白の騎士団、か。

「以前の話ですが……ご主人からの命令が下りました。貴方達に協力するように、と。」
「それはありがたいですね。戦闘をこなせる団員はそうは多くないですから。」

……まあ、それ以外にも多少理由はあるのだが。しかし、解せない。

「貴方達は、なぜ女冒険者達を助けると言うのです?クルルミクの民には相当嫌われている者も多いと聞きますが。」
「それは団員の一人一人が彼女達を気に入ってるからです。」

……そんな単純なものではないだろう。恋人や昔なじみの友が組織だって動いたところで限界はあるはずだ。
長年に渡って積み重なってきた鬱憤によって、ワイズマン討伐隊と聞いただけで顔をしかめるような人間だっている。
白昼堂々ハイウェイズマンギルドに襲われてもクルルミクの人間は助けようともしないのだ。
嫌われ者の冒険者を庇うと言う事は、石を投げつけられている罪人に向かって走る事に等しい。
それなりの覚悟が無ければ助ける事は出来ないだろう。
僕が積み重ねてきた経験から、どこかこの男が胡散臭い事を嗅ぎ取っていた。

「そもそも、資金繰りはどうなっているのです?金持ちが道楽でやっているのとは訳が違うでしょう。」
「その、道楽で使えるような金を持っている人間が私たちのスポンサーなのです。」

犠牲者の身内の中に金持ちのスポンサーでもいるという事か?
だが……冒険者などと言う世間的なものを一切捨てた仕事は基本的に親や身内との縁を切っている者が多い。
例え親馬鹿ゆえに助けてやろうと思っていても、子の側が否定するだろう。

「具体的なスポンサーの名は?」
「それはちょっと……向こうとの約束なので。」

そうか。言えないというだけで大方の見当はついた。

「フム。話は分かりました、僕はこれで切り上げさせてもらいます。ご主人に話をすると共に、派遣する人材を選ばなければなりませんので。」
だから、『僕に任せた』のか。
「そうですか。フォルさん、貴方の主に『ありがとうございます』と伝えて置いてください。」

色々ときな臭いから。


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酒場から出て行こうとした時、私は我が目を疑った。

「こんにちわ、フォルさん。」

今入ってきたあの男、あの女は…

「こんにちわ。」
「ええと、始めましてこんにちわ。」

先ほどヒソヒソ話をしていた男達に向かって、挨拶を交わした2人。
なぜ、ここにいるんだ『奴ら』が!
神魔の腹心と鉄壁将軍エヌオルドとが!

「ん?」

まずい、感づかれたか?いや今の体はミラだ。そう簡単に気づかれるはずは……

「どうしました、フォ…ルさん?」
「いや、なんでもない。」

幸い気づかれなかった……のか?どちらも魔道には長けていないはずだからな。
余り長居するのは危険かもしれない、が奴らの動向は一応聞いておきたい。

「それで、この間の話ですが……彼女がこの間頼んだ戦力ですか?」
「ええ。ヌオルドは…」

懐に紙を確認すると、手早く魔術で奴らを監視する旨の命令を書き記す。
そのメモを酒場に居たギルドの諜報員に手渡し、報告は直接死神の元へ伝えるよう命じて私は去って行った……


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まさか、こんなところに居たとはな。てっきり、冥府に帰ったものだと思っていた。
そんな事を考えつつも、目の前の相手にセールストークを聞かせる。

「ええ。ヌオルドは直接的な殴り合いよりも小細工を得意としています。まきびし、毒、魔法結界など…」
「毒ですか?」
「そこまで危険な代物ではありません。徐々に体力を削って最終的には全身の身動きを封じるだけですので。」
「1日ほどぐっすり眠れば毒も抜けてしまいますからね。」
しかし、相手は腑に落ちないようだ。
「ですが、女性の方に頼むのは……」
「男性が行っても警戒されるでしょう?女性が行けば、向こうも逆に緩むと思いますよ。相手が相手ですからね。」
「でも、見るからに力の無さそうな人なんですが…」
「ごつい女では男が行く以上に警戒されると思いますが。」
「しかし……。」
「私の事なら気にしないでください。それなりに場数は踏んでますので。」
「彼女は見かけ以上に有能です。」
「もし信用できないと言うのでしたら、ここにいる誰かとでも組み手をして見せましょうか?」
「ははは。僕では彼女にとても勝てませんよ。そのくらい強いです。」
「……そうですか。」
彼女に押し切られる形で、向こうが半信半疑なようだが納得したようだ。
「それでは、例の作戦をお任せしますね。他のメンバーを紹介しますのでついてきてください。」
「了解。」

これでとりあえず、白の騎士団に対する『仕事』は終わった、が。

「僕はこれで失礼させていただきます。ちょっと、別の用事がつかえてるので。」
「そうですか。それでは後日、例の作戦が終わってから会いましょう。」
「分かりました。それでは本日は…さようなら。」

ふう。一息つく。

それにしても、なぜ。『ヘル』がここにいるのだ?
事と次第によっては大問題なので、白の騎士団ともども調べねばならないだろう。

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『鉄壁将軍』エヌオルド(偽名:ヌオルド)
神魔の配下の一人。まきびしや毒、幾重もの罠を張り巡らせて相手をじわじわと弱らせるのが戦い方。
まきびしは風の魔法に乗せて敵を切り刻む為の刃としても機能する。
性格は穏やかで、戦いを好まない。好きな食べ物は苦味のあるもの全般。
『鉄壁将軍』の異名はこれらの徹底した相手を寄せ付けない戦い方故に与えられたものではなく、
隕石落しの大魔法や一撃で大陸を砕く凄まじい攻撃ですら耐えしのぐ、純然たる防御能力の高さ故の呼称である。
(とは言え、『神魔』その物が酷くマイナーなので、身内や対峙したものだけが知っている程度の呼称だが。)

『神魔の腹心』(偽名:フォル)
神魔の腹心にして、参謀兼執事。
普段は無邪気で、甘いものが好きなど子供っぽいところがあるが、
主の為ならば何事も省みぬ恐ろしさも秘めており、敵に回すと危険な人物。
今回は、主が白の騎士団の情報網を使いたいと言う事で彼らと取引をしたらしい。




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