「……。」
罠師が来たと言うので、どういう奴か見に行ってみた。が。
「えーん。なんで牛乳じゃダメなの?バナナに引っかかるような人もいるのに。」
「……100歩譲って奇抜なセンスは認めてやる。だが、基本の罠一つすら設置できないような奴が、罠師を名乗るな!」
心が、悲鳴を上げている。
あのまま監禁玄室に放り込んで置くべきだったか。
「ですから、私は……」
「……。」
ミラを突き飛ばす。そこに設置されていた罠である刃の網が彼女を切り刻む。
「いったい痛い!私を殺す気ですか!?」
「……死ぬのとあのまま犯されてるのと、どっちが良かった?」
「罠にかかるほうです。」
「……いったいなんなんだお前は。」
溜息が出る。人材不足だからって、こういう奴をスカウトしようと思ったのが馬鹿らしい。
ケルケーの判断が正しかった事は否定できない面もあるな、これは。
「……お前は馬鹿だが、まだ救いようのある馬鹿なら良いんだがな……。」
「あの。人の事を馬鹿って呼ぶのはどうかと思います。」
正直付き合いきれない。が、わざわざ玄室から直接声をかけて幹部特権で連れ出してしまったのだ。
ここで再び監禁玄室に戻せば部下に対する威厳を失うし、ただ逃がせばやっぱり色々と言われるだろう。
「……罠を基本から学びなおせ。独学の罠じゃなくて、ベテランからきっちり教えてもらえ。」
「はい、頑張ります!今日からよろしくお願いします。」
………誰もギルドで採用するとは言ってないぞ、この小娘。
人材不足は深刻だし、罠師自体も貴重であるから一応声をかけてやっただけだ。
とりあえず、人事担当とも話して、しばらくは試用期間を設ける形を取ってはいるが……。
「……せいぜい、頑張ってくれ。」
あまりにもノー天気な天然娘に呆れつつ、私は姿を消した。
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「……ヒネモスが捕まった?」
ギルドニュースに目を通していて知ったが、あの目障りだったセ○ハ○男、やっと捕まってくれたのか。
確かにギルドに貢献してくれてたが、死霊使いと冥府の民という関係でどうしても苦手なんだよな、アイツ……
「……まあ、これで少しは気が」
「死神さまぁ!大変です!」
………楽になるわけも無かったな。ギルドランクが再び落ちたのだから。
「……どうした?」
「水漏れです!どうやら配管が壊れたみたいでして、通路が水浸しです!」
な、何かと思えば…。
「魔術での修理をお願いします!」
「……何故、私に頼む。」
素直に上の階から狸でも石造でもマントマンでもいいから呼んでこればいいだろう。
「いえ、何故って言われますと本当に申し訳ありませんが……あいつら、氷の魔術を使えないでしょう?
漏れた水を凍らせて運び出したいんですよ。
以前はヒネモスさんやゴルゴダスさんに頼んでたんですが、今回捕まってしまいましたので。
ボス(ギルドボ)さんからの指令でもあります。」
…………確かに、ならず者の中で魔術を使える奴ほど学力を積んだやつはほぼ皆無だ。
そこで、これまで魔術を使った雑用をやってたあいつらの仕事が私に回ってきたということか?
「……分かった。今すぐ行く。」
頭痛をこらえて、私は破裂した配管の元線を止めに行った……
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「た、助けてくれ!」
「……そういうわけにはいかないな。」
ギルドの規律を破り、筋をたがえたものには制裁を。
「……反省なら、冥府でするのだな。」
「うわ、うわ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
造反者の足元に、冥界に直通する落とし穴を生み出し、突き落とす。
奴は生者であるために直接私が殺す訳にはいかないので、期限付きで苦しんでもらおう。
まあ、期限が過ぎた頃には呼び戻す必要がなくなっている可能性があるが。
「……人材の補充も大切だが、個人の資質も見るべきではないのか?」
ここのところ、毎日のようにトラブル続きだ。
ケルケーは「馬鹿ばっかりですから」と言っていたが、実際その通りというのも困りものだ。
……ミラとか言う小娘もちゃんと使い物になるのやら?
「……全く、幹部というのも大変だな。」
ギルドボが私や雑用にギルドの内部を任せている理由も良く分かる。
「……さて、次に行くか。」
変わらない日々は無い。いつかは何らかの変革が来る。
誰かが抜ける。何かが壊れる。方針が変わる。それらが積み重なって、今は変わりゆく。
私は、変わらない日々の風が錯覚だと思いつつも、僅かな楽しみの為に今を進むだけだ……
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