺る気は十分みてえだし。』 しゃあない、 と、不本意ながら、 ある賢者の得意だった風の魔法を思い出した。 ヒィユウウウウウウウウウウウウッ 青い服の、鮮やかな姿を思い出しながら、 ハデスは強烈な風を吹き荒れさせた。 凝縮し、大地にたたきつけた風が、 強烈な上昇気流となって、周囲の小柄な姿を巻き上げた。 「わーっ!」 「きゃああああっ!」 「コリンっ!、ハーネスト!」 20メートルまで吹き上げられ、 見たことも無い高みから、 大地が凄まじい勢いで迫る。 『優しき風の精たちよ、受け止めたまえ。』 再び今度は、軽い竜巻が迎えるように渦を作り、 優しい風の腕が、地面ぎりぎりで、フワリと受け止めた。 仰天した子供たちは、 毒気を抜かれ、元の12、3歳の表情だった。 そして、みな同じ印をぶら下げている。 「アルム・ウト=ウィタルに伝えな、ハデス・ヴェリコが来たってな。」 ギシッ、 粗末な木の小屋に、奇妙な形のイスやテーブル。 だが、華奢なオブジェのようなそれらは、 意外にもしっかりと身体を支え、 手足を置く場所が非常に具合が良かった。 「へえ、見かけによらずいい感じだな。」 「うふふふ、面白い家具でしょ。」 40半ばになったアルムは、 少し肉が落ちた感じがした。 年齢の渋みと重みが、その優雅な動作に現れ、 派手な柄のゆったりした服が、 良く似合って見えた。 「うちの子供に、そういう才能のあるのがいてね、 いろんな家具を作ってくれるわ。」 最初に出されたジュースは、 野生のオレンジを絞って、ハチミツをまぜたもので、 味付けは絶品だった。 町中で夏場に売り出せば、行列ができるだろう。 思わずおかわりを頼んだハデスに、 「おいしいでしょう、この娘は料理もとても得意なの」 泡立つ発酵酒には、酒好きのハデスも目の色を変えた。 「ぷっはああああっ、うめえええっ!」 数種のハーブと、切れのいい苦味、泡の味わい、酒の芳香が、 渾然となって、昇天してしまいそうだ。 「別の子供たちが育てたハーブと、 胚芽や木の実を配合して作った酒よ。」 「これを売り出したら、酒好きは目の色変えるぜ。 だけど、えらく色々させてんな?。」 今聞いただけでも、木工、料理、酒造り。 アルムは子供たちに、実に色々なことをさせているようである。 こういう場所に引き連れて、集団で修行しているとなると、 てっきり、怪しい教義や異常な肉体修行とかを考えてしまう。 アルムは、にっこりと美しい笑みを浮かべた。 年齢を刻んだ顔は、むしろ風格を帯びて美しさを増しているようだ。 「おいしい物が作れれば、どんな場所でも生きていけるわ。 役立つ物を作れれば、どこでもありがたがられるわ。 子供たちが、どこでも胸を張って生きていけるようにするのが、 大人と、教える者の義務よ。」 子供たちを見る目は、まぎれも無く慈母のそれ。 「もう、子供たちは自分がなにをしているのか、 自覚して、誇りを持って働いているわ。 自分が役立つことを知ったら、もう止まる事を忘れるぐらいね。」 子供たちの目を見れば、 彼女の言葉を疑う事すらできないだろう。 本来、教育の目的は、社会性も含めた『生きていく力』をつけること。 やがて子供たちは、教団を背負い、 また豊かな地域を作り上げて守るのだ。 もちろん、社会生活ができなければお話にならない。 それができてこそ、教団も永続的な発展が可能だ。 その点、アルムの教育は理想的なまでに成功していた。 子供の頭ばかりいじくることを考え、 社会不適格なまま放り出す、どこぞの教育とはえらい違いである。 『ご立派な』教育論を聞きながら、 グラス片手に、ジト目で見ているハデス。 というのも、10分ほど前、 二人は、彼女たちらしい再会をした。 ハデスが案内された先に、広場があり、その真ん中で、 派手な柄のゆったりした服を着た、40代半ばの女性が、 長い金茶の髪をなびかせて立っていた。 巨大な鍵型のハルバートを、 何気なく下段に構え、 明るい日差しがひどく薄暗く感じるような、 凶悪な妖気を立ち上らせていた。 冷たい笑いと、 冷めた水色の目が、 妖しいオーラをまとい、 無数の魍魎や亡者が、恨めしげな声を上げていた。 もし、ただの人間がそこに入り込めば、 妖気に絡めとられ、 立ちすくむか、座り込むかするうちに、 巨大なハルバートは、黒い光を帯びて、 即座にその首を邪神のいけにえにささげるだろう。 たとえそれが、ハデスの首であったとしても。 ハデスは不敵な笑いを浮かべ、 10歩の距離で腕を組んだ。 同時に、10体の炎の精霊サラマンダーが、 トカゲの頭と、野蛮な人の身体を炎に包んで、 ずらりと左右にならんだ。 その戦力は、重装備の1軍団に匹敵する。 彼女の周りには赤い熱気が渦巻き、 妖気と激しくぶつかり合い、 周りに突風や火花を激しく散らしあった。 たとえ、昔の友であろうと、 力無き者には、一片の情けも容赦もない。 それが邪神の敬虔な使途、アルムの心情。 ハルバートを左手に変えると、 アルムは右手を差し出した。 だが、同時に左手に強烈な力がこもっていく。 ハルバートの刃に、禍々しい黒い光がまといつき、 周りの物全てを腐食する。 触れた空気までも腐食ガスとなり、 風下の生き物が次々と倒れる。 ハデスも右手を差し出した。 白熱する火炎の柱が、周囲におびただしく噴出した。 手ががっちりと握り合い、 左手の力と魑魅魍魎たちが消え、 ハデスの周囲のサラマンダーたちも同時に消えた。 二人はニヤリと笑いあい、友情を確かめ合ったようである。 周囲で見守っていた子供たちは、 明らかにハデスを見る目が変わっていた。 「ガキどもに見せるためだったのかい?」 ぐいっと、発酵酒を飲み干しながら、ハデスが聞いた。 「いい時に来てくれたわ。ハデスにぜひともお願いがあるのよ。」 うなづきながら、含みを持たせて言うアルム。 「ガキども込みか、あたしに魔法でも教えろってか?」 「あら、よく分かったわね。」 思わず酒にむせるハデス。 こんな突拍子も無い申し出は、彼女の長い人生でも初めてだろう。 いや、普通それ以前に、 彼女に教育を願おうなどというのは、 酔狂を通り越して暴論そのものだ。 その子の人生、破滅する事だけは間違いない。 「あ・・・あのな、」 「ああ、もちろん教育は期待しないわ。 魔法を叩き込んでくれるだけでいいの。 その方面“だけ”才能のある子だし、どうなっても文句は言わないわ。」 『敬虔な神官戦士』とはいえ、 さすがは『凶悪な邪神の使徒』。 「ふむ・・・」 ハデスもアルムの狙いが読めた。 要するに、実戦の中核になる、 強力な魔法使いや魔法戦士が欲しいのである。 それ相応の実力なくして、 邪神の教団が、存続できるわけが無い。 「どうなっても文句は言わねえ、か。で、代償は?」 酒のおかわりを持ってきた、栗色の髪の可愛い男の子に、 妖しく笑いかけると、男の子は真っ赤になった。 にいっと、口もとにシワをよせてアルムが笑った。 「もうひとつのお願いと、代償が同じになりそうね。」 「ん?」 暗い部屋に、ほのかなロウソクの火が揺れる。 大きなダブルベッドの上に、 白いシーツと、大胆な陰影。 光るアメジストの瞳に、茶色の大きな目がゆらぐ。 「どうした、こいよ。」 小さな唇が震えた。 「は、はい・・・導師(グル)」 まだ13になったばかりの、 無垢な瞳を震わせ、頬を真っ赤に染めて、 ゆっくりと服のボタンをはずし始めた。 浅黒い肌の多い東方大陸で、 少年は、西方から流れてきた血のせいか、 まれに見る真っ白い肌をしていた。 「フフフフ・・・」 まるで若木のようなほっそりした身体、 おびえる大きな茶色の瞳、 震えるしぐさが、ハデスにはぞくぞくする。 アルムは彼女に、 教団東方地区でのNo2『導師』の地位を約束した。 教団の財産から、信徒の生殺与奪権まで、 アルムと邪神の教えの許す限り、無制限に与えられる。 そして、アルムはハデスの欲望を止める気は全く無かった。 だが、単なる魔法の教師というだけで、 それほど莫大な代償が与えられるわけが無い。 ハデスにしかできない、 もう一つの、重要な役割があるのだった。 「じゃあ、さっきの発酵酒を持ってきた子をくれ。」 「あら、私に許可なんかいらないわ。 『導師』が命ずるのよ、絶対に逆らわない。」 ほお、と実に嬉しそうに、人の悪そうな笑いを浮かべるハデス。 そうして、お酒作りの少年、マーラ・プレミアは、 ハデスの下僕に召し上げられたのだった。 マーラに風呂の支度をさせ、 真っ赤になる少年にぬめるような背中を流させる。 濡れた髪が張り付き、 後れ毛の輝きと、細いうなじが、ぞくりとするような色気を発する。 強烈な肌の輝き、ほのかにそまる桃色、 重量感のある胸が、髪を掻き上げるしぐさでちらつき、 無毛のわきの下が、くぼみ、動き、 ぎゅううっとくびれきった腰を、 湯玉がすべるように落ちていく。 目のくらむような光景と、 まだ何も経験したことの無い恐怖が、 必死に信仰の力と争っている。 ちらと後ろを見るしぐさで、長いまつげが雫を含み、 紫の瞳が潤んだようにゆらめく、 ぞくりとするような光景。 タオルの下で息づき、跳ね返す弾力。 背中のなめらかな肌合いが、 自分の頭と下半身に何かをひどく集めていた。 甘い香りがクラクラする。 女の香りを知らぬ少年は、 なすすべも無くそれに酔った。 わざと無造作に背中を流させ、 ほっとした所を、容赦なくベッドルームへ呼びつけた。 細い足がガクガク震える様子が、 サディストな感覚を刺激され、 舌なめずりしてしまう。 ぶるぶる震える指先が、 ボタンをはずせず、何度も動作を繰り返す。 目が潤み、おびえきった様子が、 愛らしさと、被虐の快楽をそそり立たせる。 白い腕が蛇のように伸びた。 「はうっ!」 陰部ががっきとつかまれ、 縮こまったそれが、ぐいとちぎられそうに引かれる。 「ひいいっ!」 ベッドに引きずり込まれ、 温かいねっとりした感覚に抱きしめられた。 「なあに、ぐずぐずしてやがる。」 「ごっ、ごっ、ごめんなさい、」 おびえ、混乱しきった子犬を、 ベッドの暗闇に落としこみ、 ぶるぶる震えるさまを、嘗め回すように眺め、味わう。 「こんなに縮こまりやがって、ええ?」 ぎゅっと、強い指先が絞られ、 痛みと、それを上回る恥ずかしさが、 全身を赤く染める。 本能的にばたつく手足が可愛らしく、 思わず震える耳にかぶりつく。 「きゃっ!」 びくんっとのけぞる背筋に、にまあっと笑う。 「なんだあ、こんな所がよわいのかぃ、クックックッ」 ギュッ、ギュッ、ギュッ、 絞り上げられる感覚に、 血が全身からそこに集まってきて、 マーラは何が何だか分からなくなってきた。 「そっそこはあっ、ひいっ、」 かぷっ、また耳を噛まれ、 涙を浮かべてのたうつ、若く細い身体。 女郎蜘蛛のようにしなやかな手足にからめ取られ、 柔らかく弾力ある胸に抱きしめられ、 強い指先が容赦なくしごき上げて、 あえぎ、のたうつ少年の、高ぶりが急速に膨れ上がる。 腰に当たる濡れた茂みの感覚、 真っ白い内腿の汗ばんだ肌の密着、 ぐいぐいと押し付けてくる柔らかい突起の感覚、 未知の刺激が、全身を金縛りにしていく。 わざと、膨らませ、張り詰めさせ、 サディストの笑いが浮かんだ。 爪を立てて、パンパンに張った皮を、 一気に引きずり下ろした。 「いぎーーーーーっ!」 ビチビチビチッ 裂けたような痛みと、 初めて外気に触れる生皮の刺激が、 絶叫を上げさせる。 ビュウグッ、ビュウグッ、ビュウグッ、 強烈過ぎる刺激が、 彼の陰茎を突きぬけ、 何もかもが弾け散るように、噴出していく。 死んでしまいたいほどの恥辱、 自分の汚らわしいものがあらわにされる。 「うふふふ・・・」 淫魔のように笑うハデスが、 まだガチガチのそれを、掴んだまま、顔を寄せた。 しなやかな裸身が、蛇のように柔らかくくねった。 赤く、未熟な、初々しいペニス。 透明な液を滴らせ、 赤い舌がぬるりとはった。 「ひいっ!」 無防備になったばかりの若い亀頭は、 その刺激に耐えられようも無い。 細い足を突っぱね、のけぞった。 「くさあぃ、チーズみたいなのが、一杯ついてるぜぇ。 これからは、きれいにしとくんだぞ、ウフフフフ。」 鼻に抜ける異臭すら、楽しむようになめまわし、 少年の悶える姿を、存分に味わう。 ピクピクする赤いそれを、 豊かに張り詰めた乳房にあて、 勃起した乳首の先でくりくりと刺激し、 胸の間ではさみつけて、転がすようにもてあそぶ。 吸い付くような肌、 温かく包み込む感覚、 熟れた女の肌という、未知の感覚は、 もっとも敏感な場所を嬲りつくし、痺れさせていく。 「うんっ、はああっ、あううっ!」 顔を抑え、のた打ち回りながら、 逃げる事も、拒否する事も許されない事実に、 意識が消滅してしまいそうになる。 「うっふふふ、またビンビンになってきたなあ。 さあ、これからが本番だぜぇ。」 本番と聞いても、うぶな童貞の少年に分かるわけが無い。 汗にまみれた身体を震わせながら、 ただ、怯えているだけ。 目に映る優美であでやかな裸身は、 これまでに見たことが無いほど、美しく、恐ろしかった。 自分の中の何かが壊れていく、 それが、少年という時代である事を知るのは、ずっと後の事。 口から心臓が飛び出しそうになり、 息が詰まりそうだった。 妖しい鮮やかなピンクが、 輝く茂みの奥に開き、 それが、ゆっくりと、自分のそこを飲み込んでいった。 「・・・・・っくうっ!、は、あ、あ、ああっ!」 のしかかる柔らかな身体、 残酷に笑いながら、奪われていく少年を味わうハデス。 濡れた熱い何かに、包まれ、からみつかれ、飲み込まれていった。 細い腰がひねられ、 いい感じに眉を震わせながら、 少年の童貞を絞り上げる。 叫びが、唇からあふれ、 何かが、女の肉体の奥へ爆発するようにほとばしった。 「くはっ!、あっ熱いっ、すごい量っ!」 嬉しげに、ハデスは搾り取る快感に痺れ、 心臓に薬指を当てて、呪文を唱えた。 爪先の紋様が、激しく輝いた。 『我の深奥に眠る大いなる源、その雫を我の許す者に与えよ』 冷たく、輝く雫が、 ほとばしっていくペニスの尿道に突き刺さった。 「!!!、がっ!、あがああああああああああああああっ!」 冷たく強烈な刺激が、 身体の芯に撃ち込まれる。 それが、無数の針を突き出し、 さらに灼熱と化して、胎内に刺さり、えぐり、 次々と刺さっていく。 白い肌が、真っ赤に染まり、 無数の血管が全身に浮き上がる。 心臓が数百を打ち、 脳髄が真っ白に沸騰する。 巨大な笑い声が、全身を駆け巡り、 鼻からも耳からも、血が吹き出す。 「くうっ、きたっ、きたっ、きたあああっ!」 小ぶりだった少年のものが、 ドクンッ、ドクンッ、とハデスの胎内で脈打つたびに膨らみ、 倍近いサイズにまで膨張を繰り返す。 「くっ・・・さすがに、きついな。」 眉をしかめ、息を吐きながら、 胎内の緊張を緩め、ビッチリと密着したそれに合わせていく。 「うごおおおおおおおおっ!」 白目を剥いてたまま、けだもの雄叫びが上がる。 パンプアップした筋肉が、身体中に浮き上がり、 全身を駆け巡る強烈なエネルギーに、 理性も何もかもが吹っ飛び、本能が沸騰する。 貫いたままのペニスが、さらに脈打ち、アップした。 ハデスを乗せたまま、身体がぐいと起き上がり、 体位を入れ替えるようにして、細い足首をガッキと掴んだ。 「くあっ、こんなにっ、きついいっ。」 30センチを超える巨根と化し、 深く貫いたまま、足首を掴んだ両手を差し上げる。 「ぐあっ、うがっ、うがっ、うがっ、がっ、ががっ、」 野獣と化した少年は、歯をむき出し、泡を吹きながら、 己のもえたぎる男根を、突き入れる。 「んああんっ、はんっ、はんっ、ああんっ!」 頬を染め、目を細めながら、 強引に突き砕かれる快楽に身をまかせ、 赤い唇が卑猥な声を上げ続ける。 長い脚が大きく開かれ、のしかかる細身の腰が、 筋肉を恥知らずに膨らませながら、 狂ったように叩きつける。 泡立つ陰部が、ヌチュヌチュと淫靡な音を立て、 精液と愛液の混ざり合った汁を、白く撒き散らし、 切っ先の灼熱が、淫の肉を掘り崩す。 筋肉に細い指が食い込み、 爪を立てて、痙攣する。 軽い絶頂が、ハデスの身体を何度も蹂躙し、 息が詰まりそうな刺激が、 ずんっ、ずんっと、脳髄にまで響いてくる。 「あがががががあああ」 泡を吹きながら、腰をねじ付け、 握った足首を回した。 「いいいっ、こっ、こわれるううっ」 身体をひねり倒され、 突っ込んだままの固い男根が、 ゴリゴリと中をこすりつけた。 真っ白な尻肉に、指が食いつく。 腰を引いたかと思うと、 引きずり上げられ、腰が突き下ろした。 「ひゃひいいいいっ!」  ずがんっ 杭を打ち込むような衝撃、 亀頭が深くめり込み、陰唇がぴりぴりと震えた。  ズボッ、ズガンッ、ズボッ、ズコンッ、 身体がのけぞる、髪が打ち振られる、 乳房をシーツにすりつけ、乳首がこすれる。 全身が揺さぶられ、あそこが避けんばかりに食い込む。 「しっ、し子宮がつぶれるうううっ。」 反りきった切っ先は、薄い肉越しに子宮を叩きのめし、 粘膜が充血し、ガクガクと広がった腿が震えた。 のけぞる顔が、興奮に赤く、 潤んだアメジストの目が、陶酔に潤み、 広がった腰が、深く割られ、えぐられ、突き刺された。 「いぐっ、おうっ、いぐっ、いぐっ、いぐううううううっ!」 シーツが破れ、痙攣が全身を貫く。 「おぼおおおおおおおおおおおおおっ!!」 ドギュッドギュッドギュッドギュッドギュッ 舌が空気を求めてあえぎ、 意識が射精の衝撃に吹っ飛んだ。 ハデスは全身を震わせて、陥落した。 「はっ、はっ、はっ、はっ、こりゃ、間違いなく、妊娠するよな・・・」 「うごおおおおっ」 げっ、とハデスは目を開いた。 萎えかけたかとおもったそれが、再び爆発的な力に満ちた。 「うはっ、こっ、こいつめっ」 乳房がぐいと握られ、潰されそうな圧力に、 嬉しそうに、のけぞった。 『さ、さすが、邪神の精力、こりゃ死ぬかな・・?』 ハデスは、改めてその力に恐れを覚えた。 だが同時に、死ぬまで姦り潰される想像が、 ぞくぞくする歓喜を感じてしまうのだった。 アルムの第二の要望、 それは、子供たちに邪神の力を与えること。 最初に案内された質素な部屋で、 アルムはにらむようにしてハデスを見つめていた。 「我が神は、何度もあなたを所望したわ。」 くっと、ハデスが笑う。 「ああ、助平な神さんだと思ったよ。最初に会ったときも2度、 その後も、もう数え切れねえや。」 キリキリ、アルムの白い歯がきしんだ。 嫉妬の炎が、目に激しく燃える。 「わ、わたしですら、6回しかなかったのにっ。」 本気で悔しさで泣きそうな目をしていた。 だが、神の命令は絶対である。 「その力を、子供たちにほんの少し、分けてちょうだい。 それが第二の要望よ。」 ハデスは、少し難しい顔をした。 「やれやれ、無茶しやがったな。」 アルムが自嘲気味にわらった。 「仕方ないわよ。あの時は私しかいなかったんですもの。」 神と接した者は、その力を受ける。 ただし、能力の無い者は、すぐに霧散してしまう。 神の力を受け止め、胎内にとどめる能力を得るには、 よほどの才能と長い修行が必要になる。 ましてや女性で、その能力を得る者は、 極めてまれだった。 凶暴な邪神『ヨグ=azato-su=クトウグァ』は、 猛悪にして強大。 その気まぐれな寵愛を受けるのは、生け贄にささげられるに等しく、 正気を保てる女性は、これもまためったに無かった。 (ただ、複数の女性を同時に寵愛する場合は、比較的正気を保てる) その二重にまれな例が、アルムでありハデスであった。 どちらも、邪神が何度も寵愛し、 そのエネルギーを身体中に浴びせられ、注ぎ込まれていた。 二人の強大な魔力の一端は、 その一部とはいえ、身体にとどめる秘儀を持ちえたためでもある。 身体にとどめる秘儀は、 それをある程度コントロールできるということ。 貯えた力の一端を、SEXを通じて、他者に与えることも可能だ。 ただし、そこには別の危険が発生した。 猛悪にして強大な邪神の力は、 無防備に受けると、精神や肉体を暴走させてしまう。 SEXという、人間の一番無防備な状態でのそれは、 暴走は不可避だった。 ズブリッ、ズブリッ、 血管が破れかねないほど膨らんだ男根が、 ハデスの胎内を容赦なく貪る。 激しいでこぼこが、粘膜をこすり、 ゴリゴリと刺激していく。 指の間から、乳首がはみ出し、 いくつもその指のあとを残す。 「くふうううぅ、はあっ、はあっ、あがあっ」 涙すら浮かべ、ハデスが悶える。 濁液の不気味な鳴動が、 子宮の中にくりかえし叩きつけ、 ビチビチと跳ね狂う精子が、強姦する卵子を捜し、 荒れ狂っていた。 ビュドッ、ビュドッ、ビュドッ、 「かはあああああああっ!、あっ、熱いいいっ!!」 猛烈な噴出が、意識を飛ばす。 妊娠確実な射精が、子宮まで突き抜けた。 這ったハデスの身体が、 射精のたびに痙攣を起こし、崩れ落ち、それでも止まず10回近く続いた。 猛烈な征服欲、 強烈な受精能力、 通常の数倍の量の精子、それも暴走状態の猛り狂うそれを、 これだけ立て続けに膣内射精されては、 卵子を持たぬハデス以外は、 たいていの女性が妊娠させてられてしまうだろう。 あのアルムも、三度試し、三度とも妊娠出産した。 さすがに無理がたたって、三度目は死にかけたほどだ。 神と教団のためなら、身を犠牲にすることなど、 少しも気に止めない彼女に、 教団の幹部はおろか子供たちまでが全員泣いて止めたので、 ようやく『行為』をあきらめたそうである。 ヘロヘロのハデスの右足を掴み、 ぐいと引きずり上げる。 「いひいっ、ひぃっ、ひいっ、」 ゴリゴリとまた、胎内がこすれ、 ガブリと右の腿の上に、 興奮しきったマーラがかぶりついた。 歯型が残る程度だったが、 強烈な痛覚が身体を震わせ、さらに締め上げる。 「うがっ、ががっ、がうっ」 ハデスの左足も抱え、立ち上る匂いを吸い込み、 腰を上に突き上げた。 「はひいいっ!」 両足を担ぎ上げられ、浮いた身体の全てが、 突き刺さった男根にかかった。 ズゴンッ 「あがあっ!」 広がった腿が、ガクガクと震えた。 切っ先の固さが、子宮を圧迫する。 ゴスッゴスッゴスッゴスッ 宙に浮いた裸身が、 下に落ちる勢いで、 屹立した男根に串刺しにされる。 目の前に星が散り、のどまで突き抜けてしまいそうだ。 だが、その衝撃、強烈さは、 ハデスの足を胴にからませ、 手がもがくように、肩や首を掴み、 身体ごとしがみついていく。 「うああっ、すごいいっ、たまんないいいっ!」 酔いしれたような目で、 のけぞり、深みをさらに求め、 深奥に突き抜ける快楽に、全身をゆだねる。 白金の髪が激しく打ち振られる。 唾液をこぼしながら、あえぎ、叫ぶ。 痙攣がマグマとなって、噴出する。 ズゴンッ! 「ひぎいいいいいいいいいいいいいいっ!!」 ドビュルウウウウウウウウウウウウウッ のけぞり、そのまま後ろに折れるように倒れるハデス、 それをさらに、痙攣が突き上げ始めた。 翌日から、それが始まったが、 あまりにすさまじい『指導』に、初日からけが人が続出。 修練場は野戦病院のような有様になった。 治療役の神官や、他の少年少女たちも、 飛んでくる瓦礫や炎、魔法力の衝撃波に、 ほとんど命がけで駆けずり回らねばならないほどだった。 ウゴオオオオオオオオオオ 2メートルはある巨大なサラマンダーが、 蛮族のような胸を膨らませ、 爆発的な炎を吐く。 通常の召還術師が使うような、 現世にあわせて実体化させたサラマンダーは、 能力を相当落としてある。 でなければ、召還術師が制御し切れない。 だがハデスが呼び出したそれは、 精霊界の凶暴強力な、猛牛のごときしろものだった。 防御の担当4名が、全力で防御魔法を張るが、 それでもやけどを負うほどの熱がくる。 攻撃担当の5名が、キャプテンの命令を必死で受け、 熱よりも勝る死の恐怖に、全力攻撃をかけた。 10人がかりとはいえ、本気で命がけだ。 100人の魔法戦士見習いたちは、 10人ずつの組に分けられ、 それぞれ、一体ずつサラマンダーと対決させられていた。 選び抜かれただけに、 全滅するチームは無かったが、 半壊が1/3、無傷のチームは一つも無かった。 「いいかてめぇら、自分がどの程度かよおおっく分かったろう!。 だがな、最終的には一人で一体倒してもらう。」 恐るべき宣言に、全員が青ざめ、息を呑んだ。 「おい、マーラ」 そばで青い顔をして座っていたマーラが、 突然呼ばれてびっくりする。 ハデス付きの小姓として、 そばに仕えることになっただけに、 どんなに精魂尽きていようが、そばを離れるわけにはいかない。 昨日の猛烈な暴走の反動で、腰が砕けそうに疲れていた。 「やってみせろ。」 理性が、言葉を拒否し、 意識が真っ白になる。 そして、目の前に巨大なサラマンダーの炎のような影が現れた。 「ひっ、ひいいっ!」 栗色の目が見開かれ、腰が抜けてしまう。 「おらっ、来るぞっ。防御はれっ」 彼も魔法戦士の訓練を積まされていた。 ただ、酒などを作る才能があったため、 戦士専門の訓練からははずされていた。 赤い光に、間に合わない、と最速ではれる障壁を唱える。 1メートルほどの硬いが小さな円盤が防御する魔法で、 全部を守る事はとても不可能だ。 ブフェエアアッ だが、出現した円盤は3メートルほどもある巨大なもので、 火炎がほぼ完全に防がれる。 連続で3撃、その全てを円盤で防ぎ、 サラマンダーは攻撃が通じない事にちゅうちょした。 「何をしてる、攻撃しろっ!」 怒鳴られ、氷の投槍(アイスジャベリン)を唱える。 彼の身体ほどの槍を想像した瞬間、 強い力が吹き出し、その倍の存在が脳裏に現れる。 周りがどよめくほど、巨大なジャベリンが現れ、 光のように飛んだ。 グェエエエエエエエエエエエエエエエエッ サラマンダーは一撃で消滅した。 「かっ、勝っちゃった・・・?」 驚きと信じられない喜びで、ハデスを振り返った瞬間、 きらめく拳が振ってきた。 ゴキンッ 「XαYβ○!?」 「なあにをぐずぐずしてやがった! 戦場では一瞬の油断で死ぬんだぞ。 相手が隙を見せたら即座に対応しろ、このボケっ!」 いやもう、勝ったというのに散々である。 なみだ目になるマーラに、さらにこめかみへ両拳をぐりぐり、 「なんだその情けない目は、男ならしゃきっとしろい、シャキッと。」 もちろん、勝ったのは昨日の邪神の力の残滓のため。 ほとんど、いびるというより、遊んでいるハデスであるが、 とにかく、できない事ではないという実例を見せられ、 戦士見習いたちは、さらに必死に修練を積む事になった。 それから、一年半かけて、 戦士見習いたちを指導し、 邪神の気を与える『行為』を行う事になる。 ハデスの話はとりとめが無かった。 あっちを話し、こっちを思い出し、 過去の話かと思えば、数ヶ月後を語り、 普通の者が聞いていたら、 何がなんだか分からなくなるような話し方だった。 だが、そこは最高知能を誇る賢者同士、 むしろ多次元的に膨大な情報を織り込み、 通常の会話よりも、はるかに効率的な伝達を行っていた。 1年にわたる東方大陸での話は、 わずかに日が傾く程度で終わった。 柔らかいうぶ毛に覆われたタンの顔色が、 ひどく白く見えた。 「ハデス・・・、どうして?」 しばらくの沈黙の後、 タンは搾り出すように聞いた。 アルムは、邪神の軍勢を引きつれ、 クルルミクへ向かっている。 そのための準備であり、ハデスへの懇願だった。 ハデスは、それを全て分かっていて、 懇願に答え、彼女の子供たちに神の気を与えた。 神の気は、それをとどめる術を持たねば、 数日の内に拡散し、失われてしまう。 その術を得るには、途方も無い修行と時間がかかる。 だが、神の気を得た体験と、身体の変化は、 失われることは無い。 つまり、成長期の少年たちは、 神の気の衝撃で、肉体と精神の器を急激に成長させ、 さらに、力を動かした経験が、レベルを飛躍的に上げさせる。 おそらく、その体験は数十年の修行を凌駕する。 20前の小僧っ子たちが、 すさまじい魔法戦士の軍団に成長可能だ。 100人の強力な魔法戦士を加えれば、 わずか1000人でも、クルルミクが誇る竜騎士団全軍と、 ほぼ互角に戦える。 いや、それにハデスの指導があれば、 竜騎士団は、何らかの方法で全滅させられかねない。 タンは否定しがたい直感で、全身に汗を感じた。 ハデスのアメジストの瞳が、タンの搾り出すような質問に、 わずかに深みを帯びた。 『お前がそれを聞くのか?』 答えは、タン自身分かっているはずだ。 だが、タンは必死に首を振った。 すでに運命のサイコロは投げられている。 今、ハデスがいなくても、 アルムの一党は押し寄せてくる。 だがそれでも、聞かずにはいられなかった。 「でも、なぜ?!」 邪神の使徒に加担するのは、 破壊と滅亡に手を貸すということ。 ましてハデスは、『史上最悪』とまで名をつけられた賢者ではないか。 その結果は、タンですらそら恐ろしくなる。 タンとて、いまだに心が血を流す思い出がある。 愛する友を失い、 納得できない結末に、思うところはある。 それでも、破滅と滅亡に手を貸すことは、 あまりにも過酷ではないか?。 悲しい思い出は、同時にいとおしさの裏返し。 あそこに集った人々との出会いは、 今なお忘れがたいものが、数え切れないほど。 ハデスも、タンにはもっとも大きな存在の一人。 それすらも全て破壊するつもりなのか。 必死に訴えかけるまなざしに、 けむるような紫の視線が返る。 青と赤の交じり合う、不思議な視線。 「もう、ねえんだよ・・・、『ドワーフの酒蔵亭』は。」 ハデスの静かな言葉に、タンは胸が詰まる。 タンも葬儀に参列した一人だった。 ペペの思い出も、ハデスには意味がないのだろうか。 「パーラには会ったか?」 一瞬、何のことを言っているのか、タンは理解できなかった。 だが、まさか、そんな・・・。 そのひと言が、闇の奥底から、いくつもの知識を引きずり出す。 瞳孔がぎゅっとすぼまった。 翌日の火災で『亡くなった』パーラの葬儀も参列した。 しかし、ハデスの目を見ればその意味は明白。 パーラとその後に会っているのだ。 「そ、そんな・・・でも・・・まさか・・・」 恐るべき結論に、身体が震えた。 パーラが『不死者』であるという事とその意味。 だとすれば、パーラが『殺された』理由は?。 おぞましいまでの冷酷で無造作な論理が、 闇の中から脳裏に浮かび上がっていく。 「斬られて、刺されて、焼かれたと言ってた。  殺ったのは、忍び。」 凄惨な、考えたくない光景が、賢者の頭脳をよぎり、 泣き叫ぶ心の中で、映像が空白に浮かび上がる。 殺された人も、殺した人も、知っている相手。 「墓から這い出すまでに2年かかったそうだ。」 アメジストの瞳がかすかにゆらぐ。 わずかに、ハデスですら、ためらう。 「ペペは、心臓の真上に針の痕があったらしい。」 誰が、何を、命じたのか。 誰が、それを聞いて、受けたのか。 誰が、それを知り、そして殺されたのか。 王家を中心とした、 凄惨で呪わしいありさまが、 頭脳の内側に組み上げられていく。 その結果、いくつものパズルのピースが、 次々と寄り集まり、さらに新たな姿が現れていく。 王家の忍びを、貴族が勝手に使うことはできない。 王や王子がわざわざ忍びを使ってまで、 ドワーフの酒蔵亭を潰そうとするはずは無い。 だが、忍びが、その棟梁が、 自分から動く条件が、クルルミクにはあった。 ドワーフの酒蔵亭が、 目障りになっていた貴族の一群がいた。 ペペは、行方不明の冒険者たちを忘れていなかった。 彼女たちの記録を残し、 その絵姿や、言葉、残した道具を飾り、 暗に、その背景にあった悲劇を忘れさせまいとしていた。 それは同時に、 クルルミクの暗部に深く根を下ろした勢力を、 あからさまに非難していた。 竜神の迷宮事件でセニティ王女は、 王国の混乱をあおり、 己の力になるハイウェイマンギルドや新興貴族勢力への援助、 そして事実の隠蔽のために、 女性の冒険者たちを、奴隷として売り飛ばすシステムを作った。 ほんのささいな、こづかい稼ぎぐらいのつもりで許したそれは、 彼女の思惑をはるかに超えて、 膨大な金の動きを起こした。 あまりのうまみに、 無数の奴隷商人、ならず者、貴族たちが群がった。 セニティが気付く間も無く、 またたくまに巨大な勢力へ膨れ上がっていた。 王家やギルドたちですら気付かぬほど狡猾に。 彼らは、自分たちが主役のつもりでいながら、 その勢力にいつのまにか、動かされていた。 それが、金の魔力だった。 人買いや奴隷売買、行方不明が急激に増えたのはいつからか?。 貴族の勢力図が、急激に変わったのはいつからか?。 麻薬や闇の商売が、タンの住む地域にまで広がり出して、 どのくらいたつのか?。 クルルミクを侵食するように、 地図に黒いシミがひろがっていく。 それらは、連動し合い、 助け合うように蠢き、 そして、ある時期に急拡大した。 数年前にうわさされた、 王家の内紛、公表された王女の病没。 その背後で動いた勢力の存在が、今なら分かる。 あの忍びの女棟梁は、表向きの理由とは別に、 内紛後、不安定になっていた自分の子供たち(王子の落とし子)の未来を、 それらの貴族たちに暗に約束されていたのは間違いない。 ペペは、以前タンに暗に告げたことがある。 王城へあごをしゃくり、 本気で戦わねばならない相手は、あそこにいると。 「クルルミクの古い法律だが、知ってるか?。 隠し子や落とし子が、王族として認められるためには、 王家と最古の十八氏族の血を引く貴族の、 三分の二の同意が必要だそうだ。」 これがとどめの一言だった。 現在のクルルミクの貴族は、新興の数名を除けば、 大半が十八氏族の出である。 竜王として名高いハウリ王子の意志があれば、 三分の二の同意も無理ではあるまいが、 王子の意志以前に、暗にそれを認めることができるには、 数がほぼ確定していなければ説得力が無い。 情報収集に長けた忍びが、その裏づけを取らないはずが無かった。 タンの目の前が暗くなる。 いったい、いつから。 いや、どこから?。 20年前の竜神の迷宮事件、 あの時、倒したおびただしいならず者たちは、 必ず、女性冒険者たちの色々な情報を持っていた。 名前、出身、履歴、処女の有無にいたるまで。 王と王子を除く、大半の貴族、その配下の騎士団、御用商人たちも、 そろってギルドに協力していたからだ。 −−−あれは、国を挙げての、陵辱人身売買ゲームに過ぎなかったのだ。−−− 『みんなは・・・何のために・・・』 悲痛な慟哭が、草原に吸い込まれていく。 タンは、賢者に生まれたことを、 今日ほど呪わしいと思ったことは無かった。 いっそ、何も知らないほうが良かった。 何も知らずにいれば、こんな思いはしなかっただろうに。 草が顔に当たる、 涙がその上を伝い落ちていく。 いくつも、いくつも、柔らかい輝きを散らしながら。 そっと、優しく、手が背中をなでていた。 「こいつが、何かわかるか?」 ようやく落ち着いてきたタンに、 ハデスは胸元から細いチェーンを引きずり出した。 その先には、白い犬歯がついていた。 明らかに、人間のそれ。 「あたしを玄室から助け出した男だよ。 子供のときに出会った思い出を武器に、 たった一つの命を盾に、 不可能と戦って、勝ちやがった。」 あたしはずっと見てた・・・こいつが骨になるまで。 人から、物へ。 人の姿が崩れ、虫がわき、腐り、そして流れ落ちていく。 その全てを、ただ見ていた。 だけどこいつは、ずっと笑ってた。 ある日、この歯がコロンと落ちたんだ。 真っ白い犬歯が、キラッ、キラッて光りながらさ。 あたしの方へ、歩み寄るみたいに、 ヒザに当たるまで、止まらなかった。 そのとき分かったよ。 こいつは、笑ってたんじゃねえ、笑ってくれてたんだ。 自分が嬉しかったから。 あたしに、一生けんめい笑いかけてくれてたんだ。 あたしも、自分が嬉しかったから、 ずっと、そこにいたんだって、気付いた。 たまんなかったよ、 震える手で、その歯を抱いた時、 最高にイッちまった。 身体の芯が、煮えたぎるみたいに熱くなって、 涙が、止まんなくて、 何度も、イッちまったよ。 どんな魔法も、これにはかなわねえ。 ハデスはカオス。 正義や道徳律などで動くつもりはサラサラ無い。 「アルムは本気だぜ。 自分の残り少ない命を最後の一滴まで賭けて、 宇宙でもっとも愛する神さんのところに召されるまで、 戦い抜くつもりだ。 止められるか?、そんな思いをよ。」 ありったけの力と信仰を武器に、広大な地域を統一し、 その後継者たちを選び抜き、己の後を託せる軍団を組織し、 その実力を本物にするために、彼女はここへ戻ってくる。 本国の教団の連中に、本物の実力を見せるために。 大海を越えた、教団の大規模な交流を行うために。 すべては、教団と信仰の未来のために。 そのための生け贄がクルルミク。 「おもしれえじゃねえか。」 笑う白い犬歯が、牙のように光った。 ハデスは、アルムの全存在を賭けた本気を認めた。 だから、協力した。 クルルミクがどうなろうと知ったことではない。 止めたければ止めてみればいい。 ハデスは、アルムの本気がどこまで突っ走るか、 見てみたかった。 ボックスの歯に触れた瞬間の、 思いの輝きに魅了された感覚、 それを再び見たいと思った。 「だがな、勘違いすんなよ。 誰でも、自分のした事からは逃れられねえんだ。 人だろうと、国だろうと、絶対にな。」 タンは小さくため息をついた。 『分かっている』 単なるアルムの狂気だけが、全てではないのだ。 クルルミク自身がしでかしたこと、 それが今、問われようとしている。 激しい無力感にさいなまれながら、 タンはハデスと別れた。 『王都には近づくなよ、命が惜しかったらな』 ハデスのぶっきらぼうな忠告は、 タンへの精一杯の心遣いだった。 自分は何と無力なのだろう。 何も止める理由も方法も無い。 何より、自分の気力すら消し飛んでいた。 ただ、わずかでも被害が少なく済むよう、 祈るほかに無かった。 『もし、私が何かをすれば・・・』 『分かっているだろう、そのまま災厄は村をも襲うだけだ。』 久しぶりに、タンの舌に刻み付けられた賢者の知識が応えた。 『賢者の知識など、現実の前には無力なものだ。 それでもなお、何かできる瞬間を祈りながら、智を磨くしかない。』 カツ、カツ、カツ、 ハデスが足を止めた。 さほど大きくないくぼ地の中で。 何の音も無く、気配も無く、そして虫や生き物の音すらしない。 ただ、おびただしい人の影がその場に立ち上がった。 「導師」 「グル、グル、」 「導師さま」 無数のささやきが、その口もとからかすかに流れた。 無機質なガラスのような目が、 その瞬間だけ人の色合いを帯び、またガラスに戻る。 ハデスの足元に、栗色の髪の若者がうずくまる。 「導師様、お久しぶりです。」 若い獅子のように精悍な若者に成長したマーラが、 心底憧れのまなざしを上げた。 「久しぶりだな、よしよしあたしの小姓はお前だけだからな。」 獅子の顔つきが、急に犬のように嬉しげに笑った。 そして、鮮やかな緋色の服が、 風にひるがえった。 「おひさしぶり、ハデス。」 アルムが、にっこりとわらっていた。 無数のガラスのような瞳の真ん中で。 それはまるで、 地を埋め尽くす軍隊アリを率いた女王アリのようだった。 今、邪神の軍勢に史上最悪の賢者が加わる。 FIN