『クルルミクを守れ!』その2 byMORIGUMA その日、6人の竜騎士たちが、 偶然というには出来すぎのタイミングで、戻ってきた。 『やはり運命の歯車は回りだしている』 カードは思いつくかぎり最大の災厄を示していた。 これほどの大災厄となれば、 その予兆を読み取る者が、 ハイウェイマンギルドやグラッセン側にいないとは言い切れない。 『戦姫』クラウ、シュリ、エルタニン、三人の竜が急いで呼び寄せられ、 その夜は、普段よりはるかに多いかがり火が用意された。 コネのあるエイティネシスが、王宮に頼んでそれらの準備を整え、 竜騎士たちが、夜空を旋回して、ギルドや暗躍する者たちを威圧する。 王宮づきの魔術師たちも、奇妙な予兆にとまどっていたため、 エイティネシスの請願を、後押ししていた。 ただし、 『ギルドが異常な行動に走ろうとする予兆があるため、それを未然に抑える』 という目的を告げてある。 また、残る『白竜将』ディアーナ、『銀竜』クレール、ダイアナ3名には、 冒険者としてクロジンデが頼み込んだ。 『クルルミクのためにも、今戦ってくれている冒険者たちのためにも、 もちろん、私たちのためにも、リィアーナの協力は絶対に必要なんだ。』 もちろん、ウソはカケラも無い。 本気でクロジンデはそう思う。 『今回の騒動には、絶対に無私の協力と気持ちが必要です。 わずかでも迷ったら、災厄は容赦なく殴りこんできますよ。』 エイティネシスの警告は、クロジンデですら恐ろしい。 「それに、あの最狂ペアを少人数で抑える戦力は、あなたたちしかない。」 あの二人は、口先だけでどうにかなるようなタマでは絶対にない。 必ず、対抗できるだけの実力がなければ、餌食にされるだけだ。 そして、人数を使えば、絶対にあの二人は徹底抗戦を行う。 三人は実戦たたき上げの現実派だ。 目の前に迫った脅威に、素早く気づいた。 なぜ、クロジンデたちが自分でできないのかも。 「了解したわ。私たちも、あなたたちとあの二人がぶつかる事は、 ぜひとも避けたいと思います。」 ディアーナが、ほんの少しだが青ざめている。 『カラミティVS最狂ペア』などという悪夢は、 冗談抜きで、クルルミクの存亡にかかわる。 「ただ、本当に止められるか?」 クロジンデと一番仲のいいエルタニンが、 心配そうにたずねた。 「私のPTはアルムたちとすれ違ったが、 屈辱と怒りで、周りは魑魅魍魎だらけだったぞ。」 アルムは玄室で、自慢の鎧を剥ぎ取られたらしい。 誇り高い彼女からすれば、爆発寸前の火薬庫だろう。 そこへ、怒りに燃え上がっているハデスとくれば、 「・・・火薬庫に導火線だな。」 キシャアアアアアア グオオオオオオオ ウオオオオオオオオオオ 竜神の迷宮出口は、怪しい気配が渦巻き、奇怪な音、絶叫、吼え声が、 あたり一面を満たしていた。 昼間だというのに、まるで夜のように暗く、 生臭い風が、あたりを吹きまくっていた。 長い髪を揺らしながら、わずかに青ざめた顔で、長身の女性が出てきた。 「やっと出ましたわね。」 脱出時に連れになったミヒランは、ガタガタ震えて、声も無い。 よほど怖かったのだろう、顔が涙と鼻汁でズルズルだ。 身体中に亡霊や、魑魅魍魎をまといつかせ、 アルムは、不機嫌な顔のままスタスタとあるいた。 「おつかれさまでしたわね。」 連れの事など気にもとめない様子で、 さっさと歩いていく。 それが、どれほどミヒランに救いになったか。 『こっ、こっ、怖かったよおおおおおっ!!』 できれば今すぐ、迷宮に逃げ込みたいぐらいだった。 「おつかれ」 木の枝をくわえて、立ち木にもたれていたハデスが、 ぶっきらぼうに声をかけた。 ほんの少し、アルムの顔がゆるむ。 「ほれ」 受け取った酒のビンが、喉を熱く焼いた。 「ふう、おいしい・・・」 空になったビンが、グシャッ、と手の中で握りつぶされる。 顔は笑っているが、そのドロドロの怨念たるや、 回り中の怨霊が荒れ狂うほどだ。 「ちょいとこねえか?。少しは気が晴れるぜ。」 ぶっそうな目つきのハデスに、 アルムの目も妖しく光る。 実に残忍に、嬉しそうに。 「あら、さっそく来ましたわね。いい気晴らしが。」 町に入ろうとして、三人の竜騎士が立っているのに気づいた。 「ほーほーほー、これはこれは、 お偉い竜騎士の皆さんじゃあありませんか。 私たちの出迎えですかぁ〜。ご苦労様ですねえ。」 普通の人間なら、その場に座り込みそうな気が、 3人から吹き付けてくるが、 ハデスは、オーバーに手を降り、目をぎらつかせながら、 アルムはクックッと笑いながら、 平然としている。 「な〜にがお出迎えよ、回り中狂った魍魎だらけで、 どこへ殴りこもうってのよ、このアバズレ。」 「うるせえ、“行き遅れ”の“厚化粧”。」 核爆発(ティルトウェイト)並みのNGワード二つ。 ちなみに、ハデスは化粧したことすらないから、なお悪い。 ジャキッ ディアーナの広い額に、ぶっとい血管が浮き上がり、 秘蔵の剣ドラゴントゥースが、つかにある血のような宝玉を開いた。 パンッ ハデスがにやっと笑うと、左手のひらに、右の拳がたたきつけられ、 その姿が数十にブワアアッと増えた。 それから何が起こったのか、 見たものは、目がくらんでひっくり返ったらしい。 閃光と、衝撃と、熱波が、凄まじく交差したと言うが。 マントの下は、全裸のアルムが、 けたたましい笑い声を立て始めた。 「キャハハハハハハハハハハ、キャハハハハハハハハ、」 白目を剥き、痙攣するように手を降り、 天に向けて、 狂気の笑いを立て続けに放つ。 陰鬱な風と、生臭い妖気が、雲のように湧き出す。 クレールの剣が轟音を立てた。 振りぬいた刃が産む、重戦士すら真っ二つに出来る衝撃波は、 妖気に吸い込まれて消えた。 真っ黒い雲が、さらに凝縮し、 無数の巨大な蛇と、ドクロが宙に舞い出す。 クレールが剣を、右からけさがけに振り下ろす、 ダイアナの銀の剣が、左から追うように振りぬき、 クロスした瞬間に、強烈な剣光を放った。 破邪のクロスと呼ばれる、 対妖魔用の強力な剣業だった。 竜騎士は、協力しあうことで、 恐ろしい技をいくつも作り出している。 普通の竜騎士なら、4,5発打つのが精一杯のそれを、 二人は十数発続けさまに放ち、 宙を舞う魔物たちを残らず消し去った。 「ちっ、さすがに竜騎士トップだけはあるな。」 「ふむ、まあ、さすがとほめてあげましょう。」 ぶすっとして、二人はつぶやいた。 何しろ、竜騎士たちに怒気はあっても殺気が無いので、 ちょっと毒気が抜けてしまう。 鬱憤は、思いっきり何かすると、かなり減る。 「ちょっとは気が晴れた?、アバズレ。」 「ふんっ、行き遅れがうるせえ。」 剣の衝撃波がハデスを襲うが、幻影が10ほども出て、 8つが消された。 「ちょっと来なさい、あとは酒で話すわよ。」 「ふんっ!」 「ま、いいか。おまえたち、後はあいつらと遊んでなさい。」 身体中にからみついた魍魎たちが、 名残惜しそうに頭を下げると、 遠くで見張っていたハイウェイマンギルドの部隊に、 ウンカのごとく、一斉に襲い掛かった。 ウギャアアアアアアアア 1000以上いる部隊から、血も凍りそうな叫びが上がったが、 「あら、悲鳴が薄いわね。」 裸の身体を包むマントのすそを上げると、 黒い16本の脚をもつ、50センチを超える蜘蛛が、 足元の闇から無数に生まれ、 カサササササササササササササササササササササササササササ それこそ、地面が真っ黒になるぐらいの大群となって走り出した。 悲鳴は、さらに凄まじくなった。 この日、ギルドはランクを一つ落としたと言われている。 続く