<ウサギの耳>


「これを・・・付けるんですか?」
 ならず者たちを撃退した後、拾ったアイテムは、ウサギの耳であった。
 ・・・それは、何処からどう見てもウサギの耳でしかない。
「やっぱり、リーダーが付けるものなんじゃないですか?」
「幸運になるんだよね?」
「・・・罠にかかりにくくなると思う」
 現在フォルテと共にパーティーを組んでいるのは、神官戦士セレニウス、軽戦士コトネ、軽戦士セルビナである。ちなみに名前の順番は発言の順番の通りであったりする。
「それは、そうなんでしょうけど・・・」
 年齢から言うと、パーティーメンバーの中では年齢不肖のセレニウスも含めて、フォルテより年下はコトネだけである。更に彼女はこのダンジョンに好き好んで入り込んでいる訳でもなく、決してリーダーシップを発揮するタイプでもないのだが・・・。
「・・・・・・・・・・」
 手にしたウサギの耳を眺め、誰か助け舟を出してくれないかと、周囲を見回すが、どうやら誰も助けてはくれないらしい。
「えっと・・・」
 何となく成り行きで表向きリーダーを務めているものの、実際のところパーティーはセルビナが取り仕切っているのが実情である。
「あの・・・良い機会ですから、リーダーも考え直してみませんか?やはり年功序列と言いますか、長幼の序とか・・・」
「生憎、自分の年齢は分かりません」
「罠を解除したり、鑑定をする賢者が身に付けるのが一番合理的だ」
「似合うと思うよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
 見事なコンビネーションで、セレニウス、セルビナ、コトネに言葉を揃えられると、フォルテは二の句が継げなくなる。
 ・・・宮廷で何不自由なく育てられた、育ちの良さと言うべきか、押しの弱さと言うべきか・・・。
「別に頭に付けろ、とは言ってない」
 流石にフォルテで遊ぶのに飽きたのか、セルビナが面倒くさそうに助け舟を出した。
「え?頭に付けるんじゃないの?」
「お守りだと思って、ベルトにでも付けておけばいいんです」
 素でコトネが首をかしげるのを、あっさりとスルーして、セレニウスは律儀な言葉遣いはそのままに、軽く笑う。
「あ・・・そうですか。なら・・・」
 ふわり、と。
 その表情が柔らかくほころんだ。
「さあ。もうちょっと進んでおこう」
 和みかけた空気を引き締めるかのように、セルビナが声をかける。
「はい」
「いつ敵が出てくるか分からないですから」
「うん」
 三者三様。
 今日もまた、冒険が始まる。
 三者三様の想いを抱きしめて。