「……。」

ガラガラガラ………
馬車は進む。

「……。」

ガラガラガラ………

「……。」

来たか。出来れば、会いたくはなかったが。

「……敵襲だ。」
「やはり、ですか。」

護衛を頼んだ昔なじみの依頼人が呟く。

「……。飛ばしてくれ。」

ビチーン! ヒヒーン。馬が速度を上げた。

「……さて、何処まで通用するものか。」

魔力を集め、一つの魔術を唱える。
そして、僅かなシルエットしか見えなかった騎士団に黒い雲を張り付かせた。


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「これは!?全員耐えろ!」

編隊の最前列に居た私が叫ぶ。突然出現した黒い雲は、8人の騎士全員を包む!

「ぐぅぅぅ!」

全身が、しび、れる……が、この程度なら耐えられる!

どしゃがしぁ!

「……手だれの魔術師がいるようだな。」

私は呟く。8人の騎士の内、3人が落馬した。2人は馬が抵抗しきれずに力泣くその場で崩れ落ちる。
あっという間に追撃部隊は半数以下にされてしまった。

「落馬した者はそこで待機していてくれ!」

牧舎一番の頑強な馬と、竜と共に鍛えられたこの体は魔術を物ともしなかったが、
一般の騎士と馬はそうはいかなかった。
できる事なら立ち止まって助けてやりたいが、ここで追いかけねば相手を見逃す事になる。

「第2波が来るぞ!全員散開しろ!」

今度はファイヤーボールが放たれる。
……散開させるまでもなく、狙いは私一人だったらしい。
馬を飛び跳ねさせ、ファイヤーボールを飛び越える事で回避する。

「全員……突撃!!」

目的の馬車は、もう目の前だ。


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「アレを避けた!?貴女ともあろう者が大丈夫なんですか?」
「……迂闊に攻撃を当てて、殺してしまうわけにはいかないんですよ。」

騎士団の隊長はかなりの手だれだ。確か、竜神の迷宮に挑む冒険者のリストに載っているダイアナとか言ったか?

「……もっとも、まともに戦う必要は無いんですがね。」

そう言うと私は今度は複数のファイヤーボールを一斉に放つ。
避け切れなかった馬が転び、1人が転倒した。
もう一人は、ファイヤーボールが目の前に落ちて狂乱した馬を抑えるのに精一杯。
そして、暫定の隊長として派遣されたのであろうダイアナは、それらを見事に回避し、馬車に喰らいついてきた。

「……たった一人で何が出来る?」

剣を抜き、飛び移るつもりらしい。……そうはいかんよ。

バチィ!

「クッ、魔法障へ……」

こちらとて、そう簡単に突破させる訳にもいかない。
馬が半透明な結界にぶつかり、足を止める。
怯えた馬をなだめて魔法障壁を回りこんでくる頃には、馬車は距離を再び取り直せるさ……







「……それにしても、何故後をつけられていると分かっていたのでしょうか?」

護衛を依頼されたときから、疑問に思っていた一つの事。

「ギルドの下っ端どもの話を立ち聞きした部下の報告ですよ。」

下っ端どもの話だと?

「……どういう事です?」
「俺が狙われているというのも半信半疑だったのですが、念の為に馴染みの貴女に声をかけてみました……どうやら、結構根は深そうですね。」
「……ハイウェイズマンギルドに繋がりのある人間が、次々と騎士団などに処罰されているのは聞いていました。
まさかとは思いますが、ギルド内に密告者がいるという事ですか?」
「どうも、そうらしいです。」
「……貴方を売ったのは、間違っても私の『息』のかかった連中ではありません。と、すればギルド内でも新参の連中が勝手な事をやらかしているという事か。」

……何処のクソ馬鹿だ?こんなふざけた真似をするやつは。

「ヘルさん。しばらく俺は身を潜めますのでよろしくお願いしますよ。」
「……こちらこそ、このような身内のトラブルに巻き込んでしまって申し訳ない。確実にそのクソ馬鹿共に制裁を加えておきますので。」
「この貸しは、大きいですよ?」
「……必要なときに取り立ててくれ。筋は通してやるからな。」


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「……。」
「おい、ロゼッタ。もう根を上げたのか?」
「まさか。」
「そうかい、なら続けさせてもらうとするか。」

預かり物の、子猫を玩ぶちょっと肥満気味の大男。


《……この、クソ馬鹿め。


「あん、なんか言いやがったか、胸の無いロゼッタちゃんよぉ!」
「僕は、何、も……」

奴の背後に、ケルケーが姿を現す。

「よお、ドガイド。お前の趣味はとやかく言うつもりはねえけど、『死神』様がマジ切れしてるぜ?」
「!!? そ、その声は。ケ、けけけけけ、ケルケー!」

怯える大男。

「どうした?死んだ人間を見たような顔して。」
「て、テメェは死んだはずじゃあ……」

私は、ケルケーの背後の暗がりから姿を現す

「俺が死んだって?何処から見てもピンピンしてるぜ?」

そして、ケルケーの背後から呟く。

「……お前は、『死神』を敵に回すということの意味を分かっていなかったようだな。」

ボッ ボッ ボッ ボッ ボッ ボッ ボッ ボッ

私の周囲に8つの青白い人魂を浮かべる。

「……生死を司る者。それが『死神』だ。
『死神』が一声呼べば、死者は蘇る。
『死神』が認めれば、そのものは不死となる。
『死神』が力を振るえば、生者は魂を刈り取られる。
……私は、その『死神』としての力がある。」

「それがどうした!この、ダガーさえあれば……」
「あいにく、そのダガーは俺が死神様から頂いた物だ。返して貰っとくぜ。」

……あっさり奪われていたくせに。

「あ、ああああああ。」
「……そもそも、そのダガー如きで私に勝てると思っていたのか?私が譲った品だ、当然ながら弱点も知っている。」

パキィ

ロゼッタの鎖を魔術で断ち切る。

「さて、ロゼッタ。この男は、色々と筋を破ってくれた。お前だけじゃなく、ケルケーや私まで被害を被った。
……そこで、この男に制裁を加えたい。私自身が直接制裁を加えても良いのだが、今回はお前がこいつの制裁手段を決めてくれ。
それで、これまでの働きに加えてこの間の一件は成算してやる。」




そして、ロゼッタが出した言葉は……

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