<夢魔>


「・・・っ・・・ぁ・・・あ・・・」
 塞がれた唇から苦しげな声が漏れるが、その吐息すらもう一対の朱色の唇に貪欲に飲み込まれ、その言葉が外に溢れることはない。
「口を塞がれた賢者ほど脆いモノはないね」
 彼女のほっそりとした両手首は容易に右手一本で握りしめられ、頭上に押さえつけられている。その者に半身のしかかられただけで、傷の癒えていない身体は容易くベットに押し倒されていた。
「・・・く・・・あ・・・」
 まだ、あの時の傷は癒えていない。
 パーティーの誰にも明かしていなかったが、鈍い痛みが常にその身を苛み続けていた事も、あっさりと侵入者に身体の自由を奪われた理由であったに違いない。
「・・・ん!」
 突然の侵入。
 そして、有無を言わさぬ責め。
 明らかに相手は彼女を知っており、手馴れており、そして彼女には抵抗する術はなかった。
 もう・・・どれくらい、その様にされていただろう。
「あ!」
 空いた左手が、熟れる寸前の瑞々しい果実のような胸の膨らみを容赦なく愛撫し、尖った爪が痛々しく張り詰めた朱鷺色の実を摘んだ瞬間、しなやかな賢者の全身が硬く跳ね上がった。
「可愛い、ね」
 本気で跳ね除けるには痛みがジャマをし、そもそも今の彼女にはそんな力はなかった。乱れた着衣を気にしつつも、責め苛まれる事に耐えるのが精一杯の様子を眺める乱入者の眼差しは、冷徹なまでに澄んでいる。
「・・・あ・・・あ・・・ぁ・・・あ・・・」
 弱々しく身をよじり、懸命に声を殺そうとするが、百戦錬磨を相手にしては、その反応すら責めを増長させるものでしかない。
「・・・んっ・・・くぅ・・・はっ」
 同性であるが故に、その指や唇は何も知らない賢者自身よりもその身体を知り尽くし、容赦なく、繰り返し、何度も何度も弱味を責め続ける。
「や!」
 丹念に全身を愛撫する手が、ほっそりとした脇腹からスルスルと下に降りてきた瞬間、反射的に柔らかな太腿が恥らうように堅く閉じられ、間一髪その侵入を拒んだ。
「健気な・・・」
 ぴったりと閉じられた脚は、何ものの侵入も許すまいと、ふるふると震えながら、執拗な愛撫の手に抵抗している。
「・・・でも」
 カリっ
「!!」
 真珠のような歯が、強めに彼女の柔肌に噛みたてられた時、初心、というには潔癖すぎる乙女の肢体が反応し、懸命に閉じた脚の力が弱まったのは、やむをえない結末であっただろう。
「あ」
 ・・・・・・・・・・
 悪魔のような巧妙さでその手が滑り込み、賢者の最後の一線に添えられていた。
 悪魔のように優しく。
 悪魔のように無慈悲に。
「やめて・・・ください」
 何をされようとしているかを悟らぬわけにはいかなかった。うっすらと泪の浮かんだ黒曜の眼差しが哀願するが、それを見下ろす目は完全に征服者のソレである。
 懸命に両足を閉じる力を強め、その手の動きを制そうともがくが、既に致命的なまでの侵入を許していた。
「無駄な抵抗はやめたら?・・・これで、ちょっと指を動かせば・・・」
 そろり・・・
 ビクン!
 ほっそりとした指が軽く動いた瞬間、激しく彼女の全身が拒絶するかのように硬直する。
「分かった?もう、紫の髪の賢者は、この手中に堕ちている事が??この手に全てが握られている事を??」
 聡すぎる賢者は、その言葉の意味を無残なまでに理解し、数瞬、逡巡するように柳眉がしかめられる。
「力を抜きなさい」
 それは、無慈悲なまでの命令。
 もう一度、指が蠢く。がっちりと内腿に手は挟まれていたが、指の動きは留めようがない。
「・・・・・っ・・・・・・・」 
 ややあって彼女の全身から力が抜け落ちた。
 屈辱か、恥辱に震えながら両足の力が抜け、侵入者の手を自由にする。・・・暗い中でそれと分かるほど真っ白な肌は震えていた。
「いい子ね」
 完全に屈服した事を見てとったその者は、嗜虐の笑みを浮かべた。
 彼女を征服していたのは、左手のみ。左手だけで、彼女を手中に落としたのだ。
「滅茶苦茶にされたくないのなら・・・そうやっておとなしくしていること」
 嬲るようにその指先が微妙なダンスを踊り、その方面では全く熟れていない賢者の肢体を指先だけで跳ねさせる。軽く中に入り、また外に出、指先でなぞり、時に爪をたて、ただ最後の一線だけは貫かず・・・。
「・・・・・・・・・・」
 自らの意思に反して、己の身体を動かされるのを、若き賢者はただ唇を噛んで甘受するしかない。
彼女の運命は、既にその手中に堕ちていたのだから。
 ・・・・・・・・・・・・
 侵入者にとって、全くの未経験である彼女をコントロールするのは、赤子の手をひねるよりも容易い事であったに違いない。
「もう・・・お願いです。もう、許してください・・・」
 何度、哀願しただろうか。
 何度、懇願し、涙が流れ、自らの身体が自分の全く知らない反応を示すことに混乱し、自分がどうなってしまうのか分からない恐怖に震え・・・。
 ようやく侵入者が彼女から離れた時。
 何もかも搾り取られたかのように、ぐったりと痛々しく四肢を投げ出され身体は、愛撫の印も隠せず、秘めるべき処もその視線に全て晒され・・・
「・・・ぁ・・・」
 のろのろと、精一杯の力を振り絞り、両手で最低限の部分を覆う。
「だめ」
「・・・あぁ・・・」
 無慈悲な声と共に、その手が簡単にふりほどかれ、再び全てをその視線に曝け出される。
「何故・・・こんな・・・」
「何故?」
 抵抗する術のない賢者の問いに、侵入者は妖しく笑った。
「・・・趣味だから」
 その唇が、無抵抗の賢者の全身を再び這った時、とうとう彼女は責めに耐えかね、意識を手放し、
底知れぬ闇の中に落ちていった・・・。

 ・・・・・・・・・・。
「・・・夢?」
 けだるい感覚の中で目覚めた彼女は、痺れたような意識の中で周囲を見回した。
 相変わらず、あの時の傷がズキズキと痛む。
 着衣の乱れは、ない。
 軽く汗ばんでいるぐらいだろうか。
 ・・・予知夢?
 まさか。
 自分の心の欲求?
 まさか。
 そちらの経験が全くない彼女が、あれほど具体的な想像・・・妄想を巡らせられるわけがない。
「・・・・・・・・・・・・」
 軽く頭を振って、彼女はゆっくりと身を起こした。
 誰にも、この痛みが残っていることを知られてはならないような気がしていた。
 迷宮に潜る為の衣服に着替えようとするが、汗が不快な事に気付き、水浴びをしようと思いつく。
 ・・・・・・・。
 彼女が出ていった後のベットの上。
 彼女の香りが残るそこに、明らかにその紫の髪とは違う髪が数本落ちていたが、宿屋の者はさして気に止めた様子もなく掃除をすませていた・・・。
「大丈夫?もう、痛くない?」
 コトネが心配そうにフォルテに声をかけるが、彼女はいつものように笑顔を浮かべた。
「大丈夫です。もう、みなさんの足は引っ張らないですから」
 誰かと目があった時。
 それが誰であっても彼女はいつも同じ笑みを浮かべる。コトネはその無意識に浮かぶ笑顔が大好き
であったが、何となく引っかかる思いを覚え、もう一度賢者の瞳を覗き込む。
「??」
 黒曜の瞳が、不思議そうにコトネの顔を見返す。
「どう、したんですか?」 
「う・・・ううん、何でもない」
 ぶんぶんぶん、と元気よくコトネは首を振った。
「変なコトネさん、ですね」
 くすり、とその表情がほころぶと、つられてコトネの表情にも笑みが浮かぶ。
「おいおい。そろそろ行くぞ」
 和みかけた空気を引き締めるかのように、セルビナが声をかけた。
「はい」
「うん」
「わかりました」
 三者三様の返事。
 今日もまた、冒険が始まろうとしている。
 四者四様の想いを抱きしめて。

 



私信
これからも是非よろしくお引き回しの程いただきたく、18禁参戦してみました