それは暗い迷宮の片隅での出来事。
そのならず者はある女冒険者のパーティの休息中を狙おうと、息を潜め、足音を殺し暗がりから彼らに近寄ろうとしていた。狙う標的は竜騎士のディアーナ率いるパーティ。まだ結成間もない彼らであれば連携も拙いハズ。そんな目算を立てて、男は揺れる焚き火の側で寝息を立てる女達に襲い掛かろうとしたその時だった。

「!?」

暗転する視界、口元に押付けられた布とそこから香る薬品臭。急速に奪われていく意識の中、男は自分の狙っていた女達の人数が、自分が想定していた人数よりも一人少ないと言う事実を頭の片隅で辛うじて認識する事が出来た───







次に男が頭の奥に残る鈍痛と共に目を覚ました時、既に男はその腕を後ろ手に拘束されて硬く冷たい石畳の上に転がされていた。そして暗がりに目を凝らし周囲を見やると、丁度自分の足元の方向に自分を見下す姿勢で一人の女が立っていた。見覚えがある。ランカーとしてギルドにマークされていた事もあるくノ一フウマだ。
逃走に成功したと聞いてはいたが、百人を越えるギルドメンバーによる陵辱を受けている。再起は無いとこの女の存在などすっかり忘れていたのだが。
と、覆面の下でフウマが口を開いた。月夜にガラスの鈴が音を奏でたような、美しくも暗い声だった。かすかに香る女の体臭は果実のようにほのかに甘く、まるで絡みつくような色気を伴っていて。

「…運が無かったな。それがしが見張りに立つ時を狙うとは。生憎今のそれがしはお主達をただ切り殺して終らせてやる程、優しくは無い」

暗がりで尚際立つ女の眼差しは暗い怨嗟の念に光り、目の前にいる男を男としてでは無く獲物として───否、一匹の薄汚い害虫として見つめていた。そして文字通り害虫を踏み潰すように男の股間を蹴り潰すように強く踏みつける。

「ぐぅっ…えぇっ!?」

男が苦鳴を漏らしたのは無理からぬ事だろう。まるで命乞いをするように涙目でフウマを見上げる男に対し、フウマは凍りのように冷たい眼差しのまま覆面を下ろして男の顔に唾を吐きかける。びちゃりという生暖かく濡れた音に男は悔しそうに歯軋りをして。

「この…クソアマッ…こんな事をしてただで済むと…」

「黙れ」

冷たく吐き捨てると女の爪先は男の睾丸を踏み潰しかねない強さで踏みにじり、男は声にならぬ声を上げて石畳の上でのたうつ。そしてフウマは身を乗り出し、男の眼窩に指をかける。言外に自分に逆らえばこの目を抉り出し、語り草になるような死に様を晒させてやるとでも言うように。

「人を探している…貴様らが女達を売り渡した先のリストを寄越せ」

エレシュ、ジキル、フェリル、ロメリエ。自分と共に迷宮に挑み、そして男達に捕らえられ陵辱の限りを尽くされ、そして性奴となり果てた仲間達。あともう少しだけ自分の力があれば、あと半歩自分の刃が深く届いていれば。あるいは事態は変わっていたかもしれない。そうすれば自分以外にも助かる者がいたかもしれない。
少し前のフウマであればそんな事は考えもしなかっただろう。だが、自分は誓った。エレシュのための刃になると。主のみが捕われ、自分がただのうのうと生き延びる。そんな事が許せるはずは無かった。
エレシュと、そして彼女と共に戦った仲間達を助け出したい。だから自分は新たな仲間を求めた。それがかつての仲間達とは違う道を歩む結果となったとしても。それでもフウマは彼らの力になりたいと思ったのだ。

「しっ…知らねぇよ…俺はそんなの持ってねぇ…!経理の奴とかボスでもねぇと…」

「フン…ならばギルドそのものを潰すのが一番てっとり早いと…そういう事か」

女はさらりとそう言ってのけると、男を見下す目をそっと細め、そして自分の足の下に感じる肉棒の感触に蛇のように舌なめずりをした。

「さて、正直に話した褒美をくれてやろうか。そろそろ薬も効果を発揮し始める頃だ」

「えっ…?なっ…なんだっ…!?うわああっ!?なっ…何しやがった!?」

男が悲鳴を上げたのも無理は無かった。一瞬目の前が真っ白になるような熱が体の中で渦巻いたかと思うと、それは焼け付くような衝動と共に股間に集中する。自分でも予想だにしなかった欲情が沸き起こり、デニム地のズボンの下からファスナーを壊して自分のペニスが飛び出すのではないかと錯覚する程に硬く大きくそそり立つのを男は自覚し、戸惑う彼を嘲うような微笑を浮かべながらフウマは男の疑問に答える。

「薬物を使うのは貴様らの専売特許ではないということだ…本来であればそれがしの指先のみで貴様を地獄のような快楽の中に突き落としてやる事も容易いのだが…生憎お主達が無茶をしてくれたおかげでそれも適わぬ。いささか無粋かもしれぬが文句は言わせぬぞ」

そう言って女は自分の両手首を確かめるように擦った。防具によって外側からは判らないが、女の手首には深い傷がある。ギルドに捕えられていた時に逃走を防ぐためにと、男達が陵辱に際し女の両手首の腱を断ち切ったのだ。助け出された後回復用の魔法で腱を繋ぎはしたもののダメージは深く、おかげでかつて程の冴えで忍びの技を使用する事は適わなくなってしまっていた。
女は草鞋を脱ぐとその白いつま先で、デニム地の上から『つ…』と男のペニスをなぞる。それだけで男の身体はまるで童貞の少年が口腔奉仕を受けた時のように激しく跳ねた。その様を目にしながらフウマはその眼差しに淫蕩な色を浮かべつつ自分の乳房を片手で掴み、ぎゅっと力を込めて揉みし抱く。沸き立つ女の香はより甘く。その香こそが男の性欲を掻き立てる薬の正体だった。

「貴様らがこの体を散々に弄んでくれたお陰でな…毎夜毎夜、事あるごとに男を欲するようになってしまった…全く憎々しい話だ」

その言葉と共に女の瞳に凄絶なまでの憤りを込めた殺意と、獲物を貪ろうとする獰猛な欲情とが同居する。
「ひっ」と小さく、怯えたように男の喉が鳴った。怯えたのは女の眼力のせいのみではない。その目で見つめられて尚飢えを露にそそり立つ己の肉棒の貪欲さゆえだった。
フウマの足の裏が男のペニスを腹部に押付けるように踏みにじれば敏感な亀頭が布地と腹に擦れ、じくじくといつ達してもおかしくないほどの先走りの蜜が溢れる。制御できぬ性欲がもたらす息苦しさに思わず男が喘ぐ様を見てフウマはクスクスと喉を鳴らすようにして笑う。

「フ…ハハ…ハハハハ…無様だな?そんなに女が欲しいか?ン?…判るぞ?お主がその薄汚い肉棒から精液を吐き出したくてうずうずしているのが…ほぅら、それがしの足の下で貴様のモノがびくびくと疼いているではないか。全く薄汚い…下司な男だ」

嘲笑と共にフウマは唇を小さく開き、喘ぎを上げた男の口内に己の唾液をとろりと垂らす。思わずそれを飲み込んでしまった男は羞恥にかっとなり、必至にそれを逃れようと口を閉じて顔を振ればその表をフウマの唾液に汚されていく。
そして女は爪先で男のペニスの裏筋をなぞり、亀頭との繋ぎ目の辺りで円を描くようにする。そのまま亀頭を擽りながら足の親指と人指し指を開くとペニスの胴部をそれで挟み、ゆっくりとそれを扱き出して。

「うあっ…やめ…やめろてめぇっ…!」

女に足で性器を弄ばれ踏みにじられ、その刺激で達してしまいそうになるという屈辱的な状況にならず者は焦りを覚えてフウマに向けて力ない言葉をかける。その尚早に満ちた訴えを女は鼻で笑って見せた。

「一体何度…女達は貴様らにそう頼んだ?やめてなどやらぬさ…貴様にも味わってもらおう、踏みにじられて屈辱の中絶頂に達し、そして快楽と屈辱に心が壊されていく激痛を」

言うや否や女は爪先で男のペニスを扱きながら、かかとで強く男の睾丸を踏み転がした。

「うぉっ…ぐっ…うおあぁぁっ!?」

”ビュクン!ドビュッ!ビュルッ!ブビュッ!ビュルルルッ!”

激しい脈動と共に男は目も眩むような絶頂に達した。尿道を走るゼリー状の白濁。長く続く脈動は大量の精液をジーンズに染みを作るほどに下着の中に吐き出してしまう。
生暖かい感触が男の下腹部に広がり股の間にねっとりと流れ落ちていく不快な感触と、踏みにじられる事で絶頂に達してしまうという屈辱に、男はかすかにその目に涙を滲ませて。

「て…め…覚え…てろ…?絶対、後で後悔させて…」

「ああ、覚えていてやろう」

男の言葉に女は短いいらえを返して、そして冷たい欲情に満ちた声で続けた。

「貴様らのお陰でそれがしは肉欲に溺れる心地良さを刻まれてしまったのだ…しかし今はそれに溺れるわけにも行かぬ。火照る体を慰める夜には貴様の無様な姿を思い出す事にしよう」

そう言って女は乳房を抱いていた手でその柔らかな胸を肌蹴させる。白く滑らかなきめ細かい乳房がぷるんと弾み、その先端には桃色の果実のように乳首がつんと尖っている。男であれば思わずそれを鷲掴み、吸い付きたくなるようなその光景に男は知らぬ間にごくりと喉を慣らし、そして再びフウマの失笑を浴びる事になった。男の股間は射精を終えたばかりであるにも関わらず、先程と変わらぬ硬度でそそり立っていたからだ。

「女に嬲られて感じてしまったのか?ハッ…下司な男供だとは思っていたがとんだ変態だな。だがそれもいいだろう…貴様ら男がイキ狂う様というのもなかなか興味深いからな」

女はそう宣言すると男のベルトを解いてジーンズのホックを外してやる。すると屹立する男の肉棒が自らの力でファスナーを押し下げ、下着を押し退け姿を現した。同時にむっとする男の精の臭い。息詰まるようなその臭いにフウマはわざとらしく眉を潜めながら、露にした自分の乳房で男の肉棒を挟み込む。

「ぅ…お…」

男は乳房のきめ細かい滑らかな質感と柔らかな弾力、女の肌のひんやりとした、だがその内に男を蕩けさせるような熱を帯びた乳房に屹立する性器を挟まれた感触に声を漏らした。
『むにゅっ、むにゅっ、にゅるり、むにゅり』
男の精液をローション代わりにすると、フウマは自らの乳房を両手で圧迫して挟まれたペニスを押しつぶし、そしてねっとりと扱く。彼女が男を虜にするための技術を身につけていると言う事もさる事ながら、彼女の使用された薬物の効果もあるのだろう、いつもより大きくそそり立つペニスの先端が白い胸の谷間からひょっこりと顔を出していた。女の舌は己の唇をぺろりとなめるとその先端部に『ちゅうっ』と音を立てて吸い付いて。

「くあっ…ぅっ!やべぇ…っ…なんだ、これ…!?」

男の尿道をちろちろとまるで蛇の舌のように擽る女の巧みな舌使い。カリ首を濡れた唇で啄ばみ、亀頭の丸みに添わせて舌をぺったりと押付けるようにしてから、にゅるりとそれを舐め回す。
『じゅるるっ、じゅぷっ、ぬちゅっ、じゅぷぷっ、じゅびっ』
激しく淫らな音を立てて男の性器が吸いたてられて、女のいいように嬲られる男は聴覚までもその卑猥な音色に犯されていく。
このままでは本当にこの女に搾り尽くされ殺されてしまう。そんな恐怖を感じながらも男はその目を女の両の乳房に挟まれた自分の分身から逸らす事ができなくなっていた。
それに加えて甘く香る女の香と、口内に広がる女のとろけるような唾液の味わい。
嗅覚も、味覚も、触覚も、視覚も、聴覚も。今にも達しそうな程の勢いで股間にそそり立つペニスは、男の五感の全てが女の陵辱により支配されている事の証でもあった。

「ンッ…残念だったな。それがしの腕がかつての通りに動けば恐怖を感じる間もなく貴様の気を狂わせてやれたものを」

断じて哀れみなど感じていない凍て付いた瞳が細められ、女はその犬歯を見せつけるようにして口を開いた。脊髄に氷柱を突き立てられたような怖気が男を襲う。
次の刹那、女の舌が男の尿道をくじり、その犬歯が男のカリをなぞるように歯を立てたのだ。

”ぶびゅるるっ!ぶぴゅっ!どぷっ!どくんっ!びゅっ!びゅーっ!”

「がっ…あ…くぁ…はっ…」

コントロールなどできない快楽。達して間もないというのに再び噴水のように大量に放たれる精液がフウマの口内に、頬に、髪に降りかかる。外側から乳房にペニスを扱かれ濃厚な精液に尿道を擦り上げられ、息もできぬ程の快楽に男の腰はひきつるように跳ね上がる。絶頂に至る快楽と、自分の体が自分の支配を離れ女の物になってい負の快楽にいたたまれぬほどの恐怖を感じる。

「くくっ…やれやれ、だらしの無い…この程度で達するようでは見張りの交代の時刻まで貴様の命は続かぬぞ?」

じゅるり。そんな音を立ててフウマは男の放った精液を啜り上げた。いまだに嫌悪感はある物の、苦味と臭気と塩気ととろみを帯びたそれを口にする度に陵辱のたびに感じてきた快楽を体が自然と思い返し、フウマの秘所をしっとりと濡らして花弁をほころばせていく。
男は少しでも息を整えようと、そしてこの女から逃れようと力の入らぬ、拘束された体でじたばたともがきながら必死の形相でやめてくれと訴える。女はやめてなどやらぬといらえる。その一言で男の命運は尽きたものと同じだった。

「ひっ…てめっ…な…何しやガッ・・・」

戸惑いを含んだ男の声。男は自分でも思いもよらぬ姿勢をとらされ、困惑と羞恥とを綯い交ぜにしたような表情を見せていた。
フウマは男の両の膝の裏に手を入れると、まるで前屈でもさせるかのように男の両膝を男の顔の側面まで持ち上げる。いわゆるM字開脚という姿勢だ。そうなると男にも二度の射精を終えていささか頭を垂れたペニスが目に入った。が、突如としてそれが再びびくびくと震え、今までにも増して硬度とサイズを取り戻し始めたのだ。
原因は女の舌だ。フウマはその姿勢を男に取らせると同時に男の下着もまた引き下げて下肢を露にさせると、男の尻の谷間に舌を差し入れその菊座を舌でなぞり、鼻先で睾丸を転がす。唇は男の蟻の門渡りの辺りを柔らかく噛み、なぞるだけだった舌はやがてつぷりと男の菊座へと押し入りねっとりと濃厚に掻き回す。
経験を重ねたくノ一の巧みな舌使いを前にしては、生死を分ける分水嶺に自分がいるとわかっていてもただの男が一対一で反撃する術などあるはずが無かった。

「これだけ吐き出したと言うのに…まだ物欲しげにしている。己の命も危ういというのに全く愚かしい事だ…では…次はそれがしの女陰で絞り取ってやるとしようか貴様もそれを…望んでいるのだろう?」

女の唇はまるで三日月を刻みつけたかのような笑みの形へ。するりと履いていた下着を脱ぎ捨てると、男の前に女の秘所が露となる。刈り揃えられた銀色の恥毛に隠されていた女の花弁はまるで蕾が綻ぶように桃色の秘肉を晒し、夜露に濡れたかのように淫蜜を滲ませている。フウマのしなやかな指が花弁を左右に広げれば、新たに溢れ出す淫蜜がこぷりと音を立てて白い内腿へと滴り伝い落ちていく。
そこから香る香まで男には媚薬と化すのだろうか。男の目はそこへ釘付けとなり、ペニスは挿入を待ち望むようにびくびくと震え、今にも達しようとするかのように先走りを滴らせていた。

「たの…む…頼む…俺が悪かった……だから、だから…もう…」

哀れみさえ誘うような無様な表情で、涙さえ流して命乞いをする男の腰をフウマが跨ぐ。そしてその掌を男の頬に添えるとその唇に軽く口付けて。

「なかなか嬲りがいのある顔をしている…なあに、遠慮無く声を上げるといい。二人きりなのだからな」

『ずにゅるるるるるるっ』
女の膣が一息に男のペニスを飲み込んだ。敏感な粘膜の擦れ合う感触と同時に、女の子宮口を亀頭が突上げる感触。沸き立つ快感に思わずフウマは息を飲み、それに呼応するように女の膣肉が男のペニスを啄ばむように一斉に締め付ける。

”ぶびゅっ!どぷごぷっ!びゅっ、びゅーっ!びゅるるるっ!どぷっ!”

絶頂間近煮まで迫っていた男のペニスはたちまち爆ぜた。まるで女の体と溶けて一つになってしまったかと錯覚するような熱く濡れた快感を生み出す結合部。女の胎を満たすかのような激しい脈動を伴う射精。征服欲を満たす交わりではなく支配されるための交わり。命の危険さえ感じるこの性交に、男の身体は死を覚悟して少しでも遺伝子を残す確率を上げようと、いきり立つ男のペニスを萎えさせてはくれない。

「んぁっ…ハッ…フフッ…いい、ぞ…?貴様が己の命と引き換えに達する様は…なるほど、お主らが他者を陵辱する事に拘る理由…判らぬでは無い…な……はっ…どうやらまだ足りないと見える…くくくっ…そんなにそれがしの子袋に種を付けたいか?そんなに女を孕ませたいのか?射精する事しか脳の無い無様な雄豚め…」

フウマは互いに繋がったまままるで石臼でも引くかのように円を描いてその腰を揺する。膣を複数箇所で締め付けながらにゅるにゅると無数の肉ひだで扱き立てつつ、掌で男の睾丸をやわやわと揉み弄びながら一滴残らず搾り取ろうとしているようだ。
射精を終える度にどっと襲ってくる虚脱感。吸われているのは精液だけでは無い。明らかにこの女に命まで貪られている。いわゆる腎虚が引き起こされるまで30分もあるとは思えない。それがこのならず者の余命であった。
最早完全に男の身体はすでに男の意思を離れ、己とは関係なく死の快楽を貪ろうとしている。許されているのはただ絶望する事と、肉体同様快楽に溺れる事のみだ。選択の余地などあるはずも無い。男は薄れ行く意識の中、残る最後の力で女の腰を突き上げ、命が途絶えるまで女に奉仕し続ける事になった。






「フウマさん、持ち場を離れてもらっては困ります!」

夜営地へ戻ったフウマを一喝したのはパーティーのリーダーであるディアーナだった。不意打ち等を受けることが無いよう周囲に罠を仕掛けた上でその場を離れていたとはいえ、目を覚ました時に見張りのフウマがいなくなっていたのだ。不安を覚えたのは当然だろう。

「すまない…少々厠へな。ならず者達が徘徊する場所で用を足すわけにも行かぬであろう?」

「もう、それならそれでちゃんと一声かけてから出て下さいよ……あ、それじゃあ見張り、交代です。しっかり休んでくださいね?」

ディアーナに礼の言葉を返すとフウマは自分の寝袋の中に潜り込む。焚き火の光に照らされることを嫌うようにもぞもぞと身体を丸めて、そして一度下唇を噛む。ぽろりと一滴、フウマの頬を涙が伝った。それを皮切りにぽろぽろと止めどなく。フウマはその手で自分の体を抱きしめ、新たな仲間達に聞こえぬように小さく呟く。

『許してくれ…エレシュ…皆…それがしこんなにも汚れてしまった…もう、もうお前達はそれがしを側に置いてはくれぬかも知れぬ…けれど…けれどきっと助け出すから…必ず助け出して見せるから…』

誰にも気付かれぬよう、フウマは泣いた。
遠く離れてしまった主のために。遠く離れてしまった仲間のために。遠く離れてしまった、二度と戻らぬ日々のため。主を失い友を失い、そして力までもを失った。だが、ただ一つ得た物を己の武器に。かつてよりも遥かに強い、怨嗟の刃をその胸に───忍びは再び死地へと赴いた。