「……なぜ呼ばれたか、判っているか?」
「いえ。何故でしょう?」
ゴーレムの体でなければ、眉間に皺がよって口元がひくひくして相当怒りを表現しているだろう。
だが、声だけでも相当怒りはにじみ出ている筈なのに、相変わらず能天気なミラには流石に私の堪忍袋も限界だ。
「……貴女には、私が罠に引っかかった事は言わないように、言ったはずよね?」
「ああ。そう言えばそんな事も言って」
ヒュッ ドカッ!
全力で杖で殴り飛ばす。正直、クソ親父ほどの力が無いのが恨めしい。
もっとも、あいつがこれで殴った場合はミラは脳漿をぶちまけているだろうが。
「……『救いようの無い馬鹿』は、嫌いだと以前から言っているだろう!!馬鹿な上に鳥頭では話にもならん!」
殴られたショックで、ふらふらと糸の切れた凧のように足元をふらつかせるミラ。
「……す・こ・し・は、常識と言うものを知れぇぇぇぇ!!」
ガツッ!
ミラの頭を全力で握る。
「いたいいたいいたいいたいいたいいたいたいたたたたたたたたたた!!!」
掴んで分かったが、相当な石頭だ、こいつ。他所でも相当殴られてたから頭がパーになったのか?
「……今更調教室送りにする気も起きんし、10日ほど身動きも取れない状況で反省していろ!飯も食わせんからな!」
「死んじゃいますよぉ!」
そんな事は言わなくても分かってる!
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お、来た来た。ケルケーの奴はすっかり幹部面してて、正直気にいらねぇが一応伝言は伝言だ。
「おいミラ。ケルケーが呼んでたぞ。」
「……別件で用事があるから断るわ。」
何があるってんだ?
「別件?どんな用事があるって言うんだ?」
「……貴方が知る必要はないわ。」
なんか、随分とえらそげに言うな。
「は?」
「……じゃあね。」
「じゃあねも何も……」
ミラが進んでいる先にはケルケーがいたはず。
「よう、やっと来たかミラ。」
「……。」
案の定、向こうからケルケーが姿を現した。だが。
ミラの奴は胸倉を掴んでケルケーの耳元に何か囁いた後、去っていった。
「あれ、ミラだよな……?」
それほど彼女の事を知っているわけではないが、
普段陽気な彼女の性格が豹変したような有様には、ただただ目をぱちくりさせるだけだった……
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「……意外と、新鮮なものだな。」
今の私は、ミラの体を借りている。少し、羽を伸ばしたいと思ったからだ。
その間、ミラは罰として魂をただの石像に押し込めて一切の身動きが取れないようにし、
目線の先に『常識』を書き連ねた紙を壁に貼って置き、10日間かけて頭に叩き込ませる事にした。
これだけやれば、流石にあの娘も懲りるだろう。
「ん、おいしい。」
フランクフルトの屋台を見つけ、一本試しに買って食べてみる。約4年ぶりの食事だが、とてもジューシーだ。
「そうかい。」
「後3本お願い。」
「はいよ。お嬢さんにはサービスしてあげようかな。」
「ありがとう。」
4本のフランクフルトを抱えて、私はとある酒場へと向かった…
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『ドワーフの酒造亭』。女冒険者達がここで登録をし、そして竜神の迷宮へと向かう場所。
パーティの合流待ちやパーティが組めずに待機している者の他、当然一般客や彼女らとお近づきになりたい人間がたむろしている。
そんな中、ある意味場違いな服装をした人物達が妙な会話をしている。
「しか・・ロゼッタ・・ろばら・・・・・・・そんな・・・・・」(しかし、ロゼッタは黒薔薇の使いです。そんな簡単に…)
「きた・・・・そこま・・・なら・・・・・・・・・・・・・・・・・・」(期待する?そこまで出来るなら、初めから黒薔薇に頼んだりはしない。)
「人外の者の報復が、恐くないのですか?」<やや声を荒げる
「しず・・・・かの・・・・・そうそう・・・・うらぎ・・・・・・・・るじがこわ・・・・・」(静かに。彼女とて、そうそう期待を裏切らないはず。主が恐いからね。)
……色々と、あの娘も大変なようだな。
それはさて置き、今日の本題は女冒険者達の様子を見に来たのだが……
……まあ半分宴会になっているな。
ミラが飲めるかどうか知らないので、今日はさっさと帰るとしよう。
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…続きに困りました、ある意味。まあ、死神様も羽休めしたくなるでしょう。
多分、次投稿するときには何事も無かったかのようにゴーレムモードに戻ってると思います。