『クルルミクを守れ!』その1 byMORIGUMA −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− クロジンデはリィアーナに約束を守るよう念を押すと、 憲兵に引き渡さずにこっそりと解放した 「へ?な、なんで?」 クロジンデはただ黙ってリィアーナを見つめるだけだった 「うう、わかったわよ…… まさかホントに……信じてるって…… くそ、あたしだってね、こう見えても人様との約束を破った事は無いんだ。 引退引退。怪盗リィアーナは今日でオシマイさね」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− リィアーナが立ち去った後、 ミラルドがクロジンデの方を、意味ありげに見た。 自信たっぷりそうに見えたクロジンデだが、 急に口をへの字に曲げると、軽くため息をついた。 「ああ、わかってる・・・あの大山猫をどうにかしないとな。」 「大山猫って・・・ボクじゃないよね?」 シャーロウが変な顔をしたので、おかしそうにクロジンデが笑い出した。 銀髪をぽんぽんと叩く。 「シャーロウぐらいなら可愛いもんさ。ハデスのことだよ。」 うっと、シャーロウが酢を飲んだような顔をした。 「あの〜、お話中すいませんが、 今連絡で、アルムさんが玄室を脱出したそうです。」 ミューイの無邪気な声に、クロジンデ、ミラルド、シャーロウまで、 首根っこを縮め、冷や汗が流れる。 妙に予感があった、絶対アルムは戻ってくる。 地獄の底からでも、鼻歌を歌いながら戻ってきかねない。 「ん・・・まあ、助かったのはいいことだ・・・」 「クロジンデ、無理に偽善を言わなくてもいいわよ。マジでやばいわね。」 「なんと言ったらいいか・・・リィアーナ生きてられるの?。」 よりにもよって、リィアーナは、 アルムが拉致された直後のハデスたちから、装備を盗み、からかったのだ。 カオスの連中は『脱落した仲間を救い出しに行く事は無い』、 という建前にはなっているが、理屈だけではかれない者も大勢いる。 『殺すっ!、あのやろう殺すっ!』 激怒するハデスの咆哮は、凄まじかったらしい。 大山猫どころか、巨大な雌トラより始末が悪い。 リィアーナの事をわずかでも聞いたが最後、 草の根分けても探し出すだろう。 アルムがいれば、さらに修羅場か屠殺場だ。 短い間に、あの最狂コンビがしでかした騒動は、 クルルミクでも恐怖の的になっている。 考えてみたら、やっかいですむような問題では無さそうだ。 「すまないのだけど。」 めったにテーブルを動かない賢者エイティネシスが、 かすかに困惑した目をして、声をかけてきた。 サラリとゆらぐ、きらめく黒のローブが、 妖しいほどに美しかった。 だが、彼女から声をかけてくるなど、 冒険者の誰にも無かった事だ。 「な、何かご用ですか?」 クロジンデが珍しく緊張していた。 エイティネシスの存在感はそれほど大きい。 「あなたたち、何をしでかしたの?」 全員、えっ?という顔。 「さっきからカードが・・・」 タロットと呼ばれる二十二枚のカード、 時の流れや、人の浮動を読み、 星のめぐりから未来を読み解くと言うカードである。 魔法の媒体にもよく使われるらしい。 白くほっそりした指先が、 よく切ったカードを無造作に素早く並べていくが、その内容が凄まじい。 「ちょっ、ちょっとこれって」 少しかじった事のあるミラルドが、声を上げた。 カードに関心の無いはずのクロジンデも眉をひそめ、 シャーロウにいたっては、まん丸に赤い目を開いて青ざめている。 「え〜と、訪れる死神、待ち受ける悪魔、破滅の塔がそびえ、 狂気の魔術師が荒れ狂い、あらゆる疫病と災厄が覆いつくす・・・・。」 ミューイが無作為に並べられたカードを、 なにげなく読み上げながら、だんだん声が小さくなる。 「さっきから二度、これと同じ組合せが出たの。 それもあなたたちが、ここ(ドワーフの酒場亭)に来てから。」 つまり、無作為の占いにもかかわらず、三度出たという事。 偶然にありうる確率は、無限小に等しい。 ましてやエイティネシスのカードである。 これを偶然などと笑い飛ばせるほど、彼女たちはバカではない。 「あ・・・・?!」 一斉に声を上げた。 考えてみたら、一番やばい組合せではないのか?。 リィアーナを挟んで、このPTと最狂ペア、何しろ『災害存在』までもいる。 エイティネシスに、かいつまんで話をしながら、 だんだんクロジンデはあせりの色を浮かべ始めた。 エイティネシスは、それ以外にも二つ、 極めて危険な要因を読み取っていたが、災いを呼ばぬために黙っていた。 こういう時『口は災いの元』なのである。 賢者は、必要な時こそ、口を開かねばならない。 「まちなさい、カン違いしてはだめよ。」 立とうとしたミラルドを、重く静止した。 短い間だったけど・・・と口まででかかった言葉も、 見事に止められる。 自分が『災害存在』だから、いなければと思ったのだ。 「申し訳ないけれど、あなたはこのカードでは悪魔の位置にいるわ。」 「だから・・・」 「あなたが外れたら、止める者がいなくなるのよ。」 さすがに頭脳明晰なクロジンデと、長いつきあいのミューイは、 その意味を理解した。 ミラルドは、『災害存在』とはいえ、 その災厄を、最小限に止める役目も常に果たしている。 これまで彼女がかかわった数々の、世界滅亡クラスの大災厄、 それを、ギリギリで人類存続を許してきたのも、 ミラルドの、直接なり間接なりの活躍あればこそだった。 「あなた方が、リィアーナを救った時点で、すでに時は動き出してしまったの。」 時は戻らない、時を戻す無駄なあがきをするぐらいなら、 さっさと次の行為を行うべき。 ミラルドも、そのことはいやと言うほど知っている。 知っているというより、体験し尽くしている。 『なるほど・・・』 シャーロウは、もう一つの可能性を口に出す事をやめた。 リィアーナを殺す、あるいは差し出すという選択肢は、 クロジンデとミラルドが絶対に許すまい。 そして、やはりミラルドがからむ事になれば、 絶対に災厄は不可避になる。 「うふ、いい娘ね・・・」 エイティネシスはまるで紙を読むように、 シャーロウのかすかな目線から、その心を読んだ。 慌てふためくシャーロウ、周りはキョトンとしていた。 「まだまだ修行が足りませんよ。」 赤くなったシャーロウは、深々と頭を下げた。 読まれたぐらいで動揺するようでは、本気で修行が足りない。 「私も修行が足りないのは重々承知しておりますが、 さすがに時間がありません。もうすぐ二人はここに現れるでしょう。 そうすれば、起こるべくして起こることになります・・・。」 クロジンデが、珍しく深々と頭を下げる。 必死に教えを請うていた。 この思い切りの良さ、人を見込む目はなかなか将来性豊かと言えよう。 エイティネシスも、かすかにうなづいた。 「このカード、ほとんど逃げ道はありませんが、 唯一『空を舞う者たち』だけが、救う道を開いています。」 「竜騎士たちか!」 続く