奈落に堕ちて
朝の眩しい日差しが部屋を明るく照らしている。開いた窓から流れ込んでくる静謐な空気が美味しい。
ん〜〜〜、と伸びを一つ。気持ちいい目覚めだ。
「タンちゃん、おはよう!」
「おはよう、フェリル。良い朝だね」
一足先に目を覚ましていたタンちゃんが、いつもの笑顔で返してくる。
タンちゃん。クルルミクを旅していた頃知り合った半獣人の少女で、私の親友。そして、今では大切な冒険の相棒だ。
「失礼するよ、フェリル」
「あ、フレシア。おはよう」
扉を開けてフレシアが入ってきた。
フレシア。冒険者としての先輩で、大の恩人。今は冒険者を引退して、この街でのんびり暮らしている。
「これから向かうっていう遺跡について話しておこうと思ってね」
私とタンちゃん、それにイルビットとエインの四人旅。その次の目的地は、このフレシアの暮らす街の近くにある遺跡だった。
何でも、かなり難易度の高い遺跡らしい。
「昔のあたしでも危ういかもしれないくらいの危険な遺跡さ。 けれどまぁ、今のフェリルなら大丈夫だろうね。
立派になったもんだ」
しみじみと頷くフレシア。
「もう、よしてよフレシア。恥ずかしいよ」
少しのこそばゆさと、溢れる嬉しさ。
色々なことがあって、私はようやく一人前の冒険者になれた。
今ではしっかりタンちゃんも守れる実力を身につけ、こうしてフレシアに認めてもらえる。
そして昔描いていた夢の通りに、世界中の遺跡を旅してまわれる。
「タンも、フェリルなら大丈夫だと思う。
フェリル、とっても強くなったよ」
にこやかに言うタンちゃん。
「もう、タンちゃんまで。
タンちゃんが後ろで支えてくれるから、私も思い切り戦えるんだよ」
この半獣人の少女には、どれだけ支えられたかわからない。その恩を返すためにも、これからもタンちゃんを守っていきたいと思う。
「おいおい、俺達のサポートが無かったことになってるぞ。
どうする、エイン?」
「仕方ないですよ、イルビットさん。あの二人は格別に仲がいいんですから。ああ、でも少し悲しいかも?」
部屋の入口でやり取りを聞いていたイルビットとエインがちゃかしてくる。
「あ、ごめん! 勿論、イルビットやエインにも助けられてるよ!」
どっと笑いが部屋に溢れる。
私は幸せだと思う。
こんなに多くの人に支えられて、自分の夢を叶えられたのだから。
私は胸のうちに溢れる温かい想いを噛み締め、そして―――。
目が覚めた。
「………あれ?」
むせかえる返る臭いが薄暗い部屋に立ち込め、下品な笑いや怒号がそこかしこから聞こえてくる。
霞んだフェリルの視界に飛び込んでくるのは、無数の男たちの醜悪な笑みと、そのいきり立った肉棒。
そして、男たちに蹂躙されている、フェリルの仲間たち。
「貴様らっ……こんな、屈辱はっ……くぁっ!」
リーダーのエレシュが手を後ろで縛られたまま、激しく突き上げられて悲鳴を上げてる。綺麗な紫色だった髪が、今はどろどろした白いものを大量にかけられて見る影もない。
「触れるなッ! 貴様ら下司のために磨いた身体では…うあぁっ!」
その向こうで嬲られているのはフウマだ。フェリルが密かに憧れていた女性らしいしなやかな体が、男たちの無骨な手で乱暴にこねまわされている。
「いやあ…っ…やっ……!」
すぐ近くで悲鳴が上がった。
見るとロメリエが縄で拘束されたまま、後ろから犯されていた。豊満な乳房や太ももが、激しくこすりつけられるペニスによって形を歪められている。
状況が、まるで理解できなかった。
(私は今確か、フレシアの家で、タンちゃんと笑いあっていて……これから、楽しい旅がまた始まるはずで……)
「え……なに、これ……?」
ふとロメリエがフェリルを見た。苦痛と悲哀に満ちた瞳が、微かな憐憫を混ぜて見つめてくる。
え、まさか
その瞳の意味を、なんとなく理解した。
私も、なの?
私も、あなたたちと同じように?
「よう、お目覚めかい?」
耳元で、この世で一番聞きたくない男の声が聞こえた。
それで、思い出してしまった。
何が起きたのかを。
(ああ………)
全身にかけられた男の精液。乱暴に揉みしだかれる小ぶりの乳房。虚ろになった青い瞳。力なく開かれた口から白い涎が零れる。
(そっか………)
膣とお尻の穴に、激しく出し入れされる男根。卑猥な水音が響く。結合部から溢れ、糸を引いて滴る精液。一突きごとに飛び散って床を汚す。
(もう、終わっちゃってたんだっけ……)
刺激を受けて勝手に震える体。抽送のリズムに合わせて跳ね上がる銀色の長髪。漏れ出る喘ぎ声。
(何もかも……もう…終わっ……)
フェリルは、何十人もの男たちによって陵辱されていた。
「い、いやああああああああああああ!!」
思わず叫んでいた。
つい今しがたまで夢見ていた幸福の光景が、どこか彼方へ消えていく。
フレシアはいない。イルビットとエインはいない。タンはいない。
全て夢。ただの幻。
「こんなの、こんなのやだぁ。いやだああああああ!!」
後には、無惨な現実だけ。
冒険中に全滅し、ならず者に捕縛されて嬲られ続けているという、惨い現実のみが目の前にある。
「ヒャッハハハハ! そんな悲鳴あげる元気があるなら、まだまだ楽しめそうだなぁ。そら、塞いでやれ」
「むぐっ……!?」
ナーブの哄笑と共に、フェリルの口に強引に大きな逸物がねじ込まれる。酷い臭いに吐きそうになるが、そんなことをすれば後でもっと痛い目に合わせられるのは既に経験済みだった。
「うっ……んむ…っ…」
大人しくペニスをしゃぶるしかないフェリルの体を背後から弄びながらナーブが罵る。
「ハッ、男のものをそんなに美味そうにくわえ込んで、とんだオ嬢サマがいたものだな?」
(こ、こんなもの、美味しいはずなんてないでしょ!?)
その思いを察したようにナーブが続ける。
「なんだ? 前も後ろもチンポをくわえ込んでよがってるくせに、否定しようってのか?」
そう言ってフェリルのアナルを一際強く突き上げた。
「ぅああっ!」
激しい痛みと、微かな甘い疼きが後ろの穴に走る。
(やだっ……私……)
散々陵辱された果ての、否定したい事実。
フェリルの体は男たちの手によって開発され、徐々にこの状況に快楽を感じ始めてしまっていた。
ナーブの指先が乳首を弄り、クリトリスを嬲るたびに、形容し難い切なさと心地よい痺れが神経を侵す。
最初に貫かれたときは、あまりの激痛に気を何度も失った秘所と菊座も、今では多少すんなり男の物を受け入れている。
必死に声を抑えて感じていないフリをするも、ほんのりと赤く上気し始めた肌と、腿を幾筋も伝っていく快楽の蜜は隠しようがない。
(なんで……。私、感じたくなんてないのに…っ)
女の身体が疎ましい。
こんな男たちの欲望のままに染められていく自分が、悔しくて仕方が無い。
「うッ、出る!」
「んぶっ!?」
ごぷっと喉の奥に熱い塊が弾けた。反射的にむせかけるが、
(だめ…だ。これしか口にすることはできないんだから、飲まなくちゃ)
陵辱開始されてから一日以上が過ぎている。その間、一切の食事も飲み物も与えられていない。唯一、精液だけが口にできたものだった。
(こんなのでも、飲んで、少しでも体力を保つんだ。そして、隙を見て逃げるんだ……)
何百人もの男たちの集まった広間。逃げられる算段などあるはずもない。それでも一縷の可能性にかけて、フェリルは口内に出された精液は全て飲みこんでいた。
今回も同じように飲み込もうとするが、喉の奥にひっかかって上手く飲み込めない。
「おえ……う、ぐぅ…っ」
何度も何度も喉を動かす。
「う、ううっ……んぐっ」
ようやく全てを胃の中へ押し込んだ。
そんなフェリルに、耳元でナーブが冷たく言い放つ。
「ククク、ザーメン飲むのに何必死になってんだ? 無様だな」
「…………っ」
心を打ちのめす言葉。
視界が滲む。あまりの恥辱と自分への情けなさに、フェリルの目からぼろぼろと涙が零れた。
「積極的なお前に免じて、ご褒美をくれてやるよ。
おいお前、俺と代われ」
ナーブはそう言って、フェリルを前から犯している男と交代した。
「そろそろ本格的に、メスの喜びを教えてやるなきゃな?」
「なっ……そんなの、いらない…!」
フェリルの拒否を聞き流し、ナーブがにやりと笑みを浮かべる。
ナーブの歪な逸物がゆっくりとフェリルの花弁に差し込まれ、蓋をする。ぐちゅりと湿った音が、一際高く響く。
「う…うああああっ」
ごつごつとしたそれの与える異様な刺激に目を見開き仰け反るフェリル。その首筋を舌で舐め上げ、
「お前はただのメスになるんだよ、フェリル。ククク」
目の前の、ようやく捉えた獲物をじっくりと楽しむように抽走を始めた。
少しばかりの時が過ぎた。
脱出の機会は未だ訪れない。
だが、フェリルは既に機会を待つどころの状態ではなかった。
「ひっ…はぁっ……うああ……っ」
「そら、そのまま腰を振り続けな」
(何……これ…何……?)
降参した犬のような姿勢で犯されながら、熱に溶かされかけた顔で、言われるままにぎこちなく腰を動かすフェリル。その秘所に容赦なくナーブの歪んだ男根が出入りしている。とろりと溢れ出る愛液が、フェリルの感じている快楽の量を示していた。
ギルドの目的は女冒険者たちを調教し、性奴隷として売ること。陵辱はその過程にすぎない。
ナーブはそのことをよく弁えており、女を性に目覚めさせる技術にも長けていた。
少し前には処女であってフェリルでさえ、こうして簡単に熔かされる。
「う、うぁっ……も、もう……」
「『もう』……なんだ? 言ってみろよ、ほれ」
「う、く・・・っ!」
「今度はだんまりか。頑張るねえ嬢ちゃんも。
だが耐えるだけムダ、ムダ。何せ『壊れるまで』だからなぁ!」
時々挑発され、その度にフェリルは反抗してみせる。
だがフェリル自身わかっていた。もはやごまかしようがないほどに、フェリルはナーブを感じてしまっている。
「う・・・ううう・・・っ!」
(こ、このままじゃ……このまままじゃだめだっ)
恥ずかしさと悔しさと、そして強烈な快楽に真赤に染まった顔が悔しげに唇を噛む。潤んだ瞳から一筋涙が零れる。
(だめなのに……だめなのに……)
激しく上下する胸が切なげに震える。その乳房にナーブの口が吸い付き、乳首を舌で転がし、歯で甘噛みする。
(ああ、だめなのにぃ……だめなのにぃぃぃ……)
腰に回された指先がフェリルの菊座を弄ぶ。中指がつぷと中に侵入し、肉壁をこねりまわす。
「ああっ!? ぃあ、あ、ああああ」
自分の声とは思えない、鼻がかった甘い喘ぎが漏れる。
「うう、嘘。こんなっ……嘘だぁ……」
「嘘じゃねぇよ。さあ、そろそろいくぜ!」
ナーブが突然スピードを上げた。フェリルの膣内を激しく抉り上げ始める。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」
フェリルの口から言葉にならない叫びが漏れる。
全身を貫く電流。一際強烈な波となって押し寄せる快楽。
ナーブがスピードをさらに上げる。手足の感覚が遠のき、口から涎と共に零れる悲鳴は、微かに悦びの色を滲ませる。
「やああっ!やああああああああああ!!」
白く染まる脳内。独りでに痙攣し始める体。
(こ、こわい……こわ……っ)
ぐったりしていた手足が勝手に動き、思わずナーブの身体を抱きしめていた。まるで恋人のように。
「そらよ……っ!!」
「うぁ……ッッッ―――――」
灼熱の塊がフェリルの中ではじけたとき、フェリルは今まででもっとも大きな絶頂に達していた。
目を見開き、舌を宙に突き出したまま、足の指先までをピンと張り詰めさせ、背を大きく反らし二三度痙攣し―――。
やがて、どっと脱力した。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
「はん。どうした? 憎い相手に抱きついたりして」
「こ……こ、こんなのって……こんなのって……」
絶頂の間際に自分がナーブを抱きしめてしまっていたことを自覚し、フェリルの顔にゆっくりと絶望が広がっていく。
(私……私、もう………)
「ふん。諦めたか? だが何度も言うが『壊れるまで』だ。
そら、まだまだいくぞ!」
(やだ……もうやだ………もう……)
「そらァッ!!」
「やだ、やだあああああっ、ああっ……はあっ……うっ」
また少しばかりの時が過ぎた。
フェリルの待ち望む脱出の機会は未だに訪れない。
そしてどうやら、その機会が来るまで自分は持ちそうにないと、フェリルは自覚していた。
(はは………とうとう、こんなところまで落ちてきちゃった)
霞がかった意識の中で考える。
親の反対を押し切って家を飛び出してまで、自分に何ができたのだろう。
結局フレシアの期待には答えられなかった。
ロクに冒険成果も上げられず、ちょっと裏切られたくらいでそれまでの仲間も友達も全て見限り、親友だったタンを傷つけ、新しいPTでは仲間も守れず、こうして無様に犯されてる。
捕まってから少しした頃、見限ったはずの友達が一人助けにきてくれたが、彼女も捕まってしまった。結局、最後に友達すら巻き込んでしまった。
(なぁんだ)
絶望に染まった心がひび割れ、崩れ落ちていく。
(私、こんなに最低だったんだ)
どうしようもないほど、何もできなかった自分を自覚したとき、フェリルの精神はゆっくりと死に始めた。
フレシア。期待してくれたのに、ごめんね。私は貴方みたいにはなれなかった。
イルビット。エイン。もう一度会いた かったよ。
ウィルカ。私はあ んなに酷いこと言ったのに、助けにきてくれてごめん。巻き こんじゃって ごめん。どうか無事で いて。
エレシ ュさんたちごめん 私がもっと強かったらよか たのに。
リエッタさん エルフ ィラさん。冷たい 態度を取って ごめ ね
クリオ ちゃん あなたのこと 許して あげた かっ
タン ちゃ
「壊れたか。急につまらなくなったな」
ナーブはそう言うと、フェリルの身体を投げ出した。
糸が切れた人形のように地面に崩れ落ちるフェリル。その顔は虚ろにどこか遠くを見つめたまま、ぶつぶつと何かを呟き続けている。
「適当に売り払っとけ」
そう言って立ち去るナーブに、他のならず者たちが声をかける。
「おい、売る前にもうちょっと楽しんでもいいだろ?」
「そうだ。こいつ、ほとんどお前が独占してたじゃねぇか」
抑えられない欲望を顔に浮かべた男たちをナーブはうっそりと一瞥した後、
「ふん。勝手にしな」
歓声と共にフェリルに群がる男たちを残して玄室を歩み去る。その目はもう、次の獲物のことしか見ていない。
「さて、タン……。次はお前だ」
男は鮫のようにニヤリと笑った。
少しばかりの時が過ぎた。
もはや助けは間に合わない。
蹂躙される。蹂躙されていく。
「……はは、私、もう、どうでもいいよ……」
全身をくまなく撫で回され、舐めつくされる。
口に、膣に、菊座に次々とペニスを打ち込まれ、抉られる。
命じられるままに手でしごき、舌をからめ、腰を振った。
やがて灼熱の液体があちこちで爆発し、私は白く白く染められていく。
もう、心は何とも思わない。
身体だけが勝手に反応し、男を求め始めている。
モット クダサイ
モット ヨゴシテ
どこかの誰かが切なげな声で欲しがってる。
快楽に染まりきった哀れな声。
私の声だ。
闇の中に落ちながら、そう思った。