「……。」
「あ、死神様。」

何でこいつは変なトラップを仕掛けるのだ?

「……これは何だ?」
「金ダライです。」

いや、もう突っ込みようすらない。

「……私は罠師ではないが、これは冒険者に対して有効な罠なのか?」
「精神的には有効な罠だと思われます。バナナの皮でダメージを受ける人もいるくらいですし。」

精神的も何もあったもんじゃない。

「……どう見ても殺傷力や拘束力が足りないぞ。」
「むー。なら、引っかかってみますか?」
「……お前が」
「えい。」

突き飛ばされる。いや、正しくはミラに体当たりを喰らってよろけた。

ガコン。
罠を踏んで、金ダライが私の頭に落ちる。

「この間突き飛ばされたお返しです。」
「……お前は、本当に馬鹿だな。救いようのな」
ピシィ!

ドゴグッシャ!ガラガラガラガラガラ…

天井が崩れたらしい。金ダライが罠として収まるよう、天井がくり貫かれていた性で脆くなっていたようだ。

「だ、大丈夫ですか死神様…」

大丈夫なものか。

「ひっ!死神様、頭が…」

駆け寄って来たミラの頭を、全力で杖で叩く。
痛覚があったら、私が受けた痛みはこんなものではないぞ。
何しろ、頭が見事に崩れてしまったのだからな。ゴーレムの体だから良いものの……普通の人間なら即死だぞ。
まあ、天井が抜けたのは狙ってやったわけではないのだろうが……

「……死ぬ以上に、キツイ目に合う覚悟はできている?」

頭が痛いなどという問題ではない。馬鹿を相手にするのは疲れる。
今から再度売り飛ばす手配をさせても遅くないかもしれん。

「ま、待ってください、不可抗力です!」
「……不可抗力だと?突き飛ばしたのは貴女でしょう!」

天井が抜けたのは確かに事故だが、それでも目上に対する態度の取り方を知らないにもほどがある!

「し、死神様は罠の設置については知識が深いのでしょうか?」
「……私自身が設置した事は数えるほどしかないが、罠師から話を聞いたりそれらに関する本を読んで多少の知識はあるが?」

話を逸らすつもりか?まあ、早々許しはしないが。

「な、なら罠に誘い込む為の手管はどうなのでしょうか?設置する人間が居れば、その罠に誘い込む人間もいるでしょう!?」
「……確かにな。昔は、良くそのための囮や誘導をやらされていた…」

……その意味では、確かに部下と思っていた人物に引っかけられて突き飛ばされたのは見事だったが……

「嵌ったのは……」
「……それとこれとは話が別だっ!!少しは助けてやった恩も考えろっ!」

ドカキィ!

再び、ミラは杖で殴られた。

「ポワワワワワワ……(目が虚ろ)」
「……冒険者どもから奪った外法アイテムを知ってるか?下手に取り扱えないから、纏めて隔離した部屋に置いてあるんだが……
それらがどういう効能を持っているのか、お前で実験してやる。何、死にはしないさ。
簡単に死ねないように術をかけて、その上でサンドバッグになってもらおう……」








「いやー!止めて止めて止めて止めて!」
「……リリス。あの子を的にして、ちょっとこれらのアイテムの実験するから手伝いなさい。」
「分かりました。あの子、何をしたんです?」

わざわざ、この特殊な部屋に連れてきた事を疑問に思ったのか、リリスが聞いてきた。


「……私の頭に金ダライを落とした。」
「え?」
「……彼女の仕掛けた罠に引っかかったんだよ。」
「それが……金ダライ?」
「……意外とマヌケで、驚いたか?私だって、全能じゃない。」
「正直……想像できない図でしたが、とても笑える冗談だと思います。」

心に『グサッ』と刺さるものを感じた。

「……。」

本気で冗談だと思っていてくれているのか、あるいは怒りを買わないように必死で笑いをこらえて取り繕っているのか。
どちらにせよ、私自身が積み重ねてきた事が軽く崩壊したようにも感じた……

「……さて、どれから始めようか……」
「いや、いやー!」

持ってきた外法のアイテムの中から、一冊の魔道書を取り出す。

「……まずは、これにするか。」








「死神様、ミラの奴に何をしました?生傷だらけなんですけど。」
「……あの子には少々お仕置き、をな。」

とりあえず、私があんな罠にかかった事を絶対に言わない事を条件として開放してやった。
流石に、部下の間にそんな話が流れては沽券に関わるからな………(^^;;


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「冒険者に罠がさっぱり効きません。どうしたらいいと思います?」
「……何故、私に聞くんだ、ミラ。」

この間キツイお仕置きをしたと言うのに、物怖じしないで私に何か言いに来る度胸は認めてやるが……
馬鹿で馬鹿でどうしようもない奴だと言うのがよーく分かった。

「なんて言うか、罠自体があっさり見抜かれたり解除されたり、引っかからずに無視しているんです。」
「……そうか。なら、先輩達に聞いて……」
「そこで、私は考えました!どうやったら罠に誘い出せるかと!」

大方、ろくでもない考えなんだろう?

「死神様、冒険者から奪ったレアアイテムがありますよね。」
「……それがどうした?」
「それらを餌にして、罠に誘い込もうと思います。」
「……そんな餌の上に棒で支えた籠を置いたような罠に引っかかる、鶏並の頭の冒険者がいると思うか?」
「やってみなきゃ、判らないじゃないですか。」

頭が痛い。今更ながら、ケルケーが言うように、性奴として売り飛ばすべきだったとつくづく後悔をしていた……

「……やってみなきゃ判らないと言うのなら、やってみろ。」
「はい、わかりましたー!」






「私の魔道書、まてまてー!」
「…おや、これ稚拙な罠もあったものだね、引っ掛かる者の気が知れないね」
「いい加減にしなさい、ミューイ。何時まで私に襟をつかませる気だ?」
「全く、困った本好きね…」






「……予想通り、失敗に終わったようだな。」
「うーん。何が悪かったのでしょうか?」
「……強いて言うなら、お前の頭だ。もうお前の面倒など見たくない……OTL」
「失敗は成功の元です。次もまた頑張ります。」
「……。」

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